貴方に贈る世界の最後に
第18話 力の意味
目の前の状況に頭が追い付かない。
俺は、なにをしたんだ?
「ノアさん!!ノアさん!!」
そう叫んでいるアイリスの声が聞こえる。
ボロボロになったノアに向かって泣きながら叫んでいる。
それと、
「どうした?固まっているぞ?」
と、俺の真下から声が聞こえた。
粉々にしたはずの魔物がしゃべりかけてくる。
「打撃じゃ死なないんだよ。俺は、スライムの最終進化形。体がバラバラになっても死なないんだよ」
「うるさい」
俺は、拳を振りおろす。それだけで、魔物はバラバラになり、洞窟の形が変わる。
「無駄、無駄。お前は俺を倒せない。お前は、仲間を傷付けるだけの化け物なんだよ」
いちいち頭に残る言葉にイラつく。
「消えろ、魔物」
俺は、全力で力を込めて魔法を使う。
イメージは、全てを消し去る炎。ノアが使っていた『ヘル・フレイム』。
突如現れた、黒い太陽に魔物は固まっている。
ノアが使っていたものとは比べ物にならないほどに大きく強い力がこもっている。
「消えて無くなれ。『ヘル・フレイ....」
「ユウ!!待って!!そんな魔法をこんな洞窟で使ったら、ユウも死んじゃう!!」
俺の体にしがみついて止めようとしている。
ノアの体は、まだボロボロで治っていない。
「大丈夫。お前達だけは傷付かないようにしてある。だから...」
俺は、ここで死ぬ。
守るべきものを自分で傷付けた。もし、あの時止めたのがノアではなく、アイリスだったら...確実に殺していた。
俺の手で...殺していた。
「もう、いいんだ。それと、ノア。悪い...約束。守ってやれなかった。じゃあな、俺の事なんて忘れてくれ」
今度こそ、魔法を発動す...
「逢坂紗弥との約束も破るの?...」
誰も知っているはずのない名前を聞いて、固まる。
「ノア...今、なんて言った...」
「...どう?、少しは落ち着いた?」
「何でその名前を知ってるんだ」
「それは...あとで話す。だから、今は...」
「...分かった」
これで、事実を聞くまで死ぬことが出来なくなったな。
気になることだらけだが、今は目の前の敵だ。
俺は、魔法を変化させる。
ちょうど魔物が収まるぐらいまでの大きさまで、『ヘル・フレイム』を圧縮する。
「なんだ、そのふざけだ魔法は!!そんな魔法。あの方でも使えない」
「消えろ。『ヘル・フレイム』」
その黒い炎は、当たったもの全てを蒸発させる。
そんな魔法に当たった魔物は、何も残らなかった。
跡形もなく消えた。
魔法を消して、ノアに近づく。
だけど、ずっと力を開放していた影響で、体が重い。痛い。
ずっと100%の力を使っていたので、ノアから話を聞く前に倒れてしまう。
意識も暗くなっていく。
まだ、やるべき事が残っている...のに...
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
気が付くと、誰もいない村のベットで寝ていた。
近くには、ノアとアイリスが居る。
「ユウが倒れたあと、調べたけど、この村の人は誰も生きてなかった」
「...そうか」
「ユウ、話しておくべき事がある」
いつになく真剣な表情でノアは言う。
「アイリスちゃん。ちょっと外で待っててくれる?」
「は、はい。分かりました」
アイリスが部屋を出ていくのを見て話し出す。
「ノア、何で逢坂紗弥って言う名前を知ってたんだ?」
「私は、『転生者』だから。しかも私は、多分、ユウと同じ世界から転生してきた」
「でも、俺が今まで会った『転生者』は、黒髪だったし、種族も人間だった」
「その事は、私にもよく分からない」
「ノアが、『転生者』ということは分かった。でも、何で逢坂を知ってるのかが分からない」
「有名人だったんだ。逢坂紗弥は、《ランキング》で一位を取っていたから。その影響で、ユウの事も調べられていた。だから、ユウとその逢坂って人が関わりがあるって分かっていた。あの時のユウを止めるには、この名前を出すしかないと思ったから、そうした」
確かに、あの時の俺は少しの事では止まらなかったと思う。
...俺は、ノアに助けられたのか。
「だいたい分かった。...それと、ノア」
「ん?何?」
「ごめん。謝って許して貰おうとは思ってない。でも、謝らないといけないと思う。それに、俺は約束を破ろうとした。ノアに助けを求めなかった...だから、ごめん」
お互いに守り合う。そんな約束をしたのに俺は守れなかった。
そんな俺は、何を言われても言い返せない。
それなのに、ノアは...
「あの時のユウはおかしかった。でも、私は傷ついた。それに、怒ってる」
「...」
「だから、私はユウにお願いする」
何でも聞く覚悟はできている。もう、ノアにもアイリスにも近づかないでと言われたらそうしよう。
「もう、約束は破らないで。それと、自殺しようなんてしないで」
ノアの顔を見ると目に光るものがあった。
「もう、一人になるのは嫌なの。私を置いてかないで!!一人にしないでよ!!それに、いつも無茶ばっかりして、私がどれだけ心配してたのか分かってる?ユウが死んじゃったらって考えたら、胸が張り裂けそうだった。どうして、私に頼ってくれないのかって考えて、辛かった。さっきも一緒に戦おうって言って欲しかった」
俺が気づかなかったノアの本音をぶつけられる。
「私の力が足りないんじゃないかって思った。一緒に助けあおうって約束したのに忘れられちゃったのかと思った」
俺は、今まで何を見ていたんだろうか?俺は、ノアの気持ちに気付いてやれなかった。
本当のノアを見てなかった。
ただ守るべき対象だと思って見ていた。
「だから...だから、これからは私をちゃんと見て。一緒に戦って。私を一人にしないで」
「ごめん、もう、大丈夫。目が覚めた」
目の前で泣いている少女を抱き締める。そして、意識を改める。ノアは、守るべき対象ではなく、一緒に戦う仲間だと。
「ユウ...お帰り」
「ただいま...ノア」
また新しい一歩を踏み出す。
今度は、二人一緒に...
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