双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-

八木山蒼

第32話 魔晶兵

 パイロヴァニアは山間の産業の街。探してみると街の近くには使われなくなった採石場があったので、俺とカインはそこを利用させてもらうことにした。
 岩だけが転がる採石場で俺らは対峙する。さながら一昔前の特撮のようである――もっとも俺の記憶は15年前のものだが。

「まず教えてやろう、俺の力をな」

 カインは意気揚々と笑っていた。情報漏洩は兵の恥、としてきた彼だが、いざ教えるとなるとかなり乗り気である。当然だろう、面白いもの、凄いものを持っていれば自慢したくなるのが人情だ。『凡人とは違うパーソナリティを持っている』と思いたがるタイプの中二病であるカインは特に。
 きっと本当のところ自分の力を誇りたくて仕方がなかったのだろう、カインはノリノリだった。

「貴様が推察した通り、俺の体は常人とは違う。パイロヴァニアの技術の粋を尽くし改造が施されている……その名も『魔晶兵』!」

 俺らの想像通りカインはサイボーグらしかった。この世界の技術レベルは俺らが思っているよりもかなり高いらしく、高度な魔法と一部の科学を融合しているようだ。
 魔晶兵、気になる単語だ。あまり後ろ暗いものでなければいいのだが。

「魔晶兵最大の特徴は全身の至る所に埋め込まれた魔水晶! これにより俺は莫大なエネルギーを得る! そこには身体能力強化の魔術がデフォルトで設定されているために俺の体は常人のそれを遥かに上回る性能を持ち、さらに魔水晶は休息により自動回復が可能! 圧倒的身体性能、恒久的維持能力! これこそが魔晶兵の基礎的な力だ」
「魔水晶を埋め込んでいるのか……」

 魔水晶とはこの世界での魔力の源であるマナという物質の固体での呼び名だ。マナは通常気体として存在し、常温化で魔水晶にするには特殊な技術がいるが、マナの輸送もこの世界ではメジャーな産業ゆえ『産業と獣の街』パイロヴァニアならば可能なのだろう。
 だが魔水晶はあくまでも不安定なもの、それを体に埋め込むというのは少し不安だ。

「後遺症などはないのか?」
「フン、無論パイロヴァニアの技術に欠陥などない、得るのは力のみ。もっともそれは俺の体に埋め込まれた魔水晶が最低限の量だかららしく、負荷を顧みなければより多くの魔水晶により強大な力を得られるそうだ……クク、つくづく軍の奴らはぬるい。ぬるすぎる! 闇を知る俺に、かような甘さはいらぬというのに」

 カインは笑っているが実際のところ彼は軍部の判断に救われているのだろう。こういうところが問題なのだ彼は、自分の世間知らずや思慮足らずをわからないまま他を見下して……いつか必ず、取り返しのつかないことになる。

「だが今言ったのは所詮基礎能力、魔晶兵の真の恐ろしさは、魔水晶を最大限利用した戦闘法にこそある! 俺が鍛錬に鍛錬を重ね手に入れた力を見せてやろう」

 俺の気持ちなど露知らずカインは調子に乗って笑っている。

「ここからは口だけでは生ぬるい、体に受けてその力を知るがいい! もっとも、死んでも知らんがな」

 カインは背負っていた魔法具とおぼしき筒を手に取った。
 実は彼の主戦力らしきその筒は、カインが上官ダイアナに連れられ軍部から出てきた時すでに持っていた。武器を持ったまま兵を引き渡す上官など前代未聞である、つくづくあのダイアナという軍人がカインを気に掛けているのがわかる。だが俺ら以外相手だと問題にならないのだろうかと少し心配にもなる。

「魔晶兵の魔水晶はただマナを固めたものではない、体内定着・身体強化の魔術刻印・自動復元の他に様々な能力があるのだ……! そのひとつこそが、体外の魔水晶との共鳴能力!」

 カインは筒を腕に装着した。俺も前の世界ではポテチの筒なんかでよくやった武装スタイルだが、カインの場合はわりと洒落にならない威力を発揮する。筒は表面がスライドする形で内部、黒い魔水晶が一面に埋め込まれた棒状の本体が露わになる。

「魔法とは振動! 人はマナを言葉で振動させることにより魔力を取り出し魔法を使う! 俺ら魔晶兵はそれを、体内の魔水晶と体外の魔水晶を共振させることでより強大な威力をもって行うことができるのだ! さあ再び受けてみろ、『水晶の悲劇』!」

 カインはその筒を地面に打ち付けた。すると彼を中心に辺りの空間が黒く染まり、魔力で満ちていく。この魔力は猛毒だ。魔力による毒は風で吹き飛ばすなどの対処ができない上に解毒も容易ではない、それをこうも素早く広範囲に打ち放つのだから末恐ろしい攻撃である。
 だが対処策がないわけではない。

「光魔法『フラッシュ・ポーズ』!」

 右腕を前に出し腰をやや屈め、全身に意識を集中させて放つ光魔法『フラッシュ・ポーズ』、全身から対魔法効果のある光を放ちカインの毒と同様空間を覆う浄化の技だ。単純に俺の方が魔力が高いのでカインの毒を打ち破ることができる。

「さああえて最初と同じ方法で破ってみせた、今度はどうする?」

 軽く揺さぶると、カインもそれを待っていたと言わんばかりに笑った。

「無論、魔晶兵の能力はこんなものではない! 振動の大きさと回数は鍛錬により俺の意思で変化し、振動ごとに異なる魔法を発現する! これならばどうだ、『水晶の剣戟』!」

 カインは腕の水晶を掲げると、一気に振り下ろした。するとその軌道がそのまま魔力のカッターとなり俺へと襲い掛かる。

「っと!」

 俺は光魔法をやめすぐに跳び退き、カッターは俺の横を通り過ぎる。だがその余波で俺の後ろにあった巨大な岩はあっさりと切断されてしまい、その威力を物語る。
 俺は回避できたが速度も相当なものだった、気を抜けば目で追うのも難しい。

「忘れるな、俺の身体能力は常人を遥かに超える……! これならばどうだ! 『水晶の剣戟』ィ!」

 カインは再び腕を振るい軌跡を刃とする。だがその速度が尋常ではなかった。長く重い武器を腕につけているにも関わらず風を切る音が聞こえるほどの速度、それも一呼吸の合間に何度も響く。目算だが秒間5発以上もの魔力のカッターが放たれ、全てが速度・威力ともに初撃そのままに俺に襲い掛かった。
 だが足を止めて撃たれた刃は軌道も似通っている、俺はすぐにそれを回避した。カインはそれを予想していたのか動揺もせずフンと笑った。

「貴様はやはり天才だ、認めてやる。よくぞ俺とここまで戦えたものだ」
「一度負けてるのに偉そうだな」
「ほざいていろ! 今にその思いあがった顔を叩き壊す! もはや容赦はせん、貴様を殺してやる!」

 その発言に俺は違和感を覚えた。だがそんなこと歯牙にもかけず、カインはいよいよ己の力を高らかに誇示する。

「所詮貴様の力はぬるい力! 真の闇を知る俺にはあまりにもぬるすぎる! 教えてやろう、魔晶兵の力、その究極をな!」

 荒ぶるカインの体に例の異質な魔力が渦巻き始める。本来ならば人間が持ちえない色の魔力……恐らくは埋め込まれた魔水晶が関係しているのだろう、エネルギーに様々な種類があるように、魔力にも種類がある。魔力を固形化した魔水晶がいかなる魔力を元にしているのか、問題はそれだ。

「魔晶兵究極の能力、その名は『バーサーカー』! 体内魔水晶を直接振動させ体の限界の枷を意図して外し、身体能力を際限なく引き上げる! 俺は両脚部、右腕部に『バーサーカー』をエンチャント……!」

 カインの宣言した部位が魔力により真っ黒に染まり、カインは息を荒げてその部位を引きずるように立つ。やはり制御しきれていない、だが本当に重要なのは、その直後。

「目標を、殲滅する」

 これだ。荒げていた息が急激に整い、まるでロボットのように――この世界には存在しないが、無機質に言う。
 魔晶兵は兵である、兵は服従してこその兵。カインの体にはその機構が組み込まれている、おそらくは本人も知らない内に。
 どこまでがその機構か? 『バーサーカー』発動時だけか? 戦闘中のためらいのなさもか? 好戦的な性格そのものか? あるいは、まさか、彼の人格全てが――

「死ねッ! 『黒衣影陣・剣戟』!」

 考えていたその時、カインは元の高揚した語圧を取り戻すと叫び、動いた。
 強化された脚力で地を駆け、一瞬にして無数の分身が俺を取り囲む。
 腕力で腕を振るい、数えきれないほどの刃を全ての分身が生み出す。
 合計数百は下らない、速度・威力の強化された魔法の刃が、四方八方余すところなく襲い掛かる。常人なら3秒で惨殺死体だ。
 ひとつの確信を得た俺は、強めに魔法を撃ちはなった。

「『バム』ッ!」

 破裂音にも似た短い詠唱の魔術、俺の魔力の渾身を乗せて打ち放つ。
 次の瞬間、俺の全身が大爆発を起こした。もちろん俺が自爆したわけではなく、爆発のエネルギーを全身から放ったのだ。魔法自体は下位魔法だが俺の無尽蔵の魔力で強化されたそれが引き起こす爆発は、加減せねば町ひとつ吹き飛ばすくらいにはなる。
 当然、魔力の刃は全て消し飛ばされた。

「グアッ!?」

 そして巻き起こった爆風が本体に吹きつけ、なまじ超高速で駆け続けていたために耐えることもできずに飛ばされる。爆炎の奥でそれを見つけた俺はすかさず跳び、空中でその上にのしかかると、そのまま首と右腕を抑えて地面に組み敷いた。

「くっ……これでも、叶わないというのか……!」

 その男は平静を取り戻し、手足の魔力も落ちている。だが俺は拘束する力を緩めなかった。
 のしかかったまま顔を近づけ、言い放った。

「お前……カインじゃないな。何者だ」



 同刻、パイロヴァニア某所。

「え……」

 私は思わず後ずさった。手足が震えそうなことに一拍遅れて気付いた。

「嘘……だよね? リオネちゃん。ねえ……」

 目の前の存在に――私は、恐怖していた。

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