TRICOLORE総務部ヒロインズ!〜もしも明日、会社が消滅するとしたら?!~
【2-7】雪乃と鈴子のロジカルシンキング論理
話は一日前に遡る。海空が告げた言葉の通り、雪乃と鈴子は「覚悟を決めた」かと言えば、そうでもない。雪乃は鷺原に逢える心境で手一杯で、鈴子はオマケについて行かなければならなくなった微妙な心境を抱えて、会社ビルを出た処だった。
都会の風はビルの合間を吹き抜けて、春を追い出すような暑さを孕んでいる。
夏になればコンクリートの熱を煽るような「ヒートアイランド現象」……。日焼け止めを思い浮かべたところで、鈴子が雪乃の思考を割った。
「あたし、何してればいいんですか。鷺原さん、苦手……」
「黙ってごはん食べてて。佐東主任も、謎ばっかり! 眞守さんの何が疑わしいのよ」
リダイヤルデータを探して、耳にスマートフォンを当てる。また鈴子の声がコールを遮った。
「疑わしいと思いますケド~」
雪乃はスマートフォンを下ろして、鈴子を見詰めた。鈴子は「だってねぇ」と跳ねた髪を弄りながら、唇を尖らせている。
――鈴子のほうが事情を分かっているように見えてきた。雪乃は手を止めた。
「鈴子、何か知ってるの?」
鈴子の顔には「どうしよ」とはっきりとした困惑の文字。雪乃は足を止めたが、太陽直下だと気付いて「こっち」と鈴子を日陰に引き込んだ。
田町の駅前には、緑化運動の成果がある。東京都内は「緑を増やそう」とオリンピックに備えての緑化運動強化中だ。
考えてみれば、鈴子は社内交流が激しいし、新入社員同士のネットワークもある。その上、脅威の人物把握力。一度逢った人物の顔と名前をAI並みに記憶する。
中途採用の雪乃の同期はいない。新入社員として、各部署と交流を深めている鈴子がちょっぴり羨ましい。
――新入社員と中途採用の壁。海空には「社歴」が、鈴子には「交流」があるが、雪乃にはなにもない。
と思いきや、薬指のリングが視界に飛び込んだ。
あった。外部のささやかな癒やし……と言ったら、佐東海空はまた鬼局になるだろうか。
(鷺原さんが疑わしい?)事実は雪乃にとっても、突き詰めねばならないものだ。喩え好みでも、犯罪者と結婚は出来ない。
――完全犯罪しそうだけど。
***
正午のランチタイムの波にもまれながら、雪乃は駅の前の時計塔を見上げた。
(休憩は20分まで。残り40分か)
正直、鷺原に聞き出すよりも、鈴子がどこまで知っているかに興味が沸いた雪乃は、ホットドッグの看板を見ている鈴子の手を掴んだ。
「鈴子、クレープ奢る。公園でご飯にしよ」
「……どうしよかな」鈴子は勿体ぶった後、「はい!」と笑顔になった。
「雪乃さんと、お昼ですね! あたし、奢ってもらえるの嬉しいです」
妹がいたら、こんな感じなのか、と思える愛おしい瞬間。しかし、姉が妹に負けるわけには行かない。
鷺原より、鈴子の話を聞いておきたい。
「ベンチ押さえときまーす! あたし、Specialランチクレープで!」
ちゃっかり一番高いランチクレープを強請った鈴子は公園の噴水の近くのベンチでスマートフォンをいじり始めた。
総務部に、鈴子が来てくれて良かった。海空と2人なら、多分もう、根をあげて……はいないか。だが、打ち解けるは難しい。
海空が雪乃の憧れの秘書課を嫌悪しているせいもある。海空から見れば、雪乃も敵になる。
尾城林への海空の態度も、見ていて気持ちが良いモノではない。
「ランチクレープふたつ」
移動式のクレープ屋は手際が良く、さっと2つのクレープを渡してくれた。
スモークチキンに、クリームチーズ。そば粉クレープなので、お肌にも良いし良いことずくめ。お値段700円の割高だが、腹持ちはよく、OLに人気である。
「――何が訊きたいんですかぁ? あたしのオモシロ話しましょか」
「そういう話も聞きたいけど、あんた、新入社員のワリには詳しそうだから。それに、あの数の社員の顔と名前が一致するって凄いわ」
雪乃はにぱっと笑った。笑くぼが可愛い。
「名前と顔が結び着かないと、気持ち悪いんですよね。そうですね。あたしから見ても、雪乃さん騙されているような気がします~」
「騙されてないって」
「そうかなあ」
舌足らずの瑞々しい若い声に、雪乃はじろっと勝ち抜いてきた強い視線で応対した。新入社員の倍率より、中途採用の倍率のほうが高い。しかし、鈴子も負けていない。きょろ、とした団栗眼を雪乃に向けて、猫が虫を睨む如く、時折眼球をす、と動かすと、くっと唇を歪めて、眉を八の字にした。
「雪乃さん、世渡り下手~」
……言われたくない言葉を。しかし、鈴子は怯まなかった。
「じゅんじゅん……あ、安藤が言ってましたけど。結婚詐欺は、世渡りヘタを狙うんだそーですよ? じゅんじゅん、安藤が」
じゅんじゅん、安藤、といちいち言い換えるので、そのままでいいと言ってやった。ここは会社ではない。鈴子とのランチなのだから、鈴子がやりやすいようにしてあげるが姉だろう。
「あざあす」
「御礼ぐらいちゃんと言ってよね。佐東主任がガムテープ投げて来るよ」
「いやんです。ガムテープと仲良しさん。営業は大変みたいですよ? なんか、苛めみたいになってるって。あの一件で、大きな取引も消滅して、株の動きも変わったって。課長に訊いたんですけどね、ゴルフ保険に入ってないのを知ってたんじゃないかって。あたし、調べたんですけど」
鞄から、ファイルがごそっと出て来た。
「え? 調べたって?」
鈴子はくすくす笑いながら、ファイルを開いた。
「ゴルフ保険。面白いなーっと思って。トラブルが絶えない事例がいっぱいありました。鷺原さんは、ウチに恨みがあるんじゃないかって。雪乃平気かって心配まで」
「余計な心配、ありがとう。で」
「――営業の時はもっと格好良かったんだぞって。「うわあすごーい」って言ったら、ジュース奢ってくれました!」
何をみんなで鈴子を甘やかしているのだろう。雪乃は頭を抱えたくなったが、眼の前の鈴子を見ていると甘やかしも判る気がする。
雪乃がリングで寿山と揉めている間も、鈴子は「ゴルフ保険って何ですか?」と課長や海空に訊いていた。
可愛がられる要素がちゃんと見える。実際に新入社員のくせに、会社の問題を真剣に捉え、生きて行く場所を自分なりに把握しようとしている努力の姿は胸にクる。
「それで、佐東主任が「聞き出せ」……と言った理由か」
「だと思います。雪乃さん、ヨーグルトストロベリー、奢っちくれりゅ?」
「ちゃんとお願いしたらよ。鈴子のその喋り、慣れないね。いいよ、奢ってあげる」
鈴子は「やった!」と手を叩き、ひそっと声を潜めた。
「営業部って内部派閥があるみたいですね。国際部の営業部長が降格になって、何やらギスギスしてるらしくて。営業また2人出社してないそうですし。恐いですよねえ」
「ああ、あるみたいね。あたしは秘書課のほうが気になるけど」
「苛められたじゃないですか。あたし、あの秘書課ってマジムカなんですけど」
鈴子は思い出したらしく、むすっと頬を膨らませて、一緒に怒って見せた。
「佐東主任は面白くないと思います。あたしも、面白くない。雪乃さん、ずっと総務にいて欲しいし……」
根がツンデレなのか、鈴子はパックのジュースを上目使いで啜って、「トリコロール嫌いですか」と問うて来た。
「嫌いじゃないよ?」
「なかなかないと思います。三色揃うなんて奇跡。だから、これは何かをしなきゃいけないんだって神さまが言ってる気がするんです。雪乃さん」
(きゅん)となりながら、雪乃は鈴子の頭を撫でた。鈴子は小さいので、ハムスターのように見える。栗色の髪も、ふわふわのサラサラで愛らしい。
「イイコね。あんたは。……でも、あたしは男も、夢も欲しいんだもーん」
「だもーんという女は、同性が苦手だそうです~。でも、それは判ります~。主任はずるいですよね!」
「そうそう、ズルイズルイ」
一頻り盛り上がって、鈴子は「そうやって主任ともお話すればいいのに」とぼやいた。
何となくの不仲を感じ取っているのだろう。と思うと、済まなくなる。
「そうだね......」
「そうですよ!」
鈴子といると、会社の鬱屈も晴れてくる。まさか、それを見越して海空は「一緒に行ってらっしゃい」と告げたのだろうか。
頭の切れる海空の話。雪乃がギスギスしつつも、佐々木に対応し、また腹を立てた部分を見抜いている。
おっそろしー女上司だ。敵に回したくない。
「あたしのオモシロ話になっちゃいましたね。でも、聞き出せないですよね。佐東主任のようには行かないですって。雪乃さん、ふられちゃう」
鈴子は肩を落とした。さすがはB型。恋愛体質まっしぐらの思考をする。
「実はね、今夜逢う約束があるんだけど。雰囲気壊したくないが本音かなぁ」
「ですよねー! 主任に任せたらいいんですよ。この間も小難しいなんちゃら話法やってましたし。あたし、あの2人の会話全然判りません!」
「疑問の技術。興味があるなら、ロジカルシンキング理論、勉強してみたら?」
「ロジカル? 魔法ですか?」
「論理的思考。課長が詳しいはずだよ。トップ営業だったんだし。きっかけになるんじゃない?」
尾城林が好きらしい鈴子はぱあっと顔を輝かせた。
毎日、やれることがまだまだ少ない中で、一生懸命やれることを探しているのだろう。秘書課への道すがら、ちょっとくらいは育ててやってもいい。
ついでに、恋の応援も。お局の見えないところで背中を押してやってもいい。
「主任に、フラベチーノでも差し入れしようか、鈴子。午後もがんばろ!」
「りょ!」
――なんて言葉が自然に出るくらいは、雪乃の心もどうやら癒やされた様子。つくづく、海空のロジカルシンキングは今日も絶好調だと息を吐いた。
敵に回したら、きっと、恐いだろう。「覚悟を決めろ」なんて言う相手だ。
でも、いつかは敵になる。だから、鷺原に相談しているなんて口が裂けても言えない。
都会の風はビルの合間を吹き抜けて、春を追い出すような暑さを孕んでいる。
夏になればコンクリートの熱を煽るような「ヒートアイランド現象」……。日焼け止めを思い浮かべたところで、鈴子が雪乃の思考を割った。
「あたし、何してればいいんですか。鷺原さん、苦手……」
「黙ってごはん食べてて。佐東主任も、謎ばっかり! 眞守さんの何が疑わしいのよ」
リダイヤルデータを探して、耳にスマートフォンを当てる。また鈴子の声がコールを遮った。
「疑わしいと思いますケド~」
雪乃はスマートフォンを下ろして、鈴子を見詰めた。鈴子は「だってねぇ」と跳ねた髪を弄りながら、唇を尖らせている。
――鈴子のほうが事情を分かっているように見えてきた。雪乃は手を止めた。
「鈴子、何か知ってるの?」
鈴子の顔には「どうしよ」とはっきりとした困惑の文字。雪乃は足を止めたが、太陽直下だと気付いて「こっち」と鈴子を日陰に引き込んだ。
田町の駅前には、緑化運動の成果がある。東京都内は「緑を増やそう」とオリンピックに備えての緑化運動強化中だ。
考えてみれば、鈴子は社内交流が激しいし、新入社員同士のネットワークもある。その上、脅威の人物把握力。一度逢った人物の顔と名前をAI並みに記憶する。
中途採用の雪乃の同期はいない。新入社員として、各部署と交流を深めている鈴子がちょっぴり羨ましい。
――新入社員と中途採用の壁。海空には「社歴」が、鈴子には「交流」があるが、雪乃にはなにもない。
と思いきや、薬指のリングが視界に飛び込んだ。
あった。外部のささやかな癒やし……と言ったら、佐東海空はまた鬼局になるだろうか。
(鷺原さんが疑わしい?)事実は雪乃にとっても、突き詰めねばならないものだ。喩え好みでも、犯罪者と結婚は出来ない。
――完全犯罪しそうだけど。
***
正午のランチタイムの波にもまれながら、雪乃は駅の前の時計塔を見上げた。
(休憩は20分まで。残り40分か)
正直、鷺原に聞き出すよりも、鈴子がどこまで知っているかに興味が沸いた雪乃は、ホットドッグの看板を見ている鈴子の手を掴んだ。
「鈴子、クレープ奢る。公園でご飯にしよ」
「……どうしよかな」鈴子は勿体ぶった後、「はい!」と笑顔になった。
「雪乃さんと、お昼ですね! あたし、奢ってもらえるの嬉しいです」
妹がいたら、こんな感じなのか、と思える愛おしい瞬間。しかし、姉が妹に負けるわけには行かない。
鷺原より、鈴子の話を聞いておきたい。
「ベンチ押さえときまーす! あたし、Specialランチクレープで!」
ちゃっかり一番高いランチクレープを強請った鈴子は公園の噴水の近くのベンチでスマートフォンをいじり始めた。
総務部に、鈴子が来てくれて良かった。海空と2人なら、多分もう、根をあげて……はいないか。だが、打ち解けるは難しい。
海空が雪乃の憧れの秘書課を嫌悪しているせいもある。海空から見れば、雪乃も敵になる。
尾城林への海空の態度も、見ていて気持ちが良いモノではない。
「ランチクレープふたつ」
移動式のクレープ屋は手際が良く、さっと2つのクレープを渡してくれた。
スモークチキンに、クリームチーズ。そば粉クレープなので、お肌にも良いし良いことずくめ。お値段700円の割高だが、腹持ちはよく、OLに人気である。
「――何が訊きたいんですかぁ? あたしのオモシロ話しましょか」
「そういう話も聞きたいけど、あんた、新入社員のワリには詳しそうだから。それに、あの数の社員の顔と名前が一致するって凄いわ」
雪乃はにぱっと笑った。笑くぼが可愛い。
「名前と顔が結び着かないと、気持ち悪いんですよね。そうですね。あたしから見ても、雪乃さん騙されているような気がします~」
「騙されてないって」
「そうかなあ」
舌足らずの瑞々しい若い声に、雪乃はじろっと勝ち抜いてきた強い視線で応対した。新入社員の倍率より、中途採用の倍率のほうが高い。しかし、鈴子も負けていない。きょろ、とした団栗眼を雪乃に向けて、猫が虫を睨む如く、時折眼球をす、と動かすと、くっと唇を歪めて、眉を八の字にした。
「雪乃さん、世渡り下手~」
……言われたくない言葉を。しかし、鈴子は怯まなかった。
「じゅんじゅん……あ、安藤が言ってましたけど。結婚詐欺は、世渡りヘタを狙うんだそーですよ? じゅんじゅん、安藤が」
じゅんじゅん、安藤、といちいち言い換えるので、そのままでいいと言ってやった。ここは会社ではない。鈴子とのランチなのだから、鈴子がやりやすいようにしてあげるが姉だろう。
「あざあす」
「御礼ぐらいちゃんと言ってよね。佐東主任がガムテープ投げて来るよ」
「いやんです。ガムテープと仲良しさん。営業は大変みたいですよ? なんか、苛めみたいになってるって。あの一件で、大きな取引も消滅して、株の動きも変わったって。課長に訊いたんですけどね、ゴルフ保険に入ってないのを知ってたんじゃないかって。あたし、調べたんですけど」
鞄から、ファイルがごそっと出て来た。
「え? 調べたって?」
鈴子はくすくす笑いながら、ファイルを開いた。
「ゴルフ保険。面白いなーっと思って。トラブルが絶えない事例がいっぱいありました。鷺原さんは、ウチに恨みがあるんじゃないかって。雪乃平気かって心配まで」
「余計な心配、ありがとう。で」
「――営業の時はもっと格好良かったんだぞって。「うわあすごーい」って言ったら、ジュース奢ってくれました!」
何をみんなで鈴子を甘やかしているのだろう。雪乃は頭を抱えたくなったが、眼の前の鈴子を見ていると甘やかしも判る気がする。
雪乃がリングで寿山と揉めている間も、鈴子は「ゴルフ保険って何ですか?」と課長や海空に訊いていた。
可愛がられる要素がちゃんと見える。実際に新入社員のくせに、会社の問題を真剣に捉え、生きて行く場所を自分なりに把握しようとしている努力の姿は胸にクる。
「それで、佐東主任が「聞き出せ」……と言った理由か」
「だと思います。雪乃さん、ヨーグルトストロベリー、奢っちくれりゅ?」
「ちゃんとお願いしたらよ。鈴子のその喋り、慣れないね。いいよ、奢ってあげる」
鈴子は「やった!」と手を叩き、ひそっと声を潜めた。
「営業部って内部派閥があるみたいですね。国際部の営業部長が降格になって、何やらギスギスしてるらしくて。営業また2人出社してないそうですし。恐いですよねえ」
「ああ、あるみたいね。あたしは秘書課のほうが気になるけど」
「苛められたじゃないですか。あたし、あの秘書課ってマジムカなんですけど」
鈴子は思い出したらしく、むすっと頬を膨らませて、一緒に怒って見せた。
「佐東主任は面白くないと思います。あたしも、面白くない。雪乃さん、ずっと総務にいて欲しいし……」
根がツンデレなのか、鈴子はパックのジュースを上目使いで啜って、「トリコロール嫌いですか」と問うて来た。
「嫌いじゃないよ?」
「なかなかないと思います。三色揃うなんて奇跡。だから、これは何かをしなきゃいけないんだって神さまが言ってる気がするんです。雪乃さん」
(きゅん)となりながら、雪乃は鈴子の頭を撫でた。鈴子は小さいので、ハムスターのように見える。栗色の髪も、ふわふわのサラサラで愛らしい。
「イイコね。あんたは。……でも、あたしは男も、夢も欲しいんだもーん」
「だもーんという女は、同性が苦手だそうです~。でも、それは判ります~。主任はずるいですよね!」
「そうそう、ズルイズルイ」
一頻り盛り上がって、鈴子は「そうやって主任ともお話すればいいのに」とぼやいた。
何となくの不仲を感じ取っているのだろう。と思うと、済まなくなる。
「そうだね......」
「そうですよ!」
鈴子といると、会社の鬱屈も晴れてくる。まさか、それを見越して海空は「一緒に行ってらっしゃい」と告げたのだろうか。
頭の切れる海空の話。雪乃がギスギスしつつも、佐々木に対応し、また腹を立てた部分を見抜いている。
おっそろしー女上司だ。敵に回したくない。
「あたしのオモシロ話になっちゃいましたね。でも、聞き出せないですよね。佐東主任のようには行かないですって。雪乃さん、ふられちゃう」
鈴子は肩を落とした。さすがはB型。恋愛体質まっしぐらの思考をする。
「実はね、今夜逢う約束があるんだけど。雰囲気壊したくないが本音かなぁ」
「ですよねー! 主任に任せたらいいんですよ。この間も小難しいなんちゃら話法やってましたし。あたし、あの2人の会話全然判りません!」
「疑問の技術。興味があるなら、ロジカルシンキング理論、勉強してみたら?」
「ロジカル? 魔法ですか?」
「論理的思考。課長が詳しいはずだよ。トップ営業だったんだし。きっかけになるんじゃない?」
尾城林が好きらしい鈴子はぱあっと顔を輝かせた。
毎日、やれることがまだまだ少ない中で、一生懸命やれることを探しているのだろう。秘書課への道すがら、ちょっとくらいは育ててやってもいい。
ついでに、恋の応援も。お局の見えないところで背中を押してやってもいい。
「主任に、フラベチーノでも差し入れしようか、鈴子。午後もがんばろ!」
「りょ!」
――なんて言葉が自然に出るくらいは、雪乃の心もどうやら癒やされた様子。つくづく、海空のロジカルシンキングは今日も絶好調だと息を吐いた。
敵に回したら、きっと、恐いだろう。「覚悟を決めろ」なんて言う相手だ。
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