銀狼転生記~助けた幼女と異世界放浪~
M046 ~ISM・前~
銀狼との死闘から、はや五日が経過した。
僕が戦いで受けた傷は、肋骨3本の骨折、内臓破裂【限界突破】の使用による過剰負荷といった具合に、一時は生死を彷徨った程だけど…そこはなんとか異世界クオリティの回復魔法で切り抜けて、今では腕以外の包帯は取れて、歩けるまでに回復した。
僕がベッドから動けない間は、凛と白詰さんが冒険者の依頼を受けて治療費を稼いでくれた。
その間、霞ヶ浦さんは毎日のようにゴードンさんの酒場に足を運んで、命達の情報を集め続けてくれた。
あの人の命に対する熱量には、流石に親友の僕でも敵わないな。
また、あの戦いで甚大な被害を被った[ドルム砦]では、ようやく復興の兆しが見え始めたらしい。
三日前に、王国内から何人もの建築士や魔導師がかり出されたみたいだ。
何でも、魔法障壁を張って、遠距離攻撃にも微動だにしない、今まで以上に堅牢な砦へと改良するとか。
これで、王国の堅牢な防御は確固たるものになるだろう。
完成したら、一度見に行ってみたいな。
しかし楽観視ばかりしてもいられない。
砦の崩落に巻き込まれてたくさんの人が尊い命を落としたし、砦が復興するまでの間、多くの冒険者がその防衛の穴埋めに回っていて、王国内は冒険者不足に陥ってしまっている。
おかげで、王国の警備兵が国内の魔物を間引くハメになったり、警備兵の不在を狙った強盗や空き巣、強姦などの犯罪率が急上昇したせいで一時的に治安が悪くなってしまっているのが現状。
銀狼が残した爪痕は、良くも悪くもこの国に少なくない影響を与えたってことだ。
そんな中、僕は現在冒険者の町──〖エイギル〗を離れ、王の住まう都──〖王都アルデンス〗の城の中、そのとある一室に居た。
きらびやかな装飾を施された部屋には、僕を含めて4人の人物が黄金の円卓を囲んでいた。
僕から反時計回りに、橘 透くん、東雲猛くん、田中金継くん、佐々木澪さんの順で座席に座っている。
簡単に説明すると、週に一回。
クラスメイトで集まって、お互いに失踪者なんかの情報交換をしているんだけど、今回は丁度その日、僕が王様に呼び出しを受けて王都へと謁見しに行き、通された部屋でこの四人と遭遇。
しかも、その四人が丁度それぞれのパーティーのリーダーだったので、中止の流れになっていた情報交換会議(略してISM)を急遽、城の会議室を借りて行ったわけだ。
もちろん、情報共有が目的だったんだけど…話は早くも脱線し始めちゃってて……。
「ふっ ざっ けんじゃねー ー ー!!!!」
会議室に突如響く怒号。
「ちょっと待ってよ、金継く─「いいや! またねぇ!!」ええ…」
そういって椅子から勢いよく立ち上がるAランク冒険者パーティー『尊き竜の光翼』のリーダー”田中金継”くんの怒りの矛先は現在僕に向いている…というのも。
「おい天哉ぁあ!! お前は…お前という奴はぁああ!! ただでさえ、ただでさえパーティー内でハーレムを形成してやがるのに!! なんだってんだ!? キモオタ共を一手に引き受け、その特典としてアニオタ外国人留学生をパーティーに引き入れてみれば、そいつは既に他の男に夢中で脈は無し!! そんな残酷な結果に傷心したオレに温かい言葉をかけてくれた唯一の癒しであり救いだった…!!
第三王女のメルヒナちゃんまで手にかけやがってぇええええ!
おまけに街行く女性はお前の姿を見て、「勇者様♡」「天哉様!!」などと目をハート型にする始末─────この、ハーーレムチーーレム野郎がぁあああああああ!!!!」
彼の怒りの原因は、三つ。
一つ目は、僕のパーティーの男女比が1:4になっていることが、金継くん曰くハーレム状態になっているということ。
これは事実だけど、僕からしたら完全な不可抗力だ。
凜や白詰さんは、同じ道場仲間、いつも一緒に行動するよしみで自然とそうなったし、霞ヶ浦さんに至っては命と一番仲が良かった僕らと一緒にいれば、命が見つかった時に同じパーティーになる可能性が高い…という打算でパーティーを希望してきたにすぎないしね。
二つ目は、僕を「天哉様! 大好きです!!」と妙に慕ってくれる第三王女のメルヒナ・ゼファーちゃんに僕が手をかけたということ。
そも、彼女は僕より6歳は年下。
そんな小さな子に手を出すなんて、あり得ないし僕は命と違ってそんな特殊な趣味はもってないから、そういう邪な感情も浮かび得ない。
あえて言えば、「ありがとう」と言って頭を撫でてあげたくらいだ。
妹がいたらこんな感じかな。
なんてちょっと考えてしまったりもするけど。
三つ目、銀狼を倒した事で僕の顔と名前が王都で広まり、ちょっとした英雄扱いを受けてることだ。
金継くん曰くチーレム状態だとか。
これはあまり嬉しくない。
気軽に外にも出歩けないし、気を抜けば猛獣と化した女性達に喰われてしまいそうになる。
頼れるパーティーメンバーがいなければ、今頃僕は大切な何かを失っていたかもしれない。
全く、一つ目はともかくあと二つの理由は理不尽じゃないかな。
そもそも──
「金継くん! 僕はハーレムなんて作る気はないし、メルヒナちゃんのことだって誤解だ。そもそも僕には彼女が──「ぐがぁああああ!!! リア充がぁああああああああ!!!! 爆発しやがれぇええ!! いや、宇宙の塵と化せぇえええ!!」─もうどうしろっていうのさ!?」
どうやら、更なる油を注いでしまったみたいだ。
何かに取り憑かれたように、床に倒れてのたうちまわってる。
僕は彼の誤解を解くのを諦めて、溜息をついた。
「さて、無駄話は終わったかしら?」
今までの会話の内容をバッサリ斬り捨てる、尖った冷気を更に尖らせたような声が議場に響く。
金継くんの動きがピタリと止まる。
僕は苦笑しながら、声の主──Sランク冒険者パーティー『魔道ノ華』のリーダー”佐々木澪”へと口を開く。
「ええ、終わりました。すみません佐々木さん」
「はい、以後は気をつけてください」
顔色一つ変えず、氷のような冷たさを持って返答をする彼女こそ、我らが2ーC不動のクラス委員であり、その無駄な労力を嫌い、常に効率的な行動を好み、男女問わず冷たくあしらう姿勢からクラス内では”女王様”、”最強の委員長”、”氷の女王”なんて呼ばれてる。
「はっ、”氷の女王”が偉ぶりやが─「何か…言いました?」─いえ、何でもないです」
佐々木さんに睨まれて、驚くべき速度で謝りつつ席に座り直す金継くん。
因みに、これらの異名は彼女の前で言っていけない。
いわゆる、禁句というやつだ。
「はあ……クズオタクは放っておきましょうか。 三橋くん、橘くん、東雲さん。何かありますか?」
そう言って僕や、この会議中ずっと口を閉ざしていた二人の人物へと視線を向ける佐々木さん。
「生産者組は特にこれといった報告はねえな。強いていうなら、俺の店の二店舗目が──って、悪い悪い…そんな目で見るなって…」
さり気なく店の宣伝を始めた事を佐々木さんに睨まれて口を噤んだのは、生産者組の代表であり、僕らの行きつけで通常時のISMの開催場所でもある”東雲食堂”のオーナー”東雲猛”くんだ。
顔は悪人面、がっしりとした体躯、性格は豪快の一言につき、少々喧嘩っ早い所もあるが、その実、とても面倒見が良くて気前がいい。
僕達は彼のことを親しみを込めて”おやっさん”、”おじき”なんて呼んでる。
実際に年上だし(二回留年しているらしい)。
因みに、同クラスに”東雲風という可愛らしい妹がいる。
東雲兄妹の、顔も性格も体の大きさも、似ても似つかぬその容姿は一時期、大神兄妹とは違った意味で噂になったりした。
その噂の内容は、両兄妹の名誉の為にも口を噤む事にする。
「お、おい橘。お前はなんかねえのか?」
流石のおやっさんも、雪の女王の冷たい視線には耐えられなかったようで、左隣で本を読んでいた橘くんへと話を振った。
「ん? 特に話すような事はない……ああ…そうだ──」
そういって、呼んでいた本を片手で”パタン”と閉じ、黒縁の眼鏡を上に押し上げながら僕へと視線を向けて口を開く橘くん。
「三橋、お前が戦って倒したという銀色の狼。俺も見たぞ」
「え?」
「は?」
「んなっ!?」
「・・・」
突然の橘くんのカミングアウトによって僕、金継くん、東雲くん、の順に驚愕を顕わにするのだった。
僕が戦いで受けた傷は、肋骨3本の骨折、内臓破裂【限界突破】の使用による過剰負荷といった具合に、一時は生死を彷徨った程だけど…そこはなんとか異世界クオリティの回復魔法で切り抜けて、今では腕以外の包帯は取れて、歩けるまでに回復した。
僕がベッドから動けない間は、凛と白詰さんが冒険者の依頼を受けて治療費を稼いでくれた。
その間、霞ヶ浦さんは毎日のようにゴードンさんの酒場に足を運んで、命達の情報を集め続けてくれた。
あの人の命に対する熱量には、流石に親友の僕でも敵わないな。
また、あの戦いで甚大な被害を被った[ドルム砦]では、ようやく復興の兆しが見え始めたらしい。
三日前に、王国内から何人もの建築士や魔導師がかり出されたみたいだ。
何でも、魔法障壁を張って、遠距離攻撃にも微動だにしない、今まで以上に堅牢な砦へと改良するとか。
これで、王国の堅牢な防御は確固たるものになるだろう。
完成したら、一度見に行ってみたいな。
しかし楽観視ばかりしてもいられない。
砦の崩落に巻き込まれてたくさんの人が尊い命を落としたし、砦が復興するまでの間、多くの冒険者がその防衛の穴埋めに回っていて、王国内は冒険者不足に陥ってしまっている。
おかげで、王国の警備兵が国内の魔物を間引くハメになったり、警備兵の不在を狙った強盗や空き巣、強姦などの犯罪率が急上昇したせいで一時的に治安が悪くなってしまっているのが現状。
銀狼が残した爪痕は、良くも悪くもこの国に少なくない影響を与えたってことだ。
そんな中、僕は現在冒険者の町──〖エイギル〗を離れ、王の住まう都──〖王都アルデンス〗の城の中、そのとある一室に居た。
きらびやかな装飾を施された部屋には、僕を含めて4人の人物が黄金の円卓を囲んでいた。
僕から反時計回りに、橘 透くん、東雲猛くん、田中金継くん、佐々木澪さんの順で座席に座っている。
簡単に説明すると、週に一回。
クラスメイトで集まって、お互いに失踪者なんかの情報交換をしているんだけど、今回は丁度その日、僕が王様に呼び出しを受けて王都へと謁見しに行き、通された部屋でこの四人と遭遇。
しかも、その四人が丁度それぞれのパーティーのリーダーだったので、中止の流れになっていた情報交換会議(略してISM)を急遽、城の会議室を借りて行ったわけだ。
もちろん、情報共有が目的だったんだけど…話は早くも脱線し始めちゃってて……。
「ふっ ざっ けんじゃねー ー ー!!!!」
会議室に突如響く怒号。
「ちょっと待ってよ、金継く─「いいや! またねぇ!!」ええ…」
そういって椅子から勢いよく立ち上がるAランク冒険者パーティー『尊き竜の光翼』のリーダー”田中金継”くんの怒りの矛先は現在僕に向いている…というのも。
「おい天哉ぁあ!! お前は…お前という奴はぁああ!! ただでさえ、ただでさえパーティー内でハーレムを形成してやがるのに!! なんだってんだ!? キモオタ共を一手に引き受け、その特典としてアニオタ外国人留学生をパーティーに引き入れてみれば、そいつは既に他の男に夢中で脈は無し!! そんな残酷な結果に傷心したオレに温かい言葉をかけてくれた唯一の癒しであり救いだった…!!
第三王女のメルヒナちゃんまで手にかけやがってぇええええ!
おまけに街行く女性はお前の姿を見て、「勇者様♡」「天哉様!!」などと目をハート型にする始末─────この、ハーーレムチーーレム野郎がぁあああああああ!!!!」
彼の怒りの原因は、三つ。
一つ目は、僕のパーティーの男女比が1:4になっていることが、金継くん曰くハーレム状態になっているということ。
これは事実だけど、僕からしたら完全な不可抗力だ。
凜や白詰さんは、同じ道場仲間、いつも一緒に行動するよしみで自然とそうなったし、霞ヶ浦さんに至っては命と一番仲が良かった僕らと一緒にいれば、命が見つかった時に同じパーティーになる可能性が高い…という打算でパーティーを希望してきたにすぎないしね。
二つ目は、僕を「天哉様! 大好きです!!」と妙に慕ってくれる第三王女のメルヒナ・ゼファーちゃんに僕が手をかけたということ。
そも、彼女は僕より6歳は年下。
そんな小さな子に手を出すなんて、あり得ないし僕は命と違ってそんな特殊な趣味はもってないから、そういう邪な感情も浮かび得ない。
あえて言えば、「ありがとう」と言って頭を撫でてあげたくらいだ。
妹がいたらこんな感じかな。
なんてちょっと考えてしまったりもするけど。
三つ目、銀狼を倒した事で僕の顔と名前が王都で広まり、ちょっとした英雄扱いを受けてることだ。
金継くん曰くチーレム状態だとか。
これはあまり嬉しくない。
気軽に外にも出歩けないし、気を抜けば猛獣と化した女性達に喰われてしまいそうになる。
頼れるパーティーメンバーがいなければ、今頃僕は大切な何かを失っていたかもしれない。
全く、一つ目はともかくあと二つの理由は理不尽じゃないかな。
そもそも──
「金継くん! 僕はハーレムなんて作る気はないし、メルヒナちゃんのことだって誤解だ。そもそも僕には彼女が──「ぐがぁああああ!!! リア充がぁああああああああ!!!! 爆発しやがれぇええ!! いや、宇宙の塵と化せぇえええ!!」─もうどうしろっていうのさ!?」
どうやら、更なる油を注いでしまったみたいだ。
何かに取り憑かれたように、床に倒れてのたうちまわってる。
僕は彼の誤解を解くのを諦めて、溜息をついた。
「さて、無駄話は終わったかしら?」
今までの会話の内容をバッサリ斬り捨てる、尖った冷気を更に尖らせたような声が議場に響く。
金継くんの動きがピタリと止まる。
僕は苦笑しながら、声の主──Sランク冒険者パーティー『魔道ノ華』のリーダー”佐々木澪”へと口を開く。
「ええ、終わりました。すみません佐々木さん」
「はい、以後は気をつけてください」
顔色一つ変えず、氷のような冷たさを持って返答をする彼女こそ、我らが2ーC不動のクラス委員であり、その無駄な労力を嫌い、常に効率的な行動を好み、男女問わず冷たくあしらう姿勢からクラス内では”女王様”、”最強の委員長”、”氷の女王”なんて呼ばれてる。
「はっ、”氷の女王”が偉ぶりやが─「何か…言いました?」─いえ、何でもないです」
佐々木さんに睨まれて、驚くべき速度で謝りつつ席に座り直す金継くん。
因みに、これらの異名は彼女の前で言っていけない。
いわゆる、禁句というやつだ。
「はあ……クズオタクは放っておきましょうか。 三橋くん、橘くん、東雲さん。何かありますか?」
そう言って僕や、この会議中ずっと口を閉ざしていた二人の人物へと視線を向ける佐々木さん。
「生産者組は特にこれといった報告はねえな。強いていうなら、俺の店の二店舗目が──って、悪い悪い…そんな目で見るなって…」
さり気なく店の宣伝を始めた事を佐々木さんに睨まれて口を噤んだのは、生産者組の代表であり、僕らの行きつけで通常時のISMの開催場所でもある”東雲食堂”のオーナー”東雲猛”くんだ。
顔は悪人面、がっしりとした体躯、性格は豪快の一言につき、少々喧嘩っ早い所もあるが、その実、とても面倒見が良くて気前がいい。
僕達は彼のことを親しみを込めて”おやっさん”、”おじき”なんて呼んでる。
実際に年上だし(二回留年しているらしい)。
因みに、同クラスに”東雲風という可愛らしい妹がいる。
東雲兄妹の、顔も性格も体の大きさも、似ても似つかぬその容姿は一時期、大神兄妹とは違った意味で噂になったりした。
その噂の内容は、両兄妹の名誉の為にも口を噤む事にする。
「お、おい橘。お前はなんかねえのか?」
流石のおやっさんも、雪の女王の冷たい視線には耐えられなかったようで、左隣で本を読んでいた橘くんへと話を振った。
「ん? 特に話すような事はない……ああ…そうだ──」
そういって、呼んでいた本を片手で”パタン”と閉じ、黒縁の眼鏡を上に押し上げながら僕へと視線を向けて口を開く橘くん。
「三橋、お前が戦って倒したという銀色の狼。俺も見たぞ」
「え?」
「は?」
「んなっ!?」
「・・・」
突然の橘くんのカミングアウトによって僕、金継くん、東雲くん、の順に驚愕を顕わにするのだった。
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