TRICOLORE総務部ヒロインズ!〜もしも明日、会社が消滅するとしたら?!~
【2-1】あな怖ろしや接待ゴルフ?!
「接待ゴルフで、ウチの社員が出し抜いてホールインワン出したぁ~?!」
朝一番。机を両手で叩いた総務部お局、佐東海空の声は羽山カンパニー・ソサエティ株式会社の自社ビルに響き渡った……わけではなく、一階の一角に響いただけである。
「そ、それでなんでウチに廻って来たのよ」
尾城林はしれっとした持ち前の喉にも引っかからないような声音で、「ゴルフ保険」と告げた。
海空は両手を机から離し、椅子に座って、くるりと回転椅子を回す。
「……まさかゴルフ保険、未加入とか言わないわよね」
「そのまさかだ。ついでに先方の専務の靴を踏んでいるから、賠償もだな」
日本の変な習わしだが、ゴルフで「アルバトロス」「ホールインワン」を出した場合は、出した本人持ちで、盛大な祝賀会を開く風習がある。
それだけではない。キャディへの御礼、参加者への敬意を示した御礼、更にゴルフ場へのお礼金まで発生することをご存じだろうか?
未加入でホイホイとゴルフを楽しんで、奇跡のアルバトロスを成し遂げ、喜んでいる間に、本人は蚊帳の外で多額のカネが流れてるのである。
あな怖ろしや接待ゴルフ。
常識を知らなかった本人だけが知らない方向に話は進み、気付いたら手遅れだという話にもなり得るのである。
「今回、成し遂げた「偉業」は大きい。先方は大層不機嫌になったそうだ。その辺りの接待のやり直し費用、会社としては、社名入りの樹を進呈するべきだと役員がな」
つまらん男の見栄と、顕示欲の果てかよ。尾城林の厭味に海空は言い放った。
「ばっかじゃないの! 誰よ。そんな馬鹿やらかした馬鹿は」
「営業三課、佐々木」尾城林の興味なさそうな声に載せられた名前は覚えがあった。というより、佐々木はコピーし過ぎの海空のブラスト(ブラックリスト)の筆頭である。社内ではぱっとしないくせに、秋葉原のメイドパーリーの常連らしく、よく週末パーリーの場所をプリントしている。
よく営業部に乗り込んで海空が説教をかます相手であった。
(そういえば、最近あいつ、何やら攻略サイトをプリントしていたな。ぱっと見、ゴルフのホールのように見えたけど)
「佐々木の趣味!」
「おい、お局。職権乱用だっつーの、勝手に社員DB開けてんじゃねえ、なんで俺のパスワード知ってんの?」
PCの社員データを開いて、「国際営業部:佐々木充」の履歴書PDFを開くと、趣味は見事に「ゲームアプリの開発」とある。
「まさか、ゲームで鍛えた腕でのまぐれのホールインワンじゃないでしょうね!
ああもう、忙しいのよ! 鈴子、保険の帳票セット取ってよ」
「りょりょりょ」りょ、が増えた。男性社員にはウケが良いから、調子づいているのだろう。ファイルが見つからないらしく、首を傾げている。
――と、雪乃が立ち上がってファイルを教えにキャビネットに向かってくれた。
「佐東主任、これですね」
「ありがと。業法改正前だ、取り寄せて」と受け取って、必要書類を引っ張り出したが、またファイル毎返した。佐々木個人は未加入だが営業部長の加入を確認。
「で、そのスターはどこ行ったの」
「朝から直行で、先方に謝りに」話の途中で、鈴子が割り込んだ。
「かちょお~、ゴルフに保険かけるんですかあ? スポーツなのに~?」
「いろんな決まりがあるんだよ~。頭にボールが当たったら痛いだろ~」とまたぶっ飛ばしたくなる同じ口調で告げて、尾城林はホワイトボードで鈴子に説明を始めている。
「まあ、サルでもゴルフは出来っからな。ハタにボールをくるませて、カップインだ」
ぷ、と雪乃が吹き出したが、鈴子には「プロのゴルファー、サル」の話は分からないだろうに。おっさんぶりを披露してどうするんだろう。
「でも、なんでなんでしょうね」と雪乃が珍しく乗って来たので、海空も説明しようと振り返った途端、「自分でホールインワンしたほうが格好いいのに」と来た。
参加メンバーを見ると、羽山からは国際営業部部長に、佐々木充。それから鷺原眞守に、接待させて戴いた「東峰銀行」の専務、金凰功武さまに、前田舞次郎。
――鷺原?
「外部が交じってるわよ」
海空に気付いた尾城林が補足をする。
「クラブ活動大好き大沢のゴルフクラブの外部メンバーなんだってよ。巧いヤツを入れて、杭が出ないように調整するのが接待ゴルフだ。しかし、お局」
「なんですか」尾城林は渋い表情になった。何を教わったのか、鈴子はショットの真似をし始めている。
「東峰銀行は、ウチの融資受けだろ。子会社が廻らない時に担保にして助けてくれる取引先だ。それにな、給与の集金代行先でもあるし、社員の保険の元締めでもある。保険料や手数料がアップしなきゃいいけどな。ああ、序でに接待花見の出資もな。一服失礼」
「なんですって!」
融資うんぬんより、接待花見の費用で吼えるが総務部たる所以である。眼の端にちらっと雪乃が映った。
(さっき、自分でホールインワンしたほうが格好いいのに……って言ったわよねえ)
篠山雪乃と、鷺原眞守は「お付き合い」(早!)をしているは明確な事実だ。
すると、雪乃は鷺原がゴルフに参加する事実を知っていたわけで……。深慮の最中、尾城林の机で携帯がブブブと震えた。元営業のくせに、携帯を携帯しないで一服。携帯まで邪魔をするか。
「雪乃、あんた、職権乱用して外部接待スケジュール見たでしょ」
雪乃は知らんぷりした。実は社内スケジュールには二種類があって、ひとつは「社内の重要スケジュール」これは、雪乃も鈴子も閲覧が出来る。もう1つは「外部接待予定スケジュール」で、主任以上しか見られない。
(全く。どこがいいのよ。鷺原の。あいつが参加して一枚噛んでいると思うだけで、不穏になるっつーの)
何度注意しても外さない指輪の煌びやかさが白々しく映る。雪乃は言った。「自分にはなにもないから、頑張らねばならない」と。
――気持ちは分かる。頑張ることは必要だ。だが、ここは会社。皆が糧を得るため、働く社会だ。女優の記者会見ではない。仕事をこなすために頑張る場所だ。
以前の言い合いも、個室の話も鷺原の魅力には負ける様子。
――少し痛いメを見たほうが成長はするけどね。
やがて海空の予感は……ブーブブブブ~と尾城林の携帯が鳴ったので、「不要」と見なして屑籠へ。紙がたくさん詰まっているから、震動もなく快適。
――少し痛いメを見たほうが成長はするけどね。
やがて海空の瞬時の予感は見事に的中する事実となる――。
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