幼女転生から始める異世界解読術
第40話 追憶の果て〜異世界転移〜
俺はどうしてこの世界での以前の記憶が全くないのか分からなかった。まるで嘘みたいな話だが、事実ばかりがこの世界に残されている。もしかしたらいつしかティナの家で見つけたあの本も、俺がこの世界にいた証なのだろうか。
「嘘をつくのも疲れた?」
あれから数時間後。スズの嘆きを受け止めることができなかった俺は、一人であの泉にやって来ていた。いつから付いてきていたのか、フリスが彼女の方から話しかけてきた。
「私は最初から嘘をついていないよ」
「記憶が無いの?」
「そこまで分かっているんだ」
「だってあの記憶を見せたの私だから」
「……そうだと思ってた」
彼女はお礼をしたと一番最初に言っていた。だから不思議と驚きはなかったし、泉の水が今は元通りになっているのを見てそう確信していた。
そう、あの水は彼女が起こしたものだった。
「どうしてそこまでしたの?」
「ただお礼をしたかっただけ。それに私がしたのはこの森に残っていた記憶をあなたに見せただけだから」
「すごい事をするんだね」
「すごくないよ、私なんか」
蛍と思わしき虫が照らす夜の泉を眺めながら、俺とフリスはしばらく黙り続ける。今俺が考えていることは全部彼女には聞こえてしまっているのだろうか。
それなら……。
「なっ!? ば、馬鹿じゃないの?! 何で急にそんなこと考えだすの?」
「からかいたかったから?」
「から? じゃないわよ、エルフのくせに……」
顔を真っ赤にしながら怒るフリス。俺はそんな様子をニヤニヤしながら彼女を見ていると……。
「うっ!」
また俺の頭を強烈な頭痛を襲った。俺は我慢できずその場に座り込んでしまう。
「どうしたの? 大丈夫?」
「ごめん、ちょっと動けないかも。うっ」
声を出すのがやっとなくらいの強烈な頭痛。以前同じ頭痛にあった時はユウニが起こしたものだったけど、これは明らかに違う。これは俺自身の頭が、何かを思い出そうとしている。
その証拠に、俺の頭には聞いたことがない情報ばかりが流れ込んでくる。
「スズさんを……呼んできて」
「わ、分かった。絶対に戻ってくるから、それまで頑張って」
フリスをスズの元へと向かわせ、俺は一人で頭痛と向き合う。
(ようやく俺は……取り戻せるのか、大切な記憶を)
もう一度記憶の中で、俺は奏に……。
■□■□■□
「龍ちゃんは異世界って知っている?」
「勿論知っているよ。本とかでよく読む」
「相変わらず本が大好きだよね.そうやって何かに溶け込めるのは羨ましい」
「そうかな。それで何でいきなりそんな事聞いてきたんだよ」
「ちょっとね」
確かそんな会話を昔俺と奏はしていた気がする。でもそんなのあくまでファンタジーの話だと思っていた。
あの夏までは……。
「ここ、どこ?」
キッカケは覚えていない。奏がある夏の日に突然異世界に行こうだとか言い出して、冗談半分で付いて行ったら、本当にやって来たかそんなキッカケだったと思う。
「お姉ちゃん、人間さんがいる」
「こんな里に珍しい。どうして」
そこで俺達は偶然にもティナとユウに出会った。行く先もなかった俺達は二人に助けてもらい、いつしか四人で暮らすようになっていた。
その場所が今は無くなっている二人の故郷。俺はそれすらの事もさっぱり忘れていた。ティナはきっと俺の事を知っていながら、あんな風に接してくれていて……。
でもそれならあの彼女の様子は一体……。
「二人はその、地球というところから来たの?」
「ああ」
「異世界なんて言葉滅多に使わないけど、まさか本当に存在していたなんて不思議な話ね。しかもよりによってこの世界なんかにやって来るなんて」
「よりによって?」
その言葉の意味を最初に俺は知らなかった。だけど後にこの世界に触れて、この世界の本を知って……それから俺は……。
「預言書?」
この世界に眠る預言書という存在を知った。
「そう。この世界ではそれを巡って各国が争いをしているの。リュウノスケはそれを何度も見て来ているでしょ?」
「それはそうだけど。そんなにすごいのか、その預言書は」
「詳しくは知られていないけど、争いを起こすほどの物なのは確かなの」
自分が好きな本を巡って戦争が行われていた事がショックだった。どんな力が眠っていようとも、本を粗末にするのは俺からとしたら許さない話だった。
でもその話に誰よりも心を痛めていたのは、
「何でこの世界はそんな事で争えるの? 争ってもたくさんの負傷者が増えるだけなのに」
奏だった。誰よりも心が優しいゆえの胸の痛みなんだろうけど、俺はそれに対してどう言葉をかければいいか分からなかった。長年一緒だったのに、それなのに気持ちが理解できない。
どうして彼女はこんなにも、
「私そんな現状見ていられないよ、龍ちゃん」
異世界の人たちに対して涙を流せるのだろうか。
「俺達の世界じゃ考えられないような話だからな。でもその異常な事がこの世界では常識なんだろうな」
「龍ちゃんはどうするのこの先」
「俺は……」
この時まだ何を自分がするべきか答えを見つけられていなかった。
だけどこの世界にやって来て二ヶ月、俺はその答えを見つけるキッカケになる事件が起きてしまう。
「嘘をつくのも疲れた?」
あれから数時間後。スズの嘆きを受け止めることができなかった俺は、一人であの泉にやって来ていた。いつから付いてきていたのか、フリスが彼女の方から話しかけてきた。
「私は最初から嘘をついていないよ」
「記憶が無いの?」
「そこまで分かっているんだ」
「だってあの記憶を見せたの私だから」
「……そうだと思ってた」
彼女はお礼をしたと一番最初に言っていた。だから不思議と驚きはなかったし、泉の水が今は元通りになっているのを見てそう確信していた。
そう、あの水は彼女が起こしたものだった。
「どうしてそこまでしたの?」
「ただお礼をしたかっただけ。それに私がしたのはこの森に残っていた記憶をあなたに見せただけだから」
「すごい事をするんだね」
「すごくないよ、私なんか」
蛍と思わしき虫が照らす夜の泉を眺めながら、俺とフリスはしばらく黙り続ける。今俺が考えていることは全部彼女には聞こえてしまっているのだろうか。
それなら……。
「なっ!? ば、馬鹿じゃないの?! 何で急にそんなこと考えだすの?」
「からかいたかったから?」
「から? じゃないわよ、エルフのくせに……」
顔を真っ赤にしながら怒るフリス。俺はそんな様子をニヤニヤしながら彼女を見ていると……。
「うっ!」
また俺の頭を強烈な頭痛を襲った。俺は我慢できずその場に座り込んでしまう。
「どうしたの? 大丈夫?」
「ごめん、ちょっと動けないかも。うっ」
声を出すのがやっとなくらいの強烈な頭痛。以前同じ頭痛にあった時はユウニが起こしたものだったけど、これは明らかに違う。これは俺自身の頭が、何かを思い出そうとしている。
その証拠に、俺の頭には聞いたことがない情報ばかりが流れ込んでくる。
「スズさんを……呼んできて」
「わ、分かった。絶対に戻ってくるから、それまで頑張って」
フリスをスズの元へと向かわせ、俺は一人で頭痛と向き合う。
(ようやく俺は……取り戻せるのか、大切な記憶を)
もう一度記憶の中で、俺は奏に……。
■□■□■□
「龍ちゃんは異世界って知っている?」
「勿論知っているよ。本とかでよく読む」
「相変わらず本が大好きだよね.そうやって何かに溶け込めるのは羨ましい」
「そうかな。それで何でいきなりそんな事聞いてきたんだよ」
「ちょっとね」
確かそんな会話を昔俺と奏はしていた気がする。でもそんなのあくまでファンタジーの話だと思っていた。
あの夏までは……。
「ここ、どこ?」
キッカケは覚えていない。奏がある夏の日に突然異世界に行こうだとか言い出して、冗談半分で付いて行ったら、本当にやって来たかそんなキッカケだったと思う。
「お姉ちゃん、人間さんがいる」
「こんな里に珍しい。どうして」
そこで俺達は偶然にもティナとユウに出会った。行く先もなかった俺達は二人に助けてもらい、いつしか四人で暮らすようになっていた。
その場所が今は無くなっている二人の故郷。俺はそれすらの事もさっぱり忘れていた。ティナはきっと俺の事を知っていながら、あんな風に接してくれていて……。
でもそれならあの彼女の様子は一体……。
「二人はその、地球というところから来たの?」
「ああ」
「異世界なんて言葉滅多に使わないけど、まさか本当に存在していたなんて不思議な話ね。しかもよりによってこの世界なんかにやって来るなんて」
「よりによって?」
その言葉の意味を最初に俺は知らなかった。だけど後にこの世界に触れて、この世界の本を知って……それから俺は……。
「預言書?」
この世界に眠る預言書という存在を知った。
「そう。この世界ではそれを巡って各国が争いをしているの。リュウノスケはそれを何度も見て来ているでしょ?」
「それはそうだけど。そんなにすごいのか、その預言書は」
「詳しくは知られていないけど、争いを起こすほどの物なのは確かなの」
自分が好きな本を巡って戦争が行われていた事がショックだった。どんな力が眠っていようとも、本を粗末にするのは俺からとしたら許さない話だった。
でもその話に誰よりも心を痛めていたのは、
「何でこの世界はそんな事で争えるの? 争ってもたくさんの負傷者が増えるだけなのに」
奏だった。誰よりも心が優しいゆえの胸の痛みなんだろうけど、俺はそれに対してどう言葉をかければいいか分からなかった。長年一緒だったのに、それなのに気持ちが理解できない。
どうして彼女はこんなにも、
「私そんな現状見ていられないよ、龍ちゃん」
異世界の人たちに対して涙を流せるのだろうか。
「俺達の世界じゃ考えられないような話だからな。でもその異常な事がこの世界では常識なんだろうな」
「龍ちゃんはどうするのこの先」
「俺は……」
この時まだ何を自分がするべきか答えを見つけられていなかった。
だけどこの世界にやって来て二ヶ月、俺はその答えを見つけるキッカケになる事件が起きてしまう。
コメント