銀狼転生記~助けた幼女と異世界放浪~
047 ~ISM・後~
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○月▲日 秘匿調査内容
情報共有会議、通称ISMにてSランク冒険者パーティー「螺旋ノ槍」のリーダー”橘透”により、驚くべき新事実が明らかになった。
ドルム砦に現れ甚大な被害をもたらした危険度〈測定可能〉の銀狼が、実はもう一体存在したというのだ。
当然、同会議に同席していた三橋、佐々木、東雲、田中の四名らは重要事項を黙っていた橘へ追求を始める。
対して、橘は動揺するどころか、極めて冷静に議論を開始する。
ソレにより、”銀狼を倒しても経験値が得られなかった”。
”視界から忽然と姿を掻き消した”という証言から、銀狼は幻覚系の術を行使することができ、本体は別にいるのではないかという推論にいたる。
そこから、会議はこの情報をどう扱うかという方向にそれ、最終的には──。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
「『この内容を”特秘匿性事項”とし、国王やギルドマスター等、ごく一部の人間にのみ情報を開示する』ですか…」
手元の蝋燭の火を頼りに読み終えた一枚の報告書。
私は暗い石造りの部屋で一人、溜息を吐きます。
あ、一人ではなかったんでしたね。
「スバル。報告書、どうもありがとうございました」
そう言葉にしながら、私は直感に従って虚空へと報告書を突き出します。
どうでしょうか…?
「……そっちじゃねえよ。姫さん」
「あ、すみません!」
と、手を突き出した方向とは全く逆──背後から声が聞こえました。
慌てて後ろを向いて謝ります。
そこには、死んだ魚のような目をした一人の青年が…。
「ああ、良いって…慣れてるしな」
そう言って、報告書を掴み上げる青年。
彼はどうやら、部屋に置かれた簡素な造りのベッドに腰掛けてたみたいです。
い…いつからそこに…!!
声にならない驚きと疑問が、頭の中で反芻します。
「報告書渡しに来た後からずっとだ」
しまった。
声に出なくても表情には出てたみたいです。
「え、ええ分かってましたよ…!」
「はぁ…存在感がねえのは…忍者としては喜ぶべきなんだろうがな」
目に見えて落ち込む青年の名前はスバル。
あ、正式な名前は隠岐屋昴でしたっけ…。
ま、まあ、私はスバルと呼んでいるのでスバルでいいでしょう。
彼は、数ヶ月前にここ『アルデンス王国』で行われた〈異世界英雄召喚術式〉によって呼び出されたセイトと呼ばれる人達の一人です。
ですが、その特異な体質故に王国からの祝福を与えられなかった可哀想な人なんです。
まあ、そうでなくても彼はニンジャ(?)という強力な種族らしいですし、今となって祝福が与えられない方が良かったのですが。
「それより…姫さんはこれ見てどう思った?」
と、顔を上げたスバルが、手に持った用紙をひらひらしながら問いかけてきました。
どう思ったか…ですか……。
「スバルって、見た目によらず几帳面なんですね」
「おい…」
「はい、じょーだんです…」
ホントに、死んだ魚のような目やボサボサの黒髪をしている割には読みやすい字体と文章だったんですが…。
王国秘書官にも通用するレベルですね。
っと、今は真面目な話。
私は、真剣な表情を顔に浮かべて、スバルと向かい合います。
「やっぱり…進んでますね。王国民化」
「ああ、既に佐々木と三橋は手遅れだな。俺が触っても殆ど変化無しだ。完全にプロテクトされた」
「そうですか、更に二人も…。これで殆どのセイトが王国民化を…」
”王国民化”、王国の全てを容認し、行動原理が”王国の為”へと変調される一種の思考誘導…いえ……もはやその変調能力は”洗脳”といっても過言ではないでしょう。
そもそも、セイト達──この世界に無関係な彼等には、王国の為に動く義務も、国王に情報を開示する必要もないんです。
はっきり言ってこの状態は異常です。
だけど、誰も気付かない。国民も国王ですらも…。
それもその筈、全ての元凶は、国王イシュバール・ゼファー。
…私の、実の父なのですから。
「ホント、王国民化ってのは恐ろしいな。あれだけ元の世界に帰りたがってた連中が、行動理念を弄られただけで立派な王国の兵器に成り下がっちまった。忠誠度MAX、しかも本人に自覚無しのな」
「ええ、しばらくは私の能力で抑えられたのですが…」
「王様にバレて、今は囚われの身…ってわけだな」
「……面目ありません」
そうです。
第二王女である私も…今は虜囚。
現在私に与えられているのは、石づくりの冷たい牢獄に木製のベッドと僅かな光源のみ。
私の能力を疎ましく思った国王によって、病気の為に表舞台にでれなくなったと言う名目上で、私は王城の地下に幽閉されているのです。
既に国政や騎士団やセイト、王国魔導師や民衆の声でさえも、国王の傀儡と化してしまっているのです。
何も出来ない自分が悔しいです。
「まあ、その分俺が姫さんに引き続き情報を渡せばいいわけだしな。取り敢えず、まだ洗脳されないセイトが居るから、今はそいつらを守ることを優先するさ」
「宜しくお願いします。スバルがどうやって侵入阻止の結界を破って情報を得ているのかは分かりませんが…頼もしい限りです♪」
本来なら、この牢獄にも魔法障壁と結界が二重に張ってあるんですが、どうやって破ってきたのでしょうか。
気になります。
それから、他愛もない会話を幾重か交わした後、スバルが言いました。
「そろそろ行くよ。そうだ…今さらなんだけどな。姫さん」
「フフッ…なんでしょう?」
「姫さんは、どうして俺達の事にそんなに必死になってくれるんだ? あんたが俺達を助けようとしなければ、こんな所に閉じ込められなかったわけだろう」
思わず頬が緩んでしまいました。
その質問は何回目でしょうか?
スバルは帰り際、何度もこの質問を私にしてきます。
もはやルーティン、お互いにこのやり取りを心の支えにしているのかもしれませんね。
私は、飛びっ切りの笑顔で質問に答えます。
「勘違いしてはいけません。私は私の好きだった王国を取り戻す為に、貴方を利用しているんですよ。スバル」
これは紛れもない本心。
スバルは建前を嫌います。ですから、「善意で…」とか「貴方の為に…」とか、言い訳がましい事を言うつもりはありません。
スバルは、薄く笑ってその場から立ち上がります。
私は遠ざかる彼の背中に声をかけます。
「スバル、貴方は何故私に利用されてくれるのですか?」
「主の言葉に従うのはニンジャの務めだからだよ。オルフェ・ゼファー」
そう言って、彼は牢獄の暗闇へと姿を消したのでした。
○月▲日 秘匿調査内容
情報共有会議、通称ISMにてSランク冒険者パーティー「螺旋ノ槍」のリーダー”橘透”により、驚くべき新事実が明らかになった。
ドルム砦に現れ甚大な被害をもたらした危険度〈測定可能〉の銀狼が、実はもう一体存在したというのだ。
当然、同会議に同席していた三橋、佐々木、東雲、田中の四名らは重要事項を黙っていた橘へ追求を始める。
対して、橘は動揺するどころか、極めて冷静に議論を開始する。
ソレにより、”銀狼を倒しても経験値が得られなかった”。
”視界から忽然と姿を掻き消した”という証言から、銀狼は幻覚系の術を行使することができ、本体は別にいるのではないかという推論にいたる。
そこから、会議はこの情報をどう扱うかという方向にそれ、最終的には──。
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「『この内容を”特秘匿性事項”とし、国王やギルドマスター等、ごく一部の人間にのみ情報を開示する』ですか…」
手元の蝋燭の火を頼りに読み終えた一枚の報告書。
私は暗い石造りの部屋で一人、溜息を吐きます。
あ、一人ではなかったんでしたね。
「スバル。報告書、どうもありがとうございました」
そう言葉にしながら、私は直感に従って虚空へと報告書を突き出します。
どうでしょうか…?
「……そっちじゃねえよ。姫さん」
「あ、すみません!」
と、手を突き出した方向とは全く逆──背後から声が聞こえました。
慌てて後ろを向いて謝ります。
そこには、死んだ魚のような目をした一人の青年が…。
「ああ、良いって…慣れてるしな」
そう言って、報告書を掴み上げる青年。
彼はどうやら、部屋に置かれた簡素な造りのベッドに腰掛けてたみたいです。
い…いつからそこに…!!
声にならない驚きと疑問が、頭の中で反芻します。
「報告書渡しに来た後からずっとだ」
しまった。
声に出なくても表情には出てたみたいです。
「え、ええ分かってましたよ…!」
「はぁ…存在感がねえのは…忍者としては喜ぶべきなんだろうがな」
目に見えて落ち込む青年の名前はスバル。
あ、正式な名前は隠岐屋昴でしたっけ…。
ま、まあ、私はスバルと呼んでいるのでスバルでいいでしょう。
彼は、数ヶ月前にここ『アルデンス王国』で行われた〈異世界英雄召喚術式〉によって呼び出されたセイトと呼ばれる人達の一人です。
ですが、その特異な体質故に王国からの祝福を与えられなかった可哀想な人なんです。
まあ、そうでなくても彼はニンジャ(?)という強力な種族らしいですし、今となって祝福が与えられない方が良かったのですが。
「それより…姫さんはこれ見てどう思った?」
と、顔を上げたスバルが、手に持った用紙をひらひらしながら問いかけてきました。
どう思ったか…ですか……。
「スバルって、見た目によらず几帳面なんですね」
「おい…」
「はい、じょーだんです…」
ホントに、死んだ魚のような目やボサボサの黒髪をしている割には読みやすい字体と文章だったんですが…。
王国秘書官にも通用するレベルですね。
っと、今は真面目な話。
私は、真剣な表情を顔に浮かべて、スバルと向かい合います。
「やっぱり…進んでますね。王国民化」
「ああ、既に佐々木と三橋は手遅れだな。俺が触っても殆ど変化無しだ。完全にプロテクトされた」
「そうですか、更に二人も…。これで殆どのセイトが王国民化を…」
”王国民化”、王国の全てを容認し、行動原理が”王国の為”へと変調される一種の思考誘導…いえ……もはやその変調能力は”洗脳”といっても過言ではないでしょう。
そもそも、セイト達──この世界に無関係な彼等には、王国の為に動く義務も、国王に情報を開示する必要もないんです。
はっきり言ってこの状態は異常です。
だけど、誰も気付かない。国民も国王ですらも…。
それもその筈、全ての元凶は、国王イシュバール・ゼファー。
…私の、実の父なのですから。
「ホント、王国民化ってのは恐ろしいな。あれだけ元の世界に帰りたがってた連中が、行動理念を弄られただけで立派な王国の兵器に成り下がっちまった。忠誠度MAX、しかも本人に自覚無しのな」
「ええ、しばらくは私の能力で抑えられたのですが…」
「王様にバレて、今は囚われの身…ってわけだな」
「……面目ありません」
そうです。
第二王女である私も…今は虜囚。
現在私に与えられているのは、石づくりの冷たい牢獄に木製のベッドと僅かな光源のみ。
私の能力を疎ましく思った国王によって、病気の為に表舞台にでれなくなったと言う名目上で、私は王城の地下に幽閉されているのです。
既に国政や騎士団やセイト、王国魔導師や民衆の声でさえも、国王の傀儡と化してしまっているのです。
何も出来ない自分が悔しいです。
「まあ、その分俺が姫さんに引き続き情報を渡せばいいわけだしな。取り敢えず、まだ洗脳されないセイトが居るから、今はそいつらを守ることを優先するさ」
「宜しくお願いします。スバルがどうやって侵入阻止の結界を破って情報を得ているのかは分かりませんが…頼もしい限りです♪」
本来なら、この牢獄にも魔法障壁と結界が二重に張ってあるんですが、どうやって破ってきたのでしょうか。
気になります。
それから、他愛もない会話を幾重か交わした後、スバルが言いました。
「そろそろ行くよ。そうだ…今さらなんだけどな。姫さん」
「フフッ…なんでしょう?」
「姫さんは、どうして俺達の事にそんなに必死になってくれるんだ? あんたが俺達を助けようとしなければ、こんな所に閉じ込められなかったわけだろう」
思わず頬が緩んでしまいました。
その質問は何回目でしょうか?
スバルは帰り際、何度もこの質問を私にしてきます。
もはやルーティン、お互いにこのやり取りを心の支えにしているのかもしれませんね。
私は、飛びっ切りの笑顔で質問に答えます。
「勘違いしてはいけません。私は私の好きだった王国を取り戻す為に、貴方を利用しているんですよ。スバル」
これは紛れもない本心。
スバルは建前を嫌います。ですから、「善意で…」とか「貴方の為に…」とか、言い訳がましい事を言うつもりはありません。
スバルは、薄く笑ってその場から立ち上がります。
私は遠ざかる彼の背中に声をかけます。
「スバル、貴方は何故私に利用されてくれるのですか?」
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