双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-

八木山蒼

第38話 地下にて

 パイロヴァニア某所。
 地下施設にある秘密の会議所で、国王と軍部の要人が密会を行っていた。参加者は国王レグルオ、軍部総帥リッターヒルン、副総帥オニオー、兵隊長ダイアナ、魔術技官ゲルスの5人。

「結局、リオネ・ブルースは裏切ったか」

 リッターヒルンが口を開く。沈痛な表情で国王レグルオが頷き、娘の背信を認めた。

「仕方がなかったのです、まさかあのタイミングで例の地震が起き、本当に双子が恩人になってしまうとは……娘を恨まないでやってください」
「しっかし国王! あの双子がアスパムにすっ飛んでいったのも、娘さんが作戦を漏らしたからでしょう? うん、そうに違いない! これで計画が全部パーになったらどうするんですか!」

 鳥の獣人副総帥オニオーは興奮して言う。レグルオは申し訳なさそうに項垂れていた。

「ででで、でもでもオニオーさん、ある意味よかったかもしれませんよ? 双子はミリア・スノーディンと戦うでしょうし、いいデータがとれるはずです! 私の徹夜が無駄になるのは残念ですけど、もし双子がミリア・スノーディンの改竄を修正できたなら、それへの対抗策も用意でき、計画をより盤石にできますよ!」

 丈の余った白衣とぐるぐる眼鏡、三つ編みの子供のような魔術技官ゲルスが提案する。

「ぐぬぬ、たしかにそうだが……! 裏切りはイレギュラーを生む! うん、やっぱりリオネは放っておけない!」
「そうだな」

 総帥リッターヒルンはその厳格な瞳をレグルオに向けた。

「国王。貴方の娘は味方として見ることはおろか、特別待遇もできなくなった。これより敵として認識し対応する……よろしいかな」

 レグルオは思わず顔を手で覆った。リッターヒルンの言葉は事実上の殺害宣告だ、実の娘への殺害を予告され、レグルオの胸中に混濁した感情が沸き上がる。
 だがやがて手を下ろすと、頷いた。

「わかりました。これも全て、娘が選んだことです」

 国王は娘を見捨てた。それはここにいる者たちにとって、さほど意外なことではなかった。

「して我々はどうする、アスパムに向かおうにもどんな手段を使っても半日はかかるぞ」
「なーにアスパムの方は連中に任せよう、最低限の仕事はこなしてくれるはずさ、うん」
「わわわわ私もちょっと、しなくちゃいけないことがいっぱいあって~……また徹夜かもしれないです~」

 その時、総帥リッターヒルンが立ち上がった。その一挙動の存在感から、部屋にいた全員の視線が彼へと集まる。

「我々がやることは変わらない……予定通り計画を進めよ。話すことは終わった、これ以上ここにいては怪しまれるかもしれん、こと国王はな」
「ええ……本来私はあなた達と敵対していなければいけないのですからね」
「アスパムでの作戦は漏洩したが、同時に双子がパイロヴァニアから離れることとなった。この機を活かし準備を整えるのだ。来たるべき……」

 総帥がそこまで語った時だった。
 突然、激しい揺れを会議所が襲った。ここ数年パイロヴァニアを苦しませる地震だ。いずれも屈強な体を持つ要人たちは揺れではびくともしないが、机は揺れて踊りまわり、ドアはきしんで音を立て、常人なら立っていられないほどの振動がパイロヴァニア全域を包んでいた。

「きゃああぁ~~~~~~」

 もっともこの中でも唯一身体的に秀でたわけでないゲルスだけは揺れに耐えられず、立てないどころかなぜかコロコロと地面を転がっていたが。
 振動の中、国王レグルスは地上の民に思いを馳せる。この揺れは間違いなくパイロヴァニアによくないものを運んでくる。
 国民たちは苦しんでいる、パイロヴァニアの現実に。苦しむ国民を救うことこそが国王の役目。
 それならば自分は――父という立場すら捨ててしまおう。いや、娘を計画に利用しようと考えた時すでに、自分は父親失格だったのかもしれない。

 いずれにせよ、計画が実行されれば全て終わるのだ。
 フェルグランド家の犠牲により、パイロヴァニアは、そしてともすれば世界が救われる。

「……先に戻ります、皆が心配するでしょうから」

 レグルオはなおも振動が続く中、軍部たちに背を向けて去っていった。

「さささささよぉぉ~~~ならぁぁ~~~」

 そんな国王に、魔術技官ゲルスはなおも転がりながら律儀に挨拶を返すのだった。

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