貴方に贈る世界の最後に
第11話 異世界の闇
変な宿屋から出ると、清々しい青空が広がっていた。
あの宿屋のことは受付の人に問い詰めるか。
そう考えながら、ギルドに向かう道を歩いていると、前のほうから馬車が通ってきた。
ここの道はそこそこ広いのですれ違うことは出来るだろう。
ガタガタガタ
俺の横を通り過ぎる馬車。
ふと、思う。あの馬車は何を運んでいるのだろうと、振り向いて確認する。
....おい。これは...
馬車の中身。それは、
人間、だった。
開いている隙間から中の様子が見える。
馬車の荷台に居るのは一人だけでも、その様子は普通では無かった。
両手両足を固定され、磔にされている。
体は痩せ細っていて、その瞳には光が無かった。
くそ、この世界には、奴隷が居るのか。
何より、その子の瞳の色が赤色だった。
それは、ノアと同じ色...つまり、魔族だという証拠。
なら、なおさら助けに行かないと
そう思って走り出す...が止められた。
ノアに...
「本当に行く...の?」
「あぁ、俺はあの子を見捨てられない」
「...奴隷というのは、国で管理されてるの。その奴隷を助けることなんてすれば、この国を敵に回すかもしれない」
何を言っているんだ?俺は、
「俺は構わない。国を敵に回してでも助ける。俺はこの世界に来るときに決めたんだ、困ってる人を助けるって」
「分かってる、でも...」
「俺は、何があってもあの子を助け..」
「私は!!ユウに傷付いてほしくないの!!私の時は良かったかもしれない。でも、今回は違う。国を敵に回すことになったら死んじゃうかもしれない」
「だけど..」
「たけどじゃない!!!私は、もう...もう一人になりたくない。ユウが居なくなったら私はどうすればいいの!!」
ノアは、服をぎゅっと掴んで、涙を流していた。
始めてノアに怒鳴られた。
ノアが思っていることは、少し分かる。人間に見捨てられ、森の中でただ一人で100年間過ごす。その辛さは俺には分からない。だけど、知っている人が傷付くのが見たくない、その気持ちはよく分かる。
ならば、俺がやるべきことは...
「ノア、俺は行く」
「!!!...ユウは私を..」
「ノア、俺と一緒に来てくれないか?」
二人で一緒に助けに行く。そして、三人無事に帰ってくる。
「俺が無茶しそうなら止めてくれ。だけど、ノアが危ない目にあったら全力で助ける。それは、最優先事項だ」
「うん、じゃあユウが危ない目にあったら私が全力で助ける。...それで、いいかな?」
お互いがお互いを助ける。
...決まったな。
「よし、それじゃあ行こうか。ノア」
「行こう、ユウ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ガタガタガタ
揺れ動く馬車の中で考える。
「何で捕まったんだろう?僕が魔族だから?それはおかしい。僕達は人間に危害を加えたことがない。数百年前からずっとそれは禁止されていた。」
魔王様の...お父様の手によって。
お父様はよく言っていた。
「人間と我々は共に生きることが出来る。言葉を交わして、仲良く笑うことが出来る。あの馬鹿な奴みたいに」
と、お父様は笑いながら言っていた。
そんなお父様に僕は憧れていた。優しくて強い。力だけじゃない本当の強さを持っているお父様はかっこ良かった。
僕もそんな風になりたいと自然に思えた。
だから僕は、人間と話してみたいと思った。お父様が思う、人間との共存の為に。
魔王城をこっそり抜け出して、人間を探した。僕が人間と仲良くなっているのを見ればお父様の夢を現実に近づけることが出来る。
...そう、思っていた。
その夢は遥か遠くにあるのだと思い知らされた。
やっと人間達と出会った。
だけど、人間は僕を見て
「赤い目。お前、魔族か。何でこんなところにいる」
「僕は、あなた達と仲良くなりたいんです」
僕の目的を話す。
「ふっ、ハハハハハ。ふざけるな!!お前ら魔族がやったことは忘れない。そうやって人間に近づいて殺していくんだろ!!」
「そんな事...な」
「じゃあ帰せ!!俺の妻と子供を帰せ!!家族を帰せ!!」
憎しみの感情がぶつかってくる。
「僕達はそんな事していない」
「ふざけるな!!もういい俺の目の前から消えろ魔族」
襲いかかってきた。本当に殺す気で。
僕は逃げることしかできなかった。人間に憎悪をぶつけられて怖かった。
足を斬りつけられた。魔法を使ってなんとか逃げることが出来たけどもう動けなかった。
あんな怖い目を向けられたことは始めてだった。
僕達は、なにもしていない。それなのに恨まれていた。意味が分からない。
「どうして、こんなことに...」
「あの、大丈夫ですか?」
不意に声がかかった。色々考えていて気づかなかった。
「へ?」
「怪我をしているじゃないですか。治します」
その人間は、僕の傷を治してくれた。
もしかしたら本当にいい人間も居るのかもしれないと思った。あの時は思ってしまった。
「僕は、魔族なんですよ。こ、怖くないんですか?」
「怖くないよ、だってあなた、可愛いじゃない」
「え?」
「女の子なのに僕って言ってるなんて面白いわ。それに、長くて綺麗な金色の髪。同じ性別なのに嫉妬しちゃいそう」
確かに僕は、女として生まれた。だけど、お父様みたいになりたくて言い方を変えていた。
「そんな事...」
「そうだ、一緒に来ない?あなたとなら楽しくなりそう」
この人だ、そう思った。
お父様が言っていた、共存の可能性。
だから、この人に付いていって確かめよう。人間が本当はどんなものなのか、ということを。
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