不老不死な元勇者

mizuki

1話

この世界ーークローディアには魔力があり、魔力を持つ人外の怪物《魔物》がおり、人間に害を及ぼす魔物を倒すことを仕事とする《冒険者》が存在する。

そんなクローディアにおいてトップクラスの規模を誇る国、太陽の国フローディアにあるとある森を燃え盛るような紅い髪をもつ少女ーーアメリアが歩いていた。
この少女、アメリアは、フローディアの誇る世界屈指の名門校である国立フローディア学院において特に優秀な7人ーー《7人の勇者セブンナイツ》に選ばれる程の実力をもつ才気溢れる若者である。その実力は冒険者として考えると、ランクBはあるだろう。
だが、いくら優秀とはいえまだ学生。周りからもて囃されてばかりいると慢心してしまっても致し方ないことである。ーー故に、この危険度この危険度ランクA、世界でも有数の危険地域、《ダークフォレスト》にきてしまうことも致し方ないことなのである。

アメリアは《7人の勇者》の7番目。それ故に頂点を目指す彼女は、より高みへ登るためにこの森へ来たのである。だが、彼女も1人で来たわけではない。彼女の隣には誰もが見惚れるであろう白銀の髪をもち、《7人の勇者》には及ばずとも学院トップクラスの実力を有する少女ーークロエがいた。
彼女の実力はランクBに近いランクC。クロエは自身の実力を把握しているので、慢心はしないが、逆に必要以上に怯えてしまっている。

アメリアは戦いを待ち望み、全身から闘気を発している。逆にクロエは怯えて、完全に闘気を遮断する。

魔物は、基本的に《瘴気》と呼ばれる特殊な気から発生する。危険度ランクAに位置する《ダークフォレスト》も当然、森全体を瘴気が覆っている。
さて、そんなところに多少強いとはいえ、自らに遠く及ばない気配が突然現れたら魔物達はどう思っただろうか。深く考えずともわかるように、こう考えたのだ。

『餌が来た』

と。

だから、闘気を発していたアメリアと隣にいたクロエが襲われるのは当然と言えるのである。

「何か来た!」

アメリアがそう言った瞬間、草むらから5匹のゴブリンが出て来た。

「なんだゴブリンか。肩慣らしにもならないわね」

出て来たのがゴブリンだと分かるとアメリアは油断しきった表情でそう言った。

「ゴブリンでよかったよぉ」

怯え気味に呟いたクロエもゴブリンだと分かって、少し気が抜けたようだ。
アメリアはそんなクロエに向けて少し呆れた視線を向けた後、腰から自らの剣を抜き、ゴブリンに向かって斬りかかった。それは闘いに関しては手を抜かないアメリアの全力ではないにしろ紛れもなく本気の一撃だった。剣はゴブリンに反応を許さず、あっさり1匹目を倒した。

キィィン

という考えと裏腹にゴブリンの持つ剣によってあっさりと受け止められた。そのことに驚愕してアメリアは目を見開くが、即座に判断し、とっさに跳び退く。
周りを見ればクロエも呆然と立ち尽くしている。

ゴブリンのランクはランクE。戦いを嗜む人ならば、誰でも倒せるような雑魚である。そう、本来ならば。

だがここは危険度ランクAの危険地域。その瘴気の濃さも尋常ではなく、そんな瘴気によって本来の実力よりも遥かに上回る実力を手にしたゴブリン達は1匹でランクBの実力をもつ。

自分が斬りかかったゴブリンと他のゴブリンに大した実力差をないことを理解したアメリアは勝ち目がないことを認めた。

「クロエ!逃げるわよ!」
「え?う、うん!」

呆然としていたクロエもアメリアの呼びかけで我に帰り、魔法を唱えた。

「『クラウドオブダスト』」

そう言った瞬間砂埃が周囲を覆い、アメリアとクロエは逃げ出した。彼女達をゴブリン達は追ってくることはなかった。何故なら、彼女達が逃げ出した先は自分たちを塵芥程にも考えていない怪物達が潜む、森の深部だったからだ。

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