貴方に贈る世界の最後に

ノベルバユーザー175298

第29話 二人の距離


 虫達が大量に居た渓谷を越え、まだ続く荒れ地を歩いていく。

 今までで人に会うことはなかったが、今日は出会った。
 いや、出会ってしまった。

 遠くに見える、四つの人影。
 こちらに向かって歩いてきている。

 人影は、はっきりとしてくる。
 まず、俺が思ったことは...男一人に女三人のパーティー。ハーレムですか?

 その男は、金髪で黒い目をしていた。
 更に言うと、何かすごく勇者っぽい装備をしていた。
 他の女の人を見ると...ゲームの魔法使いの様な格好をした人と大きな剣を背負っている人。それに、シスターみたいな格好をした人がいた。

 完全に勇者パーティーです。

 そうなると色々と不味いのだが...


 周りには何もなく、隠れるところもない。
 仕方ない、さっと通りすぎるか...

 「ノア、アイリス。少し離れてすれ違おうと思う。たぶん勇者だし、アイリスは危ないだろう」

 「はい、分かりました」

 魔王の娘だと、知られたら、どうなるか簡単に想像がつく。
 なるべく関わらない方が良いだろう。

 俺達は、そのパーティーの進行方向から少し離れて歩きだす。


 だが、しかし。
 勇者?パーティーは、俺達の方向に向かってきている。

 ここで逃げたら逆に怪しまれるかもしれないな。

 「ノア、準備はしといてくれ」

 「ん、分かった」

 俺は、勇者?遭遇する。


 俺達の目の前で止まった、そのパーティーが話し掛けてくる。

 「君たち、どうしてこんなところに居るんだい?それに、『転生者』も居るみたいだし...」

 男は、そう言いながら俺を通り過ぎ、後ろに居るノア達に話し掛ける。

 「君たち、あの男に強制されて旅をしているのかい?それなら、僕が解放してあげよう。君たちみたいな可愛い女の子がいる場所じゃない」

 ...何言ってんだこいつ?
 しかも、勇者?パーティーの女達も頷いているし、何だこいつら。

 「「...」」

 ノアもアイリスも呆れて声も出ないようだ。
 アイリスは、嫌いな人間が近くに居るのにその反応ってことは、本当に意味がわからないんだろう。


 だけど、この勇者?は、勘違いをした。

 「そうか...君たちは、喋れないようにされているんだな、あの男に...なら、僕がすぐにでも解放するから、待っていてくれ。大丈夫、僕は勇者なんだ」

 ...は?
 一瞬、完全に思考が止まったんだが。

 この勘違い勇者をどうにかしないと...
 と、思った瞬間。

 勇者が斬りかかってきた。

 考える事をやめていた俺は、反応が遅れて力の解放が出来なかった。
 そんな俺の前にノアが割って入った。

 勇者は、剣を止めて後ろに下がった。

 「悪い、助かった」

 「うん」

 今度こそ、力を...

 「貴様...それでも人間か?」

 と、何故か勇者は怒っていた。

 「は?お前こそ何を言ってるんだ?」

 「貴様...女の子達に自分を守らせて、僕が攻撃出来ないようにするなんて、最低だな」

 ああ、もうダメだ。
 話が通じない以前に、話をさせてくれない。

 「みんな、少し離れていてくれ、この男は勇者として見逃せない」

 「いや、ちょっと待て話を...」

 「貴様の様な奴と話すことなど無い」

 ちょっと、いや、凄くムカついてきた。
 ...本気で殴りたい。

 不意に、チョンチョンと服を引っ張る感覚があった。

 「ユウ、アイツむかつく。ボコボコにしても良いよ。いや、して」

 そんな事をノアに言われたが、勿論言われなくてもボコボコにしてやる。
 この世界に来て初めてこんなにムカついたかも知れない。

 力を解放する。
 人が相手とは言え、相手は勇者だ。
 油断は出来ない。

 だから、今回は100%。
 力が溢れだしていく。目が熱くなる。そして、赤く変色する。

 「貴様...魔族か。ならば、尚更倒さなくてはいけない敵だな。『目覚めろ聖剣』」

 勇者が一言、唱えた瞬間。
 勇者が持っている剣が光だした。

 そして、眩しく輝く剣を持って勇者は向かってきた。


 勘違い勇者と、元の世界最強が衝突する。

 と、思っていたんだが......
 勇者が遅すぎる。

 え?これがこの世界の勇者の全力なのか?
 王都のギルドマスターの方が10倍は、速かったと思うぞ。

 勇者の剣がやっと俺の元に届く。
 ゆっくりと降り下ろされてくるその剣を俺は、掴んだ。

 この勇者。力も弱い。

 俺は、掴んでいた剣を上に持ち上げる。

 すると、勇者は数十メートル先に吹っ飛んでいった。
 俺の手に、勇者の持っていた剣が残ったまま。

 ......勇者が起き上がって来ないんだが...

 軽く地面を蹴り、一瞬で勇者の近くに行く。

 様子を見ると、勇者は気を失ったいた。
 さっき剣を勇者ごと振り上げた時に、剣の柄が勇者の顎に当たったのは見たんだが...それだけで?


 ちょっと、この世界の人間。よく生き延びてたな。
 アイリスの父親が魔王になるまで、どうやって生き延びてたんだか...

 勇者がこんなに弱くて大丈夫なのか?


 俺は、魔族を管理して人間に攻撃させないようにしている、アイリスの父親に感謝した。

 今の魔王が居るからまだ、被害が少ないのか。


 もし、魔王が倒されたら...
 この世界は、すぐにでも終わるだろう。


 魔王は、人間の味方じゃないか。何でこんなことになってるんだ?

 解決しない疑問を抱えながら、仲間の元に帰る。

 そこには、スッキリした顔のノアとアイリスが居た。
 まぁ、俺も少しはスッキリしたし、もう良いかな。




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