幼女転生から始める異世界解読術

りょう

第56話 あるべき姿

 ユウニとスービニアを発って間も無く二日になる。俺とユウニは現在、どこかの森の中を歩き続けていた。何故明確じゃないのかというと、

「ねえユウニ、ここはどこなの?」

「分からない。でもそろそろ抜けるはず」

 このやり取りを既に今日だけで五回程しているからだ。つまりは、俺もユウニも現在位置を把握しておらず、以前の輪廻の森の時とは違う意味で、彷徨ってしまっていた。
 元を正せば行くあてがない旅ではあるので、その意味としてはあっているのだけど、この人の気配がない森に、三冊目の預言書があるとは思えない。

「ユウニは三冊目の在り処は目星がついてるの?」

「少しではあるけどある」

「その場所も預言で?」

「一応」

 ならこの森を彷徨うことも預言の内なのだろうか。ただの迷子なだけな気もするけど、そこまで分かっているなら、彼女を信じる以外にない。

(三冊目の預言書も、ユウニ達と同じく人間になったりするのかな。そして名前も……)

 でももう他に思い当たる名前とか人物はいないので、ただの偶然ならもう出てこないはずだ。ただ、それが偶然じゃないなら、次は何を俺が待っているのか怖くなる。

「ねえユウニは最初に出会った時、私はあなただって言っていたけど、あれって本当にそういう意味で言っていたの?」

「嘘は言ってない」

「なら、二人目のカナデもそうだったけど、三冊目の少女もやっぱり」

「本当に何も覚えてないの?」

「え?」

「どうしてこうなっているのかも、どうして私がそう言った理由も全部覚えてないの?」

 ユウニが何を言っているのか分からなかった。確かにここまで、俺やカナデがこの世界にやって来ていたとか、俺が何度も転生しているとか色々な事を知らされた。
 だけど俺はそれらに対して、何一つ思い出せる事がなく、ただそこにある事実を飲み込んでいく事しかできない。

「ユウニは知っているの? 私、ううん、彼の事を」

「知っていなければあんな事を言わない」

「でもユウというのは元々別の人物なんでしょ? 彼が転生という形でこうして復活したけど」

「本当にどうして覚えてないの? ユウがきっと悲しむのに」

「そんなの仕方がないでしょ。私だって好きで忘れているわけじゃないんだから」

「なら思い出して全部。そうしないときっと後悔するから」

 俺はもう充分なくらい後悔している、とは口を出して言えなかった。だって俺は、いつ死んだのかも分からない上に、記憶すら失っているのだから、後悔していないわけがない。

「……本当にユウが可哀想。思い出せてもらえないだなんて」

「どうしてそんな事を言うの? 私が何をしたって言うのよ」

「したから私は言っている」

「だったら、私は何を」

「いい加減にして。これ以上私をイライラさせないで」

 ユウニに突き放されてしまう。今までこんな事を言われた事なかったのに、まさか彼女が感情的になるとは思わなかった。
 だけど、彼女が感情的になったところで、俺の記憶は戻ってこない。何を彼女をイラつかせるのか俺には分からない。自分の罪も何も、思い出せない俺はどうやってこの先もユウとして生きていけば……。

「もう記憶の事はいい。それよりユウ、気をつけた方がいい」

「気をつけるって何を」

 と俺が思った瞬間、頬を火の玉が掠めた。

「魔法?」

 俺は振り向く。するとそこに立っていたのは、

「ついに見つけましたよ、預言書の少女」

「え? カナデ?」

 もう会えないと思っていた人物、カナデだった。何故彼女がそうだと分かったのかというと、ただの直感としか言えないけど、

「お久しぶりですね、ユウちゃん。まさかこんな場所で再会するとは思っていませんでした」

「いや、私はユウニじゃなくて」

 龍之介だと言おうとしたが、この姿である以上言う事はできない。その俺に代わってユウニが正面に立つ。

「何のつもり、カナデ」

「何のつもりもありませんよ。あなたは気づいているはずですよね、私がこの場所に現れたのも」

「そうだとしたらどうする」

「付いてきてもらいます、私が三冊目の預言書の場所へご案内しますから」

「どうしてそれを」

「書いてあるからです、勿論。そして私がその場所に案内する役目を任されました」

「カナデが?」

「ユウニはここまで分かっていたの?」

「こんな事は書かれてない。私達がこの後三冊目を見つけるキッカケとなっていたのは」

 狼狽するユウニ。そして彼女の言葉に答えるかのように、それは起きた。

「ユウニ、体が」

「やっぱりおかしくなり始めている。こんなの絶対」

 ユウニの体が突然光を発し、しばらくした後に彼女は元の姿に戻ってしまっていた。
 その元の姿とは、本当の意味での姿であり、

「嘘、ユウニが預言書に戻っちゃった」

「やっぱりこうなってしまったんですね。まあ、それがあるべき姿だから仕方がありませんけど」

「どうしてユウニがこんな事に」

「いくら預言書でも、都合よく自分の未来が載っているわけではないから、予測できなかったんですよ」

「じゃあこの事はユウニが知らなくても、他は知っていたの?」

「少なくとも私達は知っていましたから」

 一人の少女が一冊の預言書に戻った瞬間だった。

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