銀狼転生記~助けた幼女と異世界放浪~

テケテケさん

041 ~緋色の少女~

 「ふぁ…あれ? 私…わわっ、おにーさん!?」
 「んぅ…ぅう…ん……ロウ?」

 「やっと起きたか……」

 人間達が居なくなったので、取りあえず気絶させていた二人を起こした。
 二人を巻いていたコートも、既に身につけている。

 「へ、寝てたの? 私達。 なんで? 確か……フィリ君のレベルを上げてて、おにーさんが私達を抱えて茂みに飛び込んで、それから…う~んと…あれ? なんだっけ?」

 頭を抱えて、必死に思い出そうとするサハラ。
 どうやら、一部記憶がとんでいるみたいだな。

 「思い出せないのか?」

 「うん。そーみたい」

 サハラの隣で、寝起きなのが辛いのか、目を擦っているフィリを見る。

 「フィリもか?」

 「…ん」

 やっぱり、昨日と同じだ。
 昨夜、突然俺に襲いかかってきたフィリだったが、事態が落ち着いた時に、どうしてああなったのか聞いた時、フィリの反応は「ん? 何のこと?」だった。

 最初は、暗に、「そんな事実は無い」と告げられているのかとも思ったが、違った。
 どうやら、本当にその部分の記憶だけがとんでいるみたいだ。

 今のところ、おかしくなっている間の記憶がとぶだけだから、たいした問題はないけど、原因がわかんねえのはちょっと怖いな。
 悪化とかしねえか?
 誰か、こういう事に詳しい奴に聞きてえが……。

 「ロウ、あれ…ナニ?」

 突然、フィリが俺の後ろを指差した。
 なんだ?
 恐る恐る振り向く。

 「おわっ!! なんじゃありゃ!?」

 そこには、動物の皮で出来た袋が内側からモゾモゾと、生き物のように蠢く光景が……。

 「わあっ!! なにあれ!?」

 「あっ! おいっ!!」

 恐怖よりも好奇心が勝ったサハラは、止める間もなく謎の袋へと飛んでいく。
 一人だけ…行かせるわけにはいかねえ。
 十分に警戒しながら、フィリと一緒に袋の周りを飛び回っているサハラへ近づく。

 「ねえねえ、おにーさん! この袋、喋ってるよ!!」

 興奮した様子で、目をキラキラと輝かせるサハラ。

 お前は、シンバルを叩く猿の玩具オモチャを見てはしゃぐ子供か。
 見た目だけなら完全に子供だが。
 それよりも──

 「は? 声が聞こえる?」

 蠢く袋に、恐る恐る耳をそばだてる。

 「タすケて~! ダして~!! コわいよ~!」

 「なっ!!」

 たどたどしい声だったが、その声音は紛れもない少女のそれだった。
 恐怖心は一瞬で何処かに吹き飛び、代わりに助けてやらねばという使命感に駆られる。

 「今、出してやる!!」

 袋の結び目を探し当て、固く結ばれた結び目を口で噛み切り、袋の口を開いた。

 「大丈夫か!?」

 「タスけて──あッ!! デぐチッ!」

 開いたと同時に、鉄の鎖でぐるぐる巻きになった少女が袋の中から飛び出してきた。
 ……もう少しでぶつかるところだった。
 アブねーー。

 「でラレた!! あ、でモ、うごケなイ。……グスッ」

 「おい、大丈夫か?」

 無事、革袋から脱出を果たした緋色の髪の少女に声をかける。

 「ウん!! あリガと! おねーさン!!」

 鎖で巻かれて動けない体をくねらせて、少女が近寄ってくる。
 ついさっきまで、泣いていたとは思えないほどに、その顔は喜色満面の笑みで満たされている。
 フィリとは対照的に、感情表現が豊かな子だな。
 というか…。

 「おにーさんな?」

 精一杯笑みになるように努力して、幼い少女に訂正部分を教える。
 横で俺の顔を見ていたサハラが、「うわっ! おにーさん、顔が恐いよ!?」と言っていたが、気にしない。

 「ン? わカった、おニーさん。─ネエ!!」

 「うん。なんだ?」

 しっかり訂正箇所を直してきたので、今度こそとびっきりの笑顔を少女に向ける。

 「ホどいテ!! うごけナい」

 「お、おう」

 ドヤ顔で動けない宣言をする少女に苦笑しつつ、俺は少女に絡みついた鎖を解き始めた。 

◆◆◆◆

 ふう、何とか解けたか……。
 思いの外、疲れたな。
 主に精神的に…。

 途中までは、少女をグルグルに縛っていた鎖を解こうとしていた。
 だが、鎖は内側の方で複雑に少女に絡みついているようで…。

 「ヒャぅ!」
 「アひャァア!!」
 「ソこハちが…うヨ!」
 「アッ、ダメっ!」

 俺が、鎖を引っ張るたびに少女のイケナイ所へ擦れてしまい、その光景を見ていた、サハラとフィリ、両名の視線がブリザード並みに肌に突き刺さり、とても痛かった。
 少女の、やけに艶っぽい悲鳴と合わせて、ダブルパンチで痛かった。
 もう、ゴリッゴリッにSUN値が削られた。

 で、結局は、力任せに鎖をちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返して、ようやく彼女を解放する事に成功した。
 で、解放した少女の姿を見て、心底驚いたことが一つ。

 彼女──緋色の短髪少女は人間・・ではなかった。


*****************************

名前 ピア
種族 半女面鳥ハーフ・ハーピー D+

LV:19/20
HP:200/240
MP:10/10


攻撃力:530
防御力:20
抵抗力:40
俊敏性:100
魔法力:10
 運 :1000

:ユニークスキル:
 【阿呆Ⅲ】【音痴Ⅵ】

:パッシブスキル:
 【怪力】【翻訳】【精神汚染無効】

:ノーマルスキル:
 【飛行Ⅵ】【拳術Ⅱ】【ハウリングⅡ】

:称号:
 〖阿呆の子〗〖半種族ハーフ〗〖魔物〗

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 まず始めに突っ込みたい。

 ユニークスキル、悪口じゃね!?

 称号でも、アホって言われてるのに、なんて可哀想な少女なんだろう。
 まあ、その代わりなのかはわからんが、運の値がヤバいことになっておられるので、気にする事はないか。

 現在、サハラとじゃれついている(サハラは嫌がっているように見える)ハーピーの少女──ピアへと生暖かい目を向ける。

 首から上と胴体は、紛れもない少女のモノだが、なるほど、羽や、脚の鉤爪、尾などの鳥のような特徴が顕著に見てとれる。

 髪と同じ色の羽毛は、見ていて、とても暖かい気持ちになる。
 と同時に、少し冷静になった心に、沸々と怒りがこみ上げてくる。

 さっきの五人組は、こんな幼気な少女を人攫い(魔物攫い?)するようなクズだったか。
 言葉交わさなくて良かったかも知れねえな。

 次、会ったらただじゃおかねえが。
 特に、化け物呼ばわりした金髪。
 あいつだけは、絶対に殺す。
 俺のガラスハートに傷を付けた罪─コホンッ…ピアを攫った罪は重い。
 まあ、この場にいない相手に怒っても仕方がねえ。
 取りあえず、ピアをどうするかだな。

 「ピア!!」

 「アハハハ! マてまテぇい!! ──ン? なーに? おニーさん?」

 丁度、空中鬼ごっこ的な遊びでサハラを追いかけ回していたピアへと声をかける。
 既に、体力が限界になったサハラを、フィリが介抱しに向かうのを横目で見ながら、たずねる。

 「お前、親はいるのか?」

 「うん!! いル!! パパとママ、とってもやさシい!!」

 よし、親がいるなら、彼女を家まで送り届ければいいだろう。
 多少、予定が変更になるが許容範囲内だ。
 俺としては、ここでピアを家に送り届ける方が優先度が高い。

 「じゃあ、親御さんの所まで送ってやるから、案内してくれ!!」

 「ホント!? アりがト! おにーサん!!」

 ピアは、俺の傍まで飛んでくると、そこから俺の胸にダイブしてくる。

 「ピア、おニーさン、ダイすキ!!」

 そして、頬を擦り付けてきたので、頭を撫でてやる。

 「よし、じゃあ家まで案内してくれるか?」

 「うン! まかセて!!」

 と、威勢良く返事をして飛び立つピア。

 そこで、勝手に決めてしまったことを詫びようとフィリ達に目を向けるが、二人とも、柔和な顔で頷いてくれた。

 こうして、俺達はピアの案内で、もう一度森の奥へと引き返していった。


 「ア、コっちだッた」

 ……若干の不安を抱いて。

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