幼女転生から始める異世界解読術

りょう

第9話 隠された神様

 それから三日の時間が経っていた。俺はその間、あらゆる図書館の本を読み尽くしたが、まだ三分の一にも満たしていなかった。

「ねえユウ」

「何?」

「よく飽きないね」

「サシャルだけには言われたくないよ」

 この三日間、俺の読書スピードに着いてこれたのはサシャルと意外にもラーヤだった。アーニスは王族えあるがゆえにここにいられる時間は少なく、ティナとリルは読むジャンルが論外なので話にならず。でも進捗状況は決して悪いものはなかった。

「でもユウの読むスピードには負ける」

「私はこういうの読み慣れているから」

 俺はというと相変わらずスキルを生かしてひたすらこの世界の情報をインプットしていた。とはいってもジャンルに幅があるわけでもないので、冊数が増えていくにつれて、被る内容も増えていた。

 その中で特に気になったのは、例の預言書についてだ。

 そもそも預言書が世に広がった時期が正確には三十年ほど前らしい。周りの話を聞く限りでは最近のものだとてっきり思っていたが、どうもそうではないらしく、それについてはサシャルも知っていた。

「そもそも、その三冊の預言書って今はどこにあるのかな」

「私もそこまでは知らないけど、今は各国がそれぞれ一冊持っているとか聞いたことある」

「それじゃあここにも?」

「その可能性はゼロではない」

 サシャルの言っていることはあり得ない話しではない。もしその預言書を隠すなら、一番最適なのはこの図書館の中だ。

「もしかして探そうとしている?」

「無くはない話だし、もし見つけられたら何かの力になるかもしれない」

「でもまだ本は沢山残ってる」

「でもいずれはここにある本は全部読むつもりだから、見つけられるかもしれないよ?」

「分かった、私も本を読みながら探してみる」

 サシャルは口数は多くはないけれど、今回のことには積極的に協力してくれていた。この三日ほどで彼女と接して感じたのは、サシャルもサシャルで俺とは違う目的で何かを探しているという事。
 その何かは今は分からないけど、協力してくれている以上それを詮索する理由がない。

「おはようございます、今日はユウさんとサシャルさんだけですか」

 そんな会話をしている内に、慣れたようにアーニスが図書館にやって来た。彼女は大体朝早めに来てお昼過ぎには城に戻っている。午後は何か色々しなければならないことがあるらしい。流石は王女様といったところだ。

「あ、アーニス様、おはようございます」

「ユウさん、そろそろ様を外して呼んでいただいて構いませんよ? ここではあくまで私は王女ではなく一人の人間として来ているのですから」

「ですが、流石に様を付けないと怒られそうで」

「どなたに怒られるんですか?」

「えっと、それは」

 主にティナ辺りに怒られてしまう気がする。あの後も彼女はこの事についてはかなり消極的であり、この三日間で一度も図書館に来ていない。

(やっぱりまだ怒っているんだな)

 謝りはしたけど、許してもらったようには見えないし、しばらくは顔を合わせづらい。

「ユウさん、どうかされましたか?」

 ティナの事を考え落ち込んでいると、アーニスが顔を覗き込んできた。彼女の綺麗な顔が間近に迫る。

「え、あ、ちょ、ちょっと考え事をしていただけな何で、き、気にしないでください」

 思わずどきっとしてしまった俺は、それを隠すようにアーニスから距離を取る。あんなにきれいな顔が間近にあったら、誰だって緊張してしまう。特に男なら尚更。

「あ、そうだ。私アーニスさんに聞きたいことがある」

 そんな俺とは反対に、冷静なサシャルがそう言葉を漏らす。彼女は王女様に対してさん付けで呼んでいる唯一の人で、なおかつ敬語すらも使っていなかった。さっきのやり取りのようにアーニス自身は気にしてないだろうが、俺はそこが少しだけ引っかかっていた。

「私に聞きたいことですか?」

「アーニスさんってこれの事知っている?」

 そう言ってサシャルは机に一冊の本を広げた。その本は俺も一度読んでいるので内容は分かるが、確かこの世界に住む種族について書かれている本だ。そしてサシャルが開いていたのは獣人族、つまり自分の種族についてである。

「獣人族ですか? もちろんご存知ですが」

「違う。私が聞きたいのはここ」

 そう言って指差したのは、とある項目。そこに記されていたのは、

「獣人の里に眠っている神様ですか? 私は聞いたことがありませんが」

「私達はどの神様にも崇拝しない。それなのにどうして神様が眠っているって書いてあるのか分からない。これだとまるで」

「神様を隠しているみたい、という事ですか?」

 神隠しならぬ神様隠し

 でも何故隠す必要があるのか分からない。サシャルが言っていた通り、崇拝する神様がいないなら、本来こんな記述はないはず。

「そもそもそれをどうして私に聞いたんですか?」

「知っているかなって思っただけ。ごめんなさい」

 でもそれをアーニスに質問したサシャルの意図も読めなかった、いくら王族とはいえ何でも知っているってことはない。ならば何故彼女は……。

「あ、ユウさん。私あなたに一つ頼みたいことがあるのですが」

「私に頼みたいことですか?」

「実はあなたにぜひ解読していただきたい本があるんです」

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