迷宮壊しは、全ての始まり

篝火@カワウソ好き

第9話 友人との仲を深める

ローランドに連れられて、俺とコアが向かった先は、当然彼と奥さんが営む宿屋である。


名は『雷鳥の休み処』だ。


コアと手を繋いで宿に入ろうとすると、若干の抵抗がありコアの顔を見てみると緊張した面持ちだったので、俺はコアの手を引き腰周りを抱いた。


突然のことに驚いたコアは俺を見るが、俺が笑いかけるとコアも一息ついて柔らかい表情を見せてくれた。


一緒に宿へ入るとローランドの奥さんであるアイラが入口近くまで来ていた。


「アディー無事でよかった」


そう言ってフワッと笑顔を作るアイラ。


マジかわいい。


「その隣の可愛らしい女の子がアディーのお嫁さん?」


えっ、ローランド伝えるの早すぎじゃね!?


ローランドが中入ってから俺達が中入るまでたったの10セカくらいだよッ!?


「はいそうですよ。奥さんに負けず劣らずの素晴らしい女の子を嫁さんに出来ました!」


「ほんとに綺麗……あっ自己紹介しなきゃ。私の名前はコア=クライストスです。もし宜しければ奥方の心得などをご教授願いたいのですが?」


「あらあら、コアちゃんはアディーのこと好きなのね、うふふっ。私のことはアイラって呼んでね」


アイラがコアの願いにそう反応を示すと、コアの顔は真っ赤にして下を向いた。


早速二人は打ち解けたようで、じゃれ合っている。


そんな光景を見た俺はというと


女神が二柱、眼福じゃ〜


と、頬を最大限に緩ませグヘヘと眺めていた。


ローランドはこれを見て、どう思っているのか彼の方を向いてみると、ビシッという効果音が聞こえてきそうな、いやその音を出してサムズアップを俺の方に向けていた。思わず、俺もビシッとやってしまった。


うんうん、男ならわかるよその気持ち……


「じゃ早速、アディーの期間祝いとコアちゃんの歓迎祝いをまとめてやっちゃいましょう! 丁度、宿泊している攻略者達も稼業に勤しんでいない時間帯なんだから!」


「そりゃ良いなッ!! コイツらの結婚祝いも兼ねてやろう!!」


「じゃ私、なにか食べるもの作ってくるね!」


この人達、やると決めたらすぐに突っ走っていくな……


「あっあの、アイラさん、私も手伝わせてもらっていいでしょうか!?」


「愛しのアディー君に自分の手料理食べさせてあげたいのね! 勿論いいわよ」


「ちょ、ちょっとアイラさん、手伝っていいんですね! じゃ行きますよっ!!」


コアは顔を赤くしながら、アイラさんの背中を押して厨房へと向かって言った。


アイラさんは終始ニコニコだった。


厨房に彼女らが消えていった後、ローランドが愉快そうな顔で口を開いた。


「じゃあ、アディー悩みを聞いてやろう」


「えっ、何で俺に悩みがあると?」


「顔に書いてるぞ、ほら」


そう言って、ローランドは手鏡を渡してきたのでそれを拝借し自分の顔を見てみるとそこに、悩んでますと本当に書かれている訳ではなく眉間にシワがよっている俺の顔があった。


「いつからこんな顔してた?」


「お前さんが彼女らから離れた時からだ」


確かに悩みの素振りを見せまいとしていたが、今は無意識に悩みを考えていたようだ。


「実は、ソウルステージの事なんだがな」


「もしかして上がったのか!? なるほどな、確かに一ヶ月で上がるのは相当目立つからな。でも一つ上がるくらいなら、攻略者になる前からも狩りとかやってましたとか言っておけば大丈夫だと思うぞ」


「それは分かってる。けどこれを見てくれ」


そう言って、指を少し小型ナイフで切り、血を腕につけステータスを浮かび上がらせた。


「こういう事なんだ……」


「なッ!?」


この反応は当然だ。


──ソウルステージ3


この数字は、相当に攻略者ギルドに影響を及ぼす。


「お前、この一ヶ月何があったんだ?」


真剣な顔でローランドは訊ねてくる。


「ちょっとな……実は────


そこから俺は経緯を話した。勿論、コアの事は流石にダンジョンコアだったとは言えないので、一人で迷宮にいるところを助けたと言った誤魔化したが。


話を聞いている最中のローランドの動作は凄かった。


目や口を大きく開いたり、耳がピクピクと動いたりと途轍もない驚きを体で表していた。


「なんか、凄いことしてたんだな、てか無理するなってお前が出ていく前に言ったよな。聞いてなかったのか!? この耳は飾りか!?」


めっちゃ心配かけてた。


「今こうしているんだからいいだろ?」


「阿呆ォッ!! それは結果論だ馬鹿野郎! もう少しお前は成長する過程を考えろ。まぁ、今・回・は、無事だったからいいけどな」


「すまん、その通りだ」


正論を言われ、自然と謝罪の言葉が出ていた。


俺のその様子を見た、ローランドは深くた溜め息をついた後、今後のことについて話した。


「もういい、それより今後のことだ。お前は暫くは攻略者ギルドでカードを更新するな。そして、ソウルステージ2以上のパーティに一時的に入れてもらって徐々に力を発揮していけ。そんで少し経ったら更新する。目立つことは避けられんが、それが最善策だろう」


「他のパーティに入れてもらうか……その発想はなかった。助かったローランド」


「いや、いいってことよ。それに確かに英雄になるって男ならこんくらい訳ないだろうしな」


ローランドはそう言って俺に歯を見せてきた。


やっぱすっげ優しいな。心が温まる……
全くどっかの親父とは大違いだッ!!


俺の耳に、あのクソ親父に似た噎せりが聞こえたような気がした。


「あなたー、アディー、料理ができたから運んでくれるー?」


アイラさんの伸びた声が俺とローランドの耳に届く。


「おうっ今行くぜ!!」


「分かりました!!」


そう言って、出来た料理を運んでいく。


すべて運び終わり、四人が一つのテーブルを囲って席に着くと、ローランド両手をしっかりテーブルにつき、目を瞑る。アイラさんと俺も同じ形をとると、それを感じたローランドは口を開いた。


「地に感謝を」


「「地に感謝を」」


アイラが何をしているのか分からない、といったように首を傾げていたので俺は教えることにした。


「食す物は全て環境があってこそだろ? この感謝にはこれからいただくという意味合いがあるんだ。こうやって時間にゆとりがある時はこれが作法だよ」


俺がそう言うと、それは素晴らしいわと言って、俺達の真似をして地に感謝を、と言葉を発した。


「どうかな?」


どうやら今食べているのはコアが作ったもののようで、それを食べる俺を見たコアが不安そうな顔で聞いてくる。


「野菜は若干大きいかな。でもこれは慣れだからね。味付けに関してはアイラさんに聞いたのかな、とても美味しくできてるよ」


俺はそう言ってコアの頭を撫でると、コア目を瞑ってはニコリと笑った。


「ありがとっ!今度は自分の力だけで作れるように頑張るわっ!!」


そう言って、コアは胸の前で両手ガッツポーズをした。


そこからは、ローランドにした話をアイラさんにもしてアイラさんが驚いたり、アイラさんがローランドのここが好きだと言ったり、それに対抗してか恥ずかしがりながらもコアは俺の好きなところを言ってくれた。男性陣はら違った……俺だけはそんな会話に柄にもなく恥ずかしくなったりした。しかもこの二人は情事の話も始め俺とコアは温いたたまれぬ気持ちになった。後は、世間話もしたりして時間が過ぎていくのであった。


そして時間も夜に入ることとなりら攻略者達がちらほら宿屋に戻ってきたのを確認した後、お祝い会は終わりを告げるのであった。


この宿屋、この友人は本当に優しくて頼もしい。


そう思いながら俺は、シャワーを浴びた後、同じくシャワーを浴びたコアと手を繋ぎ俺の借りている部屋に行く。


部屋に入ると一つのベットがあるので、そこに二人で腰を下ろした。


沈黙が続く。


俺も普段は女の子とチョメチョメしたいとか言ってるけど、実際にこういう雰囲気になると気まずくなるもんなんだな。


なにッ? ヘタレだって? ああヘタレさッ!!
だって今まで女の子と関係持ったことないもん!!


「なあ、コア? そろそろ寝よっか」


そう言って掛け布団を捲ろうとすると俺の寝間着の袖をコアがつまんだ。


「ねえ、アディー君私達夫婦だよね? その、アイラさん達公認だし、ね?」


コアが可愛らしく上目遣いでそう呟く。


俺は最低だ。女の子にここまで言わせてしまった。


「俺なんかの妻になって良かったのか?」


何でそれを聞くッ!? どこの小心者だよ!!


「私はアディー君が好き。じゃなきゃ貴方の妻になんてならないわ。他の誰でもない貴方、アデージュ君を愛してるわ」


そこまで言ってくれるコアに、俺の理性は飛びかけた。


「ありがとう」


俺は好きになってくれた事にお礼を言ってコアの可愛らしい唇にキスをする。
なんとか理性を保ちつつ優しく彼女を押し倒した。


俺に押し倒された彼女は、大丈夫だよと穏やかな笑顔で細い腕を俺の首に回す。


可愛らしくも綺麗さを兼ね備えた女の子が俺の腕の中で笑顔を向けてくれる。
俺はものすごく幸せを感じていた。


今度は彼女からキスをしてきた。しかも先ほどのクラッシュ夫妻の情事話の影響か舌を絡めたキスだ。


こんな美しい女の子が俺を求めてくれている。


それをハッキリとコアに認識させられた俺は何かが飛んでいった感覚に溺れるのだった。

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