貴方に贈る世界の最後に

ノベルバユーザー175298

第4話 森の中で


 ポタッ....ポタッ....

 俺は、自分の腕を見て、あぁ、これは、ヤバいなと思う。
 
 噛まれたところの血が止まらないのだ。
 どうやら思ったより傷が深かったようだ。
 俺の足元に血だまりができていく。

 それに、力を解放した反動もあるようで足に力が入らなくなっている。
 そして、意識が朦朧としてくる。

 「じっとしてて、ユウ」

 するとノアは、俺の腕の怪我を舐め始めた。
 目の前が白く霞んできた俺は、突然の事に意識が戻ってくる。

 「なっ...何して」

 「んっ...ふっ...ユウ...んっ...こくん...おいしい」

 腕に舌のくすぐったい感覚と少しの痛みが走る。
 それと今、俺の血を飲んだように見えたんだが...

 「あれ、今、俺の血を...」

 「違う...んっ...傷を...ん...治してるだけ」

 舐め終わったノアはどこか艶っぽくなっていた。
 そして、気付くと傷が綺麗に消えていた。

 「本当だったな、こんなに綺麗に治るのか」

 まだふらふらとするが、傷は完全に治っていた。
 異世界だから何でもあるのかとそう思うことにした。

 そして、ノアは何か言い辛いようにチラチラと俺を見ながら、言葉を放つ。

 「あの...ユウ..その...傷のこと..ごめんなさい」

 怒られると思っているのだろうか?
 ノアは、今にも泣きそうな様子で謝ってくる。

 「別に気にしてないよ、治してくれたし」

 そう言って今度こそ頭を撫でてやる。
 さらさらとした手触りで気持ちいい。

 そうするとノアは、気持ち良さそうに目を細める。

 「うん...ありがとう...ふふっ」

 まるで猫みたいだ。しかし、こうやって見てると普通の可愛い女の子にしか見えないな。
 やはり、誰かの笑っている顔を見ている方が落ち着く。

 しばらく、そんな幸せな時間を堪能したあと、ノアが質問してきた。

 「そう言えばユウは何でそんなに強いのにあんな怪我したの?」

 ノアは、そんな疑問をぶつけてくる。

 「いや、力を使えば、噛みついたノアの方が怪我してたかもしれないから...」

 隠してもしょうがないので本当のことを話す。
 実際、俺は、過去にあの事があってから人に力を使うことが出来なくなっていた。


 「!!...ふふっ、ありがとう♪」

 そう言ってノアが抱きついてくる。

 「お、おい」

 ふわりと、女の子の匂いがする。
 見た目が普通に美少女なのでこういうことをされると困ってしまう。

 「ふふ~ん♪」

 すりすりと顔をこすりつけてくる。
 本当に猫みたいだ。

 ノアが嬉しそうにしている。その様子を見ると俺も嬉しく思う。
 これが友達というものだったのだろうか...

 一年間ずっと一人だったからな、そんな感覚忘れてしまった。

 そんな普通の時間を過ごしてからしばらくして...


 知らなければいけないことを聞いてみることにした。

 「ノア...大事な話があるんだ」

 ノアの両肩に手を置いて俺と向き合うようにする。

 「ん?...えっ」

 驚いているようだが聞いてもらわなければならない。
 まずは、俺がこの世界の人間では無いことを伝えることだ。

 「ノア...落ち着いて聞いてくれ...実は俺は...」

 緊張してしまう、この事を聞いたら離れていくかもしれない。
 そう思うと、次の言葉がなかなか出てこない。

 「えっ...ユウ、待って...まだ心の準備が」

 向き合っているノアは、何故か顔を赤くして、もじもじしている。

 ...心の準備?ん?なんだこの状況。ちょっと待て、考えろ。

 まず俺が大事な話があると言って....
 あれ?これって周りからみると俺が告白するみたいな感じじゃないか?まずい、誤解を直さないと。

 「ノア...ちょっと待て、大事な話というのは..」

 「私は、ユウはいい人だと思う。こんな私のために全力になって助けてくれようとしてくれてる。今まで、そんな人間は、お父さんとお母さんぐらいだったから、本当に嬉しくて...だから私はユウのことが好き...なのかも知れない」

 そんな事を言ってくれる。

 「ねぇ...ユウは私のことどう思ってるの?」

 こういう質問は困るんだけどな。
 いや、確かに可愛い、前にいた世界の人と比べても圧倒的だろう。

 それに、ノアを見てこう思う。

 「こんな可愛い子が、腕を舐めたり、抱きついたりしてきて嬉しくないわけがないしな」


 ノアの顔がみるみる赤くなっていく。


 「...え?」

 「あれ?...もしかして声に出てた?」

 「ユ...ユウのバカーーーーーー」

 そう叫ぶと、ノアはすごい早さで森の奥の方へ走っていった。

 「や...やらかした...はぁ~」

 溜息と共に魂も抜けそうだ。
 ...とりあえず、後を追うか。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 「ユウのバカ、バカ、バカ...かっ..可愛いなんて言われたこと無かったのに...皆、私を化け物だって言ったのに」

 さっきのことを考えると顔が熱くなるのが分かる。

 ユウは、私に普通・・に接してくれた。
 吸血鬼だと知っても私に歩み寄ってくれた。
 こんな私を守ってくれると言ってくれた。

 あの時からユウの近くにいるとドキドキする。
 心臓の鼓動が早くなる。

 それと同時に不安もあった。
 ユウが私をどう思ってるのか考えるとモヤモヤする。

 思い切って抱きついたりしても、反応が薄かったし私のこと嫌いなのかもと思ったし、守ってやると言ってくれたのも、私をこの森から出してくれるという約束があるからかもしれないと考えてしまう。

 だけど、ユウは可愛いと言ってくれた。
 お父さんとお母さん以外の人に初めて言われた。
 まだ心臓が高鳴って止まらない。
 こ、これは少なくとも嫌いじゃないってことだよね。

 「はぁ~...何で逃げてきちゃったんだろ...あれ?ここってもしかして...」

 気が付くと私は、この森で一番危険な場所にいた。
 ここの【封印の森】の守護者の領域。






   ドン...ドン...




 あの足音が近づいていてくる。
 《封印の守護者》の足音が...

 「に、逃げなきゃ」

 だけど足が震えている。体が怯えている。

 昔、私はこの森から出るためにアレに挑んだことがある。
 でも私の得意だった魔法は、全く効果がなかった。
 どんな魔法を使ってもアレに当たった瞬間に消える。

 魔法使いすぎて倒れた私をアレは、無慈悲で感情のない目で見る。そして、私を潰した...何度も何度も...体の傷は再生する。でも、その痛みと恐怖は今も残っている。




  ドスン...ドスン...




 「はぁ..はぁ...はぁ」

 恐怖で呼吸が早くなる。
 手が震える。
 "アレ"の足音が近づく。

 そして、その全体像が姿を現す。
 全身が硬い鉱石で創られ、10メートルの巨体を持つ《封印の守護者》"ゴーレム"

 その体に、魔法・・は通じない。

 人間の力を遥かに越える吸血鬼の力でも傷ひとつ付けられない。それに、魔法が効かないその体は、私をこの森から出さないために創られたものだった。

 私はただ、震えてることしかできなかった。





   ドスンドスンドスン




 目の前まで来たそれは、大きく手を振り上げる。
 この森から出ようとした罰を与えるかのように。

 「あ....あっ」

 唇が震えて声がでない。
 そして、私に向かってその巨大な手をふりおろす。

 .....助けて。



 ドカァァァァァン




 ノアの居た場所が平地に変わる。






 ......ふわっと、体が浮く感覚があった。

 「ふぅ...危なかった。遅くなって悪い、ノア」

 とそんな声が耳元で聞こえた。

 「...ユウ?」

 ぎゅっと瞑っていた目を開くと、そこにはユウが居た。

 助けにきてくれた。
 ちゃんと守ってくれた。

 「もう、大丈夫だ」

 そう言われて、さっきまでの恐怖が消えていく。

 いわゆる、お姫様抱っこという体制でユウに抱えられている。
 こんな状況なのに、嬉しくなってしまう私がいる。

 「ノア、ちょっと待っててくれ。あいつをぶっ飛ばしてやるから」

 そう言って走り去っていくユウを追いかけようとしても、腰が抜けてしまって動けない。

 走っていった彼の背中は、すごく頼もしく、なによりかっこよかった。

 「...頑張って、ユウ」

 私の大切な人...




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 流石、異世界。
 こんな奴も居るのか。

 「さて格好いいとこ見せないとな」

 拳を握って気合いを入れる。
 相手は10メートルのゴーレム。

 取り敢えず小手調べだ...30%ぐらいでいいか。

 今までで一番強く、力を解放する。

 「さぁ、勝負だ。お前の力と俺の力がどっちが強いか」

 大地を蹴る。
 蹴った大地がまるで爆発したように砕ける程の力を使う。

 そして、一瞬でゴーレムの体にたどり着く。

 「ぶっ飛べ」

 拳に力を入れて、ゴーレムで一番硬いであろう同体の部分を殴る。

 そして、拳がゴーレムの体に当たると、ベキッ、ベキベキと大きな亀裂がはいる。

 俺の全体重を乗せた一撃。
 ゴーレムは、殴られた反動で後ろに倒れていく。


 ゴドォォォォン


 森全体が震えるような音が響く。
 地面に倒れたゴーレムの体が砕け散る。

 そして霧になって消えていく...

 「は?」


 『レベルアップしました』


 そんな無機質な声が頭に響く。


 無事に地面に着地した俺は、

 「はっ...ははは」

 殴った自分の手を見て乾いた笑いが漏れる。
 俺の体は傷ひとつ付いていない。

 あんな巨大な怪物をたった30%の力で簡単に倒せてしまった。

 足の力が抜けて膝をつく。

 化け物。そんな言葉が頭に浮かぶ。


 俺はこの世界でも化け物なのか?...



 俺を化け物と呼んだあの世界の人の顔が頭に浮かぶ。
 俺を嘲笑うように。まるで、お前の居場所は、どこにもないと言うように。


 「何でだよ...この世界でも俺は...」

 化け物....


 「...ユウ...何で泣いてるの?」

 後ろから声がかかる。

 「えっ...俺は...別に泣いてなんか」

 いない、と言う前にノアが俺に抱きついた。

 「!?おい...ノア」

 離れさせようとすると、ノアは強く抱き締めてくる。
 絶対に離さないと言わんばかりの力で、俺を止める。

 そして、

 「辛いときは泣いてもいいの、困ってるなら私に話してよ。どんな時でも私だけはユウの味方だから」

 「‼...っ」

 そんな事、言われたことが無かった。

 心のどこかで誰かに言って欲しかった言葉。
 自然と涙が溢れ出てきた。

 その言葉が本当に嬉しかった。
 ストンと、俺の中に取り付いていた重りが落ちるような感覚がした。
 こんな俺でも受け入れてくれる人がいると思うと心が軽くなった。

 俺の中の何かが崩れた音がした。
 目から溢れてくる涙が止まらない。

 「...ごめん、もう少し、このままで居させてくれ」


 「うん、ユウが落ち着くまでずっと側にいるよ」


 「........」


 「大丈夫、私が居るから」


 俺の頭を撫でながら優しい声で言ってくれる。


 俺はその日、初めて声をあげて泣いた。







 優しく、ゆっくりとした時間が流れる。







 そんな時間がしばらく流れた後、

 「...もう大丈夫だ、ありがとう」

 「うんっ」

 そうやって笑うノアは、どこか嬉しそうだ。

 「恥ずかしいところを見せたな」

 「ふふっ、可愛かったよ、ユウ」

 「くっ」

 また弱みを握られてしまったようだ。



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