双子転生 -転生したら兄妹に分裂してた。天才双子の異世界ライフ-

八木山蒼

第1話 俺の望みと神の怒り

「馬鹿は死ななきゃ治らないというが、君の馬鹿は死んでも治らなかったようだな?」

 俺、鈴木健司の目の前にいる神は呆れ半分怒り半分の顔でそう言った。
 ここは何もない空間。上も下もなく、あるのはただ真っ黒な背景だけ。いるのは俺と神の2人、俺は死んだときそのままのジャージ姿、対する神は白いもこもこのローブを着た老人の姿をしていた。
 俺はこの神についさっき殺されたのである。それも手違いなどではなく、意図的に。

「自分で殺しといてそれはないだろ。望みを言えと言われたからそうしただけだよ」
「……改めて、君の主張を確認しようか」

 神はあからさまにイラついていた。

「まず君は君の人生に不満があった。そしてその全ては世の中のせい……ひいては神である私のせいだとそういうわけだ」
「もちろん。俺が運動音痴なのも勉強ができないのも彼女ができないのも、引きこもりなのも社会が悪い。あんたが神様ならあんたが悪い」
「それでずっと私への恨み言もらしつつ、自室で自堕落にすごしてたわけだ」
「仕方がない、与えられたカード悪いならゲームは降りるしかないだろ?」
「もういい、わかった。要はお主は私を、神を本気で呪っているのだな」
「ああ。転生させてもらえるのは当然の権利だ」

 俺がいつものように学校をサボってゲームに励んでいたところ、突然この神が俺の部屋に現れた。常々神に不満を持っていた俺はこれ幸いと思うところをぶちまけたのだが、それに怒ったなんと神は俺に雷を落としあっさりと殺してしまった。俺の15年の人生は神によっていともたやすく幕を閉じたわけだ。
 気が付いたら俺はこの謎の空間にいて神と話していた。曰く神にも矜持というものがあるらしく、神罰と引き換えに転生させてやると言い出した。「そんなに生まれが不安なら今度は望む通りの人生にしてやろう、望みを言え」と神は言ったので俺は望みを言って、最初の会話になるわけだ。

「だから俺を、剣と魔法の世界で、全属性の攻撃魔法とあらゆる補助魔法が完璧に使えて、無尽蔵な魔力を持って、身体能力も飛びぬけた、財力も権力もある天才に転生させてくれ!」

 俺は再度俺の望みを神に言った。せっかく転生できるのならばこれくらいの要求はしてもいいだろう。神は苦々しい顔で溜息をついた。

「お主なあ……いくらなんでも贅沢じゃあないか?」
「都合がいいのはわかってるよ。でも前世は今言ったのと真逆みたいな人生だったんだし、少しくらいはいいだろ?」
「むむむ……すでに殺してしまった手前何とも言えんが、しかし……まあ、よかろう。お主は思想にはちと難があるが悪人ではないしな、叶えてやろう」

 意外と神は話のわかる相手だった。よし、と俺はガッツポーズをする。死んだ甲斐があったというものだ。
 その時、神が怪しげに笑った気がしたが、俺は気付かなかった。

「よし、ではお主を望む通りに転生させてやろう! 強大な魔法、強靭な体、全て与えてやる。ただし」

 ただし? 神の言葉が引っかかり俺は引き返す。すると神はいやらしい笑みを浮かべて言った。

「それら全てを1人の人間に与えるのはちと人の器を越えすぎる……私に考えがある。さあ鈴木健司とやら、転生するがいい。神に感謝しつつ、第二、そして第三の生を存分に楽しめ!」
「ちょっと待て、それってどういう……」

 俺の静止が届くことはなく、辺りは光に包まれ、俺の意識は薄れていく。
 そうして俺の――俺らの新たな人生は、幕を開けた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品