貴方に贈る世界の最後に
第29話 二人の距離
虫達が大量に居た渓谷を越え、まだ続く荒れ地を歩いていく。
今までで人に会うことはなかったが、今日は出会った。
いや、出会ってしまった。
遠くに見える、四つの人影。
こちらに向かって歩いてきている。
人影は、はっきりとしてくる。
まず、俺が思ったことは...男一人に女三人のパーティー。ハーレムですか?
その男は、金髪で黒い目をしていた。
更に言うと、何かすごく勇者っぽい装備をしていた。
他の女の人を見ると...ゲームの魔法使いの様な格好をした人と大きな剣を背負っている人。それに、シスターみたいな格好をした人がいた。
完全に勇者パーティーです。
そうなると色々と不味いのだが...
周りには何もなく、隠れるところもない。
仕方ない、さっと通りすぎるか...
「ノア、アイリス。少し離れてすれ違おうと思う。たぶん勇者だし、アイリスは危ないだろう」
「はい、分かりました」
魔王の娘だと、知られたら、どうなるか簡単に想像がつく。
なるべく関わらない方が良いだろう。
俺達は、そのパーティーの進行方向から少し離れて歩きだす。
だが、しかし。
勇者?パーティーは、俺達の方向に向かってきている。
ここで逃げたら逆に怪しまれるかもしれないな。
「ノア、準備はしといてくれ」
「ん、分かった」
俺は、勇者?遭遇する。
俺達の目の前で止まった、そのパーティーが話し掛けてくる。
「君たち、どうしてこんなところに居るんだい?それに、『転生者』も居るみたいだし...」
男は、そう言いながら俺を通り過ぎ、後ろに居るノア達に話し掛ける。
「君たち、あの男に強制されて旅をしているのかい?それなら、僕が解放してあげよう。君たちみたいな可愛い女の子がいる場所じゃない」
...何言ってんだこいつ?
しかも、勇者?パーティーの女達も頷いているし、何だこいつら。
「「...」」
 ノアもアイリスも呆れて声も出ないようだ。
アイリスは、嫌いな人間が近くに居るのにその反応ってことは、本当に意味がわからないんだろう。
だけど、この勇者?は、勘違いをした。
「そうか...君たちは、喋れないようにされているんだな、あの男に...なら、僕がすぐにでも解放するから、待っていてくれ。大丈夫、僕は勇者なんだ」
...は?
一瞬、完全に思考が止まったんだが。
この勘違い勇者をどうにかしないと...
と、思った瞬間。
勇者が斬りかかってきた。
考える事をやめていた俺は、反応が遅れて力の解放が出来なかった。
そんな俺の前にノアが割って入った。
勇者は、剣を止めて後ろに下がった。
「悪い、助かった」
「うん」
今度こそ、力を...
「貴様...それでも人間か?」
と、何故か勇者は怒っていた。
「は?お前こそ何を言ってるんだ?」
「貴様...女の子達に自分を守らせて、僕が攻撃出来ないようにするなんて、最低だな」
ああ、もうダメだ。
話が通じない以前に、話をさせてくれない。
「みんな、少し離れていてくれ、この男は勇者として見逃せない」
「いや、ちょっと待て話を...」
「貴様の様な奴と話すことなど無い」
ちょっと、いや、凄くムカついてきた。
...本気で殴りたい。
不意に、チョンチョンと服を引っ張る感覚があった。
「ユウ、アイツむかつく。ボコボコにしても良いよ。いや、して」
そんな事をノアに言われたが、勿論言われなくてもボコボコにしてやる。
この世界に来て初めてこんなにムカついたかも知れない。
力を解放する。
人が相手とは言え、相手は勇者だ。
油断は出来ない。
だから、今回は100%。
力が溢れだしていく。目が熱くなる。そして、赤く変色する。
「貴様...魔族か。ならば、尚更倒さなくてはいけない敵だな。『目覚めろ聖剣』」
勇者が一言、唱えた瞬間。
勇者が持っている剣が光だした。
そして、眩しく輝く剣を持って勇者は向かってきた。
勘違い勇者と、元の世界最強が衝突する。
と、思っていたんだが......
勇者が遅すぎる。
え?これがこの世界の勇者の全力なのか?
王都のギルドマスターの方が10倍は、速かったと思うぞ。
勇者の剣がやっと俺の元に届く。
ゆっくりと降り下ろされてくるその剣を俺は、掴んだ。
この勇者。力も弱い。
俺は、掴んでいた剣を上に持ち上げる。
すると、勇者は数十メートル先に吹っ飛んでいった。
俺の手に、勇者の持っていた剣が残ったまま。
......勇者が起き上がって来ないんだが...
軽く地面を蹴り、一瞬で勇者の近くに行く。
様子を見ると、勇者は気を失ったいた。
さっき剣を勇者ごと振り上げた時に、剣の柄が勇者の顎に当たったのは見たんだが...それだけで?
ちょっと、この世界の人間。よく生き延びてたな。
アイリスの父親が魔王になるまで、どうやって生き延びてたんだか...
勇者がこんなに弱くて大丈夫なのか?
俺は、魔族を管理して人間に攻撃させないようにしている、アイリスの父親に感謝した。
今の魔王が居るからまだ、被害が少ないのか。
もし、魔王が倒されたら...
この世界は、すぐにでも終わるだろう。
魔王は、人間の味方じゃないか。何でこんなことになってるんだ?
解決しない疑問を抱えながら、仲間の元に帰る。
そこには、スッキリした顔のノアとアイリスが居た。
まぁ、俺も少しはスッキリしたし、もう良いかな。
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