貴方に贈る世界の最後に

ノベルバユーザー175298

第20話 力の振るい方


 この状況はまずい。
 なにもしなくても目立っていたのにこんなことをすれば...

 「こっちです。ギルドマスター。早くしてください」

 受付の人がここのギルドマスターを呼んで来た。

 ギルドマスターをやっているってことは、かなり力のある人のはず。
 しかも、ここは最初の街とは違う王都だ。そんな人間が普通なわけがない。

 そして、姿を現す。
 かなり歳をとっているように見える、老人。
 耳が長いからエルフなんだろうか?

 なんと言っても、ギルドマスターが来た瞬間から、周りで騒いでいた冒険者達が怯えている。まさに、ギルドマスターって感じだ。
 どこかの子供のギルドマスターとは違って威圧感がある。

 「騒ぎとはこれの事か...本来ならただの騒ぎにワシが出ることはないんじゃが...これでは、そうも言ってられんな」

 この現状を見てギルドマスターは言う。

 まぁ、誰が見ても異常・・だろう。

 「こんな面白い事をしたのは誰かの?」

 「「「「「......」」」」」

 この場にいる全員が黙りながらも、こちらに目を向けてくる。

 「この者達か...面白いな」

 うわっ、絶対面倒臭い事に巻き込まれるやつだ。

 「話を聞かせてもらう。こちらまで来い」

 もう、ついてくしか選択肢が無いので仕方なく部屋に行く。
 なんか、ギルドに入る度にギルドマスターの部屋に行ってる気がするのは、俺の気のせいだろうか?

 部屋まで連れてこられる。

 そしてまた、扉を開く。
 足を一歩踏み入れた瞬間。

 先に入っていた、ギルドマスターの姿がぶれる。
 そのぐらいの速さで動いて、しかも俺に向かって殴りかかってきた。

   パリーン

 と、俺の前で氷が割れる音がした。

 力の開放が間に合わなかった俺の前に、ノアが魔法で氷の壁を作って守ってくれたのだ。

 「ユウに何をするつもりだったの?あの力だと死んでもおかしくなかった」

 ノアが魔法で作った壁は、一メートルぐらいの厚さがあったにも関わらず、完全に割れていた。
 確かに普通の人間がくらったら死んでいただろう。

 「ガッハッハッハ。ワシの力を防ぐ程の魔法か...本当に面白くなってきたのう」

 もしかしたら、俺達の事がバレているのかもしれない。
 街から情報が来ていて、俺達を捕まえる為に攻撃してきたとか...

 いや、目の前の爺さんを見てると楽しんでいるだけのように見える。

 「それと、そこの少年。面白い目をしてるのう」

 そう言われてから気付く。
 自分の目が赤くなっていることに、無意識に力を開放していることに。

 力を開放しなければならないほどの強さをこの爺さんは持っている。

 「さぁ、長い間退屈で死にそうなんじゃ、お前達は、ワシを楽しませてくれるよな」

 完全に戦闘抂の目をしている。
 戦うことだけにしか楽しみを感じられない、そんな目をしている。

 「このジジイ、狂ってる。気持ち悪い」

 と、ノアまで暴言を吐き始めた。

 「エルフにも、怖い人がいるんですね。この人怖いです」

 アイリスも、そんな事を言っている。

 可愛いい女の子二人からの精神的な攻撃に爺さんもかなりのダメージを受けていた。

 「......」

 爺さんが黙っている。
 そして、なんか泣きそうになっている。

 女性関係で昔何かあったんだろうか?かなりのダメージが爺さんの心に刺さっている。

 「おい、爺さん。泣くなよ、大丈夫だってきっといつか良いことがあるから」

 「...おお、そうかのう、そうか...」

 「もう年齢が...」

 と、アイリスが爆弾を落とす。
 爺さんは、その言葉に固まって動いてない。
 ...もしかして、アイリスに言われたショックでお亡くなりに...

 「フッ、フッ、フッ、ハハハハ」

 遂に爺さんの心が折れたようだ。色々と壊れてしまったようだ。

 そんなときに、止めが刺さる。

 「「うわっ、気持ち悪い」」

 と、きれいに揃った二人の声が...

 「ガハッ...」

 爺さんは血を吐いて倒れた。そして最後にこんな言葉を残して。

 「少年よ...お前だけは許さない」

 と、残して。

 「いや、何でだよ」

 「羨ましいからじゃ、この男の敵が。一回殴られろ」

 「ふざけ..」

 高速で爺さんが飛んでくる。
 そんな恐怖映像が俺の目の前で流れている。

 俺は、力を開放して避ける。
 今は30%ぐらいを維持しているにも関わらず、爺さんは俺のスピードについてくる。

 速い。
 俺の30%の速さを上回っている。
 こんな奴がいるのか、異世界には。

 「少年。お前、今まで何をしてきた?」

 「は?何言ってるんだ?」

 「そんな力は、普通には手に入らん。その若さでどれ程のものを犠牲にしてその力を得たんだ?」

 目の前にいる爺さんは、俺の事をしっかり見ていた。
 化け物、と呼んだ周りの奴とは違って...

 「犠牲...か」

 確かに色々なものを犠牲にした気がする。
 ...でも、それは力を手にいれた後の事。何で俺がこんな力を持っているのかは自分でも分からない。

 もしかしたら、俺は何かを犠牲にしてこの力を得たのかもしれない。

 「さぁ、何を犠牲にしたらこんな大きすぎる力が手には入るんだか、俺にも分からん」

 「そうか...まぁ、今はどうでもいい話じゃ。お前と戦う。久しぶりにワシとまともに戦えそうだからのう」

 そう言って爺さんは突っ込んでくる。
 俺は何とか避ける。さっきより爺さんが速くなってる事に気付く。

 「まだ避けるか、ステータスを10倍にしてるのにのう。お前もワシと同じような能力か」

 「さぁ、どうかな」

 今回は、ヤバいかもしれない。
 俺は避ける事しか出来ない。力を調整しながら爺さんよりも速く動いて避けている。
 今は、45%を使っている。


 「お前、もしかして攻撃出来ないのか?ワシより速くても攻撃しないと勝てないぞ」

 「まぁ、色々あってな」

 「そうかのう、じゃあワシが教えてやろう。力の使い方を...ステータス...30倍」

 爺さんの姿が見えなくなる。
 俺の45%の力でも見えない。

 そして、

 「ガッ...」

 腹に爺さんの拳がめり込んだ。
 重い一撃をくらう事になった。

 「立て。お前、そんなだと大切な人も守れないぞ」

 「ガハッ...」

 また一撃をくらう。
 今は、どうこう言ってる場合じゃないな...
 力を使いたくはない。50%を超えると制御が出来なくなる時がある。

 だから、使いたくはなかったけど...今は、今だけ...

 ...100%


 俺は一瞬で爺さんの目の前に行き、拳を振る。
 そして、寸止めした。

 風圧だけで、爺さんは吹っ飛んでいった。

 「そんな、力を...どうやって...」


 そう言って爺さんは倒れた。

 俺は、心の中で安心する。
 力を使ったけど殺すことは無かった。それは、爺さんが丈夫だったこともあるけど、力に飲まれずに、制御できた。

 少しだけたったけど、人に攻撃できた。


 これは、俺にとって大きな一歩だ。

 震える手を握りしめて俺はそう思った。

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