幼女転生から始める異世界解読術

りょう

第14話 故郷と孤独

 リルのことでも大きな謎が残ってしまい、益々俺が知らないことが増えてきた中、アーニスさんが俺にある本を出しながらこんな事を言ってきた。

「ユウさん、ここがどこか分かりますか?」

 そこに載っていたのは、まるで焼け跡のように記されているどこかの地形。俺にはこれが何処かなんて分かるはずもなかった。だけど答えはすごくシンプルだった。

「あなたはまだ幼かったと思われますので、覚えていないと思いますが、ここがかつてあなたたとティナさんさんと両親が一緒に住まわれていた場所、つまり故郷です」

「故郷、ここが」

 でもその故郷形は無くなっている。故郷は既にないと言うことになる。その原因は恐らくだが、

「もしかして例の戦争で?」

「私も詳しくは分かりませんが、そう考えられます。やはり覚えていなのですか?」

「覚えていないです」

 ここの当事者ではない俺が分かるはずがない。だけどその答えを示している本を一冊俺は見つけた。

「アーニスさん、これがもしかしたらヒントになるかもしれません」

 それはとある地域の記録。
 そこには詳細には書かれていないが、戦争の被害報告とその規模も書いてあった。そしてそこには例の地域も含まれていた。

「この本によれば十年ほど前の話になりますが争いってそんなに前からあったんですか?」

「今ほど大きな争いには発展していなかったものの、小さな争いは合ったみたいです。その傷痕と言うことですね」

「つまり十年前に巻き込まれて、この王都にやって来たと言う事になるんですね」

「正確にはもっと時間が経っていると思います。この地は山を二つ越えた先にありますから」

 この世界の地理についてはある程度把握できるようになったが、山二つ分の移動となると歩けば三ヶ月、別の手段の馬車ならその半分くらいらしい。争いの地に命からがら逃げてきたなら、恐らく歩いてここまで来たのかもしれない。

「お姉ちゃんはもしかしたらこの事で恨んでいるのかもしれないです。確証はないですけど」

「そう考えるのが自然だと思います。それを解消するにはまず……」

「そうじゃない!」

 突然会話を遮られる。遮ったのは、本人であるティナだった。

「私の恨みはその程度じゃ済まない!」

 ■□■□■□
「お姉ちゃん、どうしてここに」

「あなたを探しに来たからよ」

「探しに来たって、私を落としたのはお姉ちゃんでしょ?」

「あれは……どうして起きたのか分からないの。いつも思い出すと頭の中が真っ白になってて」

 どうやら今のティナは先程よりは冷静になったらしく、まともに会話することが可能だった。とはいっても、ティナが感情的になるのは、妹の話になる時であって、その話題に触れなければまだ大丈夫なのかもしれない。

「ごめんねユウ、あなたを傷つけてばかりで。さあ帰ろう」

 俺に手を差し出すティナ。俺は思わずその手を取りそうになるが、

「駄目です、ユウさん!」

 アーニスさんの声で我に返った。

「ユウ、どうして」

「ごめんねお姉ちゃん、私まだ帰らない」

「帰らないって、私は別にこの先あなたに何かしようなんて考えていない」

「そんなの分からないでしょ? 私は今家に変えるのはすごい怖い。だからお姉ちゃんを助ける道を見つけてから、その時に帰るよ」

「私を助けるなんてそんなこと出来ない。あなたがその姿でいる以上は無理よ」

「そんなの分からない」

「私のことは私が一番分かっているの! あなたが好きな本みたいに何もかもうまくいくと思わないで」

 そうティナは告げると、彼女は図書館から出ていく。

「お姉ちゃん」

「何度も言っているけど、お姉ちゃんって二度と呼ばないで。余所者のあなたは、私の妹でもないし、私を救うだなんてそんなことできない」

 その言葉はすごく冷たかった。初めて出会ったあの時以上にとても冷たくて、誰も近寄らせたくない、その雰囲気が彼女から出ていた。

「ユウさん、一つ分かったことがあります」

「分かったことですか?」

「今回の問題、解決策はもしかしたらティナさん自身にあるかもしれないです」

「ティナ自身にですか?」

「はい。こればかりは確信がありませんが」

 一連のやり取りを聞いていたアーニスさんはそう答えを出した。

「そしてそれをティナさん自身が理解していると思います。だからこそ私達を拒絶したんだと思います」

「お姉ちゃん……」

 俺には彼女を救うことは出来ないのか?

 ■□■□■□
 いつも私の中には黒い何かが渦巻いていた。
 十年前、争いに巻き込まれて家族も故郷も失って、大切な妹さえも失って。

 私は常に喪失感に睨まれながら生きていた。

(ずっと、ずっと私は一人ぼっちだった)

 ただ一人の親友であるリルさえも、もう私の側にいない。

 私はあと何回裏切ればいいのだろう。

 私はいつまで孤独と戦えばいいのだろう。

 でもその答えは分かっていた。結局は私自身が何とかしなければならないということ。誰かの手ではなく、私自身が乗り越えなければならない。

 そう考えているうちに私の足は王都の外へ出向いていた。

 向かうべき場所はただ一つ。

 今こそあの場所再び向かおう。

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