時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~

芒菫

“ロリ”の概念。

私は、百姓らの言っている“ロリ“と言う言葉の概念が不明過ぎた。

第一、ロリとはなんだロリとは。
“ロリ”と言う言葉を聞くだけでも腹が立ってくる。
まるでこの天下を如何にして泰平するか、と言う馬鹿げた夢物語と同じくらい馬鹿げている。
しかも、その馬鹿げた言葉を私に向けているときた。
もう容赦しない。意味の分からない言葉をぶつけられ、挙げ句の果てにこの世の終わりかと視線を向けてくる家臣達も少なくない。
『義を先んじ義を重んじ義に廃する』とは、我ながらよくいったものよ。
無性に人を斬りたくなってたまらないわ。

山の上の陣にて、何度も何度も同じところをグルグル周り続けている女子おなごが一人。

「うさみみうさちゃんのうさみん~今日も可愛いでちゅね~。おーっと、お散歩に行きたいんでちゅか~」

愛兎まなうさぎに陽気に挨拶し、撫で続けている長い耳の付いた女子。この耳を俗にウサミミ、と言うのであろう。
いずれも、彼女達は山の上に陣取りをし、現在も武田に身動きを取らせまいとしている。

「宇佐美…。その可愛らしい兎を他所には置けないのか?お前の不意に甘く理解し難いな声が、私の集中の妨げとなっているのだが」

と、グルグル回っていた私は兎に餌を与えては甘い声で話続ける彼女を止めるように指摘する。

「集中って…どうせまた“ロリ”の概念がああだとかの話だろう?御館、流石にそれはフェアじゃない。私も、“ロリ”って言葉についてはよく分からないけど、きっと誉め言葉なんかの一種なんじゃないのか?今じゃ南蛮語が流行ってるのは、越後でも当たり前の事だろうし」

そうか。今の世の中は何でもかんでも南蛮語が悪い、そう言えると言うのだな!
それでは可笑しい、そう思った私は切り込む様に話を続ける。

「何でもかんでも南蛮語のせいにすると言うのか宇佐美は。知らんぞ私は!きりすとなどと言う神に興味は無いが、何処の宗派にも、神と言うのは存在するのだ!毘沙門天のお導きもだ。いいか、語学は人間が創成するのではない。全てを神が創成しているのだ。だからこそ我々人類は、神に祈りを捧げる義務と言うものがあり、それを代行するように、僧が居て、経を唱える」

「だからといって、動物を粗末に扱え、と言うのは神のお導きに反するのでは?景虎様」

茶器を机の上に乗せると、茶をたて始める一人の女子。肌は少し青白く、体も細い。

「むむむ… それもそれで…… うむ……」

「ほら見ろうさちゃん。御屋形が大和に口で押されて絶対絶命だぞ~」

「ぐぬぬ…初めは“ロリ”なんぞと言う訳の解らぬ言葉から始まり、兎と来て、大和に動物を粗末に扱うなと言われるとは……この際だ、腹を斬る!」

皆にボロクソ言われ、一生の不覚だと判断した私は小刀を抜くと切腹する様に腹に向けて小刀を構える。

「……仮にこんな敵地で切腹をしたとしても、手厚く弔えません。それでは毘沙門天の化身として、有意義な一生を送れませんよ。一生の不覚等ではありません。前を見なさい」

なんとか景虎の機嫌を取ろうと、大和が思っていることをそのまま語って説得する。
長尾家の一般的な状態は、いつもこんな感じであった。

「しかし、宇佐美はどうしてこう、もっと戦場に居る時くらいしゃんとすることが出来ないのだ?戦場と言うものはあざとく卑劣なのだ。いつ何処で何が起きても可笑しくないこの状況で、呑気に兎の世話とは……」

「勝負は時の運。全ては流れが重要なんだよ。御屋形のことを、神の子だなんて言って恐れている奴等にも、奴ら並みの流れがあるの。流れの中でも一番重要なのは時間。だから勝負は時の運って、流れに任せて戦う訳よ」

宇佐美は景虎に語学をレクチャーさせるように、時の運について説明していく。しかし、遠くをジッと見つめている彼女は、宇佐美の話を聞いているようには全く見えない。

「って、おい御屋形!話聞いてるの?」

胸を揺らしながら宇佐美は、全く話の聞いていない景虎を呼び戻す様に怒り声を上げる。
大和は茶をたて終わったのか、宇佐美に茶を出すと彼女もそのまま椅子に腰掛ける。

「しかし……大和って」

不意にも、突然宇佐美は大和の名前を呼んで話を掛ける。

「はい?どうしました?」

控えめの胸の彼女が、返事をすると宇佐美の方を向いて返事をする。

「なんで大和って……大和って呼ばれてるんだっけ?」

と、宇佐美は他人事の様に言い放った。

「な、なんでって……宇佐美さんがそんなに重要な事まで忘れてしまっている方だとは……くっ、私も一生の不覚です。切腹を!」

すると突然、脇差を抜いて腹を切ろうとし始める。

「おいおい、それはないでしょう!!お前らは、私をどれだけ虐めておけば気が済むんだ~!!」

と、宇佐美は陣中に響く程大声でそう叫ぶと、やっとのことで、景虎と大和を抑える事が出来たそう。

―ふと思い出したが場所は言っていなかった。ここは妻女山、長尾本陣。

「さて、皆の衆。武田の動きが読めた」

突然、景虎は家臣達を集めろと言い出し、家臣達を集めだすと今度は「武田の動きが読めた」等と、次に起こそうとする行動が不明過ぎる彼女だが、今回のこの軍議については如何なる事が起きようとも、事実として語り継がれる事に不甲斐ないことであった。

「それは誠にございますか!!」

刀を片手に、驚き立つのは弥次郎。そう、あの猛将猛者の柿崎景家かきざきかげいえである。

「と、なるとやはり持久戦でしょうか?」

正気を取り戻した直江大和こと、直江景綱は言った。この直江大和の「大和」と言うのは、彼女は元々朝廷より「大和守」と言う官位を与えられていたため、人々の間では「大和」と言われるのが殆どだったそうだ。

「いや弥次郎、大和の意見はどちらも真向に違う。それでは、ただ悪戯に兵を減らし、挙句の果てに敗戦へと繋がるであろう」

と、簡潔に私(この状況下では景虎を指している)は纏めると本庄繁長ほんじょうしげながが手を挙げていたので、彼女を呼んで意見を言わせる。

「と、なると、勿論打って出ると言うことでしょうかな?」

「そう、その通りだ。武田は軍勢を二手に分け、妻女山に奇襲を仕掛ける隊と、千曲川を渡り、八幡原で奇襲より逃げて来た我が軍を背後から襲おうとしている。と、なれば我々も軍勢を二手に分け、早々とこの山を下って八幡原で待ち伏せする必要がある。我々本体はこのまま1万の兵を持って八幡原に布陣する。甘粕と、お主は千の兵を率いて妻女山に待機しているのだ。別動隊に備え、無理はするな。危ないと、身の危険を感じる前に退却するのだ」

「よ、要するに殿ですか。分かりました、引き受けましょう」

と、景虎の放った言葉を潔く聞き入れると、頷いて了解を記す。彼女の名は甘粕景持あまかすかげもち。後に越後十七将の一人に数えられる。

「うむ、過酷な殿となってしまうだろうが、甘粕を頼りにしておるぞ。それでは皆の衆!出陣の準備に取り掛かるのだ!!」

私は景持を優しく褒めると、出陣の支度を取り掛からせようと大声で呼びかけ始めた。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

・・・と、この状況を見て流石に分からない者は居ないと思うが、これで武田家の作戦は完全に読まれ、崩壊が始まって来てしまっていた。しかし、読者の方々はよく長尾家の家臣団は景虎の言葉を信用して動けるのもだとつくづく思うだろう。
―長尾景虎。そう、現在の長尾家の当主はこの小さくて愛らしい十六じゅうろくと若い童女。“ロリ”と言うのはこの慎重と胸の大きさから来ているのではないだろうか、と薄々気付き始めている、彼女の名を長尾景虎ながおかげとら。後の上杉謙信うえすぎけんしんである。彼女も晴信と同じく、過酷な人生に生き耐えてこの場に立っている。その彼女を長年に渡って支え、教育係として君臨しているのは、後に「越後流軍学は此処にあり」と言わしめた宇佐美定満うさみさだみつ。そして、宇佐美と同じ教育係で、長い間支えてきたもう一人。直江大和守景綱なおえやまとのかみかげつな
この二人と共に歩んできた人生。彼女はこれからをどう立ち向かっていくか。
そして、景虎は必ず戦時にこう言ったと言う。

―毘沙門天が仰っている……と。

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