TRICOLORE総務部ヒロインズ!〜もしも明日、会社が消滅するとしたら?!~

簗瀬 美梨架

【2-0】鷺原眞守 接待ゴルフに罠を張る

*1*
 目下に広がる青々とした芝生、とは非常によく表現される言葉だが、芝生は緑だろう。……などと考える自分は相当の屁理屈+天の邪鬼。自分の事情は自分が一番分かっているもので。

「いやぁ、さすが専務です! ナイスショット! ほら、佐々木!」

接待ゴルフならではの声が飛び交っている中、鷺原はパンフレットに視線を落とした。
東京ゴルフ・カンパニーの歴史一位を誇る『小金井カントリー倶楽部』は新宿から15キロ、武蔵野の面影が残る東京都内の名門ゴルフ場である。

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開場年 : 1937年 (昭和12年)
所在地 : 東京都小平市御幸町331
設計者 : ウォルター・ヘーゲン
開場は戦前の昭和12年(1937年)、歴史と伝統の株主会員制の日本を代表する名門ゴルフ場。メジャー11勝、往年の名プレーヤー、ウォルター・ヘーゲン設計。戦前の1942年に日本最古の大会である日本プロゴルフ選手権が開催――と。
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ついと帽子を上げた前では、接待相手がヘコヘコと「専務」に媚び諂い中。これもよく見る光景……。
 本日は羽山カンパニー・ソサエティ株式会社が、東峰銀行専務との接待ゴルフを企画していた。で、何故部外者の鷺原がいるかという部分だが――……。


「鷺原くんの番だがね」
「あ、はい。――さすが、立派なクラブをお持ちですね」
「そうだろう。うん、我ながらグッド・プレイだったな」

 へろへろ球をギリギリフェアウエイに寄せておいて、どこに鼻の穴を膨らませる要因があるのだか。鷺原眞守はキャディに歩み寄ると、ドライバーを引きだし、すぐに3番アイアンに替えた。
 ここはドライバーだと、専務を追い越して接待を潰してしまう。羽山の面目を潰すと後々の計画も進まなくなるだろう。あくまで、今日は「味方」であるからして。

「おや、ここは飛距離があるからな。ドライバーのほうが良いのではないかい」

(あんたを追い越していいならな)

 本日のメンバーは、ニックネーム「東峰専務」、鷺原、羽山カンパニーの国際営業部長はそこそこ巧いらしいが、ちゃんと重石を連れてきた。係、佐々木充だ。面白いほど、バンカーに球を打つが、コントロールは素晴らしい。

 最後に、「すぇんむ~」とやたらに褒め称える専務のオッサン秘書。前歯が出ているから笑いたいを我慢している。ニックネームは「前歯」でいいだろう。

「ドライバーを使うべきだろう、キミィ」と前歯が早速イチャモンをつけてきた。

「いえ、僕はアイアンが好きなんです。振り回した時に、綺麗に反射するでしょう? はは、専務のようにお上手ではありませんので」

「いやいや。しかし、今のは巧くフェアウェイに乗ったと思わんかね」
「イヤァ、さァすがでございます。すぇんむ~」

「ははは、風を読んだんだよ。わたしは風が読めるんだ」

(ばかやろうが馬鹿言ってんじゃねえ)と腹で微笑みながら、鷺原はクラブを握った。ゴルフは散々大学でやったので、本当はプロ顔負けなのだが、「専務」は知る由もない。稀に接待ゴルフには「調整が出来るほど巧い相手」が必要になる。
 羽山カンパニーが、鷺原をメンツに加えた理由は明確だった。社員の営業繋がりで、大沢がクラブ活動「ゴルフ」を始めた際、気まぐれに参加した。聞きつけた国際営業部が鷺原にオファー、とこういう流れである。
 4人で廻って、「専務」のナイスショットを堪能して、まあまあの成績を出させて、ご機嫌専務の奢りで豪華ランチを食べる。午後も18ホールでプレイして、心地良くお帰り戴き、カネを出させる。それが計画なのだが、はっきり言って面白くない。

(こんな鬱屈が貯まるなら、上乗せしてやりゃ良かった)

 鷺原はちらっと羽山カンパニー社員の佐々木に視線を向けた。

(ゴルフは初めてか? それにしては手慣れているが)

 キャディが乗る車も乗らずに歩こうとした。リアルが初めて? なら、大番狂わせ役は彼が適任だろう。

(ごますりはストレスが溜まる。……少し嫌がらせをしてやるぞ)

 佐々木はスイングの筋は悪くない。しかし、戦略に欠けるのは、ゴルフの経験が皆無だからだろう。だが、時折ファインプレイをしてのけるところに不思議がある。慣れているようにも見えるのだが。
 特にオン・グリーンのカップインは必ず入れるので、規定打数のパー止まりで打数オーバーのボギーにはならない。バンカーに入らなければ、イーグルは狙えるだろうに。
 ゴルフの打数は鳥の名前が多い。ふと、雀を思い出し、篠山雪乃を思い出した――。
 トリコロールの真ん中の汚れなき「白」を担当する。雪は好きだ。

***

「佐々木くんのファースト・ショットだよ」
「キミィ! とっとと打ちたまえェ。すぇんむ~、お具合は大丈夫ですかァ?」

 前歯の前では、国際部長が佐々木を顎でしゃくっている。しかし佐々木は困惑したように、クラブの前で動かなくなった。
「佐々木」と声を掛けてやって、鷺原はホールを指した。ホール2は大抵がイーグルで決められる規模である。

 つまり、アルバトロス、ホールインワンも出しやすい地形が多い。
 佐々木はワンショットは巧い。つまり、距離の目利きが優れているのだろう。二打で狂うのは、斜面を読み取れていないから。
 このタイプは実はホールインワンを一番出す。はてさて、保険には入っていたかな? 無保険なら面白い話になる。
 ホールインワン・アルバトロスには実は多大なある負荷が課せられる。

「ここは7番アイアンで、心持ち、左」
「え?」と佐々木。
「するときみはおそらくラフ。グリーン1歩手前で止められる。専務がアルバトロスを決めたとしても、きみはイーグル。ここらで点数を稼いでおこう。接待はこちらも楽しんで楽しませるものだ。より交渉は進むものだよ」
「はいっ」佐々木は「がんばるぞ~」とクラブを引き出した。専務はと見れば、太った腹に糖分を詰めている最中。メタボリックに拍車をかけてどうするのか。

 ――と、佐々木が打った。

 風力も申し分ない。佐々木のショットは既に三度見ている。微調整が巧いので、恐らくここで――……

「あ」とは国際営業部長。専務の顔が見る見る膨らんでいく。前歯がギギイと首を動かす中、ボールは軽快にオン・グリーン。

(ククク、ざまぁみろ)カラララン、の音を背後にして、鷺原はほくそ笑む。

 接待した相手が接待相手を出し抜いた。その結果は果たして――? 
 佐々木はぼそっと「総務部お局に怒鳴られる~」と呟いた――。



――第二部 接待ゴルフと接待花見に陰謀の蔭り?! 忙しいのよ!――

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