壊れた世界と魔法使い
避けられない運命
黒いスーツに光り輝くバッジ。
意外に高い背丈に不気味なほどに黒く染まっている鞘を右手に持っている。
優しい顔つきをしているが、どこか頼りがいのありそうな雰囲気。
藍色の髪の毛がライトによって映えている。
何度となく、再会を願った姿がそこに在った。
「そういえばこんなにも長い期間、顔を会さなかった日なんてありませんでしたね」
「そうだったな。会えてうれしいよ」
あの日、訳も分からない内になにもかもが無茶苦茶になってしまってからもう大分日が経った。
生きているということは確認済みだったけど、こうしてお互いに無事だったということをこの目で見ることが出来て本当に良かった。
それを喜び合える。苦難を乗り越えた仲間たちで。
纏はそれ以前と変わらない、まるであんな事がなかったように。いつもと同じような自然な態度で安心できた。
いまは――まだ。
「それにしても、そのスーツはどうしたの? 全然似合ってないけど」
「ハッキリと言ってくれるなあ。俺もまだ着慣れていないんだ」
照れた様子で愛想笑いを浮かべて、服を正す纏。
嘘。冗談。意外と似合っているよ。
だけど、それは言いたくない。私なりのささやかな嫌味。
だって、私たちにとってはまるで死刑執行人か命を刈り取る死神の衣装でしかないんだから。
単純に認めたくない。
ただ、それだけ。
「一応……確認しておきたいのですが、やっぱり……その服装は、戦闘員になった。ということですよね?」
聞きたくないことを聞いてくれる。
耳をふさいでしまいたい。その事実を聞きたくない。
でも、前へ進むためには必要な手順だということは分かっている。
私は纏から目を離さない。全身黒一色の姿を。
「ああ――その通りだ」
予想通りの回答。
「そういう彩葉と茜は魔法使いなんだな?」
「そうだよ。でも、それが何?」
「何……って。――もう、分かっているだろう。俺は戦闘員、彩葉と茜は魔法使い。だったら取るべき選択は一つしかないだろう」
腰に提げている漆黒の鞘と同色の、だけど少し違って、黒光りしている太刀を抜き取る。
一目で分かる。あれは何か得体の知れない力があるってことを。
「こうして向かい合うことが魔法使いと戦闘員のあるべき姿だということは分かっていますが、纏くんはそれでいいのですか? 私たちは友達じゃなかったんですか」
「分かっている。だから、君たちと会うまでに俺なりに考えてみたんだ」
黙って話に耳を傾ける。
気になる。纏がどんな答えを出したのかを。
「友達だからこそ。戦闘員になって、魔法使いとなった彩葉と茜を俺の手で救いたかった」
「その答えが私たちと戦うということですか?」
「知っているだろう。魔法使いは一般人にとっては恐怖の対象でしかないんだ。この短期間で魔法使いによる被害は増えている。その騒動の中心にいるのが彩葉たちだ。不安定になっている裏社会を平常に戻すためにアンチマジックは動き回っているところだ。
俺は――彩葉たちが奴らの手に渡ってしまうぐらいなら、自分の手でこの騒動の幕を下ろすと決めた」
太刀の切っ先を私たちに向ける。
今までの思い出や友情もなにもかも斬り捨てるつもりだ。
「出来れば、戦いたくはない。だから、大人しく捕まってくれないか? その後は、上を納得させて、彩葉たちには危険はないってことを分からせてみせるから」
「それは、無理だよ」
アンチマジックが魔法使いに情けをかけてくれるわけがない。
緋真が言ってたんだ。魔法使いの子供でも、危険性があれば抹殺するって。仕事熱心なのはいいけど、そこまで徹底していたら説得なんて意味がないことぐらい分かる。
「あの日、父さんと母さんを亡くして、私たちが魔法使いになってしまってただ命を狙われてしまうだけになってしまった。そんな絶望な中でも、生きる気力だけは持ち直すことは出来た。
私たちは生きたい。まだ、やりたいことが一杯あるんだ」
想いが、魔法となって応える。
白と黒の色彩を帯びた一本の刀を手に顕現させる。
同時に茜も魔法を発動して、幾何学模様が彫られた半透明の拳銃の銃口を纏に向けた。
「戦闘員の俺と戦うということは、どちらかが倒れるということだぞ。分かっているのか」
「分かっていないのそっちだよ」
「――!」
そう。分かっていない。肝心なことを見落としているよ。纏。私たちはそんな関係じゃない。
だから、次の言葉は淀みなく流れた。
「魔法使いとか戦闘員とかそういう難しいことは関係ない! だって、私たちは友達じゃない。どちらかが倒される必要なんてないよ。
いまから私たちがすることは、ただの喧嘩だよ――」
纏は自分にとって正しいことをしているんだと思う。事実、戦闘員として当たり前の行動だということは理解できるから。
それでも――
私たちはそれに抗いたい。
お互いの身分上では殺し合いに発展してしまうのだろうけど、私たちはもっと別の関係がある。
ただ単に意見が合わないだけ。感情を込めた言葉でぶつかり合っても一向に解決することはない。
「そうか――だったら。
その喧嘩、買わせてもらう――!!」
雰囲気が変わった。あれは覚悟を決めた表情だ。
戦闘の意志がはっきりと伝わってきて、いままでに見たことがないぐらいの迫力がある。
「思えば、私たちって。喧嘩なんてしたことがありませんでしたね」
「ああ、そうだな。こうして、剣を向ける時がくるなんて思わなかったよ」
それはこの場にいる全員がそう思っているはずだよ。
「女の子二人が相手なんだから、手加減ぐらいはしてよね――っ!!」
交わす言葉はこれ以上なく、私自身の気持ちをぶつける。
あとは、運命に身を任せてみようと思う。
意外に高い背丈に不気味なほどに黒く染まっている鞘を右手に持っている。
優しい顔つきをしているが、どこか頼りがいのありそうな雰囲気。
藍色の髪の毛がライトによって映えている。
何度となく、再会を願った姿がそこに在った。
「そういえばこんなにも長い期間、顔を会さなかった日なんてありませんでしたね」
「そうだったな。会えてうれしいよ」
あの日、訳も分からない内になにもかもが無茶苦茶になってしまってからもう大分日が経った。
生きているということは確認済みだったけど、こうしてお互いに無事だったということをこの目で見ることが出来て本当に良かった。
それを喜び合える。苦難を乗り越えた仲間たちで。
纏はそれ以前と変わらない、まるであんな事がなかったように。いつもと同じような自然な態度で安心できた。
いまは――まだ。
「それにしても、そのスーツはどうしたの? 全然似合ってないけど」
「ハッキリと言ってくれるなあ。俺もまだ着慣れていないんだ」
照れた様子で愛想笑いを浮かべて、服を正す纏。
嘘。冗談。意外と似合っているよ。
だけど、それは言いたくない。私なりのささやかな嫌味。
だって、私たちにとってはまるで死刑執行人か命を刈り取る死神の衣装でしかないんだから。
単純に認めたくない。
ただ、それだけ。
「一応……確認しておきたいのですが、やっぱり……その服装は、戦闘員になった。ということですよね?」
聞きたくないことを聞いてくれる。
耳をふさいでしまいたい。その事実を聞きたくない。
でも、前へ進むためには必要な手順だということは分かっている。
私は纏から目を離さない。全身黒一色の姿を。
「ああ――その通りだ」
予想通りの回答。
「そういう彩葉と茜は魔法使いなんだな?」
「そうだよ。でも、それが何?」
「何……って。――もう、分かっているだろう。俺は戦闘員、彩葉と茜は魔法使い。だったら取るべき選択は一つしかないだろう」
腰に提げている漆黒の鞘と同色の、だけど少し違って、黒光りしている太刀を抜き取る。
一目で分かる。あれは何か得体の知れない力があるってことを。
「こうして向かい合うことが魔法使いと戦闘員のあるべき姿だということは分かっていますが、纏くんはそれでいいのですか? 私たちは友達じゃなかったんですか」
「分かっている。だから、君たちと会うまでに俺なりに考えてみたんだ」
黙って話に耳を傾ける。
気になる。纏がどんな答えを出したのかを。
「友達だからこそ。戦闘員になって、魔法使いとなった彩葉と茜を俺の手で救いたかった」
「その答えが私たちと戦うということですか?」
「知っているだろう。魔法使いは一般人にとっては恐怖の対象でしかないんだ。この短期間で魔法使いによる被害は増えている。その騒動の中心にいるのが彩葉たちだ。不安定になっている裏社会を平常に戻すためにアンチマジックは動き回っているところだ。
俺は――彩葉たちが奴らの手に渡ってしまうぐらいなら、自分の手でこの騒動の幕を下ろすと決めた」
太刀の切っ先を私たちに向ける。
今までの思い出や友情もなにもかも斬り捨てるつもりだ。
「出来れば、戦いたくはない。だから、大人しく捕まってくれないか? その後は、上を納得させて、彩葉たちには危険はないってことを分からせてみせるから」
「それは、無理だよ」
アンチマジックが魔法使いに情けをかけてくれるわけがない。
緋真が言ってたんだ。魔法使いの子供でも、危険性があれば抹殺するって。仕事熱心なのはいいけど、そこまで徹底していたら説得なんて意味がないことぐらい分かる。
「あの日、父さんと母さんを亡くして、私たちが魔法使いになってしまってただ命を狙われてしまうだけになってしまった。そんな絶望な中でも、生きる気力だけは持ち直すことは出来た。
私たちは生きたい。まだ、やりたいことが一杯あるんだ」
想いが、魔法となって応える。
白と黒の色彩を帯びた一本の刀を手に顕現させる。
同時に茜も魔法を発動して、幾何学模様が彫られた半透明の拳銃の銃口を纏に向けた。
「戦闘員の俺と戦うということは、どちらかが倒れるということだぞ。分かっているのか」
「分かっていないのそっちだよ」
「――!」
そう。分かっていない。肝心なことを見落としているよ。纏。私たちはそんな関係じゃない。
だから、次の言葉は淀みなく流れた。
「魔法使いとか戦闘員とかそういう難しいことは関係ない! だって、私たちは友達じゃない。どちらかが倒される必要なんてないよ。
いまから私たちがすることは、ただの喧嘩だよ――」
纏は自分にとって正しいことをしているんだと思う。事実、戦闘員として当たり前の行動だということは理解できるから。
それでも――
私たちはそれに抗いたい。
お互いの身分上では殺し合いに発展してしまうのだろうけど、私たちはもっと別の関係がある。
ただ単に意見が合わないだけ。感情を込めた言葉でぶつかり合っても一向に解決することはない。
「そうか――だったら。
その喧嘩、買わせてもらう――!!」
雰囲気が変わった。あれは覚悟を決めた表情だ。
戦闘の意志がはっきりと伝わってきて、いままでに見たことがないぐらいの迫力がある。
「思えば、私たちって。喧嘩なんてしたことがありませんでしたね」
「ああ、そうだな。こうして、剣を向ける時がくるなんて思わなかったよ」
それはこの場にいる全員がそう思っているはずだよ。
「女の子二人が相手なんだから、手加減ぐらいはしてよね――っ!!」
交わす言葉はこれ以上なく、私自身の気持ちをぶつける。
あとは、運命に身を任せてみようと思う。
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