貴方に贈る世界の最後に

ノベルバユーザー175298

第31話 契約者と解放者


 勇者の全身は、もう真っ黒に染まりきっていた。
 そして、見境なく暴れているだけ。
 目に入るもの全てを壊し、黒く染める。

 『悪魔』と契約した者の末路。
 それは、自分自身が『悪魔』になること。

 力に溺れ、『悪魔』に頼った者の最後。



 しかし、助ける方法が1つある。

 ただ1つだけ...

 その、助ける方法はアイリスが教えてくれた。
 じゃあ、なぜその方法を勇者が『悪魔』になる前にアイリスが言わなかったのか?
 アイリスは、わざと言わなかったんではなく言えなかった。


 その、理由は俺の為だったからだ。

 勇者を救い出す、唯一無二の方法。

 それは...『悪魔』と契約した者の願いを叶えること。
 つまり、俺を殺す事。

 俺を殺す事で勇者は、救われる。
 なら...

 暴れている、『悪魔』に近付こうと一歩踏み出す。


 「ダメ!!ユウはまた私との約束を破るの?」

 ノアは、俺にしがみついて止めようとしてくれる。
 これだけ俺の事を想ってくれる人が居るんだ。
 ...俺の人生、最初から嫌な事ばかりだったが今は幸せだ。

 「それ以外に方法が無いのなら...そうするしかない。それに助けられるのに助けないのは、俺が自分の手で殺したのと同じ事だから」

 また一歩踏み出す。

 「まだ、まだ何かあるから!!それを探してから...」

 ノアは、そう言っているがたぶん時間は、もうないだろう。
 この『悪魔』を放っておけば人間全てが死ぬことになるだろう。
 世界の中でかなりの実力者と言っていた王都のギルドマスターでも、一瞬で殺されるだろう。

 それほどの力を持っている。


 こうしている間にも、『悪魔』は暴れている。
 かなり離れた場所に居るが、その力は俺の80%と同じかそれ以上のものだろう。

 まだこの場所が誰も居なくて、荒れ地が広がるだけの場所だったから、何も被害が出てないが、ここで俺が止めなければ必ず誰かが死ぬ。

 そんな事は、認められない。

 だから、俺は...助ける。


 これで、ノアとの最後の会話だな...

 俺は、しがみついているノアを離し、肩を掴んで向かい合う。

 「ノア、お別れだ」

 「嫌っ!!ユウ行かないで!!ずっとそばに居てよ!!私を...私を一人にしないで...」

 目からは大粒の涙かポロポロと流れ落ち、可愛い顔が赤く腫れていた。

 大切な人のこんな顔は見たくなかったんだけどな。

 俺の服を握り締める力が強くなる。
 絶対に行かせないと、そう主張している。

 「約束。守れなくて悪い。ずっとそばに居るっていったんだけどな。どうやらここまでみたいだ」

 いつもの様にノアの頭を撫でる。
 こうやってサラサラとした銀色の髪を触るのも最後だな...
 これで終わりか...

 「ノア、最後に言っておきたいことがあるんだ。聞いてくれるか?」

 「......」


 ノアは、黙って頷く。

 俺は、ポケットから今まで一番大切にしてきた宝物を出す。

 「これ、実は前の世界である人からもらった大切なものなんだ。このネックレスをノアにあげるよ」

 俺が取り出したのは、元の世界で逢坂とうさかに貰った物。

 綺麗な赤い石が真ん中についているだけのネックレス。

 「...これって」

 再びノアと向き合い。
 言葉を紡ぐ。

 「ノア。お前が好きだ。もっと一緒に居たかったけどそれも叶わない。だけどこの気持ちは本物だ」

 そう言ってノアの首にそのネックレスを掛ける。
 ノアの目は大きく見開かれている。

 そして、震えるその口から言葉が...

 「ユウ...私は...」

 そこから先に言葉は続かなかった。
 俺がノアを気絶させたからだ。

 返事は聞かなくていい。
 決心が鈍りそうだから。


 俺は、一歩踏み出す。

 『悪魔』に変わた勇者を助けるため。



 近づいていくと、『悪魔』は俺に気付いたようで走ってきた。
 そのスピードは、異常なほど速かった。

 俺は、ステータスを弱めていく。

 死の足音が近付いてくる。


 そして、目の前まできた『悪魔』は、その真っ黒な剣を振り上げる。

 そこから、世界は遅くなった。

 俺は、これが走馬灯なのかと思った。
 死ぬ前に神様がくれた時間。

 今までの事を思い出す。
 ノアと最初に出会った時のこと。
 ノアと森の中を歩いた時のこと。
 ノアの笑顔を見れた時のこと。
 ノアと一緒に過ごした時間。

 ああ、俺は幸せだったんだな。

 これで、後悔もなく死ねる...



 「そんな事あるわけ無いだろ!!! 後悔だらけだ!! 俺の人生、失う物ばかりだ!!ノアとだってもっと一緒に過ごしたい。一緒に笑いあっていたい。同じ時間を過ごしたい!!」

 なぁ、神様。
 もし、居るんなら。教えてくれ。
 どうして、俺をこんな奴にしたんだ!!!


 無慈悲にも時間は流れ...

 『悪魔』の剣は、降り下ろされた。



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