貴方に贈る世界の最後に

ノベルバユーザー175298

第60話 最後の世界


 暗くなった意識の中で、言葉だけが聞こえていた。
 真っ黒に染まった身体はピクリとも動かない。
 それに、何も感じることが出来ない。地面の熱も、土の匂いも、ノアの温もりも......

 ノアの声だけしか聞こえない。
 ノアの悲痛な叫びが、悲しみが俺を襲う。

 「ねぇ、ユウ。起きて?ねぇ、ユウ......返事を......してよ」

 今すぐにでも起きて、ノアに伝えたい。
 だけど、どれ程願っても足掻いても、身体は死んでいる。
 俺はもう、魂だけの存在になってしまったのだろうか?

 また、言葉だけが聞こえてくる。
 俺を元に戻すという、ナギが最初に言ってきた事をこのタイミングで話す。
 俺の意志とは反対にノアは、その話を受けてしまった。

 俺が生き残る未来なんていらない。
 そう言葉に出そうとしても、無駄だった。

 「......そう。じゃあ、遺言だけ...」

 これで、最後なんだという雰囲気のノアが最後の言葉を残す。

 「...ユウ。ありがとう。そして、ごめんね」

 その後、どんなに意識を向けてもノアの声が聞こえる事は無かった。
 全てが終った気がした。
 俺は、今まで何をやっていたんだ?

 自分に対する、質問と後悔。何より、ノアを守れなかった自分自身に怒りを感じていた。
 弱すぎる自分を、強いと勘違いしていた自分を本気で殴りたくなった。

 もう一人の声が聞こえてくる。

 「ノアさん、悪いけど約束は守らない。キサラギ・ユウは、このまま死んでいてもらう。世界の為にも、貴方の為にも......さて、アイリスさん、セツカさん、君達にはこの場から消えてもらうよ」

 次々と仲間達が消されていく。それなのにどうすることも出来ない。
 俺には、どうすることも出来ない......

 「これで、心置きなく願いを叶えられる...」

 全てを諦めかけていた。もういいや、このまま死なせてくれと。

 だが、頭の中で不意に思い出す言葉がある。
 魔王が言っていた言葉だ。

 「未来は、変えられる。どんなに理不尽な結果が待っていても諦めなければ新しい道は開かれる。それが例え辛い道でも、立ち上がる力と、前に進む勇気があるなら......その答えが分かるさ」

 立ち上がれる力が欲しい。前に進む勇気が欲しい。
 未来を変える、能力ちからが......

 そう願った時。
 なぜか、身体が動くようになっていた。
 何も感じ無いまま身体だけが動く、奇妙な感覚があった。

 見えている景色は、白黒に変わっていて後ろを向いて扉に向かって歩いている人物と、足元に涙を流して倒れている人物が目に写る。
 その涙をそっと拭いて、俺は歩き出す。
 目に写るもう一人の人物に向かって。

 歩きながら、力を解放する。全ての力をぶつける、もう俺はどうなってもいい、ありったけの力をこの拳に......
 黒い霧が全身から吹き上がってくる。

 だけど、その霧は拳に集まっていき、力がどんどん沸き上がっていくのを見ていた。
 霧は収まらない、無限に力が集まってくる。
 黒い霧が俺の力として変換されている事に驚いたが、すぐにその答えが分かった。

 -害悪変換-。
 バッドステータスをプラスに変換する。というノアが持っていたスキルだ。

 「ノア。ありがとう」

 自然とそんな言葉が出ていた。
 振り替えって確認したノアの顔が少し笑った気がした。

 俺は、前に進む。もう振り返らない。
 いや、もうノアと顔を会わすことは出来ないだろう。
 なぜなら、今から俺は、他の人間を殺すからだ。

 「ノア。さよなら」

 光の速度で、飛び出した少年は、当たるだけで周りに死を振り撒く力を使った。

 その日、壊れるはずのないダンジョンに大きな穴が空いた。
 ダンジョンの最上階。
 そこに立っているのは、真っ黒に染まった人の形をした何かだった。

 「さぁ......新しい世界を創ろう」

 そんな呟きと共に、ユウはダンジョンコアのある部屋に歩き出した。


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