時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~

芒菫

信長との合流。


「はっしーれ~。はっしーれ~。」

風の様に前を突き進む一益を追いかけるのも一苦労。
刀を掛けているだけでも大変なのに、走るとなると、泰能の時と感覚が違うので大変なんだけど!?
・・・。泰能はと言うと、一益がそのまま逃がしてあげたらしい。
悪気は無いし、一緒にいるだけでも裏切ったと言われてしまうから。だから一益は逃がしてあげた。
捕虜にして逃がしてあげるってあんまり聞いた事が無いけれど、やっぱり一益は優しいのだな。と改めて思う。
だけど、この場合は何なの!?一益ちゃん超速いんですけどー!!

「一益さん速いですね・・・!でも、私だって負けませんから!!」

と、隣で走っていた智慶が言うとさっきまでとはレベルも根拠も違う速さで突っ走っていく。
ちょっと待って!?俺確かに、50メートル走は速いけどそこまで速く走れないんだけど!?
俺、足には自信がある方だが、智慶と一益の速さは馬鹿にならないくらいだった。

「そういえば、もう日の出の時間だな。」

後ろの方から、秀唱の声がする。彼女は、山より登ってくる太陽を見つめながら話した。
ただ、微かに西より積乱雲が向かって来ているのは気のせいだろうか。余りにも大きすぎる雲だから見間違えているのかも知れないけれど。

「はぁはぁ・・・本当だ、人間って極限状態になってれば寝なくても起きていられるだな。」

「あぁ、そういうものよ。特にこの時代、就寝など戯けた事を言っていると首を取られるからな。」

ここまでくれば、もう眠気などどうって事ない。感じる事すらないからね。
さぁ、このまま突き進んでいきますよ~!なんて、ニヤニヤしながら考えた。

「さあ、もうっちょっとだから皆頑張るんやで~!」

そして丸根砦より走って40分くらいが経った頃、大きな鳥居が見えて来た。

「あとちょっとだ・・・!」

大きな鳥居と共に、それは大きな建物が見えてくる。あれが熱田神宮の本殿なのだろうか。
このように神聖な場所に入るのも、結構久々な事だった。第一、俺は神をそこまで信じていなかった。
うちは宗教家で家が代々神社の神主をしているが、俺は全くそう言う事に興味が無く、継ぐ気も無かったので、初詣も餓鬼の頃しか行ったことが無い。
自分の家にも歴史があるらしいが、特に興味が無かったので気にする事も無かったし。
そんな感じで、縁すら感じていなかった神社に行くってのは俺にとっては久々な事って訳だ。

鳥居を潜ると、一益と智慶は先に御参りをして座っていた。

「ほら、遅いんやて!わっちらを何分待たせれば気が済むんだに!」

一益は俺達を怒鳴りつけて怒ったんだけど、逆にこっちがそれを言いたいんだけどね。

「そっちが早すぎるだけだろ・・・。はぁ・・・はぁ・・・。」

「本当に、男の癖してばててるなんて恥ずかしいに。わっちなんて、全く支障が無いんやで?」

一益さん、貴方と智慶は全く別次元の人ですよ・・・。考えてみてください。ほら、秀唱だって呼吸を荒くしてるの分かりますよね?どれだけ疲れるか分かってるんですか・・・。
そんな事を考えつつも、一益の話を聞く。
人生と言うのは、時にこのように上手く回らない事もある。気にする事ではないぞ!

「はいはい、分かりました。俺が悪ぅございましたよ。だから、ほら休ませてね?」

一益は、腕を組んで頬を少し膨らませると、頷いて行ってしまった。
はぁ・・・。これでやっと落ち着く事が出来るな。

「まぁ、あれがいつのも一益様なのだ。許してやってくれ。」

秀唱は俺の隣に座るとそう言った。

「はぁ・・・。まぁ、少しくらいは休ませてもらいたいけどね。」

とかなんとか言って、実際はここまで来て良かったと思う。
確かに、一昨日から始まった話で突然の戦いに巻き込まれて、ここまでやって来たけど・・・。
決して悪いことでは無かったな。十分楽しめたから。後は、ここから今川軍を倒すだけ・・・。

「あー。これからどうするんだかねぇ・・。」

空は、夕暮れの時よりも赤く染まっていた。日の出が始まったのだ。
俺は鳥居前の階段に寄り掛かると空を見上げる。

「しかし、一雨来そうな天気だ。雨宿り出来る所を探しておかんと・・・。」

秀唱がさっきの俺と同じように、大きな積乱雲を見て話した。

「まぁ、何かあれば熱田神宮の所に行かせて貰えれば良いだろ。最悪、一益の事だから雨宿りなんてさせてくれなそうだけど。」

「ふふ。同感だ。」

少しずつ一益の事が分かって来たじゃないか。と彼女は言いたいのだろう。そうだな。やっと掴めてきた感じだ。
はぁ・・・。眠いなぁ。寄り掛からない方が良かったか。そんな事を考えていたのだが、俺はいつの間にか瞼を閉じていた。


・・・。
額に何かが落ちてくるのが分かった。
それは、冷たく少し大きなもの。大きなものと言っても、2本の指で表現できるくらいの大きさのものだが。
目を開けると、さっきまで広がっていた赤い空ではなく、黒い雲が雷鳴と共に真上に来ている。

「うわ・・・。マジで降って来やがったな。」

なんて言いながら、俺は立ち上がると本殿の方へ向かって走った。
本殿の目の前には、智慶とその他数名の兵士達が雨宿りをしている。

「あ、相良様!早く来てください~。」

智慶は此方に手引きすると、一益にも同じように声を掛けた。

「うひぃ・・・。こりゃ何か起きる象徴って奴だに・・・。」

本殿の中の入り口の前で手摺を掴みながら、前屈みで空を見上げる一益。

「いやー、マジで大きいのが来るな。」

本殿の目の前まで行くと、さっきまで大勢いた一益の兵士達も、神主の手招きで中に入れて貰っていた様だ。
一益は、俺に気付くと此方に向かって歩く。

「お、兄さん。やっと起きたみたいだに。那古野からの兵がどうも遅れてるみたいなんよね。神主さんとも話をつけて、中に入れて貰った訳よ。」

「そうだったのか。戦況は何か変わったことでもあったのか?」

「今のところ問題は無いみたいやけど・・・。どうやら・・・。」

一益は、一呼吸すると俺の方を向いた。
何か言いづらい事でも起きているのか?もしや、清州が危ないとか!?

「実は・・・。」

「実は・・・?」

彼女は話を焦らすと、今度は何も話さなくなってしまう。

「どうしたんだよ?何か大変な事でも・・・?」

俺が、一益にそう聞いた途端・・・。
遠くの方で大きな電が走る。それと共に、雷鳴が響いた。
とにかく大きな音だったが、雨も少しずつ強くなっていく。
そして・・・。

「ヒヒィーン!!!!」

確かに、馬の声がした。馬の鳴き声がした!
聞こえた方向を向くと、何かが此方に向かって来ているのが分かる。
数は少ない様に見えるが、もしや那古野からの援軍かな?

「ん・・・・?なんでしょうか。」

智慶が本殿の階段を3段上がると、遠くを見通した。

「あ・・・・・。もしかして・・・。」

一益が凍り付いた様に止まる。いや、少し震えている・・・?

「ど、どうしたんだよ一益・・・?」

俺が、一益を揺する様に肩を振ると智慶が「よく向こうを見てみて下さい!」と言う。本当に何かと思い、不本意だが一益の服の左腕の裾からアンティーク望遠鏡を抜き出し、その方向を眺めてみると・・・そこにはなんと・・・。

「信長様、あそこに何やら人の姿が見えますよ!」

「織田兵かも知れぬ。このまま突き進むぞ!続けー!」

・・・必死に馬で此方に向かう信長の姿が見えた。
これ見たら確かに凍り付くわ。

そのまま信長は馬で鳥居駆け上がると、熱田神宮の本殿で馬を止めた。
後ろからは、藤吉郎や利家なんかも降りてくる。
しかし、最初に驚いてたのは俺らではなく信長だったという事に驚きを隠せない。

「・・・。むむ?一益か?そして智慶もおるのか・・・?そして何故裕太がここに・・・?一体何があったのじゃ?」

「な、なんでじゃないわい!なんで信長と藤吉郎と利家も此処にいるんだよ!?第一、信長はダウンしてたんじゃないのかよ!?」

信長の言葉に対して、逆に此方も3人に関して驚く。本当に、なんで此処にいるんですか・・・。

「ダウンとは何じゃ・・・?南蛮語か?聞きたいのはこっちじゃ。本当に何故ここに・・・」

信長が最後まで話そうとすると、突然一益が信長に飛びついた。
瞬間、皆驚いていたが一益は泣いている。

「ぐすぅ・・・。の、のぶながさまぁ・・・。ほんとうに・・・無事で・・・良かった・・・。うぅ・・・。」

信長は、一益を受け止めると頭を撫でていた。
なんて良い君主なのだろう。
信長はその場で膝を地面に付けると、今度は一益を抱きしめる。

「心配を掛けたな・・・。じゃが、もう心配する事は無い。儂はもう絶対に病などには負けない。お主等を傷つけるくらいならば、病など吹き飛ばしてやるわ・・・。だから、泣くな。」

雨降り続ける中、信長は一益にそう話していた・・・が、俺はこの時この瞬間、こう思った。

『信長合流するし時、何があっても負けることはあってはいけない。』

この状況下で、一つの策を思い付く。そして、藤吉郎は此方を見つめ、声を殺して口を何かのメッセージの様に形を作っていた。
そのキーワードは『お・け・は・ざ・ま』である。此処より、仮定できる事はただ一つ。

「義元は、桶狭間に居る。」

その答えが導き出せた瞬間、大きな雷鳴が鳴った。今この時より、織田軍の反撃タイムが始まるのだ!!

「時代を越えてあの人に。~軍師は後に七人のチート家臣を仲間にします~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「歴史」の人気作品

コメント

コメントを書く