双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-
第48話 パイロヴァニアの悪魔
パイロヴァニア市街を肩で風切り歩く少女がいた。
彼女はメイリア・バンディ、偉大なる剣士にして未来の王国騎士団期待の新星かつ英雄……全て前に「自称」がつくが。
「おっ、メイリアちゃん。お買い物かな?」
「やあ! 今回は違うぞ! 重要なる任務のため私は行くのだ!」
「こんにちはメイリアちゃん、元気かい」
「ああ! 私はいつでも元気だぞ! 英雄的に元気だ!」
「久しぶりだなメイリアちゃん。ポップちゃんはいないのか?」
「ポップはどっか行ってるぞ! まったくわけのわからん妹だ!」
メイリアが歩くと住人たちは次々に声を掛けてくる。元気で無邪気なメイリアはパイロヴァニアでは有名人だ、良くも悪くも。
この日、メイリアは鎧を着て剣を携えて、パイロヴァニア軍部まで向かっていた。
「そろそろダイアナもこの私を認める頃だろう! この342回目の面接で私は王国騎士団になってやるぞ! そして私は英雄になる!」
大声で語りながら歩く少女を住民は微笑ましく見守っていた。
やがてメイリアは裏路地へと入っていく。
「私は知っているのだ、この地下道を通れば軍部への近道だ! にゃっは……オホン、フハハハ!」
パイロヴァニアには至る所に地下道がある。そこで生まれ育ったメイリアは複雑なパイロヴァニアの地下も熟知しているのだ。その時も路地裏にひっそりと口を開く地下道へ彼女は降りていった。
――ただし、この日の彼女は本来曲がるべき場所を1つほど間違えていたのだが。
無数の入り口があり、かつ中でも入り組み無数に枝分かれした地下道。メイリアはそこを自信を持って進んでいた。完璧に道を間違えてることにはまったく気付いていなかった。
「今日はなんだか軍部が遠いぞ! 期待で胸がいっぱいだからな! 時間も長く感じるんだろう!」
底なしの楽観思考でメイリアは揚々と地下道を進む。右へ左へ、上へ下へ。入り組んだ地下道の奥へ奥へ。
それは偶然か、はたまたメイリアの運命だったのだろうか。
「……ん?」
地下道を進んでいると、メイリアの耳に人の話し声が飛び込んできた。遠くでどうも2人の人間が話しているらしい。こんな地下道では珍しいことだ。
「うーむ、認めたくないがどうも私は道に迷ってしまったようだな! ここはそこにいる人に道を尋ねるとしよう」
さすがに自分の状況を理解していたメイリアは声のする方へと歩いていった。
やがてメイリアが辿り着いたのは、地下道とは明らかに異なる空間だった。
鉄製の細い地下道とは打って変わった、石を固めて作り上げた大部屋。メイリアの住む家よりも大きく、メイリアには何かよくわからないものがたくさん置いてある。そしてその中心の辺りで、2人の人間が話していた。
「おっ? なんだ?」
2人は話に集中しているためかメイリアには気付いていない。メイリアは出入り口のすぐそばにあった大きな機械のようなものに隠れて、2人の話を聞くことにした。英雄とは登場の機を見計らうものなのだ。
部屋にいる2人にメイリアは見覚えがあった。片方はカラスが服着て歩いているような印象の獣人、軍副総帥かつ参謀のオニオー・シリック。そしてもう片方はぐるぐる眼鏡にダボダボ白衣の女ゲルス・ワーストだ。軍部にしょっちゅう出入りするメイリアは両方とも知っていた。
「どどどどどどどうするんですか~? さっきの報告聞きましたよねぇ」
「わかってるわ! だから今考えているんだろう!」
2人は何やら妙に焦っているようだった。
「まままままさか、ダイアナさんだけでなく、そそそそそ総帥様までやられちゃうなんて~!」
「な、な、なあに安心しろ、この秘密研究所はパイロヴァニア地下道の奥も奥! いかに信託の双子といえどそう簡単には辿り着けんさ」
「でででででも辿り着く可能性は0%ではないですよ! それまでに対策考えないと~」
「わかってるって言っているだろう! いいからお前も考えろ! 何か兵器か何かないのか!?」
「えと、えと……そそそそそうだ! いいことを思いつきました~」
メイリアからは声しか聞こえないが、どうやら何か軍の一大事が起きているらしい。ここで活躍すれば英雄になれるかもしれないと思い、メイリアは聞き耳を立てた。
「ダイアナさんがやられちゃいましたから、兵を捨て駒にしても文句は言われませんよね~? じゃあ、ミリア・スノーディンに仕込んだ洗脳魔水晶に狂暴化付与を加えたものを適当な兵に投与しましょう!」
「お、おお、そうだな。そうすればひとまず時間は稼げるし、情報漏洩も防げる」
「あとそうですね……うーん、私の徹夜が無駄になっちゃいますけど、『魔晶兵』を動かしますか! いっそのことダイアナさんも殺しちゃって、完璧に仕上げちゃいましょう~」
「カイン・イーノックか! なるほど、本体を温存した甲斐があったな。元より奴は捨て駒だ、『計画』が為されればあんなものは不要!」
「そそそそそうです! セイル・フェルグランドへの当て馬にしちゃいましょ~! 徹夜は辛いですけど~」
その時、メイリアは咄嗟に動いていた。頭よりも体で動く彼女だ、そのメリットデメリットよりも自分がしたいかしたくないかで動く。
この時は幼馴染であるカインと友人のセイルの名を聞いて、黙っていられなかったのだった。
「ちょおっと待ったー! その話、このメイリア・バンディが……うっ!?」
飛び出して名乗りを上げる。だがオニオーとゲルスが彼女を見ると同時に、メイリアは頭に謎の衝撃を受けて気を失った。
気絶したメイリアを見るオニオーとゲルス。その前に姿を現したのは白い髪の小さな女子……神の子、ポップ・バンディだった。
「迂闊だな、お前ら。焦燥のあまり侵入者に気付かないとは……しかも我が姉にな」
「ぽぽぽぽポップちゃん!? い、いつの間に……」
「そ、そいつはメイリア! いったいどうやってここに来たのだ!?」
「さあな、何事にも絶対はない。こと人の世には、な」
ポップはいつもの人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべると、その左目が黄色く光を放つ。すると気絶したメイリアの体が同じ色の光に包まれ、ふわりとひとりでに浮き上がった。
「安心しろ、こいつにはしばらく寝てもらう。今言ったこと、やるならやるがいいさ」
「し、しかし神の子よ! そいつは我らの話を聞いたのだろう!? ならばここで口を封じておくべきだ、うん、確実に!」
「そそそそそそうですよポップちゃん! 殺しとかないとまた徹夜が増えそうで~……」
その時、ポップはオニオーとゲルスを、光り輝く左の眼で見据えた。
「お前さん方……最悪の時間を過ごしたいようだな?」
輝くポップの目、その威圧感に2人はたじろぎそれ以上何も言えなかった。見た目にはただの少女、しかしそこに宿るものは……オニオーの羽毛は逆立ち、ゲルスはわわわわわわとただでさえぐるぐる眼鏡の下で目をぐるぐるさせていた。
「じゃあな。せいぜいがんばることだ、神は傍観者よ」
ポップはそのまま振り返ると、メイリアを連れて地下道へと消えていった。
その後を十分長く見つめた後、オニオーはぐぬぬぬと嘴をキリキリ鳴らした。
「納得いかん! いかに神の子といえど、我らが縛られるのはおかしい! あのメイリアは消さねばならん、うん、奴は他にも様々なことを知っているかもしれん! 阿呆だからと放置してきたが、事ここに至ってはわずかな可能性も潰さなくてはならない!」
怒るオニオー。その横で、ゲルスはあっと手を叩いた。
「そそそそそそれなら、いい方法がありますよ! また徹夜かもですけど~……もういっそポップちゃんも殺しちゃいません?」
「え!? ぽ、ポップもか? しかし……」
「ポップちゃん、どうも双子の味方しそうな気がするんですよね。たぶん洗脳効きませんし~、殺すしかないじゃないですか?」
ゲルスは困ったような顔でオニオーに問いかける。オニオーはつい先ほど味わったプレッシャーを想起して悩んだ。
「う、うむ、たしかに……い、いやしかし、あのポップを敵に回すのは……」
「双子よりは弱いですよ~。ちょうどいいアイテムもありますし~、徹夜の成果を見せてあげますから!」
「む、むむ……わ、わかった! お前に任せる! わ、私は王の方へ行くから、頼んだぞ!」
「はい~! ががががががんばります~」
オニオーは別の出口から去っていく。後に残されたゲルスは部屋に散乱する物を見渡して、ため息をついた。
「また徹夜の成果、使わなくっちゃなあ……はあ……」
渋々といった具合に部屋の隅へと行き、一見ゴミの山のようなものから何かを取り出す。
それは悪魔の道具だった――
彼女はメイリア・バンディ、偉大なる剣士にして未来の王国騎士団期待の新星かつ英雄……全て前に「自称」がつくが。
「おっ、メイリアちゃん。お買い物かな?」
「やあ! 今回は違うぞ! 重要なる任務のため私は行くのだ!」
「こんにちはメイリアちゃん、元気かい」
「ああ! 私はいつでも元気だぞ! 英雄的に元気だ!」
「久しぶりだなメイリアちゃん。ポップちゃんはいないのか?」
「ポップはどっか行ってるぞ! まったくわけのわからん妹だ!」
メイリアが歩くと住人たちは次々に声を掛けてくる。元気で無邪気なメイリアはパイロヴァニアでは有名人だ、良くも悪くも。
この日、メイリアは鎧を着て剣を携えて、パイロヴァニア軍部まで向かっていた。
「そろそろダイアナもこの私を認める頃だろう! この342回目の面接で私は王国騎士団になってやるぞ! そして私は英雄になる!」
大声で語りながら歩く少女を住民は微笑ましく見守っていた。
やがてメイリアは裏路地へと入っていく。
「私は知っているのだ、この地下道を通れば軍部への近道だ! にゃっは……オホン、フハハハ!」
パイロヴァニアには至る所に地下道がある。そこで生まれ育ったメイリアは複雑なパイロヴァニアの地下も熟知しているのだ。その時も路地裏にひっそりと口を開く地下道へ彼女は降りていった。
――ただし、この日の彼女は本来曲がるべき場所を1つほど間違えていたのだが。
無数の入り口があり、かつ中でも入り組み無数に枝分かれした地下道。メイリアはそこを自信を持って進んでいた。完璧に道を間違えてることにはまったく気付いていなかった。
「今日はなんだか軍部が遠いぞ! 期待で胸がいっぱいだからな! 時間も長く感じるんだろう!」
底なしの楽観思考でメイリアは揚々と地下道を進む。右へ左へ、上へ下へ。入り組んだ地下道の奥へ奥へ。
それは偶然か、はたまたメイリアの運命だったのだろうか。
「……ん?」
地下道を進んでいると、メイリアの耳に人の話し声が飛び込んできた。遠くでどうも2人の人間が話しているらしい。こんな地下道では珍しいことだ。
「うーむ、認めたくないがどうも私は道に迷ってしまったようだな! ここはそこにいる人に道を尋ねるとしよう」
さすがに自分の状況を理解していたメイリアは声のする方へと歩いていった。
やがてメイリアが辿り着いたのは、地下道とは明らかに異なる空間だった。
鉄製の細い地下道とは打って変わった、石を固めて作り上げた大部屋。メイリアの住む家よりも大きく、メイリアには何かよくわからないものがたくさん置いてある。そしてその中心の辺りで、2人の人間が話していた。
「おっ? なんだ?」
2人は話に集中しているためかメイリアには気付いていない。メイリアは出入り口のすぐそばにあった大きな機械のようなものに隠れて、2人の話を聞くことにした。英雄とは登場の機を見計らうものなのだ。
部屋にいる2人にメイリアは見覚えがあった。片方はカラスが服着て歩いているような印象の獣人、軍副総帥かつ参謀のオニオー・シリック。そしてもう片方はぐるぐる眼鏡にダボダボ白衣の女ゲルス・ワーストだ。軍部にしょっちゅう出入りするメイリアは両方とも知っていた。
「どどどどどどどうするんですか~? さっきの報告聞きましたよねぇ」
「わかってるわ! だから今考えているんだろう!」
2人は何やら妙に焦っているようだった。
「まままままさか、ダイアナさんだけでなく、そそそそそ総帥様までやられちゃうなんて~!」
「な、な、なあに安心しろ、この秘密研究所はパイロヴァニア地下道の奥も奥! いかに信託の双子といえどそう簡単には辿り着けんさ」
「でででででも辿り着く可能性は0%ではないですよ! それまでに対策考えないと~」
「わかってるって言っているだろう! いいからお前も考えろ! 何か兵器か何かないのか!?」
「えと、えと……そそそそそうだ! いいことを思いつきました~」
メイリアからは声しか聞こえないが、どうやら何か軍の一大事が起きているらしい。ここで活躍すれば英雄になれるかもしれないと思い、メイリアは聞き耳を立てた。
「ダイアナさんがやられちゃいましたから、兵を捨て駒にしても文句は言われませんよね~? じゃあ、ミリア・スノーディンに仕込んだ洗脳魔水晶に狂暴化付与を加えたものを適当な兵に投与しましょう!」
「お、おお、そうだな。そうすればひとまず時間は稼げるし、情報漏洩も防げる」
「あとそうですね……うーん、私の徹夜が無駄になっちゃいますけど、『魔晶兵』を動かしますか! いっそのことダイアナさんも殺しちゃって、完璧に仕上げちゃいましょう~」
「カイン・イーノックか! なるほど、本体を温存した甲斐があったな。元より奴は捨て駒だ、『計画』が為されればあんなものは不要!」
「そそそそそうです! セイル・フェルグランドへの当て馬にしちゃいましょ~! 徹夜は辛いですけど~」
その時、メイリアは咄嗟に動いていた。頭よりも体で動く彼女だ、そのメリットデメリットよりも自分がしたいかしたくないかで動く。
この時は幼馴染であるカインと友人のセイルの名を聞いて、黙っていられなかったのだった。
「ちょおっと待ったー! その話、このメイリア・バンディが……うっ!?」
飛び出して名乗りを上げる。だがオニオーとゲルスが彼女を見ると同時に、メイリアは頭に謎の衝撃を受けて気を失った。
気絶したメイリアを見るオニオーとゲルス。その前に姿を現したのは白い髪の小さな女子……神の子、ポップ・バンディだった。
「迂闊だな、お前ら。焦燥のあまり侵入者に気付かないとは……しかも我が姉にな」
「ぽぽぽぽポップちゃん!? い、いつの間に……」
「そ、そいつはメイリア! いったいどうやってここに来たのだ!?」
「さあな、何事にも絶対はない。こと人の世には、な」
ポップはいつもの人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべると、その左目が黄色く光を放つ。すると気絶したメイリアの体が同じ色の光に包まれ、ふわりとひとりでに浮き上がった。
「安心しろ、こいつにはしばらく寝てもらう。今言ったこと、やるならやるがいいさ」
「し、しかし神の子よ! そいつは我らの話を聞いたのだろう!? ならばここで口を封じておくべきだ、うん、確実に!」
「そそそそそそうですよポップちゃん! 殺しとかないとまた徹夜が増えそうで~……」
その時、ポップはオニオーとゲルスを、光り輝く左の眼で見据えた。
「お前さん方……最悪の時間を過ごしたいようだな?」
輝くポップの目、その威圧感に2人はたじろぎそれ以上何も言えなかった。見た目にはただの少女、しかしそこに宿るものは……オニオーの羽毛は逆立ち、ゲルスはわわわわわわとただでさえぐるぐる眼鏡の下で目をぐるぐるさせていた。
「じゃあな。せいぜいがんばることだ、神は傍観者よ」
ポップはそのまま振り返ると、メイリアを連れて地下道へと消えていった。
その後を十分長く見つめた後、オニオーはぐぬぬぬと嘴をキリキリ鳴らした。
「納得いかん! いかに神の子といえど、我らが縛られるのはおかしい! あのメイリアは消さねばならん、うん、奴は他にも様々なことを知っているかもしれん! 阿呆だからと放置してきたが、事ここに至ってはわずかな可能性も潰さなくてはならない!」
怒るオニオー。その横で、ゲルスはあっと手を叩いた。
「そそそそそそれなら、いい方法がありますよ! また徹夜かもですけど~……もういっそポップちゃんも殺しちゃいません?」
「え!? ぽ、ポップもか? しかし……」
「ポップちゃん、どうも双子の味方しそうな気がするんですよね。たぶん洗脳効きませんし~、殺すしかないじゃないですか?」
ゲルスは困ったような顔でオニオーに問いかける。オニオーはつい先ほど味わったプレッシャーを想起して悩んだ。
「う、うむ、たしかに……い、いやしかし、あのポップを敵に回すのは……」
「双子よりは弱いですよ~。ちょうどいいアイテムもありますし~、徹夜の成果を見せてあげますから!」
「む、むむ……わ、わかった! お前に任せる! わ、私は王の方へ行くから、頼んだぞ!」
「はい~! ががががががんばります~」
オニオーは別の出口から去っていく。後に残されたゲルスは部屋に散乱する物を見渡して、ため息をついた。
「また徹夜の成果、使わなくっちゃなあ……はあ……」
渋々といった具合に部屋の隅へと行き、一見ゴミの山のようなものから何かを取り出す。
それは悪魔の道具だった――
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