時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~

芒菫

それは決して始まりではない。


「さて、松平様はなんと仰っていたんですか?」

信盛はそう言うと、石川数正に返答を聞きに入った。

「我が殿は、是非信長様にお会いし、折り入って同盟の件をお話ししたいとのことでした」

それって、松平元康が清洲に来て信長に会うってこと事だよな。
いつぞやの件もあるし、どうせならお礼も言いたい。
と、桶狭間のことを思い出した。

「要するに、信長様が了承すれば松平様は此方に。と言うことでよろしいのですね?」

信盛は数正に改めて話した言葉をそう解釈していいのかと問う。

「はい。よろしいです」

数正はそう言うと頷くと、頭を下げて一礼して礼儀を示した。

「分かり申した。只今、信長様に返答を伺って参ります。少々お待ちを」

信盛は立ち上がると、客間の襖までに赴き、それを小姓が開くとそのまま外へ出て左の方向へ向かっていった。
本当に信長に返事を聞きに行くようだな。
・・・しかし、こうやってみると信盛は仕事が早い。
命令された事を素早くこなし、時間を無駄なく使い、自分の時間と業務の時間をちゃんと区別している。
こういう上司だったら、仕事が早く終わって帰れそうだけど。

信盛が客間を出た後、少しの間沈黙が続いた。
一益を見つめていると、微かだが····腕を組ながら下を向いて寝ているようにも感じられた。
・・・数正も一益もなんだか名前が似てて平仮名で話されたらなんだか区別しづらいよね!

「・・・松平様はお元気ですか?」

沈黙に耐えられなくなった俺は、数正に向かって元康の話をする。
彼女は眉を上に上げて少し驚いたような顔をしたが、直ぐに止めると俺の言葉に言い返した。

「はい」

「····この時期、大変でしょう。三河でも民達が割れて一揆が起こりそうな状態だとか」

数正が本当に驚いた顔をする。
まるで何故それを!?というように。

「な、何故それを・・・・知っておいでなのです?」

「隣国の情報は直ぐに入るようにしております。それだけです」

一益がピクッと動いた。どうやら、彼女もこの話に興味があるらしい。

「まぁ、俺も元康殿には借りがあったり無かったりですからな。少しくらいは助けになると幸いですが」

「借り・・・ですか」

数正は興味津々そうに俺の言葉に食い付く。なんなく釣れた。

「まぁ、桶狭間の時に助けて頂いたので」

「へぇ・・・元康様も、律儀な方なのですね」

俺の言葉を聞いたお市がそう解釈する。いや、そういう解釈で良いのだろうか?

「そうでしたか!では、我が殿に感謝の意を申し上げておきますか?」

と、何故か数正が嬉しそうに語る。俺は戸惑って首を前後に少し振ったりなんだりを繰り返していた。

「その時は自分で言いますから、気にせずに」

俺はそう言うと、腕を組みながら上半身を振り、落ち着かせる。
そのまま再び、少しの間沈黙が続いた。その沈黙と言うのは、信盛が帰って来るまでの時間の事を指している。

「さて、お待たせした。信長様は是非清州に招きたいとの事であった。それでよろしいか?」

信盛は客間に戻ると、先程座っていた座布団に腰を掛ける。
そして信長の返答内容について話始めた。

「誠ですか。分かりました。きっと我が殿、元康も喜びましょう」

そう言うと、深く頭を下げて彼女は微かに喜んだ。

「・・・さて、用件は済みました。私はこれで」

彼女はそう言うと、再び一礼してその場から立ち上がる。
客間の扉が一斉に開かれると数正には部屋を後にする。
気持ちのよい風が部屋の中に入り込んだ。

「さて、時間取られたな」

無造作にそんなことを口ずさむ。

「どうやら、武功改めは終わったらしい」

「え、マジかよ」

「本当だ」

信盛は武功改めが終わった事を俺に告げた。
一益は立ち上がると、刀を取り、紐を背中に掛ける。
そのまま縁側にまで赴くと、でこに手を当て、顔に当たる日の光を防いだ。

「夏真っ盛りだに~」

「さて、んじゃ帰ってもいいだろ?」

「まぁ、よいと思うぞ。家臣も次々とお役目を終えて帰っている。一益もお役目は終了だ」

信盛も立ち上がり、一益の方へ向かっていった。
俺はそれをじっと見つめていた。

「あ~そうだにね。」

織田家の日課はこんな感じで進んでいた。
役目が終われば帰ってよろし。その代わり、こなすことは上々にこなせ、掟である。
こうやって、進んでいく日々に楽を感じつつ、甘えているのではないかと感じていた。
約一ヶ月、このように織田に居座っている。
突然の出会いに始まり、織田家に介入、堂々の桶狭間。
しかし、始まりの声は響いても、その音は響き続かず。新たな波が、織田家に押し寄せていた。

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