銀狼転生記~助けた幼女と異世界放浪~
035 ~湖の畔で~
俺は、突如としてこの世界に転移し、突如として子犬に転生させられ、狼への成長を経る。
そして今、再び人間の姿へと舞い戻った。
ここまでは、まあ、色々規格外な話だが許容範囲内だ。
こっちの世界で、様々な経験を果たした俺は寛大なんだ。
それに、人化したら食肉衝動は大分落ち着いた。
これはとても嬉しい。
だけどな……
「なぁあああんで!! 性転換してんだよぉおおお!!」
絶叫。
月明かりが反射する湖畔で、裸体を晒したままその場に崩れ落ちる。
これはねえわ!!
悪趣味だわ!!
何が嬉しくて、転生ついでに性別変えられなくちゃならねえんだ!
普通、女扱いされるのが嫌だったやつを女にするか?
どんだけ、ハイクオリティな嫌がらせしてんだよ!
この世界じゃねえとできねえよ! こんな魔法じみたこと!
ゆっくりと立ち上がり、再び自分の姿を湖面に映す。
肩甲骨まで伸びきった、見慣れた銀色の髪。
散々、女扱いをされてきた中性的な顔立ち。
女のように、丸みを帯びた体つき。
細い指、華奢でいて、少し筋肉質な体躯──
ん?
あれ?
転生前とそんな変わってないような気がする……。
性別、変わってねえのか?
だが、もし変わってないのだとしたら、俺は自分の姿を”女”だと認識したことになっちまう!
そして、下半身に視線がいく。
あっ!! 決定的な証拠があった!
息子だ! 俺の息子がいねえ!!
男の象徴が綺麗さっぱり、跡形もなく消失している。
なんてこった!!
俺を幾度となく、ホントは女だという疑惑から救い続けてくれた、男の証。
その効力は、かの水戸黄門が自身の地位を示す際に、提示した”紋所”に匹敵する。
その紋所が消失した今、俺に性別を証明する術はない。
くそっ!
……というか、この性転換、どうも中途半端な感じがする。
女にしては、胸がないし女性器らしき物も見当たらない。
というか股下には何も存在してない。
それ以外の俺自身の変化が少なすぎる。
どうせなら、もっと女らしい変化も出来た筈だ。
望んではねえけどな?
…女じゃないのか?
だからと言って男だと判別する事も出来ねえし…。
まるで、女と男の中間をとったような……。
「ロウ、まだ?」
自分の変化に疑問を抱いていると、フィリが小さく呟いたのが聞こえた。
フィリは、俺の意をくんで、三角座りをした膝の間に顔を埋めてくれていた。
だって、イベント感出したいじゃん?
こういう遊び心があってもいいと思う。
正直、この姿を見せるのはかなり嫌だが、あまりフィリを待たせるわけにもいかねえ。
…よし。
『フィリ。顔を上げてくれ』
フィリが、恐る恐る顔を上げていき、俺の姿を視認した。
◆◆◆◆
私は、目の前に立つ、人間の姿に動揺する。
月の明かりを反射してキラキラと輝く銀色の髪に、黄金色の眼瞳。
夜の闇に浮かぶその人間の姿は幻想的ですらある。
──カッコイイ。
目が離せない。
性別はあやふやな感じがする。
でも、それ以上に見とれてしまう程にカッコいいと思った。
それが、意中の相手の姿だと思うと、胸が熱くなって、お腹の下がキュンとする。
「ロウ…なの?」
自分の声が掠れているのが分かる。
「おお…あ、声が出る…じゃなくて、ああ、そうだぜフィリ。因みに、れっきとした男だからな? 女じゃねえからな?」
息を呑んだ。
ガーゴのハスキーな声や、姉さんの絹みたいな柔らかい声とも違う。
凛とした、空気を透き通るような綺麗な声。
【念話】じゃないのに、頭に響いてくる。
初めて、恋心を抱いた相手が目の前で裸で立っている。
姉さんによって教えられた大人な知識が頭に浮かぶ。
吐息が漏れる。
「フィリ?」
──もうダメ。
火照った頬を誤魔化しながら、私はロウの懐に飛びついた。
◆◆◆◆
突然、フィリが飛び掛かってきた。
「ちょ、フィリ──ガフッ!」
ラグビー並のタックルを受け、ダメージを負うも、何とか耐える。
そして、抱き付いたフィリを剥がそうとするが、ビクともしない。
くそっ、人化した影響でステータスが下がっちまってんのか!?
「うおっ!」
バランスを崩した俺は、フィリに押し倒される形で背中から地面に倒れる。
必然的に、俺の上にはフィリが抱き付いた状態で覆い被さっている。
「フィリ! 落ち着け! 取り合えず離れてくれ!」
「…ロウ」
俺の腰に回していた手を放して、起き上がるフィリ。
わかってくれたか…。
「……フィリ?」
だが、何故かフィリは俺に跨がった状態で動こうとしない。
あの、どいてくれねえと起き上がれねえぞ?
この構図はちょっとヤバいっつーか、傍から見たら誤解されるっつーか。
「ロウは、私…嫌い?」
「は? そんなわけねえだろ、フィリの事は好きだ、だから─「良かった。じゃあ、いいよね?」って、え?」
そして、何故か両手を地面に抑えられて固定される。
「……フィリ? これだと俺、動けねえんだけど。え、聞いてる?」
俺の言葉を聞いているのかいないのか、フィリの様子がおかしい。
「私は、ロウからたくさんの”初めて”を貰った。とても感謝してる。こんな気持ちになったのは、多分…ロウだけ。だから──」
「な、な……っ!!」
顔を俯けていたフィリの顔が目の前に来る。
その紫の瞳は情欲で濁り、漏れる吐息は熱い。
フードからこぼれた金髪が俺の頬へ垂れ落ちる。
幼女感丸出しだったフィリが、大人の色気を漂わせている。
ヤバい、ヤバい!!
突然過ぎて頭が混乱してる。
でも、このままだとマジでヤバい!!
取り返しがつかなくなる。
「私の初めても。──ロウにあげるね?」
そして、遂にフィリが目を閉じて顔を下げ始める。
──俺の唇に向かって。
ど、どうすればいいんだ!?
これから起こる事は、流石の俺でも分かる。
一方的にフィリに唇を奪われようとしている。
それだけは嫌だ!
フィリが嫌なんじゃねえ。
男として、女性の方から迫られる……。
なんてのは絶対に避けなきゃならねえ!!
だからと言って、フィリに完全に抑え込まれているために、俺には何も出来ない。
フィリを攻撃するなんて俺には出来ねえし…。
そうこうしている内に、少し頭を上げれば額が触れあう距離までフィリの顔が近づく。
頭が真っ白になる。
ヤバい、ヤバいヤバいヤバい!!
誰か、誰かこの状況を何とかしてくれぇえええええ!!!
──ボフン
「きゃっ!」
「…ん?」
唐突に、体が自由になる。
なんだ?
体を起こして、横を見ると、フィリが離れたところで頭を抑えて蹲っている。
「…誰?」
目に涙を溜めて俺──正確には俺の背後を睨んでいる。
恐る恐る振り向くとそこには──
「おにーさんに迫ろうなんて、百年はやいよ! エロフちゃん!!」
紫の髪に、白のワンピース。
宙に浮き、フィリを指指してポーズを決める少女。
俺を、狼へと転生さした張本人。
──邪神サハラがいた。
どうやら、絶体絶命(?)のピンチは邪神の手によって事無きを得たようだ。
………解せぬ。
そして今、再び人間の姿へと舞い戻った。
ここまでは、まあ、色々規格外な話だが許容範囲内だ。
こっちの世界で、様々な経験を果たした俺は寛大なんだ。
それに、人化したら食肉衝動は大分落ち着いた。
これはとても嬉しい。
だけどな……
「なぁあああんで!! 性転換してんだよぉおおお!!」
絶叫。
月明かりが反射する湖畔で、裸体を晒したままその場に崩れ落ちる。
これはねえわ!!
悪趣味だわ!!
何が嬉しくて、転生ついでに性別変えられなくちゃならねえんだ!
普通、女扱いされるのが嫌だったやつを女にするか?
どんだけ、ハイクオリティな嫌がらせしてんだよ!
この世界じゃねえとできねえよ! こんな魔法じみたこと!
ゆっくりと立ち上がり、再び自分の姿を湖面に映す。
肩甲骨まで伸びきった、見慣れた銀色の髪。
散々、女扱いをされてきた中性的な顔立ち。
女のように、丸みを帯びた体つき。
細い指、華奢でいて、少し筋肉質な体躯──
ん?
あれ?
転生前とそんな変わってないような気がする……。
性別、変わってねえのか?
だが、もし変わってないのだとしたら、俺は自分の姿を”女”だと認識したことになっちまう!
そして、下半身に視線がいく。
あっ!! 決定的な証拠があった!
息子だ! 俺の息子がいねえ!!
男の象徴が綺麗さっぱり、跡形もなく消失している。
なんてこった!!
俺を幾度となく、ホントは女だという疑惑から救い続けてくれた、男の証。
その効力は、かの水戸黄門が自身の地位を示す際に、提示した”紋所”に匹敵する。
その紋所が消失した今、俺に性別を証明する術はない。
くそっ!
……というか、この性転換、どうも中途半端な感じがする。
女にしては、胸がないし女性器らしき物も見当たらない。
というか股下には何も存在してない。
それ以外の俺自身の変化が少なすぎる。
どうせなら、もっと女らしい変化も出来た筈だ。
望んではねえけどな?
…女じゃないのか?
だからと言って男だと判別する事も出来ねえし…。
まるで、女と男の中間をとったような……。
「ロウ、まだ?」
自分の変化に疑問を抱いていると、フィリが小さく呟いたのが聞こえた。
フィリは、俺の意をくんで、三角座りをした膝の間に顔を埋めてくれていた。
だって、イベント感出したいじゃん?
こういう遊び心があってもいいと思う。
正直、この姿を見せるのはかなり嫌だが、あまりフィリを待たせるわけにもいかねえ。
…よし。
『フィリ。顔を上げてくれ』
フィリが、恐る恐る顔を上げていき、俺の姿を視認した。
◆◆◆◆
私は、目の前に立つ、人間の姿に動揺する。
月の明かりを反射してキラキラと輝く銀色の髪に、黄金色の眼瞳。
夜の闇に浮かぶその人間の姿は幻想的ですらある。
──カッコイイ。
目が離せない。
性別はあやふやな感じがする。
でも、それ以上に見とれてしまう程にカッコいいと思った。
それが、意中の相手の姿だと思うと、胸が熱くなって、お腹の下がキュンとする。
「ロウ…なの?」
自分の声が掠れているのが分かる。
「おお…あ、声が出る…じゃなくて、ああ、そうだぜフィリ。因みに、れっきとした男だからな? 女じゃねえからな?」
息を呑んだ。
ガーゴのハスキーな声や、姉さんの絹みたいな柔らかい声とも違う。
凛とした、空気を透き通るような綺麗な声。
【念話】じゃないのに、頭に響いてくる。
初めて、恋心を抱いた相手が目の前で裸で立っている。
姉さんによって教えられた大人な知識が頭に浮かぶ。
吐息が漏れる。
「フィリ?」
──もうダメ。
火照った頬を誤魔化しながら、私はロウの懐に飛びついた。
◆◆◆◆
突然、フィリが飛び掛かってきた。
「ちょ、フィリ──ガフッ!」
ラグビー並のタックルを受け、ダメージを負うも、何とか耐える。
そして、抱き付いたフィリを剥がそうとするが、ビクともしない。
くそっ、人化した影響でステータスが下がっちまってんのか!?
「うおっ!」
バランスを崩した俺は、フィリに押し倒される形で背中から地面に倒れる。
必然的に、俺の上にはフィリが抱き付いた状態で覆い被さっている。
「フィリ! 落ち着け! 取り合えず離れてくれ!」
「…ロウ」
俺の腰に回していた手を放して、起き上がるフィリ。
わかってくれたか…。
「……フィリ?」
だが、何故かフィリは俺に跨がった状態で動こうとしない。
あの、どいてくれねえと起き上がれねえぞ?
この構図はちょっとヤバいっつーか、傍から見たら誤解されるっつーか。
「ロウは、私…嫌い?」
「は? そんなわけねえだろ、フィリの事は好きだ、だから─「良かった。じゃあ、いいよね?」って、え?」
そして、何故か両手を地面に抑えられて固定される。
「……フィリ? これだと俺、動けねえんだけど。え、聞いてる?」
俺の言葉を聞いているのかいないのか、フィリの様子がおかしい。
「私は、ロウからたくさんの”初めて”を貰った。とても感謝してる。こんな気持ちになったのは、多分…ロウだけ。だから──」
「な、な……っ!!」
顔を俯けていたフィリの顔が目の前に来る。
その紫の瞳は情欲で濁り、漏れる吐息は熱い。
フードからこぼれた金髪が俺の頬へ垂れ落ちる。
幼女感丸出しだったフィリが、大人の色気を漂わせている。
ヤバい、ヤバい!!
突然過ぎて頭が混乱してる。
でも、このままだとマジでヤバい!!
取り返しがつかなくなる。
「私の初めても。──ロウにあげるね?」
そして、遂にフィリが目を閉じて顔を下げ始める。
──俺の唇に向かって。
ど、どうすればいいんだ!?
これから起こる事は、流石の俺でも分かる。
一方的にフィリに唇を奪われようとしている。
それだけは嫌だ!
フィリが嫌なんじゃねえ。
男として、女性の方から迫られる……。
なんてのは絶対に避けなきゃならねえ!!
だからと言って、フィリに完全に抑え込まれているために、俺には何も出来ない。
フィリを攻撃するなんて俺には出来ねえし…。
そうこうしている内に、少し頭を上げれば額が触れあう距離までフィリの顔が近づく。
頭が真っ白になる。
ヤバい、ヤバいヤバいヤバい!!
誰か、誰かこの状況を何とかしてくれぇえええええ!!!
──ボフン
「きゃっ!」
「…ん?」
唐突に、体が自由になる。
なんだ?
体を起こして、横を見ると、フィリが離れたところで頭を抑えて蹲っている。
「…誰?」
目に涙を溜めて俺──正確には俺の背後を睨んでいる。
恐る恐る振り向くとそこには──
「おにーさんに迫ろうなんて、百年はやいよ! エロフちゃん!!」
紫の髪に、白のワンピース。
宙に浮き、フィリを指指してポーズを決める少女。
俺を、狼へと転生さした張本人。
──邪神サハラがいた。
どうやら、絶体絶命(?)のピンチは邪神の手によって事無きを得たようだ。
………解せぬ。
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