幼女転生から始める異世界解読術
第55話 長の使命
最初は一瞬何があったか理解できなかった。私の体がどうしてこんなに痛くて、視界がくらむのか。
(これは……何?)
本当に一瞬の出来事で、私がそれを理解した時には既に体を動かす事すら出来なかった。
「まさかこんなにも早く捕まえる事が出来ると思いませんでした」
声がする。私が知っている声の誰でもない声。
「だ……れ……」
私は朦朧とする意識の中で声を出したものの、それに返答はない。その代わりに私に伝わってきたのは、
『少々心が痛みますが、これも全て世界の為。願わくば私はもう一度、龍ちゃんに会って話がしたい』
彼女の心の声。そこからは私を狙った理由は見つからなかったものの、確かな情報だけが伝わってきた。
(龍ちゃんって、もしかして……)
この世界にいる唯一のイレギュラー。見た目は小さな女の子だけど、中身は男。心の声が全部聞こえていたので、彼女、もとい彼が何者なのかを知っている。
「あなたは龍之介という人物をご存知ですか? ……といっても答えられませんよね、その体で私の力を全て受けたんですから」
「……知っていたら……どうするつもり……?」
「まだ意識ありましたか。あなたが仮に知っていたとしたら、今ここであなたを捕まえるのをやめます。まあ、そんなはずはありませんが」
「夏目龍之介なら……知ってる……」
「まさか龍ちゃんの名前をフルネームで知っているとは。なら約束通りここは見逃してあげます。その代わりに取引をしましょう」
「とり……ひき?」
「私はカナデと言って、龍ちゃんの幼馴染です。なので、私がこの世界に存在していて、会いたがっていると伝えてください」
カナデと名乗った女性はそう言う。
(カナデ……確か死んだって聞いていたけど……)
その彼女がどうしてこの場所に。
「伝える……だけでいいの?」
「勿論それだけではありません。最後にこう付け加えてください。もし再会した時は、私が必ずこの手で」
彼女は私を持ち上げる。そして耳元で囁くようにこう告げた。
「あなたを殺すと」
■□■□■□
「そんな、どうしてカナデちゃんがそんな事を」
ユウとユウニがスービニアを経ったその日の夕方、私は約束通り昨日の事をラーヤ達に伝えた。その事実に一番ショックを受けたのは、スズで……。
「嘘じゃない。彼女は……そう名乗っていたの」
「でもカナデちゃんとリュウノスケは幼馴染なんですよ? それなのに、殺すだなんて」
「でも間違いなく言った」
「そもそもカナデちゃんがどうして生きているんですか? もうこの世界にはいないはずなんですよ」
「そんなの私には分からないよ……」
分かるわけがなかった。そもそも私とそのカナデという人物が接触した事がない。更には住んでいた世界すら違うのだから、知っているわけがない。
「じゃあユウを無理矢理スービニアから遠ざけたのは」
「それを隠したかったから。事実かは分からないけど、今のユウには危険すぎるから」
「普通幼馴染に命を狙われるなんて、考えないもんね」
私がした事は間違っているとは思わない。これは私がただ、ユウを守りたかったから。一昨日から色々あって混乱していたけど、それだけは変わらなかった。
何故だかは分からない。でもそれに理由は必要なのか?
私が誰かを守るということに理由が……。
「信じたくない気持ちは分かるけど、他にしなきゃいけない事がある」
「他にしなきゃいけない事?」
「カナデと名乗った人物は、私が龍之介という人物を知らなければ、捕らえるつもりだった。詳しい理由は分からなかったけど、世界の為だって言っていた」
「世界の為に?」
心の中で思っていたとはいえ、それは間違いないと言い切れる。誰だって心を隠す事は出来ないのだから。その情報だけは確かだと言っていい。
ただ問題は、彼女がどうして私を狙ったのか。あの言動から考えると、まるで私がこのスービニアにいる事を知っているかのようだった。だから元から捕まえるつもりであの場所に罠を張っていたのだろうけど、それでもおかしい。
「私達は希少な存在ではあるけど、世界の為になるような特別な力なんてないし、私一人を捕らえても何も意味ないはず。それとも何か特別な事があったりするのかな……」
「フリス自身には心当たりは?」
「ない。一つだけ考えられる可能性があるとしたらそれは……」
「それは?」
ユウニ達預言書少女達はきっと知らない、私達にしか分からないもう一つの預言書の存在。
ユウニは未来が大きく変化し始めた事によって、破滅の未来が始まったと言っていた。けどその未来とは別に用意された預言書が国の重要機密として存在している。
では何故私がそれを知っているのかというと……。
「フリス? どうしたの黙って」
「え、あ、やっぱり考えたけど可能性はないかな」
「じゃあ一体何が狙いでカナデは……」
再び話が振り出しに戻る。でもそれでよかった。この話は決して他言できない話だ。たとえ誰に脅されようとも、私はそれを破る事はできない。
それが私の、国の長としての使命なのだから。
(これは……何?)
本当に一瞬の出来事で、私がそれを理解した時には既に体を動かす事すら出来なかった。
「まさかこんなにも早く捕まえる事が出来ると思いませんでした」
声がする。私が知っている声の誰でもない声。
「だ……れ……」
私は朦朧とする意識の中で声を出したものの、それに返答はない。その代わりに私に伝わってきたのは、
『少々心が痛みますが、これも全て世界の為。願わくば私はもう一度、龍ちゃんに会って話がしたい』
彼女の心の声。そこからは私を狙った理由は見つからなかったものの、確かな情報だけが伝わってきた。
(龍ちゃんって、もしかして……)
この世界にいる唯一のイレギュラー。見た目は小さな女の子だけど、中身は男。心の声が全部聞こえていたので、彼女、もとい彼が何者なのかを知っている。
「あなたは龍之介という人物をご存知ですか? ……といっても答えられませんよね、その体で私の力を全て受けたんですから」
「……知っていたら……どうするつもり……?」
「まだ意識ありましたか。あなたが仮に知っていたとしたら、今ここであなたを捕まえるのをやめます。まあ、そんなはずはありませんが」
「夏目龍之介なら……知ってる……」
「まさか龍ちゃんの名前をフルネームで知っているとは。なら約束通りここは見逃してあげます。その代わりに取引をしましょう」
「とり……ひき?」
「私はカナデと言って、龍ちゃんの幼馴染です。なので、私がこの世界に存在していて、会いたがっていると伝えてください」
カナデと名乗った女性はそう言う。
(カナデ……確か死んだって聞いていたけど……)
その彼女がどうしてこの場所に。
「伝える……だけでいいの?」
「勿論それだけではありません。最後にこう付け加えてください。もし再会した時は、私が必ずこの手で」
彼女は私を持ち上げる。そして耳元で囁くようにこう告げた。
「あなたを殺すと」
■□■□■□
「そんな、どうしてカナデちゃんがそんな事を」
ユウとユウニがスービニアを経ったその日の夕方、私は約束通り昨日の事をラーヤ達に伝えた。その事実に一番ショックを受けたのは、スズで……。
「嘘じゃない。彼女は……そう名乗っていたの」
「でもカナデちゃんとリュウノスケは幼馴染なんですよ? それなのに、殺すだなんて」
「でも間違いなく言った」
「そもそもカナデちゃんがどうして生きているんですか? もうこの世界にはいないはずなんですよ」
「そんなの私には分からないよ……」
分かるわけがなかった。そもそも私とそのカナデという人物が接触した事がない。更には住んでいた世界すら違うのだから、知っているわけがない。
「じゃあユウを無理矢理スービニアから遠ざけたのは」
「それを隠したかったから。事実かは分からないけど、今のユウには危険すぎるから」
「普通幼馴染に命を狙われるなんて、考えないもんね」
私がした事は間違っているとは思わない。これは私がただ、ユウを守りたかったから。一昨日から色々あって混乱していたけど、それだけは変わらなかった。
何故だかは分からない。でもそれに理由は必要なのか?
私が誰かを守るということに理由が……。
「信じたくない気持ちは分かるけど、他にしなきゃいけない事がある」
「他にしなきゃいけない事?」
「カナデと名乗った人物は、私が龍之介という人物を知らなければ、捕らえるつもりだった。詳しい理由は分からなかったけど、世界の為だって言っていた」
「世界の為に?」
心の中で思っていたとはいえ、それは間違いないと言い切れる。誰だって心を隠す事は出来ないのだから。その情報だけは確かだと言っていい。
ただ問題は、彼女がどうして私を狙ったのか。あの言動から考えると、まるで私がこのスービニアにいる事を知っているかのようだった。だから元から捕まえるつもりであの場所に罠を張っていたのだろうけど、それでもおかしい。
「私達は希少な存在ではあるけど、世界の為になるような特別な力なんてないし、私一人を捕らえても何も意味ないはず。それとも何か特別な事があったりするのかな……」
「フリス自身には心当たりは?」
「ない。一つだけ考えられる可能性があるとしたらそれは……」
「それは?」
ユウニ達預言書少女達はきっと知らない、私達にしか分からないもう一つの預言書の存在。
ユウニは未来が大きく変化し始めた事によって、破滅の未来が始まったと言っていた。けどその未来とは別に用意された預言書が国の重要機密として存在している。
では何故私がそれを知っているのかというと……。
「フリス? どうしたの黙って」
「え、あ、やっぱり考えたけど可能性はないかな」
「じゃあ一体何が狙いでカナデは……」
再び話が振り出しに戻る。でもそれでよかった。この話は決して他言できない話だ。たとえ誰に脅されようとも、私はそれを破る事はできない。
それが私の、国の長としての使命なのだから。
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