幼女転生から始める異世界解読術

りょう

第31話 事実と逃亡

 あれはいつの約束だろう。

 荒廃しつつある世界の中で少女とした約束。

「いつか絶対、世界を救いだしてみせるから」

 その少女が誰なのかは今になっては分からない。それくらい昔の前の約束なのか、それなのにどうして今になって思い出すのだろうか。

「ラーヤ、いくらなんでもそんな急な話をしなくても」

「急も何も、いつかは分かってもらわないといけない事でしょ。それをユウ、ううん、リュウノスケは忘れているんだから」

「私が」

 俺が忘れている? ラーヤは一体何を……。

「そう。あなたは何もかも忘れているの」

 その会話にいつからいたのかユウニがいた。そういえばこの一件の間、一度も彼女を見かけていなかったけど、どこへ行っていたのだろうか。

 いや、それは今はどうでもいい。

「忘れているって、どうして」

「それは私達にもまだ分からない。だけど、リュウノスケ、あなたは確実にこの世界で生きているの。ずっと前から」

「そんな事って……」

 嘘だと思いたい。というか信じられない話だ。つまり俺は何年も前から地球から離れ、この世界で暮らしている。しかも何度もこの世界でも転生を繰り返していて……。

(駄目だ、理解が追い付かない)

「う、嘘なんだよね? 私を驚かせようとしているだけで」

「嘘じゃないのよ。証拠はいくらでもあるし、思い当たる節があなた自身にもあるんじゃないの?」

「思い当たる節?」

 確かにあるかもしれない。……でも俺は、やはり信じられない。ただ頭が混乱するだけで、この話をすぐに受け入れろだなんて言われても絶対に不可能だ。

「嫌」

「ユウ?」

「私こんな話信じたくない」

「でもそこから目を逸らしたら」

「何が悪いの? どうして自分の事が収集ついたからって、そうやって私を責めて」

「違うの。ユウ、ちゃんと話を」

「聞きたくない!」

「ユウ!」

 俺は気が付けば家を飛び出していた。このままどこかへ行ってしまえば、もう嫌な話をしなくて済む。彼女達と力を合わせなくたって、別の方法を探せば……。

 別の方法?

 そんなの果たしてあるのだろうか。そもそも何も知らない俺が勝手に飛び出したりして大丈夫なのだろうか?

 こんな形で俺は独りぼっちになって大丈夫なのか?

 気が付けば俺は足を止めていた。

(ここはどこだ)

 だけどその足を止めた場所は、どこか知らない森の奥。

 俺は迷子になってしまった。

 ■□■□■□
 スービニアを出てしばらく進むとかなり奥深い森がある。だがそこに人が一度でも足を踏み入れれば、戻ってくることはまず難しいらしい。

 その場所は別名輪廻の森と呼ばれている。

 終わりなき森を称してそう付けられたらしいが、どうやら俺はその森に迷い込んでしまったらしい。

(情けないよな俺)

 ラーヤはようやく前を向いて歩きだしたというのに、俺がこうして逃げてしまっては何の意味もない。おまけに一番迷い込んではいけない場所に迷い込んでしまった。

「誰かいませんか?」

 試しに声を出してみるが、返事など返ってくるわけがない。もう迷いだして数時間の時間が経過しているためか、お腹が空腹を訴えてくる。

「誰かー」

 声を出してしまったら、余計に腹が減ってくるというのに、誰か一人でもいないか探す。

(やばいなこれ)

 更にそれから二時間が経過する。俺はいよいよ空腹に耐えられなくなってきた。

「誰か……」

 歩き続けた疲れと空腹から視界がくらみ始め、俺はついにその場に倒れてしまう。

(俺はここで死ぬのか、また……)

 そしてまた転生して、ラーヤ達に……。

「だ、大丈夫ですか?」

 薄らぐ意識の中で誰かの声がする。声を出す気力もわかない俺は、返事をすることもできずにそのまま意識を手放した。

「た、大変。とにかく安全な場所に運んであげないと」


「うっ……」

 それからどのくらい時間が経ったのか分からないが、俺は目を覚ました。さっきは森で倒れたのに、今視界に入るのは木製でできた天井。もしかして誰かが倒れた俺を助けてくれたのだろうか。

「あ、目を覚ましたか?」

 まだ意識がはっきりしない中、声が聞こえる。俺が体を向けると、頭にリボンつけた普通の女性がいた。エルフとか獣人とか見てきた中で、彼女のように普通の人を見るのはアーニス以来な気がする。

「もしかして私を……あなたが助けてくれたんですか?」

「はい。丁度通りかかったら、可愛いエルフの女の子が倒れていましたので、助け出しました」

「あの、ありがとうございます」

「どういたしてましてです」

 笑顔を向ける女性。偶然通りかかったとは思えない場所なのだが、どうしてその場所にこの女性はいたのだろうか。

「ここはどこですか?」

「ここは私の家です。ヒノプスという王国の一角にあります」

「ヒノプス?」

 この世界の地理は調べてはいるので大体の王国は知っているが、そんな国の名前なんて聞いたことがない。もしかしてまだ建国されたばかりの国なのだろうか。

「それで私はスズと言います。一応種族は……ヒューマンです」

「私はエルフ族のユウって言いま……え?」

 ヒューマン? つまり普通の人間って事?

 アーニスもだけどこの世界にも普通の人間が住んでいるのか?

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