幼女転生から始める異世界解読術

りょう

第34話 二人の預言書

「怖いですか?」

 本を落とした俺を見てスズは言った。まるで俺がそうなるのすらも予想していたかのような口ぶりで。

「それでも開く覚悟あるなら私は止めませんが」

「どうしてそんな怖い言い方するんですか?」

「私は読んだからですよ」

「え?」

 確かに実際に読んでいないとここまで言えないが、そんな簡単に読めるようなものなのだろうか。ラーヤ達は全く読める様子には見えなかった。

「どうして読めるんですか?」

「それは私も何ですけど。てっきり私しか読まないと思って、こうして保管していたのですが」

「私もそう思っていたんですけど」

 あの神様の口ぶりからそうだと勘違いしていたが、よく考えれば読める人がいなければ争いが起きない。つまりこの争いの魂胆にあるのはもしかして……。

「もしかしてユウさんも既に一冊読んだんですか?」

「はい、一応」

「そこにはどのような」

 とスズが何かを書こうとした時、それはまた起きた。

「え? 預言書が」

「スズさん、離れてください」

 ユウニが俺たちの目の前に現れた時と同じように、預言書は突然光り出した。

(まさかまた)

 ユウニと同じ事が起きるのか?

「な、何が起きるんですか」

「もしこの本がスズさんの言う通り、絶望ならもしかしたら」

 俺は嫌な予感がしながら、預言書を見続ける。するとやはり光りは人の形を成してきて……。

「やっぱり……」

「嘘……。預言書が……」

 一人の少女を生み出した。

「んっ……」

 少女は当たり前のように起きて、当たり前のように起き上がり俺とスズの方を見る。俺は二度目のせいか驚きは少なかったが、スズの方はというと驚きのあまりその場に動けずにいる。

「誰?」

「それは私達が聞きたいんだけど、あなたこそ誰なの?」

「私は……」

 また自分の名前が出てくるのではないかと思って身構える。それとももしかしたら、別の名前が出てくるかもしれない。

「私は……カナデ」

 別の名前が……。

 え?

「え?」

 と声を出したのは俺ではなくスズの方だった。

「スズさん?」

「アズサ……どうしてその子の名前をあなたが知っているんですか?」

「知っているも何も、私がカナデだから」

「そんな訳がありません! あの子は……」

 その名前に俺の方が驚くべきなのに、スズがそれ以上の反応を見せているためこちらが驚けない。

(いや、どういう事だよ)

 まずスズがその名前を知っている事自体がおかしい。

「あの子はもう亡くなったはずです。その名前をあなたがなぜ名乗るんですか」

「その理由、そこの人なら分かるんじゃない?」

 俺を見ながらカナデは言う。

 おちょくっているのか。

 それとも知っていて言っているのか。

「私は何も知らないよ」

「ユウさん、何か知っているなら教えていただけませんか?」

「だから私には何も分かりませんって!」

 だけどその言葉には明らかに悪意がある。

「分かりやすい嘘を」

「その言葉、そのままそっくり返すよ。あなたは奏なんかじゃない!」

 そして何より彼女が奏の名前を名乗る事が俺には許せなかった。だから俺は彼女から感じたのは絶望とかではなく、

「ユウさん、 知っているのですか」

「知りはしないですけど、それでも許せないんです。またこういう事をされるのが」

「またってどういう事ですか?」

「一冊目の預言書の時もそうだったんですよ」

 怒りだった。
 ただの偶然なのかもしれない。
 二人が同一人物とも限らない。
 それでも俺は……許す事ができなかった。

「へえ、会ったんだ。もう一人の預言書に」

「会ったから何?」

「分かっているんじゃないかなって。どうして私達を巡って争われているのかを」

「え?」


 その問いの答えはノーだった。一冊目はちゃんと読んだけど、二冊目は読む前にこうして姿になってしまった。だから何が書かれていたのかは分からないし、彼女の言う出会った事に対しての意味なんて尚更分からなかった。

「その様子だとまだ分からないっか。今度気が向いたら話してあげるよ」

 そう言うとカナデの体は光をまた発し、そしてそのまま何処かへ消えてしまった。俺達はそれを止めることもできずに、ただ見てることしかできなかった。

(何がどうなっているんだ)

 どうしてこの世界で彼女の名前が出てきたんだ。

 ■□■□■□
 あの夜から丸二日が経った。
 その二日の間、特に大きな事はなかったがスズの様子が明らかに変だった。見た目はいつも通りだが、カナデの事が気になってろくに睡眠が取れていないらしい。

「大丈夫ですか? スズさん」

「あ、はい。心配させてすいません」

 もうすぐこの孤児院で働いて一週間。すぐそこにあった目的も失い、俺は少しずつここから出る方法を考えていた。

 でも同時に、カナデと出会って飛び出してきてしまったスービニアの事も心配になってきた自分がいる。
 あの時衝動的に飛び出してきたが、皆が俺に大事な話をしていたのは事実だった。でもそれをティナと同じように受け入れられない自分がいた。

 自分は果たして何度目の自分なのか。

 そんな事を考えたって答えが出る訳がなかった。何故なら俺は俺なのだから。だからこそ、心配になってきたのだ。

(ラーヤ、サシャル、ユウニ……)

 この一週間彼女達はどうしていたのだろうか。


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