TRICOLORE総務部ヒロインズ!〜もしも明日、会社が消滅するとしたら?!~
【1-1】玉の輿秘書課と胡散臭い某社営業
「おはようございまーす」海空を先頭にして三人で廊下を並んで歩いていると、様々な社員にすれ違うもので。
  羽山カンパニーの本社の社員数はおよそ100人。支店含めて700人の大海原に漕ぎ出す、社会という名の大海を泳ぎ切るためのノアの箱船。それが会社だ。
同じ目的で同じ会社で過ごし、同じ報酬を得る。ピンキリはあるが、会社を護り護られていく関係は、やっぱり封建制度に近い。
カンパニー制度を戦後に取り入れても、そこは日本。しかし、株を商品にする羽山はまさに和洋折衷色をしていると思う。
海空は「おはよう」と胸を張り闊歩する。雪乃は「ごきげんよう」と大和撫子風味で挨拶し、元気な鈴子は最後に「おはでーす」と今風に軽く挨拶をこなした。
途端に意地悪姉たち(海空と雪乃)の足取りがピタリと止まる。
「おはです。はないわよ」
「そうよね。言葉使い直しなさいよ」
「りょ……」
またしても年上の意地悪姉さんたちに揉まれながらまず到着するは備品置き場の倉庫である。これは地下にあるので、冷たい階段を降りる。制服がタイトスカートなので、大股で歩くとバシンとなるので、注意が必要だ。
「佐東主任、スカート」
「うわあ、オトナって感じ~。主任、下着が紫はヤバですよぉ」
「おっと」と海空はずり上がったタイトスカートを直して、ガーターを隠した。一日中ストッキングを穿いて座っていると腰にゴムが食い込んで、風呂上がりにかゆくなる。思い切ってガーターにしたら、なんと快適な話か。
「毒々しい」と雪乃は目を逸らし、鈴子は興味津々で海空を見詰めていた。海空はパンパンと手を叩くと、倉庫の鍵を開けた。
「コツがいるのよ。はい、マスクして。どうして秘書課のフロアの蛍光灯は切れるのが早いのかしらね。雪乃はそっち。鈴子は……」
秘書課フロアはいわゆる勝ち組宮殿。従って電球も蛍光灯もお高いのである。
「いちいち勘に障るわよね」
三人で手分けして、数十本ある蛍光灯の中から、替えを見つけたは鈴子だ。これで最後なので、発注のおまけがついた。雪乃が備え付けのパソコンに入力して、そのまま地下からエレベーターで最上階の7Fへ向かう。羽山・カンパニーは自社ビルだが、秋には区画工事で立ち退きを迫られている状態だ。
「冗談じゃないわよ。秋のクソ忙しい時に上層部は何してくれんのよ」
動き出したエレベーターに寄り掛かって、海空が早速愚痴り始めた。海空はこと秘書課の話は辛辣になる傾向にあった。
雪乃からしてみれば、憧れで、いずれは活躍すると信じて疑わない晴れ舞台で、鈴子にとっては異世界である。
「佐東主任、秘書課嫌いですよね~。何かあったんですか」
「あったから嫌いなのよ。あいつら、合わないわ」
――ポーン。エレベーターが最上階についた。
「あ、トリコロール」と声を掛けてきたは戦略企画室の櫻野大紀。海空曰く、「味も匂いもなさそうな草食男子」である。
「はいはい、切れた蛍光灯どこよ」
「あ、多分女子トイレ前ですね」
イラ、と海空はヒールを鳴らした。海外の渉外弁護士やら、デイトレーダーやらとお話が弾む「勝ち組」秘書課は、トイレ前の電気を絶対に消さないのである。
「電気は消しましょう」の怒りの張り紙も、無視。
「鈴子、三脚!」「はーいはい」「はいは一回!」叱られた鈴子はもそもそと三脚を持って来た。蛍光灯を替えるがあまりに頻繁なので、面倒くさいから、壁際に片付けてある。
少し重い三脚をがしゃこん! と廊下にブチ立てて、秘書課さまのお使いになった蛍光灯を替えていると、気分は王宮のばあやである。
「雪乃、押さえてて」
海空はズダン、ダン、ダン。とガーターも勇ましく三脚に飛び乗った。最新型の蛍光灯を外して、コネクタにゆっくりと差し込んで捻る。
(最初は戸惑った蛍光灯替えもプロ級。結婚は電気屋の御曹司でもいけるかも知れないわね。イヌ連れて)
――と、ドアが開いて、ブランドポーチ片手に三人の女性が姿を現した。右から、黒髪の超美人が家柄もかつての公家で秘書課主任の山崎桐子、真ん中のフワフワ髪の舌っ足らずが合コンのお姫様こと寿山桃加年齢不詳、どうみても、おまえレディースだっただろ、と突っ込みたくなるド派手なスレンダーが山櫻幹和子である。
桐だの寿だの櫻だの、名前まで玉の輿狙いの秘書課トリオと、トリコロールはがっちりと仁王立ちで睨み合った。
「あらぁ、蛍光灯お疲れさま」
「いえいえ。電気つけっぱなしでだらしない秘書課さま」
――バチバチバチバチ。女性特有の火花が散り始めた。しかし、怒鳴り合う真似はしない。秘書課の横は、戦略企画室、奥は重要会議室で、「使用中」の札が引っ繰り返っているからだ。
玉の輿狙いの秘書課はしゃなりしゃなりとトリコロールの横を通り過ぎた。
「いいなあ……」雪乃はヨダレを垂らしそうに秘書たちを見ている。海空は雪乃の神経を疑うが、個人の人生にイチャモンつけるような性格はしていない。
「やな感じ!」と鈴子が唇を尖らせたところで、会議室のドアが開いた。
「トイレトイレ」と中から美形が這い出て来て、横切ってトイレに入っていった。
「あれ、誰?」「さあ」海空と鈴子が首を捻る中、雪乃はぼーっと出て来た男性の消えたドアを見詰めていた。
「ここも切れそうねえ」と二人は天井の蛍光灯を眺めている。
篠山雪乃の目は、イイ男を捕まえるためにあるようなものだ。街を歩いていても、雪乃はすぐに美形男子を目ざとく見つける。
「ふいー」とトイレのドアが開いて、男が再び横切った。
ちらっと見えた横顔は、何やら謎めいている切れ長で、毛先を薄く削った前髪は軽そうに額で遊んでいる。身長に似合うスタイリッシュなスーツはグレーのストライプ。
「すいません、峰山部長、朝からハラの調子が」
――禿で煙草+餃子くさい上司の名前を思い出した。峰山竜太郎。人事部長だが、あの頭は絶対にかつらに決まっている。
「誰にも見られなかったかね」声が聞こえる。部屋に入る刹那、ちらっと男が雪乃を振り返った。目が合って、ドキン、と爪先を浮き上がらせた雪乃に、男はひとさし指を唇に充ててウインクして消える。
――これが、篠山雪乃と、謎めいた某社営業、鷺原眞守の出会いだった。
  羽山カンパニーの本社の社員数はおよそ100人。支店含めて700人の大海原に漕ぎ出す、社会という名の大海を泳ぎ切るためのノアの箱船。それが会社だ。
同じ目的で同じ会社で過ごし、同じ報酬を得る。ピンキリはあるが、会社を護り護られていく関係は、やっぱり封建制度に近い。
カンパニー制度を戦後に取り入れても、そこは日本。しかし、株を商品にする羽山はまさに和洋折衷色をしていると思う。
海空は「おはよう」と胸を張り闊歩する。雪乃は「ごきげんよう」と大和撫子風味で挨拶し、元気な鈴子は最後に「おはでーす」と今風に軽く挨拶をこなした。
途端に意地悪姉たち(海空と雪乃)の足取りがピタリと止まる。
「おはです。はないわよ」
「そうよね。言葉使い直しなさいよ」
「りょ……」
またしても年上の意地悪姉さんたちに揉まれながらまず到着するは備品置き場の倉庫である。これは地下にあるので、冷たい階段を降りる。制服がタイトスカートなので、大股で歩くとバシンとなるので、注意が必要だ。
「佐東主任、スカート」
「うわあ、オトナって感じ~。主任、下着が紫はヤバですよぉ」
「おっと」と海空はずり上がったタイトスカートを直して、ガーターを隠した。一日中ストッキングを穿いて座っていると腰にゴムが食い込んで、風呂上がりにかゆくなる。思い切ってガーターにしたら、なんと快適な話か。
「毒々しい」と雪乃は目を逸らし、鈴子は興味津々で海空を見詰めていた。海空はパンパンと手を叩くと、倉庫の鍵を開けた。
「コツがいるのよ。はい、マスクして。どうして秘書課のフロアの蛍光灯は切れるのが早いのかしらね。雪乃はそっち。鈴子は……」
秘書課フロアはいわゆる勝ち組宮殿。従って電球も蛍光灯もお高いのである。
「いちいち勘に障るわよね」
三人で手分けして、数十本ある蛍光灯の中から、替えを見つけたは鈴子だ。これで最後なので、発注のおまけがついた。雪乃が備え付けのパソコンに入力して、そのまま地下からエレベーターで最上階の7Fへ向かう。羽山・カンパニーは自社ビルだが、秋には区画工事で立ち退きを迫られている状態だ。
「冗談じゃないわよ。秋のクソ忙しい時に上層部は何してくれんのよ」
動き出したエレベーターに寄り掛かって、海空が早速愚痴り始めた。海空はこと秘書課の話は辛辣になる傾向にあった。
雪乃からしてみれば、憧れで、いずれは活躍すると信じて疑わない晴れ舞台で、鈴子にとっては異世界である。
「佐東主任、秘書課嫌いですよね~。何かあったんですか」
「あったから嫌いなのよ。あいつら、合わないわ」
――ポーン。エレベーターが最上階についた。
「あ、トリコロール」と声を掛けてきたは戦略企画室の櫻野大紀。海空曰く、「味も匂いもなさそうな草食男子」である。
「はいはい、切れた蛍光灯どこよ」
「あ、多分女子トイレ前ですね」
イラ、と海空はヒールを鳴らした。海外の渉外弁護士やら、デイトレーダーやらとお話が弾む「勝ち組」秘書課は、トイレ前の電気を絶対に消さないのである。
「電気は消しましょう」の怒りの張り紙も、無視。
「鈴子、三脚!」「はーいはい」「はいは一回!」叱られた鈴子はもそもそと三脚を持って来た。蛍光灯を替えるがあまりに頻繁なので、面倒くさいから、壁際に片付けてある。
少し重い三脚をがしゃこん! と廊下にブチ立てて、秘書課さまのお使いになった蛍光灯を替えていると、気分は王宮のばあやである。
「雪乃、押さえてて」
海空はズダン、ダン、ダン。とガーターも勇ましく三脚に飛び乗った。最新型の蛍光灯を外して、コネクタにゆっくりと差し込んで捻る。
(最初は戸惑った蛍光灯替えもプロ級。結婚は電気屋の御曹司でもいけるかも知れないわね。イヌ連れて)
――と、ドアが開いて、ブランドポーチ片手に三人の女性が姿を現した。右から、黒髪の超美人が家柄もかつての公家で秘書課主任の山崎桐子、真ん中のフワフワ髪の舌っ足らずが合コンのお姫様こと寿山桃加年齢不詳、どうみても、おまえレディースだっただろ、と突っ込みたくなるド派手なスレンダーが山櫻幹和子である。
桐だの寿だの櫻だの、名前まで玉の輿狙いの秘書課トリオと、トリコロールはがっちりと仁王立ちで睨み合った。
「あらぁ、蛍光灯お疲れさま」
「いえいえ。電気つけっぱなしでだらしない秘書課さま」
――バチバチバチバチ。女性特有の火花が散り始めた。しかし、怒鳴り合う真似はしない。秘書課の横は、戦略企画室、奥は重要会議室で、「使用中」の札が引っ繰り返っているからだ。
玉の輿狙いの秘書課はしゃなりしゃなりとトリコロールの横を通り過ぎた。
「いいなあ……」雪乃はヨダレを垂らしそうに秘書たちを見ている。海空は雪乃の神経を疑うが、個人の人生にイチャモンつけるような性格はしていない。
「やな感じ!」と鈴子が唇を尖らせたところで、会議室のドアが開いた。
「トイレトイレ」と中から美形が這い出て来て、横切ってトイレに入っていった。
「あれ、誰?」「さあ」海空と鈴子が首を捻る中、雪乃はぼーっと出て来た男性の消えたドアを見詰めていた。
「ここも切れそうねえ」と二人は天井の蛍光灯を眺めている。
篠山雪乃の目は、イイ男を捕まえるためにあるようなものだ。街を歩いていても、雪乃はすぐに美形男子を目ざとく見つける。
「ふいー」とトイレのドアが開いて、男が再び横切った。
ちらっと見えた横顔は、何やら謎めいている切れ長で、毛先を薄く削った前髪は軽そうに額で遊んでいる。身長に似合うスタイリッシュなスーツはグレーのストライプ。
「すいません、峰山部長、朝からハラの調子が」
――禿で煙草+餃子くさい上司の名前を思い出した。峰山竜太郎。人事部長だが、あの頭は絶対にかつらに決まっている。
「誰にも見られなかったかね」声が聞こえる。部屋に入る刹那、ちらっと男が雪乃を振り返った。目が合って、ドキン、と爪先を浮き上がらせた雪乃に、男はひとさし指を唇に充ててウインクして消える。
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