幼女転生から始める異世界解読術
第26話 時を止める幼女
翌日、スービニアの天気は生憎の雨だった。一応今朝がたラーヤが戻ってきたが、それ以来は部屋から出てきていない。
サシャルも同じだ。
「どうしてこうなったのかな」
何で意気揚々と旅に出たと言うのに、たった五日でこうなってしまったのだろうか。ラーヤが元からそのつもりだったとしても、サシャルはそうではなかったはずだ。
「ユウ」
雨が降る窓の外をボーッと眺めていると、ユウニの声が後ろから聞こえた。俺は反応はしたものの、外を眺め続けている。
「ねえユウニ、どうしてこうなったのかな」
「それは多分ラーヤが最初から望んでいたことだから」
「望んでいた?」
「あなたが住んでいた世界はどうだったのかは私には分からないけど、この世界の人たちはいつも心の中に何かを抱えている。それはラーヤのような恨みも例外じゃない」
「お姉ちゃんもそうだったようにって言いたいの?」
「そういうこと。だから生半可な気持ちじゃ世界は救えない。あなたはそれを理解していない」
「理解していないって、別に私は」
「だったらどうして今この瞬間でも動き出そうとしないの? あなたは一体何のためにこの世界に来たの?」
「何の為にって、それは……」
この世界を救うため。
だけどその言葉を俺は言えない。何故なら今まで何もできていないからだ。預言書を解読して、こうして旅に出て、それ以外のことは何もできていない。
このままでいいのか俺は。
「世界を救いたいという意思があなたにあるなら、もっと行動してみるべきじゃないの? ラーヤがここに戻ってきているなら尚更」
このままでいいわけが……。
「そう……だよね。ユウニの言う通りだよ」
ない。
「気づくのが遅すぎ」
「ごめん」
俺はようやくユウニの方に体を向ける。だけどユウニの遅すぎという言葉の意味は、今目の前で起きていることに向けての言葉だった。
「ごめんね、ユウニ。貴方は今の私には邪魔なの」
ユウニの背後に立つラーヤ。彼女は何かを振り上げ、それでユウニを殴ろうとしていた。
「ユウニ!」
俺は飛び出すが間に合いそうにない。このままだとユウニが……。
「え?」
だが次の瞬間、不思議なことが起きた。時間が止まったのだ突然。まるでこの事が起きるのが分かっていたかのようなタイミングで。
(まるで魔法みたいな……)
いやそれは正に魔法だった。誰が使ったのかは分からない。だけどこの空間で動けるのは俺だけである以上、使ったのかは俺なのかもしれない。現にあの魔導書を読んだんは俺だ。
とにかく今はユウニを助けなければ
俺は降り下ろされた位置からユウニを移動させる。そしてそのタイミングを見ていたかのように、時は動き出した。
「あれ、どうして」
空を切ったラーヤは今起きた事に疑問符を浮かべる。俺ですら理解できないこの状況を彼女が理解できるはずがない。
「やめてラーヤ! こんなことをしたって意味がない」
「ユウ? もしかしてあんたがやったの?」
■□■□■□
「私にも今何が起きたのか分からない。だけどラーヤがやろうとしていることの方がもっと理解出来ない」
俺とラーヤは対峙する。ユウニは俺の後ろで立ったまま何も喋らない。
「小さい体のくせに、どうして邪魔をするのよ」
「体の大きさなんて関係ない! 私はただラーヤにやめてほしいだけなの!」
「あんたに何が分かるって言うの? 苦しくても誰にも相談できなくて、たった一人の同族も今も目を覚まさない。その原因のこの国を根本から変えようとしている私の何が悪いのよ!」
「悪いよ! 一ヶ月一緒にいた仲間、ううん、ずっと一緒にいた親友ですら裏切ってまですることじゃない、絶対!」
「分かったような口で言わないで」
一度振り切った何かをもう一度持ち直して、今度は俺に襲いかかる。今何も持っていない俺は、非常に不利な状況だが、ユウニの言ったように、ここで応戦してしまったらなにも変わらない。
それならばどうするか
ドゴっ
「え?」
それを受け止めよう。
「ゆ、ユウ! あんた何を」
「受け止めたの。ラーヤを」
「受け止めるって、もう血が」
「そんなの関係ないよ」
「今後だってこれより辛いことが起きるんだから、そんなのに比べれば此のくらい平……」
「ユウ!」
気ではなかった。流石に重い一撃だったのか、視界が眩む。
(ヤバい、無理しすぎた)
残念、俺の冒険はここで終わってしまった。
■□■□■□
暗い。
重い。
痛い。
まるで嫌なことを思い出していまいそうな瞬間だった。
あの日、
あの時、
あの場所で。
俺は何をしていた。あのユウニが見せた記憶のなかにいたのは誰だ?
『ユウ、あなたはどうして……』
ユウの記憶?
『どうしてそんなことを望むの?』
望む? 彼女は死を望むのか?
『どうして……と……を』
分からない。何を望んだのか。だけど一つだけ分かることがある。
『ユウちゃん、そんなの駄目だよ! 私がそんなの許さない!』
ティナの隣に彼女がいることだ。
柊奏
俺の……大切な人だ。
その彼女が一体どうしてこの場所にいるのだろうか。
約束を果たしていなかったのは、もしかして俺ではなく彼女が……先なのか?
サシャルも同じだ。
「どうしてこうなったのかな」
何で意気揚々と旅に出たと言うのに、たった五日でこうなってしまったのだろうか。ラーヤが元からそのつもりだったとしても、サシャルはそうではなかったはずだ。
「ユウ」
雨が降る窓の外をボーッと眺めていると、ユウニの声が後ろから聞こえた。俺は反応はしたものの、外を眺め続けている。
「ねえユウニ、どうしてこうなったのかな」
「それは多分ラーヤが最初から望んでいたことだから」
「望んでいた?」
「あなたが住んでいた世界はどうだったのかは私には分からないけど、この世界の人たちはいつも心の中に何かを抱えている。それはラーヤのような恨みも例外じゃない」
「お姉ちゃんもそうだったようにって言いたいの?」
「そういうこと。だから生半可な気持ちじゃ世界は救えない。あなたはそれを理解していない」
「理解していないって、別に私は」
「だったらどうして今この瞬間でも動き出そうとしないの? あなたは一体何のためにこの世界に来たの?」
「何の為にって、それは……」
この世界を救うため。
だけどその言葉を俺は言えない。何故なら今まで何もできていないからだ。預言書を解読して、こうして旅に出て、それ以外のことは何もできていない。
このままでいいのか俺は。
「世界を救いたいという意思があなたにあるなら、もっと行動してみるべきじゃないの? ラーヤがここに戻ってきているなら尚更」
このままでいいわけが……。
「そう……だよね。ユウニの言う通りだよ」
ない。
「気づくのが遅すぎ」
「ごめん」
俺はようやくユウニの方に体を向ける。だけどユウニの遅すぎという言葉の意味は、今目の前で起きていることに向けての言葉だった。
「ごめんね、ユウニ。貴方は今の私には邪魔なの」
ユウニの背後に立つラーヤ。彼女は何かを振り上げ、それでユウニを殴ろうとしていた。
「ユウニ!」
俺は飛び出すが間に合いそうにない。このままだとユウニが……。
「え?」
だが次の瞬間、不思議なことが起きた。時間が止まったのだ突然。まるでこの事が起きるのが分かっていたかのようなタイミングで。
(まるで魔法みたいな……)
いやそれは正に魔法だった。誰が使ったのかは分からない。だけどこの空間で動けるのは俺だけである以上、使ったのかは俺なのかもしれない。現にあの魔導書を読んだんは俺だ。
とにかく今はユウニを助けなければ
俺は降り下ろされた位置からユウニを移動させる。そしてそのタイミングを見ていたかのように、時は動き出した。
「あれ、どうして」
空を切ったラーヤは今起きた事に疑問符を浮かべる。俺ですら理解できないこの状況を彼女が理解できるはずがない。
「やめてラーヤ! こんなことをしたって意味がない」
「ユウ? もしかしてあんたがやったの?」
■□■□■□
「私にも今何が起きたのか分からない。だけどラーヤがやろうとしていることの方がもっと理解出来ない」
俺とラーヤは対峙する。ユウニは俺の後ろで立ったまま何も喋らない。
「小さい体のくせに、どうして邪魔をするのよ」
「体の大きさなんて関係ない! 私はただラーヤにやめてほしいだけなの!」
「あんたに何が分かるって言うの? 苦しくても誰にも相談できなくて、たった一人の同族も今も目を覚まさない。その原因のこの国を根本から変えようとしている私の何が悪いのよ!」
「悪いよ! 一ヶ月一緒にいた仲間、ううん、ずっと一緒にいた親友ですら裏切ってまですることじゃない、絶対!」
「分かったような口で言わないで」
一度振り切った何かをもう一度持ち直して、今度は俺に襲いかかる。今何も持っていない俺は、非常に不利な状況だが、ユウニの言ったように、ここで応戦してしまったらなにも変わらない。
それならばどうするか
ドゴっ
「え?」
それを受け止めよう。
「ゆ、ユウ! あんた何を」
「受け止めたの。ラーヤを」
「受け止めるって、もう血が」
「そんなの関係ないよ」
「今後だってこれより辛いことが起きるんだから、そんなのに比べれば此のくらい平……」
「ユウ!」
気ではなかった。流石に重い一撃だったのか、視界が眩む。
(ヤバい、無理しすぎた)
残念、俺の冒険はここで終わってしまった。
■□■□■□
暗い。
重い。
痛い。
まるで嫌なことを思い出していまいそうな瞬間だった。
あの日、
あの時、
あの場所で。
俺は何をしていた。あのユウニが見せた記憶のなかにいたのは誰だ?
『ユウ、あなたはどうして……』
ユウの記憶?
『どうしてそんなことを望むの?』
望む? 彼女は死を望むのか?
『どうして……と……を』
分からない。何を望んだのか。だけど一つだけ分かることがある。
『ユウちゃん、そんなの駄目だよ! 私がそんなの許さない!』
ティナの隣に彼女がいることだ。
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