Waving Life ~波瀾万丈の日常~

柏崎 聖

1話 桜花開花

 
 人生は山あれば谷ありと言うが本当にその通りなのだろうか……。
 確かに、幸運だけ起こったり不運だけが続いたりすることは無い。
 そんな波のような日々を人は過ごしている。
 そして、俺は今。
 人生の波ではなく、青春の波に乗ろうとしていた。



 桜花開花
 1


 俺の名前は蔭山かげやま 剣也けんや
 高校1年生でここ明日葉あしたば高校に今日から通うことになっている。
 今日は入学式。
 桜に囲まれた校庭を抜けると学校の正面玄関に入学式の看板が立っている。これを見るだけで今日から始まるという実感が持てる。
 中学では感じなかったものを新たな制服に身を包んだことで感じられるようになった。
 緊張した面持ちで、震える足をゆっくりと前へと進めながら歩く。
 ただ緊張しているだけで足が震えているのではない。
 新たな出会い、新たな学校生活を春休みの頃から心待ちにしていたのだ。
 特に、聞くところによると一学年あたりの人数が多いらしい。友達とワイワイと騒ぐ、今時の高校生らしく生活をすることに憧れがあった。
 あわよくば、彼女もつくれればいいな。


 玄関口をくぐると女の子が手を振っているのに気づいた。
 髪は綺麗な黒色のロングヘア。髪は腰の辺りまで伸びていてその表面が太陽の光で眩しく照っていた。
 俺にとってこの彼女は、初見ではない。  
 切っても切れない縁の、俺の唯一の幼馴染。
 彼女の名前は岸川きしかわ 蘭華らんか
 周りからも評判のいい彼女の容姿は、新たな制服に袖を通したことにって、より美しく見えた。


「ヤッホー、剣也!久しぶりだね!」
「久しぶりってお前なぁ……。3日前あったよな?それに一緒に遊んだよな?」


 彼女の家とは古くからの付き合いで、家も結構近いため幼い時からよく遊んでいた。
 ただ、今まで1度も同じ学校に通ったことがなかった。
 学校が定めた同じ校区内に、たまたま入らなかったのだ。
 しかしながらこの度、同じ学校に通うことになった。


「それはそうとさ、明日からは一緒に登校しない?私、一度も誰かと登校したことないんだよね〜。お願い!」
「分かった。一緒に登下校しよう!」
「ほ、本当?それに下校も?ありがとう!」


 春の太陽に負けないほど明るい、彼女の笑顔は、いつにもないほど可愛らしく思えた。

 ところで、さっきから周りの生徒が全然いないのは気のせいなのだろうか……。


『キーンコーンカーンコーン』


 そう思った途端、耳に入り込んできたのは高い鐘の音。
 誰もいない閑散とした校庭に、響き渡った。
 この鐘は何の鐘だろう、と校舎三階の方にある時計を確認する。
 時計の短針は『1』を指していた。
 うん。今は1時だ。
 ……、ん?1時?


「っだ〜!初日から遅刻かよ。行くぞ蘭華!」
「剣也〜!待って〜!」


 そう、この鐘は予鈴。
 俺たちはこの鐘がなる、午後1時までに教室に入らなければならなかった。
 だが、今俺たちは校庭にいる。
 俺は蘭華とともに、教室に向かって走り始めた。

 暖かい春風は俺たちの背中を押し出してくれた。その春風は桜の花びらを舞わせて、美しい情景を生み出していた。


 2


 俺たちは教室付近に着き、壁に貼ってあるクラス割を見た。

 左上から右下へと名前が羅列された紙をゆっくりと見ていく。
 すると、俺の名前が見えた。
 1年1組だった。


「蘭華、何組だった?」
「私は、1組」
「同じだね」
「え、ほんと?やったぁ」


 蘭華は、さっき見たような眩しい笑顔を見せた。

 俺たちのクラス、1組の中にそーっと入ると、運のいいことに先生はまだいなかった。
 俺たちは、静かにそれぞれの席に着いた。
 何となく周りを見回すと、高校生という不思議なプレッシャーを感じているのか、どこかぎこちない。あまり話す様子が見られない。
 
 俺にとってこの物静かな空気はとても苦手だ。
 学校生活というのは賑やかにやるものだと自分で思っていたし、楽しくないなら来た意味もないとも思っている。
 大抵どんな学校でも数日経てば楽しい雰囲気になるものだから、今は我慢しなければいけないのだろうか。

 しばらくして、服と呼吸を乱した先生が到着し、その先生が落ち着き次第説明が始まった。

 その先生からの説明が終わり、体育館に移動した。体育館で入学式が執り行われるのだ。
 体育館内は静寂に包まれている。
 たださっきのような静寂とはまた違った雰囲気。
 緊張や不安ではなく、静かにしていなければいけないという、強制感に満ちている。
 この体育館という場所に大勢の生徒が収容され、俺たちは聞きたくもない長話を聞かなくてはならない。
 毎度思うが、なぜそこまで話を長くしなければならないのだ。
 生徒に恨みでもあるのか?それとも、嫌そうにしている生徒を見て楽しんでるのか?鬼かよ。
 それに入学式は、全学年の生徒がいる。入学式は1年のためにしているというのなら、なぜ2、3年性は必要なのだ。
 せめてそこら辺の配慮してあげたらどうでしょうか、教職員。
 
 いい迷惑だよ、本当に。
 これならもっと遅刻して、入学式終わった頃にこればよかった……。


 30分ほどで式典は終わって解放された。
 お疲れ様です、在校生の皆さん。

 俺たちは1度教室に戻った後、すぐに下校となった。
 さぁ、帰ろうと玄関で靴を履き替え、玄関を出た。
 その時だった。
 巨人が走るかのように、物凄い足音を立てながらこちらに近づいてくるやつが1人。
 登下校一緒にするって言ったの、忘れていたよ……。
 言うまでもなく、蘭華だ。


「来ったー!」
「何が?ってかうるさいし、恥ずかしいし、うるさいし」
「なんでうるさいを2回ったの?」
「うるさ〜い!」


 周りの視線がこちらに集まる。
 それだけ、うるさいのだ。
 蘭華……。勘弁してくれ。周りに注目されるのは好きじゃないんだよ……。


「とにかく早く帰ろう!」
「言われなくてもそうしますとも」
「レッツゴー!」


 彼女は、その掛け声と同時に右腕にしがみついて来た。柔らかい腕の感触と……。む、胸の感触がダイレクトに神経を刺激する。
 こんないかにもバカップルみたいなの見られると、さすがに恥ずかしい……。
 

「ん?どうしたの?顔赤いよ!」
「う、う、うるさーーーい!」


俺は蘭華をどかして、校門の方に走り出した。


「ちょっ、待ってよ〜!」


 こうして俺たちは、帰宅の途について高校生活初日を終えた。


コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品