幼女転生から始める異世界解読術

りょう

第15話 私達は知っている

 ティナの来訪から暫くして、アーニスさんは城へと戻り、一人になった俺はラーヤ達が戻ってくるのを待ちながらボーッとしていた。

(自分の問題を乗り越えられるのは自分自身……か)

 アーニスさんの言葉を思い出す。確かにアーニスさんの言う通り、こrは俺が首を突っ込むような話ではないのかもしれない。寧ろ俺が首を突っ込む事によってティナは余計に苦しんでいる。

(どうあっても俺は余所者以上になれないのか)

 元からあった姉妹の絆を塗り替えるなんてことは元から出来やしない。なら、俺は今どうするべきなのだろうか。

 本をひたすら読んで答えを探すか?

 それは時間を使うだけで何かをもたらせない可能性だってある。

 じゃあもう一度ティナに会って説得をするか?

 それだとただ繰り返すだけ。

 なら俺はどうするべきか。

(何か……何か方法を)

 そんな葛藤を続けているなかで、ようやくラーヤとサシャルが戻ってきた。

「ただいまユウ。いい知らせを持ってきたよ」

「いい知らせ?」

 サシャルの言葉に俺は反応する。余程の事じゃないと今の状況を打破するのは難しい中で、一体彼女達はどんな情報を。

「先程ティナが王都から出ていくのを見かけたの」

「それは一人で?」

「うん」

 何か用事があって出掛けたのだろうか。でもあれから時間が経っていないし、急に用事ができたと考えるのも難しい。

 何よりこの一週間、彼女が王都から出るような事は一度もなかった。

「でもあの方面は山しかないし、特別な用事がない限りいく方向じゃないんだけど」

「山?」

 だけどその疑問の答えは簡単だった。ティナが向かった場所、それはもしかしなくても……。

「ラーヤ、サシャル、二人にお願いしたい事があるんだけど」

「何? まさかティナを追うとか言い出さないよね?」

「そのまさかだよ。お姉ちゃんがどこへ行こうとしているのは分かっているから、私達も向かおう」

 ここから三ヶ月かかってもいい。一度は行ってみる必要がある。自分の故郷と呼ばれる場所へ。

「待ってユウ。追うのも必要だけど、その前にあなたに読んでもらう必要がある本がある」

「でも早く行かないと」

「いいから」

 半ば強引にサシャルがかなり分厚い本を渡してきた。俺はその本のタイトルを見て、驚愕した。

「え? これって」

「朝も言ったけど、私のあの家は王立図書館の地下に作ったから、もしかしたらと思ったけど、見つかったよ」

「これが預言書」

 ブリンディア預言書 第一項
 簡単に見つからないと思っていたが、まさかこんなにも早く見つかるとは思っていなかった。でもタイミングとしては非常に悪い。

「ゆっくり読みたいけど、時間は……」

「一回冷静になろうユウ。焦ってばかりじゃ判断も鈍る」

「そうよ。それにあの山を越えるとなるとちゃんとした準備が必要だし、今日は一回休もう」

 俺としては至って冷静だった。だけど周りからは焦っているように見えたらしい。

(ティナ……)

 実の妹ではないのに、彼女は色々な感情を押し殺して俺と接してくれていた。もしあの時彼女に見捨てられていたら、どうなっていたかも分からない。

「分かったよ。少し休むね」

 だから早く助けてあげたくて、とにかくあらゆる方法を考えた。でもそれは全て空回りしていたことを今になって気づいた。

 俺は今自分がティナに対して、どうしてあげればいいか分からなくなっていた。

 ■□■□■□
「ユウ、かなり焦っていたね」

「焦る気持ちは分かるけど、あのまま動いても何も成功しなかったと思うけどね私」

 ユウが先に眠りにつき、ラーヤと私だけが残された夜の図書館。私とラーヤは椅子に座りながら今日のユウの様子について語っていた。

「でも実の姉がああなったんだから、焦る気持ちは分かる」

「うーん、そうかな。私はなにか違う気がするんだ」

「違う?」

「サシャルは気づいているんでしょ、ユウの事」

 ラーヤが何気なくしてきた質問。ユウの事、って言われて一瞬何のことかと答えようとしたけど、シラを切る事はしなかった。

「そういうラーヤもでしょ?」

「……意地悪ねサシャルも」

 彼女、もとい彼のことを私達が気づいてないと思っているのはきっと本人だけ。私達はとてつもない違和感を出会った日から感じていた。
 そしてその違和感の正体は、今日調べものをして気がついた。

「サシャルは仲良しだったもんね」

「それはラーヤも一緒」

「わ、私は違う。ライバル関係なだけ」

「亡くなって一番ショックを受けていたのは誰?」

「うぐっ」

 ラーヤはとても分かりやすい。私も人のことは言えないけど。

「これはただの偶然なのかな」

「偶然じゃないと思うよ私は」

「やっぱり?」

 夏目龍之介

 私は彼を知っている。だけど彼は知らない。いや覚えていない。

 それは何故か。

「ユウもリュウノスケもそれを願っていたから、今の結果に至った」

「それをティナが知ったからきっと……」

 この結果を彼が一番願っていたから。

「ねえサシャル」

「何?」

「いつ終わるのかな」

「それは……分からない。きっと彼次第だから」

 でも彼はきっと終わりを望まない。だから彼に世界を救うことはきっと永遠に来ない。

 それを私達は知っている。

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