時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~

芒菫

竹中重治の決断② 重治、久作、安藤。

 今日は寝付けないわ……そんなことを言いながら、稲葉山からの景色を朦朧と眺めていた、斉藤家当主・斉藤龍興。実は彼女、これでも相当酒を飲むが、めっぽう弱い。だがしかし、それに引き換え、彼女は己の真の力の存在に気付いてはいなかった。斉藤道三の子である、龍興に智謀はない。そう言ったのは誰であったか。しかし、それは全くもって嘘である。それはまた、彼女をうつけだと謳う者が、勝手に口走ること。斉藤龍興は、この上ないくらいに、才能を持っていた。

……ただし、後はそれをどう伸ばすか、という話。

 言いたいことは、彼女自身がそれに気づかなければ、何も変わらないと言う事。

……今気づいたとして、それは手遅れ……。


安藤守就、彼は西美濃で言われる、美濃三人衆の一人。また、伊賀守の位を持つ。竹中重治の叔父にあたる人物である。元々は、斉藤家の中では道三派であり、義龍と道三の親子喧嘩で、道三派に加担しようとしていた人物でもある。基本的に、美濃三人衆は、道三に重宝され、美濃の中でも道三の次に影響力の高い者達であった。

 しかし、義龍が道三を殺し、竜興が当主になってからはどうだ。稲葉、氏家は渋々斉藤家に従っている形になっている。そして、重要なのは、かつての道三が残した「美濃受け渡し状」の存在。上総介……織田信長に、美濃を受け渡すと、道三が書状を書いてから美濃は真っ二つに割れた。義龍率いる、東美濃派と、道三率いる、西美濃派に。あれほどまでに、仲の良かった家族が、突然真っ二つに割れたのだ。だがこの事に、美濃の国人衆は、義龍派に大多数が付いた。

 何故、美濃の国人衆は斉藤義龍に降ったのか。それは、彼女が道三の子ではなく、元々斉藤家が家臣であった土岐氏ときしの子である、と言う噂が流れていたからである。

 事実、それは本当の話で合った。血の繋がった族、それは道三にとって、斉藤龍興のみ。道三派、本当に土岐氏から養子を取って、斉藤家を存続させようとしていた。と、言うのも……養子と言うのも、道三が仕込んでいた策の一つではあった。土岐氏を追い出した後の、美濃を抑える為に、その時氏の血を引く者が必要だったのだ。だから、赤子同然であった義龍を養子に向かえ、我が子の様に道三は育てた。

……しかし、それが今回裏目に出て、斉藤家の当主が二人。親子喧嘩で犠牲となった。二人の死後、すぐに担がれたのは、現当主・斉藤龍興さいとうたつおき。龍興は、自らが使われている事が分かりながら、担がれて、美濃の当主となる。勿論のこと、それを担いだのは、東美濃の連中で、東美濃の連中は強い方へと流されやすい。


「だからこそ、狙います」


 重治の一言で、行動を起こすと決心したのは、美濃三人衆の一人、安藤守就。彼女の叔父である守就は、それに同調して、颯爽と謀反への準備を行い、今日に至る。


「作戦は、金華山から攻め下り、一気に城へ潜り込みます」


 重治の策通り、金華山から下って稲葉山城へ突入する計略となった。金華山とは、稲葉山の旧名であるが、稲葉山城は金華山の天辺よりも少々下に作られ、金華山から城、城下はすべて丸見えである。また、余談ではあるが、この時代にまだ天守閣と言う物は存在しない。なので、城と言うよりかは館を攻め落とすと言うのが正しいであろう。

 金華山は、美濃において、美濃の平地において、一番目立つ山。中世代より、積み重ねられたチャートによって、侵食されず、その山は聳え立っていると言われる。濃尾平野の広がる、美濃と尾張からすれば、この山は絶景の山。きっと、稲葉山からは尾張の海をも見渡すことが出来るであろう。

 遂に、竹中重治らは此処金華山を下ろうとしている。総勢は十七人。余りにも、謀反をすると言っては人数が少なすぎる。これでは、やられてしまう。

……と、思いきや。此処に居る集団は、剣の手練れである。実際に、竹中重治は塚原卜伝に剣を習っていた、と言う話もあり、まさに免許皆伝級の達人である。そんな彼・彼女らが目指す先は、当主・斉藤龍興の居城である、稲葉山城。言ってしまえば、もう真下も同然。後は駆け下るだけ。

 駆け下るなら、ゆっくり下っても変わらないと思いますが、と妹の竹中重矩こと、久作が眉をひそめながら言った。


「確かに、真夜中ですから、それはありでした。ですが、良く空を見てください。快晴で、月が美しい。これでは、館に居る斉藤家の兵士に見つかってしまいます。そうなる前に、攻め下らなければならないのです」

 重治は、簡潔に状況を説明すると、駆け下りる事の重要性をよく指南した。


「はいはい、いつもの姉上の結果を出す為だけに自分の意見を押し通す強情な性格が出ましたね」


「な……強情とは人聞きの悪い。私は、結果論を述べているだけですよ」


「それは結果論ではなく、予測論です」


 二人の会話を、仕方なく聞いていた安藤が、黙っていたのも無理が無い。この姉妹の言い争いに混ざると、とんでもない事になるからだ。やはり、二人とも智謀に長けている。だから、何を言っても無駄。

 ただし、先程の会話に関しては、完全に重治が劣勢であった。結果論ではなく、予測論に過ぎない。まぁしかし、強ち間違ってはいない訳ではあるが。


「……ほら、安藤叔父が困ってる」


 と、なんだが困ってることにされた安藤。流石に、叔父の守就には迷惑が掛けられないので、重治も場を弁わきえる。


「……ごほん。では気持ちを切り替えて……しっかり行きましょしう……とは言え、どうせ向こうは死地です。最後くらい楽しくやらせていただきました」


「……な、重治! 余計な戯言を言うな!」


 重治のフラグ建築を聞いて、見事に喰い付く安藤守就。


「……は、はぁ……申し訳ございません。叔父様。で、では」

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