迷宮壊しは、全ての始まり
第8話 迷宮街に帰る☆
「いいえ、それはないと思うわ」
「そうなのか」
「ええ、ダンジョンコアは元々は特殊な大きな魔結晶。私のように人の形になることなんてまずないわ。感覚的にだけど、私だけが魔法を授けるためだけに人型の形態になる権利を与えられた。それがまさかあなたと一緒なることが出来るなんてね……」
俺は、他のダンジョンコアが人型になれるのかを聞いてみたが、コアが涙を再び流しながら笑顔で話したものだから、思わず抱きしめてしまった。
彼女も一瞬間があったが抱き締め返してくれた。
此処は迷宮跡地。
迷宮崩壊を俺の手で起こしてしまったとも言えるであろう場所である。
今では此処に迷宮が有ったことすら分からないほどに痕跡一つ残っていない。
見渡す限りの草原、俺はこの中で迷宮を見つけていたのだ。今ではその跡地にも草が生い茂り、あたりと一体化している。
迷宮崩壊の起こるダンジョン内にいた俺は、気付かぬうちにこの外へと打ち出されていた。何か、転移するという法則でもあったのだろうか?
その後もしばらく抱擁を続け、ようやく離れたコアは、涙無しの満面の笑みを見せてくれた。
たまらん……
「そういえば、さっき俺のステータスに《属性付与》って魔法があったけどそれはコアが?」
「ええ、そうよ!! アディー君に力を継承したわ!! 私にはスキル〈心魔継承〉っていうのがあって、私が使ってあげた相手の望む魔法を手に入れることが出来るって事だから《属性付与》はアディー君が望んでいたものだったんじゃないかしら!?」
今ではコアは俺のことをアディーって呼んでくれる。
ヤバイ、マジ嬉しい……
俺が手に入れた魔法が《属性付与》になったのってアレだよな、ミスリルの魔伝導率が高いっていうのもあって今後の役に立つためにも欲しいって思ったからだよな。
ミスった、他人を誘惑できる魔法を欲しいって思っとけば──ィッ、イテテテッ、イタイ、イタイよッコアッ!!
顔に出ていたのか、ジト目で頬を抓られた。
俺は赤くなった頬をさすりながらも、真剣な目でコアを見た。
「コア、俺に力を与えてくれてありがとうッ!! これからのことを考えるとマジでこういう魔法は必要だった。本当にありがとうッ!!」
頭を下げてコアにお礼を言った。
「そんな事言わなくていいわ。私はねアディー君、今はないけど《映像記録》っていうのがあって、それを使って一人で迷宮に入ってきた貴方の姿を見たの。始めは、迷宮も初心者のような子が一人で入ってきてダメェェェッって叫んじゃったけどね」
そこで一旦話を止め軽く笑みを浮かべたコアは、真剣な顔に戻し俺の顔を真っ直ぐに見た。
「貴方が迷宮を進むにつれて、ワクワクが止まらなかったの。ソウルステージが1にも関わらず、そんなの無視で敵を薙ぎ払う貴方に私はいつの間にか興奮を覚えたわ。それこそ自分じゃないみたいに。あたしは思ったわ、この人は英雄となってこの世界を羽ばたく人だって。この人の隣でこの人のこれから紡ぐ英雄譚を見てみたいって。けど、私には叶わぬ望みだってわかってた。けど、私はここに居る。今、貴方がいるこの外にこうして貴方の隣に居る。私はそれが嬉しいの。だから私からも言わせて」
そうすると、隣に並んでいたコアは体をこちらに向けてこう口を開いた。
「ありがとう、英雄様っ!!」
そう言って、コアは俺に飛びついてくる。
俺はコアを優しく受け止めると、ふと一つのの想いが心に芽生えた。
これからも俺は、彼女の英雄であり続けよう
目標に次ぐ一つの想いが、今後の俺を動かしていくだろう。
そんなことを考え更けながら俺は抱きついているコアの頭を撫でた。コアの身長は170程で、顔を見上げた彼女の顔は割とすぐ間近にあった。
俺はあいていた腕でコアの腰を抱きしめると、顔を近づけた。それにコアも目を瞑り顔を近づけてくれた。
そして俺達は二度目のキスをした。
◆◆
俺はコアと手を繋ぎながらフェアレストへと戻ると、始めてきた時と同じく情に厚い俺の恩人である衛兵さん、ローランドが相変わらず真面目に門番をしていた。
街に向かって歩く俺を視界に捉えたローランドは俺の元へと走ってきた。
「アディー、一ヶ月もどこで何やってたんだァァァッ!! 心配したぞォォォッ!!」
そう言い、俺に抱きついてきた。
俺はコアと手を離してされるがままになっていた。
「グッグッグヘェッ、ローランド、苦しい。鎧も痛い。ちょっと離してくれ」
そう俺が言うと、ゆっくりながらもローランドは離してくれた。
「それにしても、本当に一ヶ月何してたんだ? もしかしたら違う街に行ったか、最悪死んだかで俺達、気が気じゃなかったんだぞ!!」
めっちゃ心配してくれてた。俺達って事は奥さんも心配してくれてたんだろう。けど俺の感覚と違う点が一つ。
一ヶ月って何だ?
この街を出て、多分往復三日くらいの筈だが、ローランドの真剣な顔を見るに一ヶ月って言うのは嘘ではないようだ。
「まて、ローランド。一ヶ月も経っていたのか?」
「ああ、お前が出て行った日はタイヨウの月の五日で、今日はヒの月の六日だ」
どういう事だと考えていると隣から声が聞こえた。
「多分私の迷宮のせいじゃないかしら? 私の迷宮は特殊で、減速空間になっていたから内部での一日が多分一ヶ月になったんだと思う」
コアは俺の耳元でそう囁いた。
なる程、そういう事か。
これはローランドの感覚に合わせた方がいいなと思った俺は俺の時間を彼に合わせた。
「済まなかったな、一ヶ月も音沙汰無しで」
「いや、無事ならいいんだ。それより何だ、俺達が心配している間にこんな別嬪を連れて」
ローランドは俺に肩を組んでコアのことを聞いてきた。
俺は素直に応えようとすると、俺が言うよりも先にコアが笑顔で口を開いた。
「アデージュの妻のコア=クライストスです、ローランド様。以後お見知りおきを」
おいおい、なんか口調違いません!?
てかコアの口から言われるとなんか恥ずかしいなこれ。
そう感じながら肩を組んでいるローランドの顔を見ると、思わず笑っちまう程に口を開いて呆然としていた。
「こんな女神様が、お前の妻だと……」
なんかすっごい目でローランドが俺を見てくる。何俺、こんな目を向けられて殺されるの? お前には釣り合ってないって殺されるの?
「俺と同じ勝ち組だなッ!! ガッハッハッ!!」
一転、笑顔で組んでいた肩を叩いてきた。
ああ、そういう事ね。たしかに俺とアンタは同じ勝ち組だ。
そう実感した俺はコアを見ると、別嬪と言われて満更でもなかったのかニコニコしていた。
「だったら、結婚報告を俺の妻にもしてくれ!! 俺もう今日は上がりだから一緒に俺んちに行こうぜッ!!」
ローランドはそう言うと、早々に支度を揃えて目線で行くぞと促してきた。俺はコアと手を繋いでローランドの後ろについて行くことにした。
ちなみに、ローランドの代わりに来た若い衛兵さんはコアに一目惚れするも、コアが俺にキスするのを見せつけると大きく落胆していた……
あら、この子ったら大胆!!
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