双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-

八木山蒼

第66話 王の戦慄

「グオオオォォォォォォォーーーーーッ!」

 王が咆哮を上げる。その声はまさしく獅子そのものだ。
 その声に応じるがごとく王の周囲から影が起き上がる。真っ黒な、影で出来たライオンが無数に出現した。

「ガァッ!」

 短く吠える。同時に影のライオンたちが一斉に飛び掛かってきた。1つ1つに強い魔力が込められている、1体でも攻撃を許せば致命傷になりかねない。

「【フラッシュ・ポーズ】ッ!」

 俺は光魔法を撃ち放った。俺の全身から放たれる光は破邪の光、闇に対し強い効果を発揮する。だがこの影の獅子に対しては動きを鈍らせるのにとどまった。

「【ディスペルアロー】!」

 すかさずサリアが動く、放たれたのは魔力の矢。無数に放たれた矢が動きの鈍った獅子を貫き、次々に消滅させていった。
 だが影の獅子に隠れるようにして、王がサリアへと迫っていた。その体に魔力の矢がいくつも突き刺さっているものの、【ディスペルアロー】は対魔法用攻撃で肉体へのダメージは少ないのだ。攻撃の性質を確実に見切り、また肉弾戦に劣るサリアを的確に狙って来ている。
 しかし俺らとて想定内。

『【チェンジ】!』

 俺とサリアの声が重なる。次の瞬間、双子の位置が入れ替わった。俺の眼前に王の剣が迫る。

「【エル・ナグル】!」

 腕に強化魔法を付与し、俺は正面から受けて立った。

「ガッ!」

 王の剣が真っ直ぐ縦に振り下ろされる。直線的な攻撃だ、回避はたやすい。だが避けたとしても王の一撃はすさまじい衝撃波を生みそれに吹き飛ばされ追撃をくらう……
 だが俺はあえて回避を選択した。わずかに身を翻し、王の剣が俺の体をかすめる。剣が床に当たり衝撃波を生む、その直前の一瞬。

「ここだッ!」

 俺は剣の横っ腹を殴りつけた。強化された腕力による一撃は王のそれにも等しい。しかも無防備な方向から力を入れられれば到底耐えられない。王の剣が吹き飛んでいく。まずは剣を奪い戦力を削ぐ……そのつもりだった。
 だが王は瞬時に自ら剣と同じ方向に跳躍し、剣を固く握ったまま離さなかった。そして空中で俺に狙いを定める。

「【ゾズマ】ッ!」

 魔力の球体が放たれる。出現と同時に離れた俺でも熱気を感じた。凄まじい高熱体だ、おそらく火炎とは比べ物にならない。しかしその分動きは緩慢で、眩しく輝きながらもゆっくりと俺に迫ってきた。
 おそらく命中狙いではなく、途中で爆発する魔法と見た。ならば。

『【チェンジ】!』

 俺は再びサリアと位置を入れ替えた。合図などなくても俺らならすぐに息が合う。

「【ドルマナー・エクスパンダ】!」

 サリアが魔力吸収魔法を使い、光球はサリアの打った無数の球に吸収されて消滅した。代わりにサリアの球が高熱を引き継ぐ。

「いっけぇーっ!」

 ためらわず、王目掛け打ち返した。剣と共に跳んだ王が着地し、それと同時に高熱のエネルギー体が襲い掛かる。

「ガアアッ!」

 だがなんと王はせっかく守った剣を、魔力球目掛け放り投げた。魔力をまとった剣は回転しながら光球を切り裂く、たしかに剣ならば高熱だろうと関係ない。ついでに投擲された剣は同時にサリアを狙っていた。
 だが遠距離からの投擲ぐらい簡単にかわせる、サリアも一歩飛び退いてあっさり回避した。魔水晶による発狂が進行しているのか? それとも……俺らが怪訝に思った、次の瞬間。

「【チェンジ】」

 王が唱える。それと同時に、王と剣の位置が入れ替わった。今まさにサリアの横を通過しようとしていた剣の位置に、巨漢の王が出現する。王の動向を警戒し王へと意識を集中していたサリアは、反応が一瞬遅れた。

「リ、リフレク……」
「ガアアッ!!」

 王の拳がサリアを叩き潰した。凄まじい衝撃が地下室を揺らし、隕石が落ちたかのようなクレーターがサリアのいた場所に生まれる。鮮血が舞い上がった。

「【リストア】」

 王が魔法を唱えると、遠く離れていた剣が一瞬でその手に握られた。剣には特殊な魔法がかかっていて交換も回収も自由自在、俺の攻撃の時に剣を追ったのはフェイクだったのだ。
 王の足元に虫の息のサリアが横たわっている。王はためらいなく、その剣をサリアへと向けた。
 だがその間に、俺が間に合った。

「【ティア・マグナ】ッ!」

 王とサリアの間に割り込み風魔法を撃ち放つ。爆発にも等しい突風を受け、王の体は吹き飛び背後にいた魔導鎧の残骸に衝突した。

「サリア! 大丈夫か?」

 俺はすぐにサリアを振り返る。まともに王の一撃を受けたサリアは全身の骨がひしゃげ、ねじ切れた皮膚が血を吹き出し、辛うじて息をしているといった様子だ。常人なら即死だっただろう。

「だい、じょうぶ……【リペア】……」

 意識は保っていたサリアが治癒魔法を使った。俺も手助けし、なんとか全身の傷が癒えていく。回復には少しだけ時間がかかる、俺は王の追撃を恐れすぐに王の方へ向き直った。
 だが王は動かない。自分が衝突した魔導鎧を見つめ、なぜか硬直している。
 奇妙だったが俺らには幸いだ、そうこうしている間にサリアが復活し、立ち上がった。

「ふーっ、死ぬかと思った。どうも治癒魔法にも優れる私を集中狙いしているみたいだね。でも王は何を……?」

 サリアもまた王の様子を見る。王はなおも動きを止めていた。魔導鎧を見つめ、何やら震えているようにも思える。王が見る魔導鎧は激突の衝撃で装甲がえぐれて内部が露出しているが……その中にあるものに気付いた時、戦慄が俺らを襲った。

「ま……」
「まさ……か」

 俺は振り返る。俺らの近くにも動かなくなった魔導鎧が転がっている。俺はいてもたってもいられずそのひとつに駆け寄り、装甲を引き剥がし中身を見た。内部には広い空洞がある。その空洞に、ゴミのように詰め込まれていたのは。
 数えきれないほどの、人間だった。

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