貴方に贈る世界の最後に

ノベルバユーザー175298

第3話 願いごと

 魔法陣の光が消え、目覚めるとまたあの部屋にいた。
 白く塗りつぶしたような部屋。

 「よう、一年ぶりだなロリ神」

 一年前と同じ真っ白な空間。
 そして、そこに似合わない豪華な椅子。

 また、俺はここに来た。
 いや、来ることが出来たのだと実感する。

 だけど、今回の目的は願いを叶える事だ。
 そして、待ち構えていたようにロリ神が話し出す。
 その姿は一年前と全く変わらない、子供のままだった。

 「如月悠、待っていたのだ、ついにこの時が来たのだ~」

 そう言うとロリ神に黒い霧のようなものがかかった。
 ロリ神は、抵抗することもなくその場に居るだけだ。

 そして、ロリ神が黒い霧に覆われた。

 『よくぞ、ここまでたどり着いた、人間よ』

 ロリ神では無い、何かが問い掛けてくる。
 ロリ神の見た目で低い声が出ていることに違和感を覚えつつも、俺は問い掛ける。

 「お前もこの世界の神か?」

 『そうだ、私がお前の世界を変えた。なかなか面白いものになっただろ』

 「あぁ、俺以外はそうかもな。この世界で俺は化け物だったから」

 「化け物」と、逢坂以外は俺をそう呼んだ。
 俺から避けていった。

 『人間とは、愚かなものだな』

 俺の心を読んだのか、そんな声がかけられる。

 いや、この世界で俺が異端者だったからだろう。
 俺が普通だったら周りも変わらなかっただろう。
 普通......だったら良かったけどな......

 「だから俺は、もうこの世界では生きられない、周りを怖がらせるだけだからな」

 『そうか......それでは本題に入ろう。何でもひとつだけ願いを叶えてやる、さぁ、お前の願いはなんだ』


 俺は願った。
 もし、願いが叶うなら......

 こんな俺が普通に暮らせる世界に行きたいと。

 例え、この力が周りに知られても怖がられない世界でもう一度人生をやり直したいと。


 俺は、この世界での心残りは無い......とは言えないが、逢坂にもう迷惑は掛けられないし、俺みたいな奴がこの世界に居ても迷惑だろう。

 『......いいだろう、この世界で頂点を掴んだ者よ、その望み、叶えてやろう』

 ロリ神の姿をした神は俺に手を向けた。
 すると、俺の足下に魔方陣が出てくる。


 そして光が部屋を埋め尽くした。

 『新しい世界で自由に生きるといい、本来の人間は、弱い生物なのだから』




 新しい世界では、今度こそ普通に生きよう。
 


 そして、俺のように困っている奴が居たら、この力を使ってでも助けてやろうと



 俺はそう決心する。




 さぁ......もう一度やり直そう。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ......ここは、どうやら異世界のようだ、なぜなら今、雲の上からスカイダイビングを経験しているからだ。
 そして、俺の下には広大な森が広がっている。

 俺の世界では見渡す限りの森なんて無かった。
 周りにあるのは、人間が作った安全な建物だけ。
 こんな景色は、見たこと無かった。

 いや、それより現在、ものすごいスピードでパラシュート無しのスカイダイビングをしているのだが......どうしよう。
 このままなにもしなければ普通に地面と一体化する羽目になるだろう。

 そんな事を考えていると地面がもうそこまで来ていた。

 「くっ......仕方ない」

 地面と一体化するなんて嫌なので、俺は力を解放した。
 世界が遅くなって見える。
 これは、走馬灯と言うやつだろうか?

 地面はすぐそこだ。
 俺は地面に着く前に自分の下の空間・・を殴った。


 ゴオオオオオオオオ


 と、ものすごい風が吹き荒れる。

 周りの木々はなぎ倒されるほどの風圧。俺は、その反動と風を使って上手く着地した。


 ......ただ、そこが隕石でも落ちたかのような地形になったことを除けば綺麗な着地だっただろう。

 まぁこれは、自分が助かるためには仕方ない事なんだと自分に言い聞かせ、先に進む。

 森の中を歩いてみて、改めてここは異世界なんだと思った。
 見たことの無い紫色の植物。見馴れない虫。
 ここはもう、俺の知っている世界では無いことを感じ取った。

 しばらくその森の中を歩いていると......

 透明で小型犬くらいのゼリーみたいにプルプルしているナニカ、と言うか、見た目からして絶対スライムだろうと思うやつが草の間から出てきた。

 スライムは、グニャリと身体を歪ませて、すごいスピードで体当たりしてきた。

 「うわっ!」

 急なことで対応が出来ず、体当たりを食らってしまう。
 しかし、そのスライムは悲しいことに俺の体に当たると、

 「ぴぎゅ」

 と鳴いて霧みたいになって消えていった......

 「あ...何か、ごめん」

 居なくなったスライムが少し可哀想に思える。

 確かにゲームなどではスライムは最弱モンスターとして知られているがこういう倒しかたをするとスライムに罪悪感を抱いてしまう。

 そう、今もこうやって歩いている時に

 「ぴぎゅ」

 「ぴぎゅ」

 とスライムが現れては突っ込んで来るのだ。

 「もう、やめてください...スライムさん」

 俺の心からの叫びだった。
 そうして三匹のスライムを倒した?ところで、どこからか声が聞こえた。

 『レベルアップしました』

 周りを確認する。
 だけど今、居るところには俺以外はいないはず......


 そして、レベルアップ?

 はっ!!、もしかして俺は、ゲームの世界のようなものに来てしまったのか?

 ふと思い付いたことをやってみることにした。もしこれに失敗したら......心のダメージが大きい。

 しかし、確認しなければならないことだ。

 大きく深呼吸して、言葉を放つ。

 「ステータスオープン!!」

 そう叫ぶ。

 「.......」

 だが、沈黙が辺りを包む。

 すぐそこに居たスライムが哀れんだ目で俺を見ている気がする。

 そして、ズルズルとゆっくり俺から離れていった。

 「....うわぁぁぁぁぁぁぁ」

 ここまで条件が揃っていれば出来ると思ったのに。
 スライムにも、どん引されるとは......心に大ダメージを負った。

 まぁ唯一の救いは周りに誰もいなかったことだな。
 と、その時。

 「...ぷっ....くふふっ..」

 木の影から声が聞こえた。
 俺の声ではない誰かの声だ。

 「誰だ?」

 音がする、その木の後ろを覗くと、

 銀髪で隻眼。どこかの物語から飛び出してきたような、まるで人形のように可愛い女の子がうずくまっていた。


 すると、

 「くふ...ふっ..あははははは、もうダメ。真面目な顔して...ぷふ..ステータスオープンって...くふふ...」

 その子は可愛く笑う。

 「くっ...まさかさっきの...」

 自分の顔が赤くなるのが分かる。
 どうやらこの子には、さっきのシーンを見られていたようだ。

 はぁ......深い溜息がでる。

 「....あははは、ダメ...はぁはぁ、お腹痛い」

 その子はお腹を押さえてまだ笑っている。
 まずいこのままでは俺が恥ずかしさで死んでしまう。

 「お願いします。何でもするので忘れて下さい」

 と、土下座で頼んでみる。
 土下座なんてしたのはいつ以来だろうか?

 ああ、思い出した。逢坂を怒らせた時、許してもらいたくてこうしたんだっけな。

 何でもする。そう言うとその子はピクッと反応した。

 「今、何でもするって言ったね。そういうことは、簡単に言っちゃダメなんだよ人間さん♪」

 嬉しそうな顔をしてそう言った。

 「久しぶりにあんなに笑ったな~何でもしてくれるのか、ふふっ、どうしようかな~」

 その子は小悪魔的な笑顔で笑う。

 自分のでまいた種だが、どうやら厄介なことになったな。
 今後の発言には気を付けなければ...ここは異世界だから。

 「うーん、じゃあ人間さん。私をこの森から外に出してくれない?私はこの森から出られないの、お願い」

 可愛いらしくお願いしてくる。
 なんか普通のお願いで良かったー。
 俺は、心の中でそんな事を思っていた。

 「私のお願い聞いてくれたら......うーん、人間さんにも何でも一回だけ、お願いを叶えてあげる♪」

 その子は不適に笑う。

 冷静になって動揺しないようにしなければ。
 ここでは何が起きてもおかしくないから......

 「分かったよ、何でもすると言ったからな」

 「やったーー」

 まるで子供のように、可愛くはしゃぐその子を見ると、この世界は平和なんだと思ってしまう。

 「えっと、じゃあ早速、お願いだ。君のことを教えてくれないかな?」

 そうお願いしてみる。

 「!?」

 その子は驚いているようだった。

 「どうした?」

 「そんな願いでいいの?何でもなんだよ、もっと......男の人間ならごにょごにょ......とかじゃないの?」

 途中よく聞こえないところがあったがだいたい想像がつく、確かにこんな可愛い女の子が何でも叶えてくれると言ったら......まぁ普通ならそうなると思う。

 俺は、同性が好きとかゆう特殊なことがあるわけでもなく、普通に女の子が好きだ。

 だけど...俺にそんな事言う勇気は無いから。チキンだから、俺にはそのお願いのハードルが高すぎる。

 だから普通のお願いにした。


 「俺は、君のことを知りたいだけなんだ」

 「ま、まさか、人間さんは女の子に興味が......」

 「そういうことじゃない、俺は心配なんだ。こんなところに一人でいる君のことが」

 「...心配...ね」

 そう呟いたその子は、複雑な顔をしていた。


 そして、ポツポツと話し出す。

 「...私は...ここに閉じ込められてるの」

 こんな森で一人しかいないから、なにかあると思っていたが、閉じ込められている?
 たった一人で?

 「それは、どうして?」

 「...私が化け物だから...」

 「!!」

 その言葉は俺の心にひどく突き刺さった。

 「化け物...か」

 そして、その子はなにかを決心して喋りだす。

 「私は...普通じゃない力を持っているから、周りにいた皆が怖がって私を化け物だと言って、ここに無理矢理、封印されたの...私は、人間の間に生まれた吸血鬼だから」

 口を開けて普通の人間ではあり得ない程尖った歯を見せる。
 これが、他人とは違うものだと、主張する。

 「それでも両親は、私の存在を隠しながら育ててくれた。だけど...ある日私の村が魔物に襲われたのが切っ掛けで私の存在が、周りにばれてしまったの」

 過去の話をその子はしゃべり続ける。

 「そして、村が襲われたのが私が魔物を呼んだから、とその村の村長はそう言って私を殺そうとした。でも、私は死ななかった。どんな傷をおっても直ぐに治ってしまったから、だから殺せない私を封印するしかなかった。この危険な森に...ということがあってから私はこの森にずっといる、100年前から...ずっと」

 その子は話し終える。

 「分かったでしょ、私は化け物なんだ、だから...」

 「俺には普通の可愛い女の子ににしか見えないが」

 そう言って、その子を安心させようとして、頭を撫でようと手を出すと、

 「ぐっ」

 腕に噛みつかれてしまった。
 鋭い歯は、俺の皮膚を簡単に貫き、傷付ける。
 ぽたぽたと腕から血が流れていく。

 「...これでも私をそう言えるのか?私は、人間なんて簡単に殺せるんだぞ」

 そう言っている言葉とは反対に、この子の足は小さく震えていた。

 「そうだな、簡単に殺せるかもしれない」

 血が止まらない自分の腕を見てそう思う。

 だけど、俺は思ってしまったんだ。
 昔の俺と同じように苦しんでいるこの子を助けたいと、


 「じゃあどうして...私を怖がらないんだ...私は化け物なんだぞ...お前もあの村長みたいに私を...」

 「約束。したからな、この森からお前を外の世界に連れてってやるって」

 「どうして、他の人間達は私の正体を知ったとたんに怖がって私を封印したのに」

 この子はやろうと思えば村の人間達だって殺すことができただろう、だけどそれをしなかったこの子はまだ、優しい心を持っているからだ。




 なら...助けてみせる...完膚なきまでに。




 「怖くないな、なぜなら俺は...」

 俺は、近くにあった3メートルぐらいある岩を力を少し解放・・して殴った。


 ドカァァァァン 


 と森全体に響く音がした。
 俺の放った力で岩は粉々になり、その後ろにあった木も何本か
折れ、そこには道が出来ていると思うほどの直線が出来ていた。

 「なぜなら俺は...普通の人間だからな」

 そう笑いながら言ってやった。

 「!!.....ぷふ..ふふ...あははははは、普通の人間...か
..普通はそんなこと出来ないよ」

 と目に涙を貯めながら笑っていた。

 やっぱり笑っていた方がいいだろう。
 誰かと一緒に....そう、信頼出来る人と。

 だから...俺は、この子の側に居よう。

 「俺はお前を見捨てたりしない、絶対に」

 「...うん」

 「誰が何と言おうが俺だけはお前の味方でいる、守ってやる」

 「...うん」

 「だから周りなんて気にしないで、これから自由に生きるんだ
お前を縛るものなんて俺がぶっ飛ばしてやるから」

 「うん...ありがとう人間さん」

 「如月 悠、俺の名前だ」

 「きさらぎ ゆう...」

 「そうだ、それで君の名前は?」

 「...ノア、私はノアって言うの」

 「これからよろしく...ノア」

 「よろしくね...ユウ」



 ノアは、今までで最高の笑顔で答えた。







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