「魔王が倒れ、戦争がはじまった」
蹂躙
タンザノは傭兵生活が長いために、少なくともクィネよりは状況を正確に掴んでいた。
“矢面”に参加していることからも分かるように、帝国側で活動するのは彼も初めてのこと。格別の伝手があるわけではなかったが、それでも耳を澄ませていればある程度の情報は手に入る。タンザノはそれを知っていた。
マリントルに駐留している兵士達の無駄話。どうせ理解できないだろうと、伝令へ大声で出される指示。それらをタンザノは注意深く聞いて、頭の中に書き込んでいた。
現在、タンザノ達が所属…というよりは肉盾にされているのは帝国第7軍の侵攻部隊…さらにその中の一つ…であることや、どうやら敵との遭遇は完全に偶然であるらしいことなどはそれで知っている。
どちらも斥候やら偵察だので事前に近いことは知っていただろうに、なぜ戦闘をさっさと開始したのかは流石に分からなかった。帝国もトリド王国側もこれぐらいならばあっさりと勝てると踏んだのかも知れなければ、あるいはもっと素朴な敵愾心によるものかもしれなかった。
こんなつまらない戦場で死ぬのは御免被りたいところだが、同時にこうした大したことなく終わるだろう戦場で“矢面”を済ませることができるならばそれに越したことはない。
“矢面”前の傭兵をそれこそゴミのように扱う帝国だが正式に傭兵となった者には意外に手厚い。もっとも重要なことだが、少なくとも給金を滞らせたりはしない。
実を言えばタンザノが帝国に宗旨変えしたのも、前回雇われた領主が給金を出し渋ったことによる。領主から見ればささやかなことだっただろうが、タンザノにとってはそうではなかった。帝国の支配領域に近いその領地への意趣返しも込めて帝国の側に参列することにした。
タンザノ自身も弓矢と接吻したいほどに親しいわけではないが、“矢面”を嫌う傭兵は多い。前金だけ貰って逃げ出すのが正しい、という信条の者さえいるのが傭兵であるから当然ではあったが。
傭兵仲間も別に降り注ぐ矢と顔を突き合わせる気分になれなかったようで、帝国へ行こうというタンザノの主張は人気が無かった。タンザノは1人となってしまった。
/
新しい仲間たちのことをタンザノは結構気に入っていた。麗しのライザは個人的にも親しくなりたい存在だったし、嫌われ者のホエスは魔法使いというだけでも欠点に目を瞑れる。一番新顔のクィネは間が抜けているようだったが、それだけに奇妙な愛嬌がある。
だからクィネが敵の横陣に突っ込んでいった時にも少しだけ惜しいと思った。大剣は槍衾や拒馬槍を排除するためのものだ。それで敵の懐に突っ込んでいく意味はよく分からなかったが、敵の長槍兵をなぎ倒した腕前は本物だった。
しかし、クィネはそこから敵の陣へと入って行ってしまった。
これは頂けない。
一見、勇敢に見えるが前列の予備となっている2列目、3列目に袋叩きにされてしまう。如何な腕自慢であろうとも、四方八方から剣槍で叩かれては潰されて終わる。あの腕前ならば事切れる前に何人か道連れにするかもしれないが、死んでしまっては金も貰えない。
「――あのバカ。本当に馬鹿だったか」
見えなくなった蛮族の青年を悼んでタンザノは哀悼代わりに毒口を送った。敵の雲霞に揉まれて消えた男のことを意識から切り離す。自分が生き残ることが先決だった。敵の陣と接触したのだからあとは最前線が金床に変わるまで耐えていれば生還できる。
危険かつ退屈な作業の始まりのはずだったのだが…
「きひひひひ!」
戦場の怒号すら貫く哄笑とともに、敵兵が宙を舞っていた。
///
タンザノの予想を裏切って、クィネは絶好調だった。絶好調というには些か血生臭さ過ぎた感があるが、そうとしか言いようがない。
質の悪い大剣はどうやら打撃武器に近いらしい、と見切ってからは切断と殴打を使い分けて、寄ってくる敵兵を食い散らかしている。
「きひっ!良い敵だ!そうだ、コレだ。コレが欲しかった!」
四方を囲まれている状況が分かっていないとしか思えない奇怪な敵を相手にトリド兵達は勇敢だった。
「このっ」
だとか
「蛮族め!」
といった声を上げながら怯まずに攻めかかった。
何と言っても彼らは自国を踏みにじられている最中なのだ。家族への愛情や戦友たちとの絆。あらゆる要素がトリド兵たちを鼓舞している。
「――素晴らしい!」
そんな“敵”を全霊で言祝ぎながら、元“剣聖”は鏖殺を続行した。
これほどの決意には全力で応じなければ、と一切の油断も手抜きも無く剣で応じていた。クィネを敵として考えた場合、最悪なのがこの油断と容赦の無さだった。
総合的には自分より上だった勇者があっさりと死んでしまった事件から生まれた彼は、決して油断をしない。相手が遥か格下であろうとも、武器を持っているだけで対等であると認識していた。
倒れ伏した敵が最後の力で足を掴もうとしてくるのを、逆に踏み潰した。
決死の覚悟で飛びかかってきた剣兵を唐竹割りにした。
我に返って逃げようとした兵が味方にぶつかって、よろめいたところに剣を叩き込んだ。
向かってくる敵は尊敬から、逃げようとする者には軽蔑から、どちらであろうとも全力で殺す。四方を敵が囲んでいることさえ、クィネには祝福だ。元々彼が願うのは敵と味方がハッキリすることであるがゆえに、視界全てが敵というのは最高の状況だった。全部斬っていいのだから。
段々とクィネの異常さがトリド側へと浸透していく。そうなれば勇気は萎えて、向かってくる者が減ってくる。
「どうした?もう向かってこないのか?では――」
クィネは自分から向かっていくことにする。ただし、目的は雑兵から強者へと移行させていた。
伊達に剣聖の位階へとたどり着いていたわけではない。戦場のことが分からずとも、感覚は幾つかの大きい気配を捕らえている。東方蛮族が“観の領域”と呼ぶ知覚能力には程遠いが、大まかな位置は把握していた。
元より敵はこの奇人だけではなく、帝国軍そのものもある。進む事にクィネを止めようとする者は少なくなり、クィネは飄然と奥へと突き進んでいった。
///
「部隊の動きが鈍いな…どうなっている?」
「どうにも情報が錯綜しておりまして…詳細はわかりませんが敵の伏兵か何かだと判断します」
「それで前列が虫食いになったのか」
苛立たしげに呻いてから、甲冑を着込んだ偉丈夫が腕を組んだ。
本当は前線に駆けつけて伏兵とやらを、叩き潰したいところだったが地位が邪魔をして動けない。将がどっしりと構えていなければ動揺が走るという。小国ながら人魔戦争を生き抜いたトリド兵が随分と軟弱になったものだと、吐き捨てたいのをトリド側の部隊指揮官であるデマンは我慢していた。
帝国の側は知らないが、デマンがこの戦闘の火蓋を切ったのは勝つ自信があったからだ。デマンは供回りとして虎の子の直卒部隊である重装騎馬兵達を連れてきていた。彼らは徴収された兵や王国兵とは違い、デマンの私兵にあたる。その突破力には信頼がおけた。
お行儀の良い帝国軍が狙うのは迂回させた騎馬兵による典型的な挟撃…俗に言う鉄槌と金床だろう。使い捨ての傭兵と重装歩兵で敵を引きつけている間に、後背から騎馬兵で蹂躙するつもりだ。
しかし、帝国の標準的な騎兵とデマンの重装騎兵では質が段違いだ。騎兵には騎兵を。嵌ったように見せて食い破ってやるだけの自信がある。
加えて言えばデマン自身が“勇者上がり”である。魔族と実際に干戈を交えて生き残ってきた武を持ってすれば、帝国自慢の重装歩兵達も紙同然。
時期を見て一気に陣頭に立って蹴散らす!…副官に言えば反対するだろうことが見えていたので知らせてはいない。
「ジェダ。貴様が見てこい」
デマンは前で畏まる副官から目を逸して、後ろの若者へと声をかけた。
甥にあたる青年だが、自分とは違いどうにも覇気が感じられない。デマンの苛立ちの原因の1人だ。
「はぁ。しかし私はこれが初陣でして…」
何かにつけてこれだ。
本来であれば彼の初陣を大過なく過ごさせるのが貴種としての努めではあるが、こうも可愛げが無いとそんな努めは投げ捨てたくなってくるのだ。
堂々たる体躯に茶色の髪が乗っている若者…一族であるゆえに見た目が似ているのがデマンにはさらに腹立たしい。自分が出来損なったらこうなるというのを見せられているようだった。
一族の誇りである鉄棍ではなく、奇妙な刺突剣を持っているのも癇に障る。
「良いから行け。俺は兄上のように貴様を甘やかしたりはしないぞ。貴様とて我らが一族の一員なのだから、そろそろ武勲の一つも上げていい歳だ。そうだな、敵の伏兵とやらの首でも上げて持ってくるが良い。兵を幾らか付けてもやる」
「こんな密集した状態で兵を付けられても…それにいい趣味とは言えませんよ叔父上。首なんて」
「良いから、行けと、言っている!」
叔父の剣幕に渋々といった様子で甥は従った。
前を見れば自慢の騎兵達が薄ら笑いを浮かべているのが見える。
彼らが従っているのは主達が武辺の一族だからだ。その一員があの様では甥の今後に差し支える…兄の家にも同じような私兵がいるのだから、それを継ぐ甥の責任は重いのだ。
甥っ子の将来を案じていると、私兵の列が乱れた。
「何事か!」
「奇妙な蛮族が突然…!」
重武装の騎馬兵達が混乱している。落馬した者の馬が驚いて暴れだし、混乱はひどくなる一方だ。
一喝しようとしたその時、見知った顔の首が足下に転がってきた。可愛がっていた私兵の1人の一部とともに南方蛮族風の男が舞い降りる。
「きひっ。強いな、貴方は」
“矢面”に参加していることからも分かるように、帝国側で活動するのは彼も初めてのこと。格別の伝手があるわけではなかったが、それでも耳を澄ませていればある程度の情報は手に入る。タンザノはそれを知っていた。
マリントルに駐留している兵士達の無駄話。どうせ理解できないだろうと、伝令へ大声で出される指示。それらをタンザノは注意深く聞いて、頭の中に書き込んでいた。
現在、タンザノ達が所属…というよりは肉盾にされているのは帝国第7軍の侵攻部隊…さらにその中の一つ…であることや、どうやら敵との遭遇は完全に偶然であるらしいことなどはそれで知っている。
どちらも斥候やら偵察だので事前に近いことは知っていただろうに、なぜ戦闘をさっさと開始したのかは流石に分からなかった。帝国もトリド王国側もこれぐらいならばあっさりと勝てると踏んだのかも知れなければ、あるいはもっと素朴な敵愾心によるものかもしれなかった。
こんなつまらない戦場で死ぬのは御免被りたいところだが、同時にこうした大したことなく終わるだろう戦場で“矢面”を済ませることができるならばそれに越したことはない。
“矢面”前の傭兵をそれこそゴミのように扱う帝国だが正式に傭兵となった者には意外に手厚い。もっとも重要なことだが、少なくとも給金を滞らせたりはしない。
実を言えばタンザノが帝国に宗旨変えしたのも、前回雇われた領主が給金を出し渋ったことによる。領主から見ればささやかなことだっただろうが、タンザノにとってはそうではなかった。帝国の支配領域に近いその領地への意趣返しも込めて帝国の側に参列することにした。
タンザノ自身も弓矢と接吻したいほどに親しいわけではないが、“矢面”を嫌う傭兵は多い。前金だけ貰って逃げ出すのが正しい、という信条の者さえいるのが傭兵であるから当然ではあったが。
傭兵仲間も別に降り注ぐ矢と顔を突き合わせる気分になれなかったようで、帝国へ行こうというタンザノの主張は人気が無かった。タンザノは1人となってしまった。
/
新しい仲間たちのことをタンザノは結構気に入っていた。麗しのライザは個人的にも親しくなりたい存在だったし、嫌われ者のホエスは魔法使いというだけでも欠点に目を瞑れる。一番新顔のクィネは間が抜けているようだったが、それだけに奇妙な愛嬌がある。
だからクィネが敵の横陣に突っ込んでいった時にも少しだけ惜しいと思った。大剣は槍衾や拒馬槍を排除するためのものだ。それで敵の懐に突っ込んでいく意味はよく分からなかったが、敵の長槍兵をなぎ倒した腕前は本物だった。
しかし、クィネはそこから敵の陣へと入って行ってしまった。
これは頂けない。
一見、勇敢に見えるが前列の予備となっている2列目、3列目に袋叩きにされてしまう。如何な腕自慢であろうとも、四方八方から剣槍で叩かれては潰されて終わる。あの腕前ならば事切れる前に何人か道連れにするかもしれないが、死んでしまっては金も貰えない。
「――あのバカ。本当に馬鹿だったか」
見えなくなった蛮族の青年を悼んでタンザノは哀悼代わりに毒口を送った。敵の雲霞に揉まれて消えた男のことを意識から切り離す。自分が生き残ることが先決だった。敵の陣と接触したのだからあとは最前線が金床に変わるまで耐えていれば生還できる。
危険かつ退屈な作業の始まりのはずだったのだが…
「きひひひひ!」
戦場の怒号すら貫く哄笑とともに、敵兵が宙を舞っていた。
///
タンザノの予想を裏切って、クィネは絶好調だった。絶好調というには些か血生臭さ過ぎた感があるが、そうとしか言いようがない。
質の悪い大剣はどうやら打撃武器に近いらしい、と見切ってからは切断と殴打を使い分けて、寄ってくる敵兵を食い散らかしている。
「きひっ!良い敵だ!そうだ、コレだ。コレが欲しかった!」
四方を囲まれている状況が分かっていないとしか思えない奇怪な敵を相手にトリド兵達は勇敢だった。
「このっ」
だとか
「蛮族め!」
といった声を上げながら怯まずに攻めかかった。
何と言っても彼らは自国を踏みにじられている最中なのだ。家族への愛情や戦友たちとの絆。あらゆる要素がトリド兵たちを鼓舞している。
「――素晴らしい!」
そんな“敵”を全霊で言祝ぎながら、元“剣聖”は鏖殺を続行した。
これほどの決意には全力で応じなければ、と一切の油断も手抜きも無く剣で応じていた。クィネを敵として考えた場合、最悪なのがこの油断と容赦の無さだった。
総合的には自分より上だった勇者があっさりと死んでしまった事件から生まれた彼は、決して油断をしない。相手が遥か格下であろうとも、武器を持っているだけで対等であると認識していた。
倒れ伏した敵が最後の力で足を掴もうとしてくるのを、逆に踏み潰した。
決死の覚悟で飛びかかってきた剣兵を唐竹割りにした。
我に返って逃げようとした兵が味方にぶつかって、よろめいたところに剣を叩き込んだ。
向かってくる敵は尊敬から、逃げようとする者には軽蔑から、どちらであろうとも全力で殺す。四方を敵が囲んでいることさえ、クィネには祝福だ。元々彼が願うのは敵と味方がハッキリすることであるがゆえに、視界全てが敵というのは最高の状況だった。全部斬っていいのだから。
段々とクィネの異常さがトリド側へと浸透していく。そうなれば勇気は萎えて、向かってくる者が減ってくる。
「どうした?もう向かってこないのか?では――」
クィネは自分から向かっていくことにする。ただし、目的は雑兵から強者へと移行させていた。
伊達に剣聖の位階へとたどり着いていたわけではない。戦場のことが分からずとも、感覚は幾つかの大きい気配を捕らえている。東方蛮族が“観の領域”と呼ぶ知覚能力には程遠いが、大まかな位置は把握していた。
元より敵はこの奇人だけではなく、帝国軍そのものもある。進む事にクィネを止めようとする者は少なくなり、クィネは飄然と奥へと突き進んでいった。
///
「部隊の動きが鈍いな…どうなっている?」
「どうにも情報が錯綜しておりまして…詳細はわかりませんが敵の伏兵か何かだと判断します」
「それで前列が虫食いになったのか」
苛立たしげに呻いてから、甲冑を着込んだ偉丈夫が腕を組んだ。
本当は前線に駆けつけて伏兵とやらを、叩き潰したいところだったが地位が邪魔をして動けない。将がどっしりと構えていなければ動揺が走るという。小国ながら人魔戦争を生き抜いたトリド兵が随分と軟弱になったものだと、吐き捨てたいのをトリド側の部隊指揮官であるデマンは我慢していた。
帝国の側は知らないが、デマンがこの戦闘の火蓋を切ったのは勝つ自信があったからだ。デマンは供回りとして虎の子の直卒部隊である重装騎馬兵達を連れてきていた。彼らは徴収された兵や王国兵とは違い、デマンの私兵にあたる。その突破力には信頼がおけた。
お行儀の良い帝国軍が狙うのは迂回させた騎馬兵による典型的な挟撃…俗に言う鉄槌と金床だろう。使い捨ての傭兵と重装歩兵で敵を引きつけている間に、後背から騎馬兵で蹂躙するつもりだ。
しかし、帝国の標準的な騎兵とデマンの重装騎兵では質が段違いだ。騎兵には騎兵を。嵌ったように見せて食い破ってやるだけの自信がある。
加えて言えばデマン自身が“勇者上がり”である。魔族と実際に干戈を交えて生き残ってきた武を持ってすれば、帝国自慢の重装歩兵達も紙同然。
時期を見て一気に陣頭に立って蹴散らす!…副官に言えば反対するだろうことが見えていたので知らせてはいない。
「ジェダ。貴様が見てこい」
デマンは前で畏まる副官から目を逸して、後ろの若者へと声をかけた。
甥にあたる青年だが、自分とは違いどうにも覇気が感じられない。デマンの苛立ちの原因の1人だ。
「はぁ。しかし私はこれが初陣でして…」
何かにつけてこれだ。
本来であれば彼の初陣を大過なく過ごさせるのが貴種としての努めではあるが、こうも可愛げが無いとそんな努めは投げ捨てたくなってくるのだ。
堂々たる体躯に茶色の髪が乗っている若者…一族であるゆえに見た目が似ているのがデマンにはさらに腹立たしい。自分が出来損なったらこうなるというのを見せられているようだった。
一族の誇りである鉄棍ではなく、奇妙な刺突剣を持っているのも癇に障る。
「良いから行け。俺は兄上のように貴様を甘やかしたりはしないぞ。貴様とて我らが一族の一員なのだから、そろそろ武勲の一つも上げていい歳だ。そうだな、敵の伏兵とやらの首でも上げて持ってくるが良い。兵を幾らか付けてもやる」
「こんな密集した状態で兵を付けられても…それにいい趣味とは言えませんよ叔父上。首なんて」
「良いから、行けと、言っている!」
叔父の剣幕に渋々といった様子で甥は従った。
前を見れば自慢の騎兵達が薄ら笑いを浮かべているのが見える。
彼らが従っているのは主達が武辺の一族だからだ。その一員があの様では甥の今後に差し支える…兄の家にも同じような私兵がいるのだから、それを継ぐ甥の責任は重いのだ。
甥っ子の将来を案じていると、私兵の列が乱れた。
「何事か!」
「奇妙な蛮族が突然…!」
重武装の騎馬兵達が混乱している。落馬した者の馬が驚いて暴れだし、混乱はひどくなる一方だ。
一喝しようとしたその時、見知った顔の首が足下に転がってきた。可愛がっていた私兵の1人の一部とともに南方蛮族風の男が舞い降りる。
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