双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-

八木山蒼

第58話 到着

 パイロヴァニア地下、巨大な鎧の魔法兵器との戦闘は続いていた。

『ここここれならどうですか~? MR-02!』

 鎧が両手を地に着けて構え、その肩を開く。すると肩から何本もの魔水晶が打ち出され俺を襲った。

「当たるかそんなもの!」

 俺はすぐにその場を飛び退き、逆に鎧の腕に飛び乗って駆け上がる。このまま敵の本体、搭乗するゲルス・ワーストを叩く!

『させませんよ~!』

 だが瞬間魔導鎧の肩がさらにもう一段階開き、さらに魔水晶を放ってきた。咄嗟に嫌な予感を感じ取った俺は魔法の壁を作って身を守る。
 案の定、着弾の瞬間に水晶は爆発した。ビリビリとした衝撃波がバリア越しに俺へ威力を伝える。まともに当たればひとたまりもないだろう。

「……ちぃッ!」

 俺はすぐに振り返った。回避したはずの初撃が俺を追尾し、すぐそこまで迫っていた。もはやただの壁では防ぎきれない。

「【如月の守護】ッ!」

 特殊な魔法壁を展開し水晶を受け止める。だがこの魔法は足を止めて使う魔法だ。

『そそそそそそこで~す!』

 ゲルスの声が響くと同時に俺の足場、巨兵の腕が動き出し、俺はあっさりと空中に投げ出された。そこへもう片方の拳が俺を狙う。さらにその巨大な腕が光を放つ。

『マージブースター、シュートッ!』

 空中で身動きの取れない俺に魔力で強化された剛腕が迫る。俺も咄嗟に魔法を放った。

「【サーガ・カノン】!」

 両手を合わせ魔法の砲撃を発射する。俺の無尽蔵な魔力を乱暴にぶちかますこの魔法、人間の数人軽く消し炭にするくらいの威力はある。
 だが巨兵の拳はその砲撃を弾くように、俺へと拳を打ち当てた。

「ぐっ……!」

 辛うじて足と腕で衝撃を抑えるが、それでも耐え切れずに俺は吹き飛ばされた。なんとか空中で体勢を立て直し壁に着地し、そのまま床に下りる。

『こ、こここここれでノーダメージとは~! やっぱり強いですね~』

 ゲルスは動揺したような声を出しているがどこまで本気なのか……俺は忌々しい思いで、俺の魔法をまともに受けたはずの拳を睨みつける。表面が少し焼け焦げた程度でまるで効いていなかった。

「思った以上に厄介だな……究極の魔力耐性と硬度を持つ鉱石ファンサライト。魔力耐性も硬度もゴーディーの奴より数段上、か……!」

 俺は悪徳貴族ゴーディーの屋敷でこれとよく似た兵器と戦っている。あの時はどうやって倒したのか……ああ、そうだ。
 サリアと力を合わせたんだ。

「……だが、俺に勝てると思うなよ!」

 サリアがここにいれば、そんな言葉を噛み殺し戦いを続ける。俺ら双子は2人で1つだが、1人で半人前というわけじゃあない。これまで苦しい戦いがなかったわけでもない……カインとの戦いもミリアとの死闘も乗り越えてきた。

「負けないさ、負けたこともない……!」

 俺は憎いデカブツを睨みつけ、戦闘を続行した。



 同刻、パイロヴァニア地下通路のある地点。

「ぐっ……!」
「クソー! この英雄コンビに勝てると思うなよー!」

 カイン、そしてメイリアの幼馴染コンビは互いに背を重ね、迫りくる兵隊たちと対峙する。
 狭い地下道の前も後ろも大勢の兵に埋め尽くされ逃げ場はない。その最前にいるのはカラスが服を着たような鳥の獣人……パイロヴァニア軍部副総帥、オニオー・シリック。

「カーッカカカカカーツ! なーにが英雄だぁ! 貴様らは人質となり、あの双子及び神の子ポップの打倒に一役買う! うん、そういう意味では英雄かもな! カカーッ!」
「チッ……ガァガァ煩いぞオニオーッ!」

 高笑いするオニオーにカインが向かっていった。魔晶兵として強化されたその力がオニオーへと迫る。

「うるさいのは貴様だ小童! オウム返しーッ!」
 オニオーの柔らかな羽毛がカインの体を包み込み、同時に捻りあげた。関節を決められカインが苦痛に呻き、そのまま兵たちの群れに投げ込まれそうになり、すぐに後ろに飛び退き脱出する。

「カカーッ! 私の羽根がただの羽根だと思うなよ? その羽根1つ1つに魔力が充填され、特別な力を私に与えているのだ! そこに我が格闘技術が合わされば勝ちはなくとも負けもない! さあ大人しく観念するがいい!」
「グッ……」

 じりじりと迫ってくるオニオーと兵たち。カインはメイリアに身を寄せるしかできない。
 だがそのメイリアも、限界が近そうだった。

「ぐううっ……」
「メイリア、やはり傷が痛むか」

 メイリアの胸には痛々しい傷跡が深く残っている。治癒魔法により治りつつはあるが、致命傷はそう簡単には癒えず、今の今までメイリアは意識を失っていたほどだ。剣を持ち構えるだけでも辛かろう。

「なんの! 英雄がこれしきでへこたれることはなーい!」

 口ではいつもの空元気だが、その傷がいまだ深いことは額に滲む脂汗からわかる。
 メイリアのことを思えば投降すべきか? ここまで粘っただけでもいいだろう、あのセイルもただぼーっとしているわけではなかろう、時間稼ぎは何かしらの効果を生んだはず、口惜しいがここらが潮時か……カインは諦めを計算に入れ始める。
 とにかくメイリアを死なせるわけにはいかない、カインにとってはそれが第一だ。
 だがオニオーはそんなカインを嘲笑うように言った。

「まあ人質と言えど貴様らは殺すがな! メイリアは知り過ぎたし、カイン貴様は役立たず! 魔晶兵の機能すらセイルに大部分封じられ操作することもできん! うん、不要なものは消す! それが一番安全だな! ダイアナも国王もそれがわかっていない」

 オニオーはメイリアを殺す気だ。それがわかった瞬間、カインの選択肢から諦めは消えた。

「そうか、メイリアを殺す気なのか……じゃあ、もうやるしかないな」
「ああん? 貴様何を言って……」

 オニオーの表情がビクッと緊張する。気付いたのだろう、カインから溢れ出る魔力に……邪悪で、強大な力に。

「き、貴様それは……魔水晶の暴走!? バカな、その力はセイル・フェルグランドに封印されたと聞いているぞ!?」
「正確には蓋をしただけだ……ただし強力な奴をな。蓋を外すことはできずとも中で暴れ出すことはできる……! その残滓だけでも貴様らを倒すのは十分だ」

 カインの体の中に複数ある魔水晶、その大部分の力が今は制限されている。それは外部からの操作を防ぐためのもので、カインの意思によってある程度は抗えるのだ。
 だが蓋をされた状態で無理に力を膨張させ、そして使い続ければ……いずれ訪れるのは器の崩壊。

「ぐうっ……!」

 まだ力を振るっていないというのにカインの胸に鋭い痛みが走った。魔水晶の暴走に体が耐え切れなくなってきている。
 やはり自分は死ぬのかもしれないな、カインはそう思った。だがそれもまたいい、彼女には叱られるだろうが、メイリアを守り……英雄となって死ねるのなら。

「この魔力! まさか貴様、我らを道連れにするつもりか!?」

 オニオーもその意図を悟り恐怖に顔が引きつった。カインは笑みで応じてやった。

「なんだと!? カインお前まだそんなふざけたことを! 私は……」
「黙ってろメイリア! 俺はそれでいい! これは、俺が選んでやることだッ!」

 魔水晶の暴走が臨界点に達そうとする。もう引き返せない、あとは暴れるだけ暴れ、やがて壊れるのみ。覚悟の上、カインは最後の華を咲かせんと突っ込もうとした。
 だがその時。

 10秒、上に気をつけろ!

「むッ!?」

 突然脳裏に声が飛び込み、カインは思わず足を止めた。それは聞き覚えのある声だった。

「み、みすみすやられてなるものか! 兵たちよ、もはや手段は問わぬ! 奴らを……ん!?」

 オニオーや兵隊たちも異変に気付く。しかしそれはカインが聞いた声のことではない。揃って上を見上げていた。
 地下道が震えている。パラパラと礫が零れ始めている。みるみるうちに揺れは大きくなり、地下道全体を強く強く揺すり始めた。

「地震!? こんな時に……い、いや違う!? これは魔力!?」

 オニオーの甲高い声が兵たちの喧騒に紛れて響く。カインはメイリアと身を寄せ合い、言われた通り上に警戒を続けていた。
 地下道の鋼鉄の天井に、ヒビが入った。

「まさか地上から、何者かが地下道を破壊しようとしているのか? バカな! 岩盤を通しこのパイロヴァニアの鋼鉄を破壊するなど……そ、そんなことができる奴など……ま、ま、まさかぁ!? カァーーーーーッ!」

 オニオーの絶叫と同時に、地下道が完全に崩壊した。鋼鉄の天井ごと、莫大な岩盤がカインたちの頭上に降り注ぐ。

「メイリア、やるぞ!」
「おおっ!」

 カインとメイリアは協力し降り注ぐ岩盤を防いでいった。オニオー、兵隊たちも必死に自らを守る。だがここは地下、際限なく岩盤は襲い来る。やがて耐え切れなくなる……10秒!

「よくがんばった、クソガキ」

 聞き慣れた、メイリアの妹の声が響いた。その瞬間。
 カインたちへ降り注ぐ瓦礫の全てが青い光に覆われ宙にぴたりと止まった。

「カカァーッ!?」

 しかしオニオーたちにはそのまま瓦礫が降り注ぎ、兵士ともども埋まってしまった。だがよく見ると大部分はカインたちの頭上のそれと同様宙に留まっており、最低限行動不能になる分に埋れているようだった。
 そしてその瓦礫の間を縫って、カインたちの前に下りてきたのはこれも見覚えのある顔。

「大丈夫、2人とも! 間に合ってよかった」

 神託の双子のもう1人……サリア・フェルグランド。

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