貴方に贈る世界の最後に
第49話 別れの時
「アイリス、ここでお別れだ」
「へ?」
アイリスとは、ここで別れた方が良いだろう。
目的は達成したし、何よりここが一番安全だろうから。
「ここまでだ...」
「ユウ...さん。どうして...」
「ここから先は危険だ。それに、アイリスは目的を達成した。俺達に付いてくる理由も無いだろう」
無理にでも突き放さないと、アイリスが危険な目に会う。
それだけは、避けておきたい。
「ユウさん、それは僕の事を思っての事ですか?」
「ああ、これ以上危険な目には...」
俺がそう答えた瞬間に、アイリスは、
「僕は、僕の意思で生きます。ユウさんの事情なんて関係ありません。僕は、自由に生きるんです。助けてくれたあの時ユウさんが言ってくれたように、僕はもう自由に生きてもいいんですよね」
と、満面の笑みで答えた。
「...そうだったな」
俺も思わず笑ってしまう。
そんな事を言われるとはおもってなかったな。
もう、何を言っても止まらないだろう。
アイリスの顔を見れば絶対についてくる事が分かった。
「魔王は、これでいいのか?」
「分かっていたことだ、それにアイリスには自由に生き欲しい。これは魔王ではなく、父親としての願いだ」
「お父様...ありがとう。大好きです」
「気を付けるんだよ、アイリス」
「はい!!行ってきます!!」
魔王は、名残惜しそうにアイリスを見送る。
今、どんな気持ちで送り出しているのだろうか?
なら、俺は...
「安心してくれ、アイリスは絶対に守る」
「娘をよろしく頼むよ」
「ああ、任せろ」
魔王は、安心したのか大きく息をついている。
そして、ひとつ助言をくれた。
「ああそうだ。キサラギ・ユウくん。僕からのアドバイスだ」
「未来は、変えられる。どんなに理不尽な結果が待っていても諦めなければ新しい道は開かれる。それが例え辛い道でも、立ち上がる力と、前に進む勇気があるなら......その答えが分かるさ」
「ありがとう」
そう言って俺達は、魔王城の外へと出ていく。
振り返ることなく前に進んで行く。
もう、後には戻れない。
先に進むしか道は無いんだから......
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ユウ達が、魔王城から出てから見送る二つの影があった。
それは、魔王とフェンリルだった。
「魔王様。本当にこれでよかったんですか?」
「本当なら、キサラギ・ユウを殺してでもアイリスが行くのを止めたいけどね。これは仕方ないんだよ。変えることが出来ない確定された未来だからね」
「そう...ですか」
「仕方ない...さ」
拳を握りしめて、遠く離れていく四つの影を見ている魔王の目には、光るものが流れていた。
「悪いね、しばらく一人にしてくれないかな」
「はい。かしこまりました」
強い風が吹き抜ける。
まるで、自分の心情を表しているように冷たいその風は、今後の不安を増幅させる。
「キサラギ・ユウ。君はどんな道を選ぶのかな......世界の破滅か救済か......」
そんな言葉も風に流されて消えていく。
魔王城の大きな扉の前には、小さな影が揺れ動いていた。
「さて、僕も仕事をしないとね」
魔王は歩き出す。
最悪の未来を防ぐために、仕事に向かう。
「未来の為に......行ってくれ。ナギくん。君が世界を......」
「分かった。だから、そんな顔をするなよ。魔王なんだから堂々としてればいい」
「ああ、ありがとう」
確定された未来は、変わらない。
だけど、変えられる未来があるなら。最悪の未来を回避出来るなら......俺は、全力で変えてやる。
例え、その敵が世界で一番強くても......
かくして、世界は動き出す。
最後の時を迎えるまで、止まらない。
そして二人の少年の物語は、始まる。
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