貴方に贈る世界の最後に
第15話 旅立ち
街を後にして、旅を始める。
ノアと魔族の子供と一緒に。
「ユウ、これからどうするの?その子の事とか」
「この子の問題は少しずつ解決していこうと思う。あとは、取りあえず他の街を目指すかな」
勿論、姿を隠して街に入ろうと思う。どこまで情報が広がってるか分からないからな。
「それに、せっかく異世界に来たんだから色々見たいし」
「そうだね。せっかく来たんだし...」
そんな話をしていると、背負っていた子供が起きた。
「...人間?....あ、ァァァア、離れろ!!」
見た目とは違った、大きい力に押されて突き飛ばされる。
「人間、人間が...」
強く、深く残っている。恨みのこもった目。
人間によってつけられた傷。
どうやら俺が近づくのは、今は駄目みたいだ。
「ノア、悪いんだがその子の面倒を見てくれないか?」
「うん、分かった。そうゆうことね」
種族が人間ではない。完全に吸血鬼であるノアなら話ぐらいは聞けるかもしれない、そう思っていた。
 ノアが近づいていく。
その子は警戒はしているけど、俺よりは大丈夫そうだった。同じような種族だと分かるのだろうか?
「私は、ノアって言うの。あなたの名前を教えてくれないかな?」
そう問い掛けるノアに、その子が言葉を発する。
「魔族...僕と同じ魔族」
「そうだよ。私も魔族だよ」
ノアはそう言って、自分に掛けていた『偽装』のスキルを解く。
街に入っている時からずっと『偽装』をしていた。バレると大変なことになると思っていたのでやっておいて正解だった。
ノアの目が血のような赤い色に戻る。
「やっぱり...でも、何で人間なんかと一緒にいるの?脅されたの?」
凄い勢いでこちらを睨んでくる。
だけど、同じ魔族となら話せることが分かった。それだけでも充分な収穫だ。
「好きだから。私は、ユウに助けられた、自由にしてくれた、優しくしてくれた。だから、私は好きで一緒にいるの」
「で、でも。人間なんだよ?僕みたいに騙されてるかもしれ...」
「そんな事、絶対に無い」
「へ?」
「だって、あなたもユウに助けられたんだよ。あなたの為にボロボロになって戦って、あなたを助けた」
「う、嘘。そんなの嘘だ!!人間はみんな同じだ!!僕がどれだけ助けを呼んでも、笑って見捨てた。僕をゴミみたいな目で見てきた!!どれだけやめてって言っても笑いながら殴って来た!!同じだ!!人間なんて」
パチィィン
と、音が響いた。
ノアがその子の頬を叩いたからだ。
「え?」
「違う。ユウと周りの人を一緒にしないで。......ごめんなさい、でも、私はユウがそんな風に言われるのを許せない」
その子は急に態度が変わったノアに驚いて泣いてしまった。
「うっ....ひっぐ...っ...ごめん...なさい」
「もう怒ってないよ。だから大丈夫」
ノアはその子を抱き締めて諭している。
「...うん」
「そうだ、人間が信用出来ないなら、ユウを見て考えればいい。私達と一緒に旅をして、どんな人なのか見極めればいい。あなたの目で確かめて、あなた自身が決める。時間はあるんだからじっくり決めればいい」
「はい、そうします。ノアさん」
話はまとまったようだ。
何より、表情が少し明るくなってる。
少しは良くなったのかな。そうだと良いけど。
「これからよろしく。えーっと」
「僕は、アイリス。これからよろしくお願いします。ノアさん...と、ユウさん」
露骨に嫌な顔をするなよ。心が折れそうだから。
「よろしくね、アイリスちゃん」
新しい仲間が増えてノアは嬉しそうだ。
まぁ、いいか。これから変わっていけば。
朝から歩いていたが建物の一つも見えない。日も傾いてきてもうすぐ暗くなるだろう。
今日はここで野営かな。
「今日は、ここまでにする。ノアもアイリスも疲れてるだろうから休んでていいよ。見張りはやっておくから」
「駄目。ユウは、まだ病み上がりなんだし、それに治ってないんでしょ」
どうやら見透かされてるようだ。
「分かったよ。でも交代で俺もやるからな」
「ん、よろしい」
こんなやり取りをしていると思い出してしまう。子供の頃の自分を。
まだ、両親が居たときの暖かさを。
このどうしようもない気持ちは、どうすれば晴れるんだろうか。
分かっていることだ。
失ったものは、もう二度と元には戻らない。
だから、この光景は守ろう。自分一人じゃない、この暖かい光景は、二度と失わない。
そう新たな誓いを立てる。
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