幼女転生から始める異世界解読術
第64話 記憶の代償
サラスティアを命からがら脱出した俺達は、次の目的地、ユドリシアへと向かっていた。
「そのユドリシアへは、どのくらいかかるんですか?」
「歩いて向かうと丸三日はかかりますかね。その間にクスハがこちらの動向に気がつかなければいいのですが」
アーニスさんの言う通り、移動に丸三日かかるとなると、向こうがこちらの動きに勘付く可能性がある。もし到着する前に見つかってしまったら、今度こそ俺達は逃げ場を失う。
なので、ユドリシアへは足を早めて向かいたいのだけれど、
「急がないと」
「そう言っているユウが一番疲れている」
「ごめん、やっぱり分かっちゃった?」
「少し休憩にしましょうか」
まだ怪我が完治に至っていないからか、体力の消耗が激しくて、俺はすぐに息切れを起こしていた。特にサラスティアを出てから、ずっと気を張っていたので、その反動が今になってきている。
「すいませんアーニスさん、急がないといけないのに」
「無理をさせてしまっているのはこちらの方ですから、休みたい時にはしっかりと休まないと駄目ですよ」
「……ありがとうございます」
俺は座り込むどころか、横に倒れてしまう。怪我のせいか、それとも疲れからか俺は先程から意識が朦朧としていた。
「ユウ、大丈夫?」
「ごめん、ちょっと無理かも」
「ユウさん!?」
そして朦朧としていた意識はいつの間にか途切れ、俺はそのまま深い眠りについてしまった。
(急がないといけないのに、こんな所で……)
■□■□■□
長い夢を見ていた
 
それはまだ、夏目龍之介が夏目龍之介であった頃の夢
そこには奏もいて、そしてユウとティナのエルフの姉妹もいた。皆が笑顔でその場所にいて、俺も笑っていた。
けどその夢が崩壊したのが、ある事件がきっかけだった。
「龍ちゃん! しっかりして、龍ちゃん!」
「よかった、奏が無事だったなら……」
「よくないよ! 龍ちゃんが居ないと私……」
俺はその事件で命を落とした。異世界という場所で、大切な人を守る為に。だから後悔はなかった。神様から与えられた役割を果たせなくても、後悔は一ミリもなかった。
だけど後悔を生んだのは、俺自身ではなく奏の方だった。俺が命を賭して守った事により、奏の中にはある種の後悔が生まれた。
そしてそれが、今の俺という形を生み出して……。
「……」
「目を覚ましましたか、ユウさん」
長い夢から目を覚ますと、看病をしてくれていたのか、アーニスさんの顔がすぐ近くにあった。少し離れた先では、ユウニが寝息を立てて眠っている。
「アーニスさん、ここは……」
「あの場所から少し歩いた先に小屋があったので、一時的ではありますがそこに身を潜めることにしたんです」
「すいません、私のせいで」
「気にしないでください、無理をさせたのはこちらですから」
窓から外を見ると既に空は暗くなっていて、あれからかなりの時間が経過しているのが分かる。俺が倒れさえしなければ、こんな所で足踏みしなくて済んだのにと思うと、胸が苦しくなる。
(でも休む必要はあったのかもな……)
サラスティアに来てから、気を張ることが多かった反動がここに来たのかもしれないと思うと、いい箸休めになったのかもしれない。
「クスハの事がありますから、明日の朝には出発しなければなりませんけど、ユウさんは大丈夫ですか?」
「大丈夫です。今日休んでしまった分は、しっかりと取り戻しますから」
「なら今日はしっかりと休んでください。私ももう寝ますので」
「ありがとうございます、アーニスさん」
俺は目を閉じる。すぐには眠れなかったものの、よほど疲れていたのか気がついたら眠っていた。ただ、俺はこの時眠ってしまった事を、朝起きた時に後悔することになる。
■□■□■□
朝の目覚ましになったのは、何かが近くでこぼれ落ちるような音。雨でも降って雨漏りでもしているのかと思い、目を覚ました。
「え……?」
けど外を見ると天気は快晴。雨漏りもしている様子はない。ではこの音の正体はと思い、辺りを見回した時、俺はそれを見つけてしまった。
「アーニスさん!」
この小屋の入口を守るかのように扉にもたれかかって眠っている血まみれのアーニスさんの姿を。俺はその衝撃な光景に、動揺しながらも急いで彼女のもとに駆け寄る。
「アーニスさん! アーニスさん!」
俺は必死に彼女の名前を呼びかけるが、反応がない。俺は彼女の心臓に耳を当てようとするが、そこで気がついてしまった。
彼女の出血の出元がそこからだという事に。
「う……そ……」
「どうしたのユウ、朝から……え?」
俺が身を引くと、目が覚めたのかユウニが声をかけてくるが、すぐにそれに気がついた。
「どうしてこんな事に」
「分からない、分からない! どうして、どうしてアーニスさんが」
「ユウ、落ち着いて」
「落ち着けない、落ち着けない。こんなの見たら落ち着けられないよ。ユウニこそどうして冷静なの? 人が死んでいるんだよ?」
「動揺しているよ。でも、私、感情が出せない」
「そんなの関係ない! 感情が出せなくても、人が死んだら……人が死んだら……」
「ユウ、どうしてそこまで取り乱して」
ユウニの言う通り俺の動揺っぷりは異常だった。まるであの時のように。
あの時?
あの時っていつだ。俺はいつ、こんな状況におかれたんだ。俺はいつ……。
「あ……あぁ……」
俺は崩れ落ちる。ようやく……ようやく俺は……。
「うぁぁぁ!」
自分がどうしてこうなったのか、そして自分の罪を全部思い出してしまった。
サラスティア王国王女、アーニスの命と引き換えに。
「そのユドリシアへは、どのくらいかかるんですか?」
「歩いて向かうと丸三日はかかりますかね。その間にクスハがこちらの動向に気がつかなければいいのですが」
アーニスさんの言う通り、移動に丸三日かかるとなると、向こうがこちらの動きに勘付く可能性がある。もし到着する前に見つかってしまったら、今度こそ俺達は逃げ場を失う。
なので、ユドリシアへは足を早めて向かいたいのだけれど、
「急がないと」
「そう言っているユウが一番疲れている」
「ごめん、やっぱり分かっちゃった?」
「少し休憩にしましょうか」
まだ怪我が完治に至っていないからか、体力の消耗が激しくて、俺はすぐに息切れを起こしていた。特にサラスティアを出てから、ずっと気を張っていたので、その反動が今になってきている。
「すいませんアーニスさん、急がないといけないのに」
「無理をさせてしまっているのはこちらの方ですから、休みたい時にはしっかりと休まないと駄目ですよ」
「……ありがとうございます」
俺は座り込むどころか、横に倒れてしまう。怪我のせいか、それとも疲れからか俺は先程から意識が朦朧としていた。
「ユウ、大丈夫?」
「ごめん、ちょっと無理かも」
「ユウさん!?」
そして朦朧としていた意識はいつの間にか途切れ、俺はそのまま深い眠りについてしまった。
(急がないといけないのに、こんな所で……)
■□■□■□
長い夢を見ていた
 
それはまだ、夏目龍之介が夏目龍之介であった頃の夢
そこには奏もいて、そしてユウとティナのエルフの姉妹もいた。皆が笑顔でその場所にいて、俺も笑っていた。
けどその夢が崩壊したのが、ある事件がきっかけだった。
「龍ちゃん! しっかりして、龍ちゃん!」
「よかった、奏が無事だったなら……」
「よくないよ! 龍ちゃんが居ないと私……」
俺はその事件で命を落とした。異世界という場所で、大切な人を守る為に。だから後悔はなかった。神様から与えられた役割を果たせなくても、後悔は一ミリもなかった。
だけど後悔を生んだのは、俺自身ではなく奏の方だった。俺が命を賭して守った事により、奏の中にはある種の後悔が生まれた。
そしてそれが、今の俺という形を生み出して……。
「……」
「目を覚ましましたか、ユウさん」
長い夢から目を覚ますと、看病をしてくれていたのか、アーニスさんの顔がすぐ近くにあった。少し離れた先では、ユウニが寝息を立てて眠っている。
「アーニスさん、ここは……」
「あの場所から少し歩いた先に小屋があったので、一時的ではありますがそこに身を潜めることにしたんです」
「すいません、私のせいで」
「気にしないでください、無理をさせたのはこちらですから」
窓から外を見ると既に空は暗くなっていて、あれからかなりの時間が経過しているのが分かる。俺が倒れさえしなければ、こんな所で足踏みしなくて済んだのにと思うと、胸が苦しくなる。
(でも休む必要はあったのかもな……)
サラスティアに来てから、気を張ることが多かった反動がここに来たのかもしれないと思うと、いい箸休めになったのかもしれない。
「クスハの事がありますから、明日の朝には出発しなければなりませんけど、ユウさんは大丈夫ですか?」
「大丈夫です。今日休んでしまった分は、しっかりと取り戻しますから」
「なら今日はしっかりと休んでください。私ももう寝ますので」
「ありがとうございます、アーニスさん」
俺は目を閉じる。すぐには眠れなかったものの、よほど疲れていたのか気がついたら眠っていた。ただ、俺はこの時眠ってしまった事を、朝起きた時に後悔することになる。
■□■□■□
朝の目覚ましになったのは、何かが近くでこぼれ落ちるような音。雨でも降って雨漏りでもしているのかと思い、目を覚ました。
「え……?」
けど外を見ると天気は快晴。雨漏りもしている様子はない。ではこの音の正体はと思い、辺りを見回した時、俺はそれを見つけてしまった。
「アーニスさん!」
この小屋の入口を守るかのように扉にもたれかかって眠っている血まみれのアーニスさんの姿を。俺はその衝撃な光景に、動揺しながらも急いで彼女のもとに駆け寄る。
「アーニスさん! アーニスさん!」
俺は必死に彼女の名前を呼びかけるが、反応がない。俺は彼女の心臓に耳を当てようとするが、そこで気がついてしまった。
彼女の出血の出元がそこからだという事に。
「う……そ……」
「どうしたのユウ、朝から……え?」
俺が身を引くと、目が覚めたのかユウニが声をかけてくるが、すぐにそれに気がついた。
「どうしてこんな事に」
「分からない、分からない! どうして、どうしてアーニスさんが」
「ユウ、落ち着いて」
「落ち着けない、落ち着けない。こんなの見たら落ち着けられないよ。ユウニこそどうして冷静なの? 人が死んでいるんだよ?」
「動揺しているよ。でも、私、感情が出せない」
「そんなの関係ない! 感情が出せなくても、人が死んだら……人が死んだら……」
「ユウ、どうしてそこまで取り乱して」
ユウニの言う通り俺の動揺っぷりは異常だった。まるであの時のように。
あの時?
あの時っていつだ。俺はいつ、こんな状況におかれたんだ。俺はいつ……。
「あ……あぁ……」
俺は崩れ落ちる。ようやく……ようやく俺は……。
「うぁぁぁ!」
自分がどうしてこうなったのか、そして自分の罪を全部思い出してしまった。
サラスティア王国王女、アーニスの命と引き換えに。
「恋愛」の人気作品
書籍化作品
-
-
337
-
-
37
-
-
516
-
-
969
-
-
3395
-
-
39
-
-
353
-
-
26950
-
-
1359
コメント