幼女転生から始める異世界解読術

りょう

第63話 一冊から一人へ 後編

 俺はどこかで信じていた。

 彼女が俺を刺したのは嘘だと。

 けど、

「リルお姉ちゃん、どうして!」

「ユウちゃん……ごめんなさい、ああするしかなかったんです」

 でもそれは全て否定された。

「リルさん、あなたがどうしてそちら側にいるんですか? あなたはそういう人間ではなかったじゃないですか」

「アーニス様、ごめんなさい。でもこれも全て、彼女の為なんです」

「彼女?」

「呑気に話すのは構わないが、もう逃がさないぞ」

 クスハがリルを押しのけて前に出て、今度こそ逃がさないと言わんばかりに、剣を俺達に突きつけてきた。しかも今度は複数の騎士がいるので、以前のような戦い方もできない。

「ユウさんには手出しさせませんよ、クスハ」

 それに対抗してアーニスさんが俺の目の前に立つ。

「そのエルフを庇って、何の意味があるのですか? あなたの方の命の方が大切なのでは?」

「私の命よりも、この子を守ります。それが約束なので」

「元王女様とは思えない発言ですね。なら、その願望を叶えてあげましょうか」

「ユウさん、ここは私に任せて逃げてください」

「アーニスさん! あなたを置いて行くわけには」

 いかないと言おと言った時、

『アーニスの腕を引っ張って、図書館の中にもう一度入って』

 まるで天の声のように俺の頭に響いた。俺はその声に聞き覚えがあり、

「アーニスさん、こっちへ!」

 その指示に従った。

「え?でもここに逃げたら」

「いいから逃げます!」

「あ、待て!」

 アーニスさんを無理矢理中へと引きずり込み、クスハが動き出す前に、扉を閉めて鍵をかける。

『そしたらそのまま私のところに来て』

「私のところ?」

『あんな別れ方したから恥ずかしいけど』

「あ、うん、わかった」

「ユウさん、さっきから何の話を」

「アーニスさん、自分だけ犠牲になろうだなんてそんな事はやめてください」

「え? ですけど、もうこの場からは」

「諦めちゃ駄目です。何か策があると思うんです」

「策って、誰にあるんですか?」

「答えはすぐそこにあります」

 俺は急いであの場所へとアーニスさんを連れて行く。まさか十分もしないで、この場所に戻ってくるとは思っていなかった。

「ユウさん、どうしてこの場所にもう一度」

「私と約束を守ってくれてありがとう。おかげで時間を取れた」

「この声……」

 地下に降りたと同時に今度は頭の中ではなく、直接声が聞こえる。そして薄暗い地下の中から、それは姿を現した。

「ユウニさん、どうして」

「私は預言書の役目は終えた。だからこれからは、預言書としてではなくて一人の人間になる道を選んだ」

 いつもの口調、いつもの少女としての姿。もう見る事はないと思っていたのに、まさかその姿がこの目に見れる日が来るとは思っていなかった。
 つい十分ほど前に別れたユウニが、正真正銘少女の姿として戻ってきた。

「ユウニ……」

「心配かけた、ユウ。でも、今時間はない。もう破られる」

「あ、そうか。でもどこに逃げれば」

「ここ」

「ここ?」

 ユウニが壁に指をさす。そこには人が通れそうな穴があった。さっき来た時にはそんな穴はなかったというのに、この数分の間にいつの間にと思いながらも、俺は躊躇わず穴へと入る。

「ユウさん、少し躊躇ってくださいよ。私でもここの存在は知らなかったんですよ?!」

「大丈夫アーニス。この穴は私が作ったから」

「作ったって、いつの間に」

「ユウ達が戻ってくる前に」

「改めて思いますけど、もう預言書の領域越えてますよねそれ」

 後ろから聞こえるそんな会話を耳にしながらも、俺はその穴を慎重に進んでいく。その間俺は、色々なことを思い出していた。

 リルの裏切り

 そして僅か十分でのユウニの復活

 正直どちらも考えられない内容だった。けどリルがあの場にいたのは本当だし、ユウニも本の姿からこの姿へと戻っている。

「ねぇユウニは、もう預言書ではなくなっちゃったの?」

「私は役目を終えた。だからあの場所にこれまでの歴史を保管して、これからの預言書を越えた未来を記して行くって決めた」

「じゃあユウニは、普通の女の子に戻ったってこと?」

「元は本だから、人間の姿になったに近い。もう預言書の姿に戻ることはない」

「一冊の本が一人の人間になるなんて、到底信じるのは難しいんですけど、それがユウニさんの選んだ道なんですね」

「その代償は大きかったけど、私はユウとは離れたくなかったから」

「え?」

「もうすぐ出口」

 さり気なく言ったユウニの一言が気になりながらも、俺達は穴を抜け出す。するとそこは、丁度サラスティ王国の外だった。

「本当に脱出できた……」

「これ以外に脱出する方法はなかった。強引に道を作る以外は」

 続いてユウニとアーニスさんが穴から出てくる。久しぶりに出てこられたサラスティアの外側に感激しながらも、長居はできない。
 追っ手が来てしまう前に、まずはこの前アーニスさんが言っていた同盟国へと向かわなければ。

「さて急いで向かいますよ二人とも。ユドリシアに」

 その先陣を切ったのは、一番辛い心境のはずのアーニスさんだった。その空元気に、俺は少し心配になりながらも、後ろをついて行く。
 そして一人の少女としてある意味では転生を果たしたユウニもその後をついて行く。

「クスハ、この借りは絶対にいつか返します。そして絶対にサラスティアは返してもらいますから」

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品