TRICOLORE総務部ヒロインズ!〜もしも明日、会社が消滅するとしたら?!~
4-3 会社の闇より人事考課。それこそが……。
「しかし、雪乃さん、お手柄です。あたしもA型になろうかな」鈴子のどうしようもない呟きは海空の心をほんわかと和ませた上、雪乃の功績も労っている。
(この子、無意識に人を大切にするのよね……総務にずっと欲しいわ)と海空は心で呟いて、頬を引き締めた。
こんなにも、この二人が大切になってしまっている。あまつさえ、男泣きまでしてしまって……。
(いつか別れは来る。これじゃ、雪乃を秘書課に送り出すとき、男泣き決定)
泣くのは弱いと思ってきたけれど、泣けずに終わってしまった西郷が脳裏に過ぎる。二人の可愛らしいお喋りと共に、エレベーターには和やかな雰囲気が漂い、やがてポーンの音に一気に緊張感が増した。
「行くわよ。総務部の役目を果たして見せる」
海空らしい一言で、一歩踏み出したところで、場が凍り付いた。秘書課の前に鷺原がいる。海空の神経がささくれ立った。
鷺原への対抗心は常に自覚していた。それは、社会人としてのぶつかり合いだ。海空は鷺原に会話で負けた。だから、ずっと気に入らない、謂わば「劣等感を植え付けた」相手だと思っていたが、今はそうじゃない。
――居場所を奪わないで。
誰にも言えないけれど、会社を愛している。仕事があり、居場所がある。
(だめだ、あたしが怯えてどうする)
しかし、言葉が出て来ない。理屈はもう判っているのに、「それ」が出来る鷺原にかける言葉が出て来ない。
「あ、眞守さん」とは雪乃。鷺原は「あれ? 雪乃さん」と普通に会話を交わし、廊下を、海空の横を通り過ぎて行った。
鷺原の来た廊下には、「戦略企画室」「秘書課」「監査室」の3つ以外にはない。会議室はあるが、ドアが開いているし、鷺原がこの三部署のどこかに用事があったことは明かである。
――あんたは、どうして居場所を奪うの……。
「主任、顔が海と空の色になってます……けど」
「大丈夫よ。山櫻係長に聞き出すくらいは出来る。雪乃」
「押します」と雪乃が堂々と秘書課用のインターホンを鳴らすと、「はーい」とどうやら寿山の声。
「ちょっとお、指輪は返したでしょお? もうちょっかい出さないわよお」心底雪乃が嫌になったらしく、寿山は梅干しを食べたような表情になった。
「――ちょっとからかっただけなのに。まだやり込められるわけえ? あたし、あの後ウイングと監査に呼ばれてえ――」
寿山桃加はどうでもいい。海空は寿山を腕で退けると、「山櫻係長に用事があります」と冷たく告げた。
「……嫌な感じい」と寿山は一言告げると、「こっちよ」と甘ったれた口調を忘れて、オープンブースに三人を誘った。大きく開かれた窓の傍に、丸いテーブルと観葉植物。初めて秘書課に入った鈴子が「素敵なお部屋!」と褒めたことで、寿山は「うふん」と機嫌を良くした様子。
(ほんっと、この姫リンゴは置いておくに限る)
「すごい、これ、全部表彰状! あ、そっか。秘書課さんもコンペとかあるんですね」
「そうなの~~~あんた、トリコロールの姫りんご?」
「りょ!」と鈴子はぴしっといつもの台詞で格好をつけた。「可愛い……」と寿山が目を見開く。
「了解のりょ! なんです」
「りょ?」不思議な話、寿山は鈴子に牙を向けず、同じポーズをしてみせている。
「じゃあ、組み合わせたら、「りょ。珈琲ふたあつ……あ、可愛いかも」
「可愛いです~~~ももかさんのほうが可愛いなんて!」
――ぶりっこ会話に頭が痛いが、散々怒ってきた「りょ」がこれほど役に立つとは思わなかった。
――と、ちらっと鈴子が海空に振り返った。
「……このバカ女はあたしに任せてください……か」雪乃がふふんと呟いたところで、反対側のドアが開いた。
山櫻幹和子――……。
海外研修もこなし、持ち前の強気と、低い声で秘書課レディースと呼ばれている。黒ショートに、印象的なライトグリーンのアイシャドウ。どこか「楽園メイク」を駆使したアジアンテイストな顔立ちは、ウイング(社長の仇名)のお気に入りらしい。人事部長を恫喝し、秘書課の地位を揺るぎなくさせた……あくまで噂である。
「――ご用事は?」内線では「麗人」と呼ばれるほどのテナー声に、海空はすっとファイルを差し出した。
「……へえ?」と山櫻は揃えられた〈証拠〉を見詰め、「総務って厄介……なるほど」と呟いた。雪乃が「あたしが気付いたんです」とまた出しゃばったので、テーブル下で軽く突いた。
だが、この子のこういう部分も憎めない可愛らしさだ。
「どういうことか、説明して貰えますよね。これ、査定に……」海空は言いかけて、もう一つのリストを並べた。
「私には判らない。貴女ほどのちゃんとした人が、どうして鷺原の計画なんかに」
「《《ちゃんとしているからだ》》よ」
幹和子の言葉は海空を揺らがし始めた。
「ちゃんとしているからこそ、立ち上がった。かつての歴史の様々な戦い、世界各国の「革命」は何も横暴からじゃない。遡ったローマ帝国、暴君ネロを叩くための革命、人権を得るためのフランス革命……あんたは本当厄介なんだよ」
ちらっと雪乃が心配そうに視線を投げてきた。海空は「部屋を出て」と雪乃祓いを口にする。
「でも」
「いいから。鈴子と総務に戻りなさい。人事考課のチェックが届いていたでしょ。ここはあたし一人でいい」
「それだよ」幹和子がぎりっと唇を噛みしめて見せた。
「あんたの手にかかると、《《どんな不正も是正されてしまう》》から――……だから鷺原に縋るしかなくなったんだ。私たちは《《ちゃんとしている》》から」
海空は「どういうこと?」と穏やかに聞いたが、先程から「ちゃんとしている」の言葉が引っかかる。それなら、海空だってきちんとしている。どんなミスも見逃さず、チェックを怠らずやって来た。チェックを怠れば、給与に歪みが出たり、人事考課がねじ曲がる。
――何か、歯車が違う。それでも西郷係長は……。
「労働基準監督署」幹和子はきっぱりと告げた。
「上層部がねじ曲げた「過労死」の事実、出社せずに消えた労働過多の社員、すべて兆候はあったんだ。あたしらは、この会社を労働の面で暴いて欲しいと思っている。上層部はもみ消そうとしたんだ。西郷美佳子の存在自体!」
幹和子は辛そうに顔を背けた。
「なのに、総務部のあんたたちがこうやって全部未然に通達して、事象を防いでしまう。見上げた「愛社精神」だよ。お局佐東」
「あたしは! 「不正をしない社員」が報われないと思って! だから、厳しくやって、憎まれ役も進んで……」
海空は考えが正しいことを皮肉にも噛み締める以外になくなった。
信用取引を商品とする羽山には「商品」はないと決めつけていた。
ある。それは、人の信用。――西郷美佳子の死を上層部が隠そうとしていたも頷ける。信用取引を主としている会社のたった1つの「過労死」の真実が本当なら、物価の下落以上に、《《信頼の失墜》》が発生する。鷺原は、過労死を使って、会社の株を落とす。それが、あの封書が秘めたメッセージだったのだ。
「あたしは、総務は大人しく「何でも屋」なんだと思ってたよ。でも、違ったな。会社の前線に立ち塞がる「監査機関」だったんだと気付いた」
「おとなしく……勤怠やってるだけだよ」
海空は震える声で、ゆっくりと告げた。「だって、みんなにちゃんと仕事……」幹和子は何も言わなかった。
「何が縁の下の力持ち! 総務部の底力を舐めんな! ……何でも屋よ。何でも来る。満足してた。会社が消えるなんて、考えもしなかった。なんなのよ。お局なんて呼ばれていい気になって! あたしは知らなかった! 西郷係長が辞めた時でさえ、仕事ばかりで、何も、誰もが……」
「お局」
――雪乃のせいだ。鈴子のせいだ。尾城林のせいだ。噛み締めた唇はすっかり涙の味を覚えてしまった。ふるふると頭を振ると、幹和子は静かに告げた。
「造反だと思われるわけには行かなかった。――西郷の死を利用するしかなかった。だから、あんたに話が行かなかったようにしたのは尾城林だよ」
「一番聞きたくない名前だわよ。あいつが陰であたしを護ったなんて信じたくない。だって、あいつなのよ? ドカドカ仕事を押しつけてきて!」
海空は唐突に西郷と仕事をしていた時の状況を思い浮かべた。
(みてよ。佐東。また営業部が入力置いてった。懐かれたかな)
(あたし、返して来ます)
――海空がそう言った時も、西郷は「やれやれ」と微笑んでいた。その笑顔は満ち足りていて、決して仕事が嫌だという風味ではなかった。
(やれることを任されるから仕事。文句言わず、あんた半分ね。尾城林にはあとで食事でもたかっておこう――……)
「篠山が秘書課に来たら、あんたに話が届き、あんたが監査のどちらかに告げるか判らない以上、関わらせるわけには行かなかった。しかし、もうすぐ悲願は鷺原の成功によって達成されるんだ。会社の役員は入れ替わる。それが株式会社の仕組みだ。監査の二人は、どちらかが裏切る可能性があるからね。あんたから聞いたら、上層部に持ち上げるに決まっている。あんたは数十人の懲戒免職の手続きすることになるんだよ」
――知らなかった。何も。目先の仕事だけに心血を注いだ罰だろうか。
  一生懸命やった。
  それなのにこんな罰を与えられるなんて、酷過ぎる。
そこに正解はないのだろう。
(西郷さんに逢いたい……あんたは、本当に辛かったの?)
海空は「考えさせて」とようやく呟いた。
***
「あ、出て来たわよ、あんたらの飼い主」寿山の言葉も耳に届かず、海空は秘書課を出た。
人事考課の書類があるし、勤怠も来る。PMSの査定も始まるし、給与や直行直帰……冠婚葬祭に会議室の予約、郵便、施錠確認。止まっている暇はないんだから、総務部が足を止めては会社が止まる。
何が正しいの。
何をすべきだった?
何をすべきなの?
――お願い。居場所を奪わないで。誰にも言えなかったけれど、会社を愛している。仕事があり、居場所がある。それすらも奪える人間がいるなんて知らなかった。
***
――誰か教えて。
……会社って、何なのよ……。
(この子、無意識に人を大切にするのよね……総務にずっと欲しいわ)と海空は心で呟いて、頬を引き締めた。
こんなにも、この二人が大切になってしまっている。あまつさえ、男泣きまでしてしまって……。
(いつか別れは来る。これじゃ、雪乃を秘書課に送り出すとき、男泣き決定)
泣くのは弱いと思ってきたけれど、泣けずに終わってしまった西郷が脳裏に過ぎる。二人の可愛らしいお喋りと共に、エレベーターには和やかな雰囲気が漂い、やがてポーンの音に一気に緊張感が増した。
「行くわよ。総務部の役目を果たして見せる」
海空らしい一言で、一歩踏み出したところで、場が凍り付いた。秘書課の前に鷺原がいる。海空の神経がささくれ立った。
鷺原への対抗心は常に自覚していた。それは、社会人としてのぶつかり合いだ。海空は鷺原に会話で負けた。だから、ずっと気に入らない、謂わば「劣等感を植え付けた」相手だと思っていたが、今はそうじゃない。
――居場所を奪わないで。
誰にも言えないけれど、会社を愛している。仕事があり、居場所がある。
(だめだ、あたしが怯えてどうする)
しかし、言葉が出て来ない。理屈はもう判っているのに、「それ」が出来る鷺原にかける言葉が出て来ない。
「あ、眞守さん」とは雪乃。鷺原は「あれ? 雪乃さん」と普通に会話を交わし、廊下を、海空の横を通り過ぎて行った。
鷺原の来た廊下には、「戦略企画室」「秘書課」「監査室」の3つ以外にはない。会議室はあるが、ドアが開いているし、鷺原がこの三部署のどこかに用事があったことは明かである。
――あんたは、どうして居場所を奪うの……。
「主任、顔が海と空の色になってます……けど」
「大丈夫よ。山櫻係長に聞き出すくらいは出来る。雪乃」
「押します」と雪乃が堂々と秘書課用のインターホンを鳴らすと、「はーい」とどうやら寿山の声。
「ちょっとお、指輪は返したでしょお? もうちょっかい出さないわよお」心底雪乃が嫌になったらしく、寿山は梅干しを食べたような表情になった。
「――ちょっとからかっただけなのに。まだやり込められるわけえ? あたし、あの後ウイングと監査に呼ばれてえ――」
寿山桃加はどうでもいい。海空は寿山を腕で退けると、「山櫻係長に用事があります」と冷たく告げた。
「……嫌な感じい」と寿山は一言告げると、「こっちよ」と甘ったれた口調を忘れて、オープンブースに三人を誘った。大きく開かれた窓の傍に、丸いテーブルと観葉植物。初めて秘書課に入った鈴子が「素敵なお部屋!」と褒めたことで、寿山は「うふん」と機嫌を良くした様子。
(ほんっと、この姫リンゴは置いておくに限る)
「すごい、これ、全部表彰状! あ、そっか。秘書課さんもコンペとかあるんですね」
「そうなの~~~あんた、トリコロールの姫りんご?」
「りょ!」と鈴子はぴしっといつもの台詞で格好をつけた。「可愛い……」と寿山が目を見開く。
「了解のりょ! なんです」
「りょ?」不思議な話、寿山は鈴子に牙を向けず、同じポーズをしてみせている。
「じゃあ、組み合わせたら、「りょ。珈琲ふたあつ……あ、可愛いかも」
「可愛いです~~~ももかさんのほうが可愛いなんて!」
――ぶりっこ会話に頭が痛いが、散々怒ってきた「りょ」がこれほど役に立つとは思わなかった。
――と、ちらっと鈴子が海空に振り返った。
「……このバカ女はあたしに任せてください……か」雪乃がふふんと呟いたところで、反対側のドアが開いた。
山櫻幹和子――……。
海外研修もこなし、持ち前の強気と、低い声で秘書課レディースと呼ばれている。黒ショートに、印象的なライトグリーンのアイシャドウ。どこか「楽園メイク」を駆使したアジアンテイストな顔立ちは、ウイング(社長の仇名)のお気に入りらしい。人事部長を恫喝し、秘書課の地位を揺るぎなくさせた……あくまで噂である。
「――ご用事は?」内線では「麗人」と呼ばれるほどのテナー声に、海空はすっとファイルを差し出した。
「……へえ?」と山櫻は揃えられた〈証拠〉を見詰め、「総務って厄介……なるほど」と呟いた。雪乃が「あたしが気付いたんです」とまた出しゃばったので、テーブル下で軽く突いた。
だが、この子のこういう部分も憎めない可愛らしさだ。
「どういうことか、説明して貰えますよね。これ、査定に……」海空は言いかけて、もう一つのリストを並べた。
「私には判らない。貴女ほどのちゃんとした人が、どうして鷺原の計画なんかに」
「《《ちゃんとしているからだ》》よ」
幹和子の言葉は海空を揺らがし始めた。
「ちゃんとしているからこそ、立ち上がった。かつての歴史の様々な戦い、世界各国の「革命」は何も横暴からじゃない。遡ったローマ帝国、暴君ネロを叩くための革命、人権を得るためのフランス革命……あんたは本当厄介なんだよ」
ちらっと雪乃が心配そうに視線を投げてきた。海空は「部屋を出て」と雪乃祓いを口にする。
「でも」
「いいから。鈴子と総務に戻りなさい。人事考課のチェックが届いていたでしょ。ここはあたし一人でいい」
「それだよ」幹和子がぎりっと唇を噛みしめて見せた。
「あんたの手にかかると、《《どんな不正も是正されてしまう》》から――……だから鷺原に縋るしかなくなったんだ。私たちは《《ちゃんとしている》》から」
海空は「どういうこと?」と穏やかに聞いたが、先程から「ちゃんとしている」の言葉が引っかかる。それなら、海空だってきちんとしている。どんなミスも見逃さず、チェックを怠らずやって来た。チェックを怠れば、給与に歪みが出たり、人事考課がねじ曲がる。
――何か、歯車が違う。それでも西郷係長は……。
「労働基準監督署」幹和子はきっぱりと告げた。
「上層部がねじ曲げた「過労死」の事実、出社せずに消えた労働過多の社員、すべて兆候はあったんだ。あたしらは、この会社を労働の面で暴いて欲しいと思っている。上層部はもみ消そうとしたんだ。西郷美佳子の存在自体!」
幹和子は辛そうに顔を背けた。
「なのに、総務部のあんたたちがこうやって全部未然に通達して、事象を防いでしまう。見上げた「愛社精神」だよ。お局佐東」
「あたしは! 「不正をしない社員」が報われないと思って! だから、厳しくやって、憎まれ役も進んで……」
海空は考えが正しいことを皮肉にも噛み締める以外になくなった。
信用取引を商品とする羽山には「商品」はないと決めつけていた。
ある。それは、人の信用。――西郷美佳子の死を上層部が隠そうとしていたも頷ける。信用取引を主としている会社のたった1つの「過労死」の真実が本当なら、物価の下落以上に、《《信頼の失墜》》が発生する。鷺原は、過労死を使って、会社の株を落とす。それが、あの封書が秘めたメッセージだったのだ。
「あたしは、総務は大人しく「何でも屋」なんだと思ってたよ。でも、違ったな。会社の前線に立ち塞がる「監査機関」だったんだと気付いた」
「おとなしく……勤怠やってるだけだよ」
海空は震える声で、ゆっくりと告げた。「だって、みんなにちゃんと仕事……」幹和子は何も言わなかった。
「何が縁の下の力持ち! 総務部の底力を舐めんな! ……何でも屋よ。何でも来る。満足してた。会社が消えるなんて、考えもしなかった。なんなのよ。お局なんて呼ばれていい気になって! あたしは知らなかった! 西郷係長が辞めた時でさえ、仕事ばかりで、何も、誰もが……」
「お局」
――雪乃のせいだ。鈴子のせいだ。尾城林のせいだ。噛み締めた唇はすっかり涙の味を覚えてしまった。ふるふると頭を振ると、幹和子は静かに告げた。
「造反だと思われるわけには行かなかった。――西郷の死を利用するしかなかった。だから、あんたに話が行かなかったようにしたのは尾城林だよ」
「一番聞きたくない名前だわよ。あいつが陰であたしを護ったなんて信じたくない。だって、あいつなのよ? ドカドカ仕事を押しつけてきて!」
海空は唐突に西郷と仕事をしていた時の状況を思い浮かべた。
(みてよ。佐東。また営業部が入力置いてった。懐かれたかな)
(あたし、返して来ます)
――海空がそう言った時も、西郷は「やれやれ」と微笑んでいた。その笑顔は満ち足りていて、決して仕事が嫌だという風味ではなかった。
(やれることを任されるから仕事。文句言わず、あんた半分ね。尾城林にはあとで食事でもたかっておこう――……)
「篠山が秘書課に来たら、あんたに話が届き、あんたが監査のどちらかに告げるか判らない以上、関わらせるわけには行かなかった。しかし、もうすぐ悲願は鷺原の成功によって達成されるんだ。会社の役員は入れ替わる。それが株式会社の仕組みだ。監査の二人は、どちらかが裏切る可能性があるからね。あんたから聞いたら、上層部に持ち上げるに決まっている。あんたは数十人の懲戒免職の手続きすることになるんだよ」
――知らなかった。何も。目先の仕事だけに心血を注いだ罰だろうか。
  一生懸命やった。
  それなのにこんな罰を与えられるなんて、酷過ぎる。
そこに正解はないのだろう。
(西郷さんに逢いたい……あんたは、本当に辛かったの?)
海空は「考えさせて」とようやく呟いた。
***
「あ、出て来たわよ、あんたらの飼い主」寿山の言葉も耳に届かず、海空は秘書課を出た。
人事考課の書類があるし、勤怠も来る。PMSの査定も始まるし、給与や直行直帰……冠婚葬祭に会議室の予約、郵便、施錠確認。止まっている暇はないんだから、総務部が足を止めては会社が止まる。
何が正しいの。
何をすべきだった?
何をすべきなの?
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