幼女転生から始める異世界解読術

りょう

第47話 呪いの真相 中編

 その話をしてからフリスの様子が少しおかしかった。まるで何かを考え事しているかのように、会話をしても上の空の時が多かった。普段から口数は多くないが、更にそれより喋らなくなっていた。

 その様子が続いて三日。いつも通り朝食の準備をしていると、

「ユウ、今日少し時間が欲しい」

 フリスの方から久しぶりに話しかけてきた。

「どうしたの急に」

「この前の事で話したい事がある」

「それは私だけに話す事?」

「……うん」

 この時俺は少しだけフリスが何を話そうとしているのか察しがついた。スズ抜きで話したい理由は、彼女がこの森の中に住む当事者だからなのだろう。だからきっと、これから話す事はもしかしたらスズを怒らせる事になるのかもしれない。
 だから黙っていてほしい、それが本音なのだろう。

「分かった。夜少し外に出てくるからその時に話そう」

「じゃああの泉で待ってる」

 けどそれをスズに隠すというのは少しだけ胸が痛んだ。何も真実を知らないのは、当事者からしたら腑に落ちない事が多い結果になるだろう。
 でもそのいばらの道を進みたいと彼女が望むなら、俺はそれには力を貸したい。

「分かった」

 だけどこの夜、俺はその選択が誤っていた事に気がつく。まず何を彼女が話すのか確定的な情報もないのに、それを了承してしまった。それが招いた結果は、俺の中の消えない後悔を生み出す事になる。

 ■□■□■□
 夜。

「私少しだけ外に出てきますね、スズさん」

「この時間にですか? それは構いませんが、お気をつけてくださいね」

「はい、気をつけます」

 俺は朝の約束通り泉に向かってヒノプスを出た。もう何度も通り慣れたこの道。スーベニアを離れてから間も無く半月。彼女達は今どこで何をしているのだろうか。森について走っているだろうから、追って入って来たとは考えにくいけどこんな俺をどう思っているのだろうか。

(いきなりあんな話をされた時は、頭の中は真っ白になったけど……)

 今冷静になってみれば、あれは間違ってはいなかった。だけどそれはあくまで冷静になってから分かった事で、まだ全てを受け入れられた訳でもない。

「ちゃんと来てくれたんだ」

 歩いてからしばらくしてようやく泉へ着くと、もう既にフリスが到着していた。

「約束はしていたからね。それにちゃんと聞いておいた方がいい話だと思ったの」

「そう思ってくれてありがとう」

「それで話って?」

 俺はすぐに話を切り出す。急かしているわけではないが、あまり遅すぎると何かスズに勘付かれてしまうかもしれないので、なるべく早めに話を終わらせたい。

「多分ユウは感づいてしまったかもしれないけど、ずっと隠していたのはこの森の呪いと妖精の国は関係しているからなの」

「やっぱりそうなの?」

「直接的な被害は出していない。だけどほぼイコールで繋がっているって言っても過言じゃない」

「具体的な説明はできるの?」

「多分難しい話をしても分からないと思うから、少し砕いて話すとこの森の呪いは魔法によって出来ているの」

「魔法?」

 もう殆ど存在していないと言われているが、その魔法が一つの森に影響を与えるならかなり強大な物だとは思うんだが、今まで読んで来た本の中でそんな魔法が書いてあった覚えはない。

「でもそれなら、別にスズさんに話しても問題はないんじゃないの。フリスは関係ないんだから」

「違う」

「違う?」

「ユウは勘違いしている。私がユウを呼んだのは、スズに聞かれたくなかったから、じゃない。あなたと話をしたかったからなの」

「私と?」

「正確にはあなたと、だけど。夏目龍之介」

 俺? と思わず声に出しそうになった。それほど彼女の言葉は予想外だった。彼女とは流石に初対面のはずなのに、話したい事なんてないはず。それなのに、

「どうしてって顔をしているけど、あなたはその呪いの魔法に記憶があるんじゃないの?」

「そんな訳ないよ。私はそんな魔法を見た事は」

 ない、とは言えなかった。それに近いものは見たことがあるけど、それはまるで違うもの。繰り返される森と時間が止まる魔法、似て非なるものだ。

「それも違うよ」

「それも違うってどういう事なの。だって私それ以外の魔法を見た事はないんし、ましてや妖精の国と関係なんてない」

 そう俺は言ったが、どうも動悸が激しい。

 一つだけ。

 たった一つだけ、身に覚えがあった。

 でもそれはこの世界とは全く関係がない。

 そう、関係がないはずだ。

「……嘘ついた」

「え? 別に私は嘘なんかついてないよ」

「知っているのに知らないふりをしている。それが嘘」

「違うよ、私は」

「違うなら……話してよ。あなたの罪を」

「私の罪?」

 それはただ一つの願い。

 奏を失いたくない一心で願った願い。

 そしてそれは願いという名の罪。

 叶うはずのなかった願い。

(あの時俺は、ただ奏を失いたくなかったから)

 時間を全て巻き戻したいと願った。あの時を乗り越えるために。その形を俺はあの本に残していた。

「でもそれはただの私の願いなだけであって」

「やはり犯人はあなただったんですね、ユウさん」

 会話を遮るように声がする。いつものように柔らかい声なのに、そこには明らかな悪意があった。

「あなたが、私達に呪いをかけたんですね」

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