貴方に贈る世界の最後に

ノベルバユーザー175298

第32話 失った者



 「ユウ...私は...」

 ユウに告白されて、返事を返そうとした所から意識がなくなった。
 でも、私の回復力が高くて良かった。
 すぐにユウを止められる。
 まだ、一瞬しか時間が経っていないはず。

 目を開いて、周りを見る。
 そこには、ユウの影はなく、私が気が付いた時にはもう遅かった。

 私が見たのは、大切な人が目の前で殺される瞬間。

 『悪魔』がユウに剣を降り下ろした瞬間だった。

 鮮血が飛び散り、荒れ地を真っ赤に染める。
 全身が固まる。
 この状況を理解するのに時間がかかった。

 そして、ユウの近くに居た、『悪魔』の真っ黒に染まっていた体が戻っていき、最初に出会った勇者の姿になっていた。

 契約を果たした『悪魔』は消える。

 つまり、ユウが死んだ...


 「いや、まだ...死んでない」

 そうやって自分に言い聞かせ、体を動かす。

 「私が治すから。待ってて、ユウ」

 私が吸血鬼で良かった。
 これで、ユウを治すことが出来る。

 自分の腕を切り、血を出す。
 それを傷口にかける。それだけで傷は無くなっていく。

 傷が広くてなかなか時間がかかったちゃったけど、完全に治りきった。

 「ユウ、傷は治ったよ。ほら起きて...」

 そう呼び掛けても反応がない。

 「ほら、いつもみたいに頭を撫でてよ。私あれ結構好きなんだ」

 反応は無い。

 「ねぇ、ユウ。私を一人にしないでよ...」

 まだ、話したいことが沢山あったのに、ユウと一緒にもっと旅をしていたかった。
 何でもない毎日が私にとっては宝物だった。

 ユウとこの世界でまた会えたときは、本当に嬉しかった。
 一人だった私の世界をユウが広げてくれた。
 私を森の外に連れ出してくれた。

 過去の大切な思い出が頭の中によみがえってくる。

 自然と涙が溢れだしてくる。
 大切な人を失ったのはこれで二度目。
 同じ苦しみを味わった。

 だけど、今回は違う。
 前の世界でユウと別れた時は、まだ会える可能性があった。

 だけど...もう、会うことは出来ない。
 もう二度とユウの声を聞く事が出来ない。

 私はまた、大切な人を失った。


 「ユウが居ない世界なんて......いらない。私が生きている意味が無い」


 その時。

 「うっ、あれ? 俺は何を?」

 勇者が目覚めた。


 ああ、そうだ。
 こいつが居たからユウは......

 そう思うと、殺したくなってくる。

 「ユウが何をしたか、分かっているのか!!」

 勇者は、驚いた顔をしたが。
 すぐにこう答えた。

 「君。喋れる様になったんだね、良かった。じゃあ俺はあの男を倒せたのか」

 そう聞いた瞬間。
 私は動いていた。

 目の前の勇者を殺すために...


  パッチーン

 勇者の頬を強く叩いた音が聞こえた。
 勇者を叩いたのは、魔法使いの子だった。

 「トウヤ、それは私でも許せません。あの人はトウヤを助けるために死んだんですよ。それを...」

 「は?俺を助ける?」

 この勇者の声を聞いているだけでもイライラする。
 何で、こんな奴の為にユウが...

 どれだけ願っても、もうユウは戻ってこない。

 「そうです。『悪魔』と契約して暴れていたトウヤを止めるために」

 「え? 『悪魔』? 僕が?」

 もうダメだ、我慢できない。
 この勇者を絶対に許せない。

 そして、私は魔法を放った。

 「『ヘル・フレイム』」

 だけど、私の魔法は途中で消えた。

 どうやらこの勇者には、魔法が効かないらしい。
 『封印の森』のゴーレムと同じ感じがした。

 魔法で倒せない。
 前にも感じた、自分の力の無さを恨む。
 もう、私にはどうすることも出来ない。


 神様。
 もし、居るなら
 なんで、私をこんなに不幸にしたんですか?

 そして、もしユウが帰ってくるなら...と。

 

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