幼女転生から始める異世界解読術

りょう

第20話 世界へ踏み出す日 後編

「どうかご無事で行ってきてください」

「もうそれ何回目ですか、アーニスさん」

「だって心配なんですもの」

 旅立つ当日。朝から家へとやって来ていたアーニスさんは、ずっと同じ言葉を繰り返した。その心配する気持ちは俺としては凄くありがたいし、この一ヶ月一番協力してくれたのは彼女だった。

「本当は私も付いていきたいのですが」

「一国の王女を連れ出すなんて出来ませんよ、流石に」

「でもいつかは必ず私も協力するので、その時まで待っていてください」

「無理だけはしないでくださいよ」

 これから旅に出るのは俺達だというのに、かえって心配になってくる。この一ヶ月半何もなかった分、その反動が俺がいない間に起きてしまいそうで不安だった。

「大丈夫ですよ! 私の国は私が守り抜きますから」

 笑顔でアーニスは言ったが、本当に大丈夫かな。

「そろそろ集合の時間ですし、出ましょうユウさん」

「あ、戸締まりしていくんで先に出ていてください」

 そう思っている内に皆で集まる時間がやって来てしまい、俺は最終確認などをするためにアーニスには先に家に出てもらう。

(ここの家主が帰ってくるのはいつになるんだろうな……)

 家の一室にはあの時空いた大きな穴がそのまま残してある。塞ごうとも思ったのだが、ティナが己が何をしたか改めて認識してもらう為に残しておくことにした。そしてこの家は何時でも帰ってこられるように一ヶ所だけ扉を開けておいた。
 ここに俺が戻ってくる日がいつになるかは分からないけど、この場所に戻ってきたときには、ティナもリルも皆帰ってきて、皆で何の代わり映えもない毎日を過ごせればいい。それを誰よりも願いいているのが、きっとティナだ。

「行ってきます、お姉ちゃん」

 俺は全ての準備を終え、最後にそういう言って家を出た。

 ■□■□■□
 王都には既に俺以外のメンバーが全員到着していて、俺がやって来るのを今か今かと待っていた。

「ごめん、遅くなって」

「遅いわよ、どれだけ待たせるのよ」

「準備に時間が掛かっちゃって、待たせちゃった?」

「言うほどは待っていないから平気」

 遅くなった俺に対してそれぞれ反応を示してくれるサシャルとラーヤ。二人とはこの一ヶ月、毎日のように顔をあわせていたからすっかり仲良くなっていた。たまに心細い時があっても、二人がある意味で支えになってくれたので、今こうして俺がここにいられる。
 そしてその原動力になったのが、誰よりも……。

「おはようユウニ」

「うん、おはよう」

 ユウニの存在だった。初めの第一印象は悪かったものの、あれ以来彼女は俺のことについて詮索することはなかった。その代わりに今回のことに積極的に協力してくれて、旅にも付いてきてくれることに。

「ユウ、私が言った本は持ってきてくれた?」

「あ、うん。アーニスさん達が見つけた魔導書だよね。持ってきたよ」

 俺は手荷物のから以前見つけた魔導書を取り出す。一昨日くらいにユウニから旅に持ってきていてほしいって頼まれていた。あの後改めて俺はこれを読んだのだが、日本語版書かれている割には内容が非常に細かくて、全部の解読には時間がかかった。最終的にはこの魔導書の使い道は分かったのだが、果たしてそれが今回の旅に役立つのだろうか。

「ユウはこれの解読は終わっているんだよね?」

「うん、そうだけど。ユウニはこれの使い方は分かっているの?」

「言葉が読めない」

「あ、そっか」

 預言書から出てきたとはいえ、この世界の人間である以上は読めるわけがない。だとしたらこれを使うのは俺ということになる。

(魔法か……)

 現実でいざ自分が使うってなると、ちょっとだけ怖い。

「ユウさん、本当に出発するんですね」

「はい。あのアーニスさん、頼んでおいたことお願いしますね」

「お任せください」

 それから皆でしばらく雑談した後、俺はこの場にいる全員に改めて声をかける。

「じゃあそろそろ出発しようか。しばらく戻ってこれないけど、準備は大丈夫だよね皆」

「当たり前でしょ」

「準備万端」

「いつでも大丈夫」

 それぞれの返答を聞いた後、俺は一度大きく深呼吸した。
 そして、

「じゃあ出発!」

 未だ知らぬ王都の外へと大きな一歩を踏み出した。

「行ってらっしゃい、皆様」

 アーニスさんの声を背にしながら、俺達四人は世界を救うための旅へ出発した。
 最初の目的地はラーヤとサシャルの故郷、獣人達の国、スービニア。
 そこで自分は何を見るのか期待と不安に駆られながら、俺は、俺達はまだ見ぬ世界へ……。

「あ、待ってくださいユウさん。忘れ物をしています!」

 本当肝心なところで締まらないな。

 ■□■□■□
 ユウさん達を見送り、一人取り残された私は城へと戻った。

「ただいま戻りました、と言っても誰もいませんよね」

 独り言が城内に響く。彼らは私を一国の王女だと言っていた。でも今のこの現状を見ても言ってくれるのだろうか。

(本当なら私も連れて行ってほしかったんですけど……)

 この偽りの生活さえ続けていなければ、それも叶ったはずなのに、今残っているのは後悔だけ。

(リュウノスケ様、いつか必ずあなたの場所へ行きますから)

 それまではどうか御無事でいてください。

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