貴方に贈る世界の最後に

ノベルバユーザー175298

第30話 勇者の末路


 勇者を倒した後の事。
 勇者パーティーの女の子三人は、俺を見て固まっていた。

 最強だと思っていた仲間が一瞬で倒されれば、こちらを警戒するだろう。

 「え、ウソ...」

 と、言っている魔法使いもいる。
 まぁ、信じられないだろうな...

 すると、聞きなれているある言葉を言われた。

 「こんな化け物がいたら、もうどうしようも無いじゃない」

 「私たちには、勝てないよ」

 「でも、トウヤさんが...」

 魔法使いは、必死に勇者の所に行こうとしているが、他の二人に止められている。

 「ダメ、殺されちゃう」

 「今は、落ち着いて」

 とそんな、やりとりをしている。

 ...俺はそんなことしないのだが、と言うかこの勇者以外に用はない。
 この勇者は、俺と最初に会ったときに『転生者』と口にしていた。
 王都のギルドマスターとの約束もあるし、聞き出さなくてはいけない。

 その前に謝罪してもらうけど。

 そんな時、勇者が目覚める。

 「あれ? 僕は、どうして?」

 頭に与えた衝撃で記憶が昏倒しているようだ。

 「勇者さん、おはよう。それで、俺に負けた感想はどうだ?」

 「僕が負けた...」

 「それで、色々と謝罪して欲し...」

 俺の言葉の途中で、他の二人を振り切った魔法使いの子が勇者の前に立った。

 「トウヤ、逃げて!!私がどうにかするから!!」

 その子は魔法を唱え始める。
 俺は、目の前で魔法を唱えている魔法使いにゆっくりと動いて近づく。

 今は、100%の状態のため、ゆっくり動かないと殺してしまう。

 しかし、俺の行動が勇者には違う意味に捉えられたようだった。

 「や、やめろ、ティナ逃げろ!!」

 「トウヤ、私のこと忘れないでね」

 俺が魔法使いの子を殺すと思ったのだろうか?
 しかし、目の前で繰り広げられているこの展開。

 どうしようか...

 とりあえず、話し合うか。

 「なぁ、ちょっと話を...」

 「うぉぉぉぉぉ、ティナは殺させないぞ!!」

 勇者は、俺に殴りかかってくる。
 普通と比べるならかなりの力があるはずだが、俺の力が大きすぎた。

 勇者の拳は、俺に当たった瞬間に砕け、血が出る。

 「ぐっ...まだだ...僕は、負けられないんだ」

 血だらけの手でまだ殴りかかってくる。

 「くそっ!! 何でだよ!! 俺が弱いからか!!」

 もう、勇者の手には力がなくペチペチとあたるだけ。

 ...何か、こいつ実はいいやつなんじゃないかと思えてきた。
 仲間を守るために、勝てない相手に戦いを挑む。
 その覚悟と勇気は、本物だった。

 ...全ては、こいつの勘違いから始まった事だが。


 「僕は、どうなってもいい。だから、今だけこの男を倒せる力を...」

 そんな事を勇者が言った瞬間の事だった。

 勇者の足元に赤く、赤く光る魔方陣が出てきた。
 そして、その魔方陣は勇者を飲みこんだ。

 まずい、何となくだけどすごく嫌な気配がする。

 「ユウ!!そこから離れて!!」

 ノアの言葉を聞いて、何とか後ろに飛んだ。
 俺がさっきまで居たところは、まるで黒いインクをこぼした様な真っ黒な色に変わっていた。

 「ユウ。あれは何?」

 ノアも分からないものらしい。

 そして、魔方陣に包まれていた勇者の姿が現れる。

 「ハハハハハハ。力が溢れだしてくる。これなら、誰にも負けない」

 勇者の姿は、前とは別物だった。
 目は赤く、まるで魔族のようだった。
 肌には、黒い亀裂みたいなのが走っている。

 何より、勇者の背中には真っ黒な翼が生えていた。

 「なんだ、アイツは...」

 変わり果てた勇者を見ていると、

 「ユウさん、あの人は『悪魔』と契約したみたいです」

 と、アイリスは何か知っているようだった。

 「ユウさん、早くあの人を止めてあげてください。『悪魔』と契約した人は、代償を支払わなければいけないんです。そして、時間が経つと全身を乗っ取られてしまうんです」

 アイリスから聞いた限り、早くあの勘違い勇者を助けないといけないみたいだ。

 「勿論、助けるさ」

 さて、勇者を救うか。



 そんな決意をした時。

 「どうして...トウヤ...やめて...」

 勇者は、魔法使いの子に真っ黒な剣を降り下ろそうとしていた。

 「ユウ!!」

 「ああ」

 地面を蹴り、その子の元へ急ぐ。
 俺は、降り下ろされている剣を最初に勇者から奪った光の剣で受け止める。

 100%の俺よりも小さい力だが、今までの勇者よりは格段に強い力を持っていた。

 剣を弾き返し、魔法使いの子を抱えてノア達の元へ戻る。


 「ウガォォアァァア、ナゼダ、なぜ勝てない。もっと力ヲ、モット、モット」

 勇者が更に黒く染まっていく。
 真っ黒の翼は更に大きくなっていく。

 早くしないと...


 勇者は、もう元の姿を無くしてきている。

 そこに居るのは、もう『悪魔』なのかもしれない。

 

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